使徒が初号機の頭をわしづかみにし、足がつかなくなるまで持ち上げる。初号機はどうすることもできない。カヲルは恐怖で声も出ない。
「うぐっ!」
残った手で、初号機の左手をつかむ使徒。そのまま力を込めはじめる。初号機の腕がきしみ始めた。
(バキ!)
いやな音を立てて、腕がつぶれる。
『左腕回路切断、骨格に異常発生。』
「………っ!!!」
あまりの激痛に、声が出ないカヲル。腕に血管が浮かぶ。
「リツコ何とかして!あんなのじゃまともに戦えないわ!」
ミサトはあせっていた。この作戦の責任者はミサトなのだ。ここで負けたとなっては後々責任問題に発展する。
(こんな…ありえない。シンクロ率が、変動するなんて……。)
シンクロ率は通常、戦闘中に変化することはないとされている。しかしカヲルはあっさりとその仮説を覆してみせた。
「リツコ!聞いてる!?」
リツコが話を聞いていないので、もう一度ミサトが声をかける。
「え?あ…、え、ええ。神経回路のフィードバック、一ケタ下げられる?」
フィードバックとは操縦者側の神経回路のこと。これを調節することにより、パイロットをショック死から守ることができる。
「やってみます。しかしシンクロ率の低下は避けられませんが…。」
この方法には欠点がある。痛みが軽くなる代わりに、操縦性が低下する。
「この場合、仕方ないわ。やってみて。」
しかしそうこうしているうちに、使徒の左腕、つまり頭をつかんでいるほうの腕が光りだした。物語冒頭で、国連軍の重戦闘機を撃墜したときと同じだ。
「いけない、カヲル君よけて!」
しかし遅すぎた。バシッ!という凄まじい音と共に、あの『神の槍』が初号機の頭をカチ割った。
「ぎゃああああああああああ!!」
今度ばかりは、あまりの激痛に獣のような声を上げるカヲル。ごく普通の中学生に体験させるには、ちとまずいレベルの刺激だった。が……。
「――――。」
カヲルがふいに叫ぶのをやめる。顔からは一切の表情が消え、モニターの使徒をカッと見開いた目で凝視している。俗に言う、キレるという現象だ。
「――殺す。」
カヲルが小声で、そうつぶやいた。このあと、発令所の人間は『破壊』という行為の恐ろしさを目の当たりにすることとなる。
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