退屈と苛立ちと鬱屈と 2
//渡会直哉//
文化祭、のっとるか?
住吉の提案に、全員が飛びついた。俺も、多少の不安が残ったものの、二つ返事で同意した。
生徒会のやり方には、いいかげん頭にきていたのだ。
毎朝毎朝いかにももっともそうな、正義ぶった顔でいろいろといちゃもんをつけるやり方がなによりも気に食わない。
俺と同じくらい慎重な青海は、戸惑っていたみたいだけど、結局は同意した。
作戦会議は、早速放課後に行われることになった。
指定された場所に、驚いた。
驚きつつ、家に帰って豪速で着替えて、駅から徒歩十分の場所にあるマンションに入る。駅周辺はにぎやかでそれなりに高い建物がある(といっても一番高い建物が十二階建てのこのマンションだが)。
エレベーターで、最上階まで上がる。十二階の窓から見た風景は、さすがにすごかった。周囲に高い建物がないので、二駅先にある俺の家のあたりまで一望にできる。向こうの山の麓にある寺の塔の先端までもが、しっかりと見える。
のんびりと風景を見ながら廊下を歩き、「青海」と表札がかかったドアの前で立ち止まる。インターホンに手を伸ばし…なぜか、そこで手が止まってしまった。
…なーにを緊張してるんだか、俺は。
一人苦笑して、至って無造作に手の下のボタンを押す。涼やかな音が、ドアの向こうで鳴り響いたのが聞こえた。
パタパタ、と軽い足音。
すぐに鍵を上げる音がして、ドアが開いた。
顔を出したのは青海詩織だった。青みがかった色彩の瞳を丸くして、「あ、おす」といつものように素っ気無く言う。
女のくせに、こいつの俺に対する挨拶はいつも「オス」か「よう」だ。
そこらへん、やはり年頃の乙女としてどうよ、と思うのだが、当の本人がなんとも思っていないものを他人がとやかく言うのもアレなので、黙っている。
開かれたドアから玄関に入ると、青海の靴しかなかった。本気で驚いた。
「あー、や、俺一番?」
リビングへ戻ろうとしていた青海が振り向く。
「あ? ああ、あんた早かったし。スミ君とかすぐ来るよ」
スミ君。
「あ、そ」
閉じられたドアの横を通り過ぎ、カーテンがかかった洗面所らしい部屋の前を通り過ぎる。その先はリビングだった。ダイニングキッチンとはフローリングの床でつながっていて、仕切りのようなものはない。LDKなのだと悟る。
青海は冷蔵庫の前でなにかしていた。買い物でもしてきたのだろうか、野菜や肉なんかを冷蔵庫にしまっているようだ。
なんとなく居心地が悪くて、リビングのソファに座る。スプリングが利いている。
「渡会」
ぼんやり部屋を見回しているところにいきなり声をかけられたので焦ってしまった。
「ンあ?」
「玄関のところ、洗面所だから。とりあえず手ぇ洗ってき」
おふくろみたいなことを言う。
そういうと、ものすごい眼で睨まれた。
怒った青海は怖いので、大人しく言われた通りにリビングを出てさっき通り過ぎたカーテンを開けると、案の定洗面所だった。
手を洗って、ついでにうがいをしているところにチャイムが鳴った。
「ほーい」という青海の適当な返事が聞こえる。
青海が玄関に出ていくよりも早く、俺の目の前でドアが開いた。住吉だ。
「なんだ詩織、鍵開けっ放しじゃないか……おお、渡会。早いな」
言って軽く笑った住吉の手には大きな紙袋。と、ビニール袋。
ビニール袋からはペットボトルがのぞいている。それは良いとして、紙袋はなんだ。
住吉の言葉に青海が軽く笑う。
「いやー、渡会が来たばっかりだったし。それにスミ君すぐ来るだろうと思ったから。どうせみんな来るしね」
住吉は軽く溜息をついたようだった。
「まあ、いいけど。…これ、差し入れ」
そう言って、ペットボトル入りのビニール袋をテーブルの上に置く。置いたと思ったらそのままくるりと背を向けて、玄関へと戻った。なにをするのだろうと思ってみていると、そのまま洗面所へ入っていく。
……どういうこっちゃ。
