ケンカの行方 1
//青海詩織//
――決めるのは、シオリ 君なんだよ
なんだか最近なにもかも憂鬱だ。
まあ二週間近く続いたパシリからは抜け出すことはできたけど(現在のパシリは森本君と透子だ)、それはともかく、憂鬱。
あと少しで四月が終わって、紫外線が降りそそぐ季節がくると思うだけで、もう引きこもりたくなるし。
人より色素が薄いあたしの肌は、白人と同じく日本人より紫外線に弱い。オゾンホールがどうのこうのって話も、他人事ではなく結構恐怖だ。
それはともかく。とにかく、しんどい。
昼休み、購買組みに付き合って飲み物を買いに行く。奴らがお昼を買っている間、することもないので購買前の掲示板をぼーっと眺めていた。
「……なに、これ」
見慣れないポスターが、二枚。
まだ初々しい顔の男の子と女の子が、こちらに向かって微笑んでいる。
ず、と、りんごの味がする液体を吸い上げる。ストローがほんのり色づいた。
[一緒に演劇しないか?]なんていうあおり文句の下からこちらに向かって花が散りそうな微笑を投げかけている七尾君の隣り。
愛嬌のある顔立ちの中に知性をほのかに感じさせる少年と、見るからに優等生っぽい、でも結構美人なお嬢さんとが、仲良く並んでこちらを見つめている。
りんごの味が口の中に広がった。
ぼんやりとポスターを眺める。それぞれ、[あなたの一票が学校を変える][学校を創るのは皆さんです]とかいった銘が打たれていた。
それを読んでわからないほど鈍くない。
「ああ……選挙か」
生徒会長選挙。これで、ようやく、井名里は生徒会長じゃなくなる。
ぺこん、と、空気を入れて紙パックを膨らませる。
会長選にははっきり言って興味はない。受験生にはもっと深い悩みがある。
…そういや、井名里のときには、確かあたし奴に票入れたっけ。
そのときには井名里仁史という人間をよく知らなかったし、やっぱり「選挙」に興味もなかったし。
去年の今ごろを思い出していると、突然背後から黄色い声が上がった。
……このテンションには、覚えがある。
去年までは、七尾君がいるところあちこちで起こっていた。で、今では。
振り返るよりも早く、聞きなれてしまった声が飛んできた。
「青海。なにしてるんだ?」
振り向く。そこには、予想にたがわず両サイドに女子を引き連れた大城がいた。その手には購買の袋。
大城の取り巻きは、あたしの顔を見るなりそそくさと離れていく。あたしは病原菌か?
「先生またねー」なんて言いながら去っていく生徒に手を上げたあと、大城は疲れたようなため息を落とした。
…まあ、ここは、お疲れ様、と言ってあげるところなんだろう。
言わないけど。
大城は肩をもみながら、隣に立った。
「青海は便利だなー。これから困ったら青海を使うことにしようか」
「あたしは虫除けですか?」
「下手な虫除けよりも効き目が強かったぞ」
あーそうですか。
ずず、と、ジュースを吸い上げる。
そんなことになったら今以上に西岡に嫌われること必至。それは嫌だ。
それに、虫除けならあたしよりも西岡の方が適任だと思うけど………でも、今のあいつじゃ、それ以前の問題だし。
「でも、青海は本当に便利だぞ」
生徒をさして「便利」という教師。これはいかがなものか。
相槌は打たず、そんなことを考えながらひたすらポスターを眺める。
「青海が部活を見にくると、活気が出るしな」
は?
