『美貴たんにイッポン』
「美貴たん、ほら、見てよ見て見て」
亜弥が嬉しそうに、TVの画面に向かって指を差す。
「うん。分かった分かった」
よほど嬉しいのか、さっきから繰り返し繰り返しその柔道の稽古シーンをビデオで美貴は見させられていた。
亜弥は、コンサートの合間を縫って、7月から始まる主演ドラマの稽古練習に忙しい。
そう、柔道シーンがあるから、毎日の稽古に加え筋肉痛や痣が絶えないらしい。
「でもね、覚えるのが早いって褒められたんだよ?」
「そっか…」
「背負い投げもマスター出来たの。これで、変態が来ても投げ飛ばせるよ」
亜弥は美貴の前でコブシを作り、自信たっぷりに言い放った。
そんな変態だなんて。ただでさえ、怖い世の中なのに冗談じゃない。
それに、亜弥ちゃんは美貴が守るって決めてるんだけど。
「亜弥ちゃん、あんまり無理はしないでね?」
その稽古のお陰で、なかなか亜弥と会う機会もめっきり減ってしまい、
美貴の方はミュージカルが、やっと終わり、一段落ついたところだった。
今日は、久しぶりに亜弥と会ったのだけれど、それだってもう夜10時はとっくに過ぎていた。
「分かってるよ。でもさ、筋肉とか付いちゃいそうで困るぅ。
これでも、一応アイドルだからさ〜」
両手を頬に当てて、亜弥は可愛いポーズを取って見せる。
美貴だけの亜弥でいてほしいが、それは無理な話。
「お肉タプタプ〜より、引き締まってる亜弥ちゃんが好きだよ美貴は」
そう言って笑いながら亜弥のお腹を摘んで見る。
「腹筋やってるもん。お肉なんか、ついてないんだからね?」
頬を膨らませ、亜弥は抗議する。
亜弥は美貴の腕をそのまま自分に引き寄せる。
美貴はバランスを崩し、そのまま亜弥の上に折り重なった。
「美貴も運動しないと…。身体なまっちゃうよね」
ミュージカルで2週間くらい、ホールの中に缶詰だった美貴は、本当に運動不足。
やることもない美貴は、空き時間もひたすら寝ていると言う有様。
「運動?」
美貴はニヤニヤしながら亜弥に顔を近づける。
しかし、亜弥は何か思いついたのか、いきなり美貴の両腕を掴んだ。
―――ぇ?
美貴の視界が宙を描いた気がするが、それも一瞬の事。
鈍い痛みが走った頃には、美貴は目を白黒させていた。
「イッポン!!」
「…いってぇ…」
亜弥に技を掛けられたと気づいたのは、その直後。
「ヤッタ!」
美貴が腰をさすりながら痛そうに顔を顰めているのは、お構いなしに亜弥は飛び上がらんばかりに喜ぶ。
「ね?美貴たん、かなり上達したでしょ?」
嬉しそうな亜弥に、美貴は笑顔で返すしかなかった。
「ぅん。そだね…」
美貴が望んだ運動行為には及ばなかったものの、亜弥が満足ならそれでいいと納得する美貴だった。
〜〜〜お終い〜〜〜