水音が聞こえた。
青海は嬉しそうに笑ってビニール袋をキッチンに持っていく。そして冷蔵庫にペットボトルを入れていく。
…どういうこっちゃ。
その姿を見ていると、すぐに住吉が戻ってきた。俺の隣にどさりと腰を下ろす。
三人がけのソファは、それでも充分余裕があった。
広いリビング。
クリーム色の内装と、茶色い飾り棚。黒いアップライトのピアノ。
…ピアノ。
「青海、ピアノ弾くん?」
驚いた。
驚いてそう訊くと、コップをそろえていた青海が軽く笑った。
「いやー、昔はやってたんだけどね。もう弾けないな」
ふうん。
なんとなく、新鮮な気がした。
そのまま視線をめぐらすと、テレビの上に置かれた写真立てが眼に止まる。
若い男性と女性が映っていた。その真ん中には、花のように笑う少女がひとり。
男性の髪は、見事な金色で、その瞳は海のような青。
うわお。
思わず青海を振り返っていた。
「これ、お前の両親?」
「…人の親をこれとか言うな」
いやまったくその通りで。申し訳ない。
青海がハーフだという話は入学時から聞いていた。金色の髪に、青い目だ。誰が見てもそう思うだろう。だけど、青海自身の口からそういう話を聞いたことはなかった。
「美人だねえ、おふくろさん。あんた父親似か」
「…どういう意味だ」
低い青海の声。怒っているときの声。
嘘だった。外見は父親似だとしても、たぶん青海は母親似だ。写真の中の優しい笑顔と、よく似ているから。
他に写真はないかときょろきょろしていると、隣の住吉が口を開いた。
「詩織。なにか連絡は?」
「あー、まだない。向こうにつくのがたぶんこっち時間で夜中になるから、連絡はないと思うよ」
そうか、と住吉が低く言った。
興味を引かれて二人を見る。
だが、青海はすでにコップ洗いをはじめているし、住吉もなにを考えているのか窺い知れない顔で飾り棚を見つめている。
奇妙な会話。
奇妙な空気。
気になるけれど、訊けるような雰囲気ではない。
コップを洗い終えた青海が手を拭きながらリビングに来る。そして無言で例の写真立てを持ち上げて、またリビングを出ていった。そのまま台所の隣の部屋に消えていく。
見られたらまずかったんかな。
そう訊くと、住吉は、曖昧な返事を返してきた。
「かもな」と。
かもなって、なんだ。
なんとなく、ムッとする。
そんなところにチャイムが鳴った。救いの音に聞こえた。
来たのは舟木透子と向井詠理だった。舟木は家に上がるなり手に持っていたビニール袋を青海に手渡した。どうやら菓子類が入っているらしい。
そしてすぐに西岡と野島がやってきた。二人とも、やはりコンビニのものだと思われるビニール袋を持参している。
「ほら、差し入れ持ってきてやったわよ。感謝しなさい」
「まあ、別にあんただけじゃないんだけどね、食べ物持ってきたの。場所提供してるんだから、食べ物飲み物ぐらい持参するのが普通でしょ? 威張るなよこのぐらいのことで」
ぽんぽんと威勢良く飛び出す青海の言葉を聞いて、ぎくりとした。
食べ物持参は、当たり前。
……俺は、手ぶらだった。
「……青海女史。すまん、俺もなにか持ってくりゃよかった」
こそっと囁いたら、彼女は軽く眼を見開いて、そしてふふん、と音がしそうなそんな顔で笑った。
「んじゃ、あんた飲み食いするなよ」
「そんな殺生な」
情けない声が出た。本気で情けなかった。
くすり、と青海が笑う。ふふふ、と声を出して向井が笑う。
…なんだかなー。俺って情けねえべや。
ドン、と肩に重みがかかった。耳に息がかかる。
「安心して渡会君。あたしの分の差し入れ、全部渡会君に上げるから」
「あー…そりゃ、どうも…」
ありがたいんだけどもさ。そうやって抱きつくのやめてくれや。耳に息吹きかけるのやめれ。や、ほんとに。
「なんだ渡会、お前モテモテだー」
いや、野島。それあんましシャレにならんし。ていうかそもそも俺笑えねんですけど。そこ、舟木クン、笑うなよ。青海女史、あからさまに冷たい視線を注ぐなよ。