言われたことが良く理解できず、思わず傍らをあおいでしまった。大城はあたしを見てニヤニヤと笑っている。
……最近、わかったこと。
生徒の前ではイイ人を装っているが、この男、あたしたちの前ではよくこんな表情を見せる。
人の悪い笑みを浮かべながら、大城はさらに言った。
「おまえがくるとはりきる奴がいるんだよ」
「……はあ」
よくわからない。
混んでいるのか、渡会たちはなかなか戻ってこない。通り過ぎる女子の視線が痛い。
あいつら置いて先に教室戻ろうか。
なんてことを考えたとき、突然大城が話題を変えた。
「なあ、青海。おまえ、進路志望のあれ、本気か?」
今日提出したばかりの進路調査票。もう眼を通したのか。
「…どれのことでしょーか」
志望大学は第三まで書かされた。他にも、志望している分野や、地域、下宿か自宅か、など、細かいことを挙げればキリがない。
「第二希望」
簡潔な言葉には、とっさに答えられなかった。
ストローが音を立てる。紙パックはずいぶん軽くなってしまっていた。
ストローから口を離して、ポスターを見つめたまま、短く答えた。
「ムリだってことですか?」
「そういう意味じゃないってことは、青海が一番よくわかってると思うんだがな」
はいごもっとも。
ムリとか可能とか、そういう次元の話じゃない。
「親御さんは、なんて言ってる?」
「そもそも親の方から言い出したことだし」
「……そうか」
大城はなにやら察してくれたようだった。
ポン、と、軽く頭を叩いて。
「時間はまだあるから、ゆっくり考えなさい」
そしてひらひらと手を振って、また群がってくる女子を器用に交わしながら職員室の方に消えてしまった。
ゆっくり考えろって言われてもねぇ…。
決めるには時間が必要だってことは、そもそも心がそう叫んでいるし、異論はないけど。
今の感じじゃ、半年経っても決断できるかどうか。
ため息をこぼしたとき、ようやく渡会たちが出てきた。
気のせいか、渡会は、どこか機嫌が悪そうだった。
並ばされたからだろうか。
「お疲れさん。遅かったね」
「大城となに話してたんだ」
かたい声でいきなり言われて思わず瞬く。なんだ、見てたのか。
「あー、進路の話とか」
ふーん、と、冷めた声を出したのはのぞみだ。
「よくあんな男と話す気になるわよね」
嫌悪を隠しもしないセリフに、周りのお嬢様からギョッとした視線が注がれた。が、のぞみは全く意に介さない。
そこが、こいつの強いところだ。
「俺は顔も見たくない。絶対見たくない」
強く言うのは七尾君。
ちまたで女子たちが…大城と七尾君二人並べて飾っておきたい、なんて言ってるとは――知らない方が、幸せだ。
とげとげした空気をまとう三人。渡会はじとっとあたしを睨んでくる。
わけのわからないことで怒られても困るんだけど。
……あ、なんか腹立ってきた。
売られたケンカ、で、こちらもむかむかしてきたときだった。
相変わらず涼しい表情、涼しい声で、森本君が言った。
「早く戻らないと、住吉がうるさいぞ」
「俺さっきから腹減りまくってグーグーうるさいし。早く食おうや」
野島もそう言い、渡会の肩をぐいと押す。
そこで、なんとなく、渡会の怒りの理由もお流れになってしまった。
と、思いきや。
教室に戻って、それぞれ固まって(全員べったり机を合わせて食べるなんてマネはしない。二、三のグループに分かれて食べる)食事をしている間も、食べ終わってだべっている間も、渡会の機嫌は直らなかった。
もう、ここまでくると勝手にしろって気になる。
そりゃ、睨まれたら気分は悪いけど、理由もわからないものに一々まともに取り合っていられるわけがない。
ので、透子や住吉のなにやら言いたげな視線は無視して、こちらも顔を背けてやる。
詠理の咎めるような表情も、無視だ。
…まったく、なんで、いきなり、こんな険悪にならないといけないんだ?
あたしがなにかしたか?
あーもう、ほんと、憂鬱。
あたしたちのどこかピリピリした空気に、教室のみんなも気づいているのだろう。昼休みの教室は、いつにもまして静かだ。
そんな静かな教室に、控えめな声が響いた。
「詩織さん」
柔らかい響きに、反射的に顔がそちらを向く。
開いたドアから顔をのぞかせているのは、勇理君だ。
この学校で、あたしを名前で呼ぶ男は二人。住吉と、そして勇理君。
住吉はともかく、勇理君も大概長い付き合いだから(勇理君がまだ幼稚園児だった頃から知っている)、今更名字で呼べなんて言えない。そんな必要性もないし。
「なんだ、どしたの?」
さすがに三年の教室の中に呼びつけるのもあれなので、こちらから行く。立ち上がったとき、詠理がなぜか引き止めるような動作をしたのが、気になったけど。
「詩織さんが探してたCD、手に入ったんだ。ほらこれ」
まだ未開封のジャケットを差し出すその顔には、こちらまで笑みこぼれてしまうような、カワイイカワイイ笑顔が。
「うわ、ありがとう! でも詠理に言付けてくれたら取りにいったのに」
「いいよいいよ、気にしなくても」
にっこり。
ああ。この笑顔だけは昔から変わらない。いやむしろ、子供の頃よりも輝きが増しているような。
やっぱり勇理君かわいいなぁ、なんて思いながら、ジャケットを眺める。日本ではなかなか手に入らないアーティストのCDだ。
「あ、お金払うね。ちょっと待ってて」
「詩織さん」
財布を取りに行こうと身を翻したあたしの手を、勇理君が軽く掴んだ。
振り返る。
勇理君は、笑顔のままだ。
「お金はいいよ」
「? なに言ってんのさ、払うよ」
「いいから。――代わりに、一日デートして?」
眼が点になる、とは、このことだ。
思わずまじまじと勇理君のカワイイ顔を見てしまった。
勇理君は笑顔を絶やさない。
「買い物に付き合って欲しいんだ。もうすぐ姉さん誕生日でしょ? だから」
ああ!
