修学旅行顛末記 1
//青海詩織//
唐突ですが、私は今京都にいます。
なんだかやたらと蒸し蒸しします。
すれ違う人たちの言葉が聞き取れません。
どうでもいいけどやたらと人が多いです。
――ぶっちゃけた話。
迷子です。
六月の頭、4泊5日の修学旅行は京都奈良大阪神戸と定番コース。
日程のほとんどが個人行動OKといううちの学校とも思えない寛大な処置にはたぶん3年全員が感謝した。
小学校の修学旅行は日光。
中学校では東京。
そして高校では京都大阪と確実に距離は伸びているけど、正直なところを言わせてもらえばせめて沖縄辺りに行ってみたかったなと思う。別の中学出身の、例えばのぞみなんかは「また京都ー?」とあからさまに嫌な顔をしていた。
あたしも京都は二回目だ。小さい頃、Japan好きの父親に連れてこられた記憶がある。といっても三十三間堂の仏像がものすごく怖くて父親の足にしがみついていたことしか覚えてないけど。
そんなことはともかく、高校生なのに寺見てどうするよ、とかいろんな不満はあったんだけれども、やっぱり友人たちと旅行できるっていうのはとても嬉しいことなわけで。
しかもその「友人」には最近ちょっとイイカンジになってるんじゃないかと思う奴なんかも含まれているわけで。
4泊5日朝から晩まで一緒にいられるかもしれないっているのは恥ずかしながらかなり心が浮き立つわけで。
しかも新幹線の中、狭い通路ですれ違いざまに「約束な」なんて囁かれたりなんかしたら浮かれない奴ぁ女じゃない。と思うんですよ。
なのに。
見上げる先には高いガラス張りの天井。ざわざわとした周囲には求める姿はどこにもない。1クラス40人が5クラス分。200人近い人間が10分もしない間にいったいどこに消えたのか。
髪をかきあげてため息を落とすと、さっきからずっと傍らでおろおろしている年配の女性たちが心配そうな顔で言った。
『本当にごめんなさい。どう償えばいいのか』
『いえ、大丈夫ですよ。友人に連絡が取れるので』
たぶん、と心の中で付け加えてみる。
スーツ姿の人に混じって、手帳を見ながら公衆電話のボタンを押した。
短い呼び出し音のあと、不審げな声が耳に流れ込む。
「はい?」
「あ、西岡?」
言ったとたん、絶叫が耳元で響いた。
「青海ー!! あんたなにやってんの!? 今どこ!?」
やっぱりかなり怒っているらしい。
「んーまだ京都駅。中央口? ぽいところ」
「何でそんなところにいるの!」
なんでと聞かれると、説明がとても面倒臭い。
「やー、なんていうかー。外国人の観光客に間違えられて? 別の団体に巻き込まれた感じ?」
「なによそれ!」
あー、やっぱり怒るー。
「まだバス待ってるから、早くきなさい!」
「わっかりましたー」
電話を切って、カードの残高を確かめる。さすがケータイ、減りがシャレにならない。
買ったばっかりだと自慢していた西岡のケータイ。まさかこんなに早く役に立つとは本人もきっと思ってなかっただろう。
あたしだって、まさか自分がソッコー迷子になるなんて思っても見なかったさ。
余計なことをしてくれたけれど、いい人だった婦人に別れを告げて、バス乗り場へと向かった。
ガラスの向こうには何本も走る線路と、そして青い空。
遠くに見える山並みはどこか地元ににかよっていて、すこしだけ気持ちが和らいだ。
修学旅行初日。
いきなり降ってわいたアクシデントに、ちょっぴりこれからの四日間が心配になったけれど。
こんなこと、これっきりだよね。
……たぶん。
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