100回のKISS

−1−

― 電話もまだ来ない。メールもまだ来ない…。 ―

 もう、美貴タンの歌じゃないんだから!

 さっきから亜弥は携帯とにらめっこしている。
 0時は、とっくに回った。
1秒1秒刻々と時間は過ぎていく。

 諦めたと同時に亜弥は深く溜息をつく。

 そこへ亜弥の携帯が光る。

 ハッと見つめる亜弥。しかしお目当ての人からではなかったようで
亜弥はあからさまに寂しそうな顔をした。

「美貴タンの馬鹿!」

 美貴がメールや電話も苦手でマメじゃない事は亜弥も良く知っている。
 留守電に入れても、なかなか返してくれない美貴の事。
 メールを打つ事なんか、する訳がない。
 それも6月25日0時ジャストになんか。

 それでも期待してしまうのが純情な乙女心。

「梨華ちゃんが私の誕生日の時に、0時きっかりにおめでとうのメール
 を送ってくれた」

 そんな話をメロン記念日の柴田から聞いて、亜弥は羨ましがったものだ。

「美貴タンは、乙女心が分からないんだよ」

 亜弥は携帯を放り投げる。
 
 美貴がモーニング娘。に入ってからと言うもの、めっきり二人で会う時間は
少なくなっていた。
 それに、今はミュージカルの真っ最中。尚更、亜弥と会う時間はない。

「それにしたって電話の一つくらいよこしたっていいじゃないよ!」

 亜弥は不満たらたら。
 それでも仕事の邪魔をしちゃいけないと思い、亜弥から
連絡する事は避けていた。
 
 だから、余計に二人の仲は遠くなっていくようで亜弥は寂しかった。

 でも、今日は特別。
 いくらなんでも、美貴タン忘れてる事ないよね?