「なんだ、そういうことなら」
「俺もご一緒させてもらおうか」
いきなり野太い声が降ってきた。
驚いて振り向くと、すぐ隣に住吉の顔があって、余計に驚く。
住吉も笑顔だ。笑顔のまま、低い声で、言う。
「すまんなー、毎年プレゼント選ぶのこいつに手伝ってもらってるんだわ。せっかくだから、一緒に選ばんか?」
にっこり。
住吉の笑顔は、迫力がある。その笑顔に、勇理君はやはり笑顔で応じた。
「…あ、そうですか? じゃあ、一緒に行きます?」
「ああ。一緒に行くか。――じゃ、またあとでな。行くぞ、詩織」
強引に腕をひかれ、ついでにドアまで閉められて。
呆気に取られる間もなく席に戻される。
詠理がどこか困ったような笑顔で住吉を見た。
「ご苦労様」
「いーえ」
そしてぽかんとしているあたしを残して渡会たちのところへ戻っていってしまった。
「…なに、あいつ」
尋ねると、なぜかみんなして首を振られた。
「…しおりん。無知は時に罪なんだよ」
どこかで聞いたようなセリフを。とか思っていると、のぞみに頭を叩かれる。
「あんた、頭悪くないんでしょ。なんでわからないのよ」
「なにが」
なにを言われてるのかわからなくてそう訊き返したら、思い切り呆れた顔でため息までつかれてしまった。
「詩織ちゃん、だもんねえ」
「だからなにが」
今度は透子までため息をついた。
……だから、なんなのさ。
結局、透子達の反応がなにかわからないまま、放課後になった。
家に帰る気にもなれず、学校指定の英語の問題集を解きながら、クラスの仕事で残っている住吉に尋ねてみる。
「……って言われたんだけど。あんた意味わかる?」
とたんに、住吉は大きくため息をついた。
「おまえって、ホントに鈍感だな」
「…それはバカにされてると受け取ってもいいんですか?」
「そのものズバリでバカにしてるから」
書類の数を数えて、机に打ち付けて端をそろえる。
「おまえ、勇理のこと、どう思ってる?」
いきなり訊かれたことに、戸惑った。
勇理君?
「どうって……あえて言うなら、弟、だなぁ。なにしろ小学校に入る前から知ってるし。あたし一人っ子だから、あんな弟ほしいなぁ、って思うよ」
兄と姉なら、それに似た存在がいるし。いとこは、確かに弟妹と思えなくもないけど、でもそんなにしょっちゅうあえるわけでもないし。
「だろうなあ…」
なぜか感慨深げに言われて、面食らう。
あんたさっきからなにが言いたいわけ。
書類をファイルに入れて。でまた別の書類を数えながら、声だけ投げてくる。
「弟だって思ってんなら別にいいけど」
なにが「べつにいい」のか、わからない。
左手で紙をめくりながら、右手で名簿にチェックを入れていく。
そんな住吉を眺めていたら、いきなり声が飛んできた。
「おまえ、渡会が好きなんだろ?」
パキッと。
音を立てて、シャーペンの芯が折れた。
「……なに?」
カチカチと、芯を出す指が震える。シャーペンの先が定まらない。
「見てたらわかる」
静かな声。
教室には、あたしと住吉以外、誰もいない。
運動部の掛け声が風に乗って届く。
なにか言わなくちゃいけない。
肯定、否定、なにか。
住吉がはじめて顔をあげて、そしてあたしを振り返った。
こちらを見た瞬間。
「……あーはいはいもういいなにも言わんでイイ」
思い切り顔を覆ってそう言われた。
「は? な、なにが」
「だからなにも言わんでいいから」
「だから、なに!?」
住吉は聞いてない。トン、と書類をそろえて、大判の封筒にまとめて入れながら、声だけ投げてくる。
「おまえな。自分で思ってるよりも感情が顔に出やすいってこと、そろそろ自覚しといたほうがいいぞ」
「は? ――え、ええッ?」
顔に出やすい…って。
「……出てた?」
感情。
「思いっきり」
きっぱりと言われて、声もなく机に突っ伏す。
……そういえば、むかーし、透子にも似たようなこと言われたっけ。
自覚なんて、全然ないよ。なかったよ。
「……まさか、みんな気づいてたり、しないよね?」
「本人以外、全員知ってる」
「うそだろー…」
渡会以外、全員。
本人にばれてないだけ、マシってこと?
いやでも。でもでもでもッ!
