始動準備、あれこれ 4
//住吉数実//
六時十五分、二年五組の灯りがついた。それを確認して、七尾に目で合図を送る。
俺たちは、すでに校舎のすぐそばにいた。
七尾が用務員を連れ出すのが十分。十一分には、全員が校門を乗り越えて、生徒会室がある校舎にへばりつく形になっていた。
今、灯りがついているのはとなりの校舎の二年五組と、今俺たちが潜んでいる校舎の一番端、会議室。
会議室から生徒会室は死角になっていて見えないし、校門を見ようとしても、大きな栗の木が邪魔をして見えないはずだ。
七尾が、生徒会室の一番隅の窓の枠に手をかけた。軽く上に持ち上げると、あっけなく鍵が外れる。…古い校舎だからできる技。
開いた窓から、すばやく教室に入り込んだ。
一階でよかったと、つくづく思う。もしこれが二階にあったりしたら、そのときは鍵をこじ開けるか雨どいを伝って登るか。…どちらにしても、あまりやりたくないことをやらなければならなかっただろう。
…渡会が懐中電灯をつけた。丸い光が暗い教室を照らし出す。
ロッカーは、すぐに見つかった。
教室の端に、角にあわせて立っている。
それに近づいて、名札を確認する。…あった。「生徒会長」。
周りのやつらに眼で合図して、ロッカーに手をかけた。
かち、と確かな手ごたえ。
瞬間、心が急速に冷えた。
「…鍵、かかってる」
言ったとたん、「げッ」と声にならない呻き声が聞こえた。
「マジかよ。せっかくここまで来たのに」
七尾の気持ちはよくわかる。
…まずいな。時間がない。
「まずい…」
内心の思いが声になって零れた。と、そんな時、いきなり野島が俺を横に押しのけて前に出た。
「まーまー焦らない焦らない」
焦るなといわれても。
俺たちを後目に、野島は制服のポケットから細い針金のようなものを取り出した。そしてそれをなにやら曲げたりして形を整えている。
……待て。針金?
「こういうこともあろうかとちゃんと持ってきた俺って偉いよな」
言いつつ野島は無造作にその針金を鍵穴に差し込んだ。
そして軽く動かす。
「開けごま〜なんつって」
野島が軽く手を動かすと、あっけなくロッカーが開いてしまった。
唖然としている俺たちの前で、野島は目当ての小箱をあっという間に見つける。
「これだよな?」
慌てて懐中電灯で照らしてみると、確かにそのはんこには「生徒会長」の印が。
確認し、頷いた俺の手に箱を預けて野島はまた鍵をかけると、にっこりと笑って言った。
「さて、ばれねえ内に退散退散」
時計を見ると、六時二十三分だった。
森本が稼げる時間にも限度がある。あいつは、六時半まで粘ってくれるはずだ。それまでに学校を出ておかないと。
すばやく窓の向こうに姿を消した野島の後を追って、しかし、と思わず首を傾げてしまった。
…なんで、あいつはあんなことができるんだ。
人は見かけによらないとか、そういう次元の問題じゃないと思う。
闇の中を駆け抜けて、校門を乗り越える。
時計を見ると、もうすぐ三十分だった。
後は、森本を待つのみ。
俺たちは通用門のすぐ脇に移動して、二年五組の電気が消えるのを待った。
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