なんとか西岡を引き剥がす。テーブルの上に人数分のグラスが置かれた。中身は、冷えた紅茶。たぶん、住吉が持ってきた奴だろう。そう思うと、ほんの少し複雑な気分だった。
なんとも言えないミルクティーの中、氷がからんと涼しげな音を立てる。時期外れな音。
トン、とグラスをテーブルにおいて、「で?」と野島が住吉を見やった。つられるように俺も相変わらず隣に座っている住吉を見る。
住吉はきょとんとした顔をした。
「え?」
…いや、「え?」てあんた。
舟木が呆れたように声を上げた。
「だから、作戦会議なんでしょ? なにかイイ案でもあるの?」
「イイ案?」
沈黙が降りたとか、降りなかったとか。
青海ががくりとうなだれた。
「…スミ君。もしかして、なにも考えずに言ったの?」
「あ? ああ、さっきの!」
住吉はようやくなんのことか思い出したようだ。ポン、と膝を打つ。
「や、すまん。アレかーなーり、その場の思いつきっつーか」
「おい!」
ほぼ全員の突っ込みが入った。俺と野島などは思わず裏手もつけてしまった。
「住吉くん、君ねえ」
冗談じゃすまないっすよこんなにみんな深刻になっているというのに。
「すみよっしー! 真面目な顔でたまにボケ飛ばす君のそんなところは良いと思うけれど、今はボケる場所じゃないと思うんよあたしは」
同感だぜ、舟木。しかしその奇妙なあだ名はなんとかならんのか。
住吉は非難の声もなんのその、白い歯を見せて笑っている。こういう豪快で開けっぴろげな性格は嫌いじゃない。…時と場合にかなりよるけれど。
「別にボケてるわけじゃねえって。今はちゃんと真剣に考えてるよ。どうやって文化祭のっとろうかなあ、と」
言った住吉の顔は、もう真面目な顔に戻っていた。口元だけに笑みを乗せて、目は真摯な光を宿して。
こういう表情をしたこいつは、男の目からみてもかなりかっこいい部類に入っていると思う。普段はダメダメだが。
「で、俺は考えた」
うん。
ぐ、と全員が身を乗り出して、次の言葉を待った。
「考えたが、あまりいい考えは浮かばんかった」
…ダメだろが。
失望が顔に浮かんだのは、なにも俺だけではないはずだ。
それに気づいた住吉が慌てて付け足す。
「いや、案はないけど、いろいろ考えたんだぞ? こっちの人数はどれくらいになるのか、とか」
俺らの人数。
「…剣道部員はなんとか動員できるとしてー」
俺の語尾に野島の声が重なる。
「軽音男子十二人は俺らの陣営だぜ」
「演劇部は…あんまり当てにならないかもね」とは舟木。
まあな。もともと女三人の部だしな。
テーブルの上に両肘を置いて、頬杖をつきながら青海が住吉を見上げる。
「…のっとるからには、やっぱり一番効果的な方法を考えないとねぇ。演出的にも、一番効果が高い奴?」
「そうだねえ」
考え込みながら舟木。
全員の様子を眺めながら、なんとなく、呟いた。
「…ブレーンとか、欲しくね?」
全員の視線が一気に俺に向かった。
「…言っちゃなんだけどさ渡会。あんた、ブレーンには絶対なれないよ」
「女史は黙ってなさい。いつ俺がなると言いましたか。や、だから、参謀っつーか。きっちり計画立てられる人間が欲しいなあと、思ったんですけども」
どうでしょう。
ちろり、と隣を見やる。
住吉は真面目な顔で考え込んでいた。
「…その場合、三年は外した方がいいよな。受験でそれどころじゃないだろうし」
今年の三年生は、やれ勉強合宿だ、やれ補習だ、だので、毎日勉強漬けにされているようだった。去年はこんなんではなかった。今年から、こうなったのだ。
「てことは、一二年から選ぶってことになるけど…」
住吉の言葉が途切れる。
細められた眼が見開かれた。
ほぼ同時に、俺も一人の人物の顔を思い浮かべた。
住吉が俺を見る。俺も、住吉を見る。
二人、ほぼ同時に口を開いた。
「……森本?」
最初の音から最後の音まで、きっちり一致。