 だって、私の17回目の誕生日―――。

 しかし疎い美貴の事だ、忘れている可能性も充分あり得る訳で、
亜弥の不安は募った。

 大体、この前美貴に逢ったのは、いつだか思い出せない程…。
 
 焼きもち焼きの亜弥の不安材料は増えるばかりだ。
 ただでさえ、モーニングに入ってハラハラしているのに、
更に美貴は、カントリー娘。にまで借り出されてしまった。

 カントリーと言えば、新人メンバーを除く3人と美貴と仲がよい事は亜弥も知っている。

 亜弥にとっては、ますます面白くない。

 勿論、美貴を信じてはいるけれど、亜弥は不安を隠せなかった。


−2−

「眠い…」

 睡眠は大事で、気を付けている亜弥だったが、さすがに昨日は夜更かしを
してしまった。結局、美貴からメールも電話も来なかった。

 亜弥は眠い目を擦りながら、ベッドから抜け出した。



 結局―――。
 お祝いをしてくれたのは、マネージャーと現場のスタッフ達。
 そして母と妹達から。

 肝心の美貴からは…何もなかった。

 もうあと少しで日付は変わる。
 恨めしそうに時計を見上げる亜弥から、うっすらと涙さえ浮かんで来た。

「美貴タンのバカぁ…!」

 亜弥は枕を投げつける。

「知らないんだから…」

 枕元にある二人並んだ写真を手に取り亜弥は呟く。

 亜弥は、もう諦めてベッドに潜り込んだ。

 最悪。こんなんだったら誕生日なんか、いらない。
美貴タンのいない、バースデーなんて……。

 亜弥のマンションは閑静な住宅街にある。
 夜は車もあまり通らないから本当に静かだ。
 だから物音がすればすぐに分かる。

 タクシーの止まる音。ドアが閉まり、急いで階段を
駆け上がる音が響く。

 近所迷惑だよ。

 亜弥はぶつぶつ言いながら灯りを消そうとして、ハッとする。

 もしかして…。

 亜弥の鼓動は途端に早く波打ち出した。

 予想通り、その足音は、亜弥のドアの前で止まる。

 しかし、その後何も音がしない。

 亜弥はベッドを抜け出して、そっと外の様子をドアから覗き見た。

「美貴タン!?」

 急いで亜弥は鍵を開ける。

「なんで鳴らすとかしないの?」

 開口一番出て来た言葉がコレ。

「あ〜亜弥ちゃん。だって美貴荷物がいっぱいでさ。
 手が塞がってんだよ。早く持ってよ」
「ぅ、ぅん」

 ムードもヘチマもない。
 これでも、二人で会うのは、超久しぶりなんだけど。

 亜弥が美貴から荷物を受け取ると、美貴は何も言わずに靴を脱ぎ散らかして
あがりこむ。

「亜弥ちゃん、トイレ貸して」
「は?」

 既に美貴はトイレへと消えていた。

 ちょっと…一体、きみって言う人は……。

−3−

 トイレから出てきてさっぱりした顔の美貴に呆然と見つめる亜弥。

「あ、亜弥ちゃん。久しぶり!」

 そう言って、いつものように優しく亜弥を抱きしめた。

「美貴タン!」
「ん?」

 キョトンと見つめる美貴。
 あっと思い出したように美貴は大きな荷物を取り出した。

「亜弥ちゃん! お誕生日おめでとう!」

 大きな包みを亜弥に差し出す。

「順番が逆でしょうが!」

 亜弥は嬉しいのに、どうにも順序がチグハグなやりとりに思わず突っ込まずには
いられない。

「ごめぇん。美貴、急いで来たんだけどね…」

 照れ臭そうに笑いながら美貴は頭を掻く。

「電話かメールくらい入れてくれればいいのに…」
「あんまり使わないから、バッテリー上がっちゃって…」
「はぁ…」

「はぁっとか言っちゃって、亜弥ちゃん寂しがり屋だからなぁ…」

 そう言って、また笑顔を向ける。

 そう思ってるなら電話の一本入れてよ。メールの一通入れてよ。

 でも、その一言が言えない。

 こうして、自分の元に美貴が来た。
 それが亜弥に取って、この上ないプレゼントだった。

「そんなことないもん!」

 亜弥はプーッと頬を膨らませて美貴に抱きついた。

−4−

 包みを開けると中から出てきたのは自分と同じくらい大きな
イルカの形をした青い色の抱き枕。

「コレ……」

「美貴がいない時は、ソレを美貴だと思って抱いて寝てね」
「ぅ…。そんなに寂しくなんかないよ?」

 少し強がりを見せたり。

「美貴もね、ラジオのゲストに呼ばれた時、それの色違いの抱き枕
貰ったんだ。その時に、なんて言われたと思う? 亜弥ちゃんが
遊びに来ない時は、それを抱いてねみたいな事言われたんだよ?
 も〜美貴ビックリだったよ…」
「美貴タン、それでなんて答えたの?」
「微妙に笑って誤魔化した!」
「なんだ…」

 少しがっかり。
 何故か美貴は得意顔。

「美貴はピンクなんだ。亜弥ちゃんって感じだよね。色違いのお揃いなんだよ」

 えへへと笑って返す美貴に、亜弥も”お揃い”に反応して笑みが零れた。

「亜弥ちゃん。改めて、お誕生日おめでとう!」

 そう言って美貴は亜弥を力一杯抱きしめた…。

 ギュウ……。

 合間に挟まれたのは、その抱き枕。
 抱き枕が二人の邪魔をした。

「ヤダ、もう、ミキタン邪魔」
「へ?」

 キョトンと見つめる美貴。

「このイルカさんの名前、ミキタンにしたの」
「…そっか。もう寂しくないよね?」
「だから寂しくないって。でも…」
「うん?」
「やっぱり、生の美貴タンがイイ!」

 そう言って再び美貴に抱きつく亜弥だった。

−5−

 ささやかにケーキを二人で食べてお祝いした。

 その後は、いつもの泡風呂タイム―――。

「美貴タン、いつまでも一緒だよね?」
「おぅよ!」

 なんだかオヤジくさい。でも好き。

「約束だよ」

 泡にまみれた指を出して、美貴の指に絡ませる。

「もっちろん」

 美貴も指を絡ませる。

 美貴タンの照れた顔。大好き。

「亜弥ちゃんも。約束。破ったら納豆1000人前食わすからね?」
「何それ」

 時々変な事を言う。でもでも好き。

「じゃぁ美貴タンも約束破ったら、ネギ1000人前食べさせるの刑!」
「ネギはヤダなぁ…」

 真面目な顔をして答える。それがおかしくて、つい笑ってしまった。

「笑う事ないじゃん」

 絡めた指は、そのまま繋いだまま、亜弥は美貴に顔を近づけていった。
 重なり合うくちびる。まだ軽めのくちづけ。

「……美貴タンと100回のキスでも…いいな…」

 亜弥からくちびるを離す。

「それじゃぁ罰にならないじゃんかぁ…」
「そうだけど…。したいんだからいいじゃんか…」
「それじゃぁ意味ないじゃん…」

 いつもの口喧嘩。
 でもハタから見たら、きっとただの痴話喧嘩なんだろう。

「これから…しようか?」
「えぇ?」

 目を見開く美貴。本気にしたかな?
 多分…今まで美貴タンとしたキスを数えたら、100なんて軽く超えてる。
 でも、今したい気分だから…。

「んーっ…」

 いつもみたく、目を閉じてくちびるを尖らせて美貴に突き出す。

「もぅ…」

 なんだかんだ言って美貴は、亜弥には弱い。
 亜弥の言う事は殆ど聞いてくれる。

 それに今日は亜弥の17回目の誕生日。
 特別な日なのだ。

 また来年も、これからもずっと一緒に美貴といたいと願う亜弥は、
美貴からのくちづけを待った。



                          〜〜 The END 〜〜



※あやゃの誕生日短編。ぎりぎりで書けなくてかなり食傷気味。ホントは続きあるんだけども
エ■モードになりそで長くなりそうだったんでやめました。だって25日に間に合わないんだもん。


 あやゃ、お誕生日おめでとう。
 ミキタンと一緒に過ごしてるのかしら?
 想像するだけで…(ry。

 川胴v胴从 <TOPに戻るめぇ〜