一致したのはいいけれど。
西岡が眼を丸くする。
「森本って…あの森本くん? あの人仲間にするの?」
舟木も眉をひそめている。
「…できるの? ていうよりも、本気?」
「…言いたくないけどよー。あいつって、いかにも教師と仲良さげじゃん」
「頭はいいけど、ねえ」
口々に言う中で、青海と向井だけが無言だ。青海はおもしろそうに眼を輝かせて住吉と俺を見ている。
「いいねえ。噂を聞いてる限りじゃ、まさにブレーンて感じじゃない?」
にこにこと、そんなことまで言う青海。
確かに、俺もあいつならブレーンにうってつけだと思うんだけど。隣の住吉もたぶん同じことを考えているのだろうとわかる。
「でもさー」
となおも文句をいう奴らに、住吉がきっぱりとした声を出した。
「じゃあ、森本に代わる人間を教えてくれ。そっちの方がいいのなら、そいつにしてもいいから」
とたん、文句を言っていた三人は押し黙った。もごもごと口の中でなにか言う。
推薦、なし。
ポン、と住吉が手を打った。
「森本でいいな。じゃ、明日から交渉に行くぞ」
三人は互いの顔を見ていたが、やがて不承不承ながらも頷いた。
それで、結局森本を陥落させてから計画を立てよう、という「これでいいのか?」と首をひねりたくなるような結論に落ち着いた。
住吉という人間は、時に恐ろしく大雑把な決断を下すから、見ていておもしろい。
しばらくみんなでだべっていたが、暗くなってきたから、と西岡と舟木が帰っていく。西岡がいなくなったとたん、ほっとした。
あいつがいると、どうも緊張する。べたべたくっつかれるからだろう。
ああいう風にされると、どういう態度を取ったらいいのかわからなくなるから、困る。
そのうち野島も帰ってしまった。
残ったのは、俺と住吉、向井、そしてこの家の主である青海という、奇妙な組み合わせ。
てっきり向井は舟木と一緒に返ると思っていたので、残ったときには驚いた。向井はおっとりと、自然に住吉や青海と喋っている。
住吉や青海とは、一年の頃はほとんど喋らなかった。もちろん向井ともだ。言っては悪いが、向井は顔すら知らなかった。
口をきくようになったのは、二年に上がってからだ。そう、井名里が生徒会長になってから。
剣道部が潰されそうになって、生徒会室に文句を言いに行ったら青海がいたのだ。確か、髪のことで文句を言われていたのだと思う。その縁で青海と仲良くなり、いつのまにか住吉とも知り合って、舟木たちと知り合って、生徒会の文句を言い合っているうちにすっかり意気投合してしまったのを覚えている。そう、そのときから住吉と青海は仲がよかった。
それで、反生徒会同盟を結成しようと誰からともなく言い出して(確か言い出しっぺは舟木だった)、なにか生徒会がらみで問題がおきたり全員集合させたくなったらビー玉をメンバーの下駄箱に入れておく、ということになったのだ。
ビー玉は滅多に使われることはなかったが。
グラスが空になったので、緑茶の紙パックを引き寄せて注ぐ。
ふ、と時計を見たらもう六時を過ぎていた。
窓の外はもう暗い。
家の人、仕事なんかな?
そう思って顔を上げると、なぜか三人とも俺を見ていた。
「あ、なに?」
なんだ?
違和感を覚えてそう訊くと、真っ先に向井がふわりと笑って首を振った。
「ううん。なんでもないよ。渡会君は、時間、大丈夫なの? もし良かったら、一緒に帰らない?」
「おお? 向井さんからのお誘い?」
言ったとたん背中をどつかれた。住吉だ。ものすげ痛い。
「向井さん、家はどっち?」
「駅のほうなんだけど」
「あ、じゃ俺と一緒だ」
はいはい送りましょう送りましょう。
読んでいた雑誌をテーブルの上に置き、立ち上がる。
「や、すっかりくつろいじまって悪いねえ」
「くつろぎすぎだってあんた」
苦い顔でそうは言うが、青海。俺はくつろいじゃダメで住吉ならくつろいでもいいのか? あいつ、俺なんかよりずっとくつろいでたべ?
立ち上がり、鞄を探していると青海の声が聞こえてきた。
「スミ君ももう帰りなよ」
「でも、ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫だってば。なにかあったら連絡するから」
……意味深な会話。
意味深過ぎて、思わずいろいろな想像(Not妄想)をしてしまうではないですか。
…あー。なんかまずい。
かなり、胸の当たりむかむかする。
もう帰り支度がすんだらしい向井に笑いかける。
「じゃ、住吉は置いて帰りますか」
「待てや」
いやじゃ。
心の中で毒づいて、顔では笑って、さっさと玄関へ向かう。
また、ちょっと急いでるっぽい住吉の声が聞こえた。
「じゃ、これ、取りあえず渡しとくから。戸締りだけはちゃんとしてろよ。メシもちゃんと食えよ。明日寝坊するんじゃねえぞ。朝飯ちゃんと食えよ」
…はぁ?
なんか、そう。まるで、母親のような科白。
なんだそりゃ。
思わずドアを開けたまま家の中を見ると、住吉がものすごい形相で玄関に向かってくるところだった。俺と眼が合うと、とたんに慌てたように表情を元に戻す。
その表情の変化の意味も、わからない。
「また明日ー」
と、ドアを抑えてそう言った青海の笑顔が妙に心に残った。
マンションを出たとたん、冷たい風が全身をなぶっていく。ぶるり、と体が震えた。
寒いし。
あー。マフラー欲しいなあ。
彼女の手編みとか。彼女いねえけど。
でも手編みって、もらった側としてはどうなんだろうか。バレンタインとかで好きでもない女に手編みのマフラーもらっちゃったよーとか言ってほんとに喜べるのだろうか。
…これは、もらったことのない人間のやっかみだろう。
くれるあいてなんかいねえよ、どうせ。
そこへ行くと、この住吉なんかはいろいろと女受けよさそうだし、もらってるんだろうなあチョコレート。
今も、ふつーに向井と談笑してるし。なんか俺疎外感感じてるんですけれども。
…確か、俺が、向井と帰るはずだったのが?
いつのまにか、住吉が加わってて?
それで、ごくごく自然に向井といい雰囲気になってて?
で、俺は一人あぶれて冷たい風に吹かれてる。
なんだかなあ、と思うよ。
住吉と向井は楽しそうになにか話している。映画の話らしい。
住吉め。青海とイイ感じなんじゃねえのかよ。
あの思わせぶりな会話はなんだってんだよコノヤロウ。
それともなにか。
実はかなりタラシな男だったとか。
……見えねえけど。
いや、その「そうは見えない」ってあたりが曲者だったりして。
そんなことを考えていると、突然肩を叩かれた。
顔を上げると、住吉と向井が怪訝な顔でこちらを見ている。
「俺ら、こっちだけど、おまえ駅まで行くんだっけ?」
「あ、そう。俺電車だし。なんだ二人とも近いんか?」
そう訊くと、二人とも頷いた。
…なんだ。じゃあ、なにも俺が送る必要なかったんじゃないのかい?
ああ、でも、もしかしたら向井が二人に気を利かせようとしたのかも。
二人と別れて、駅までの一本道をぷらぷら歩きながらふと思う。
それなのに住吉帰しちまって良かったんかよ、青海。
また明日ー。
のんびりとした別れ際の声を思い出す。
嫉妬とか、そういうものはなにもなく、ごくごく自然な別れの挨拶。
…変な二人。
変な会話を思い出した。
青海と住吉の最後の会話。
…もしかして?
……青海って、今夜一人なのか?
なんとなく、それを匂わせる住吉の言葉。
…まあ、だからどうってわけでもないけど。
俺にゃ関係ねえし。
関係、ねえし。
――関係、ねえけど。
なんとなく、背後を振り返ってしまった。
青海のマンションはすぐわかる。ここらで一番高いマンション。青海の部屋は、その最上階。
しばらくそれを見つめていたけれど、振り切るように背を向け、走り出す。
――関係ねえし。
なんとなく、青海が今どうしているのか、それが無性に気になった。
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