「ウソだぁ」
「ウソついてどうすんだ」
冷たく言い捨てた住吉は、すでに帰り支度を済ませて、こちらを見ていた。
「オラ、帰るんだろ?」
「…帰りたくない」
住吉はあからさまに呆れた顔になった。
ため息をついて、すたすたと近づいてくる。そして、横に立ったとたん。
「いたッ」
いきなり頭をはたかれた。
「ガキみたいにすねんなおまえは。今ごろ反抗期か?」
「すねたくもなるだろ普通!」
「知るか! おまえの問題はおまえの問題、俺が考えてもどうにもならんだろ。おまえが自分で決めるしかないんだろーが。それをなんだ。わざとらしく人の前ですねるなバカたれ」
きっぱりと。
これ以上はないってほどきっぱりと言われた。
一旦上げた頭を、また机につける。ひんやりと冷たい。
「まあ、気持ちはわかるけど。……まぁ、相談なら俺もお袋も姉貴もいくらでも乗るから。あんまり一人で悩むな」
「……うん」
こういうところ、住吉は優しい。
だから、甘えてしまうんだろうなぁ。
住吉に促されて、のろのろと問題集を鞄にしまう。
そしてとろとろ校舎を出たとき、不意に、住吉が言った。
「また剣道場のぞいていくか?」
……スミ君、あんたね。
「あたしに対するあてつけですか、それとも嫌がらせですか」
「人が気ィ使ってやってんのに、なんだその言い草は」
…人の弱み握ったと思って。なんでそんなに眼ェ三日月になってるのさ。
「…だってあんた、大城気に食わないんでしょ」
「ああ気にくわんな。でもそれとこれとは別」
別って、あんたな。
じとっと見ると、住吉は、あっさり言った。
「じゃあ行かないんだな。わかった、さっさと帰ろう」
「…………誰も行かないなんて言ってない」
思わず、住吉の学ランを掴んで。
そして、言ってしまっていた。
住吉が振り返る。
そして、思い切りイヤラシク、笑った。
剣道場の周囲に生い茂っていた雑草が、いつの間にやら刈り取られていた。歩きやすくなった地面を踏みしだいて、道場へ近づく。パンパン、と、打ち合う音が聞こえてきた。
まだうろついている女の子に混じって、中を覗き込む。
部員が増えたんだろう、防具をつけて打ち合っている人の数が、前よりも増えていた。
「で、奴はどこだ」
大城はすぐにわかる。一人だけ剣道着の色が違うから。
でもそれ以外の部員はみな紺の剣道着で、面をつけた姿では体格か、防具につけられた名前からでしか判断できない。
でも。
なぜか、渡会はすぐにわかる。
どこにいても、眼が行く。
今もそう。
同じ格好をしていても、すぐにそうとわかるのは、きっと姿勢がいいからだ。一本芯が通った、姿勢。姿勢だけじゃなく、あいつの言動や、性格には、ちゃんと芯が通っている。
「で、どこ」
「あそこ、今、離れて――…」
二人ずつ組んで打ち合っていた中から、一人、離れてこちらに歩いてきた。
ピンと延びた背筋。
そのまま、正面に立って、こちらを見下ろしてくる。
「……なんか用?」
くぐもった声は、どこか、とげを含んでいて。
……まだ機嫌直ってなかったのか。
面越しに向けられてくる視線も、冷たい。
「ちょっと、見にきただけ」
ふーん。
冷たい声で、そう言って。
「用がないんだったらさっさと帰れ。気が散る」
かたい声でそう言ったかと思うと、ぴしゃんと、戸を閉めてしまった。
なにが起こったのか一瞬理解できなかった。
「…ま、まだ怒ってたの? ていうかなんであんな態度とられなきゃならんのさ!」
住吉も呆れた顔で頭なんかかいていた。
「あーもーしょうがない奴だなあいつも」
「しょうがないって、あたしなんかした?」
「まあしたといえばしたし、してないといえばしてないか」
「どっちだよ!」
わけわかんないし!
怒鳴ると、なだめるように背中を叩かれた。そのまま押されて、剣道場を後にする。
「まあ、気にすんな。俺からよく言っとくから」
「気にするよ」
あれで気にならないほうがおかしい。
住吉はぐいぐい押してくる。もう、竹刀の音も聞こえなくなった頃、後ろから低い声が飛んできた。
「あ。参考までに訊いとこうか」
なにを。
「おまえ、大城のことはどう思ってる?」
「大城? また唐突だね今日は」
勇理君といい、大城といい。
なんでその名前が? と首をかしげるようなことを、なぜか訊いてくる。
「べつになんとも。西岡ほど嫌いはしないけど」
「でもおまえこの前カッコイイとか言ってなかったか?」
このまえ?
「ああ。あれね。あれは――」
だって。渡会が。
思わず口走りそうになって、慌てて口をふさいだけど――でも、すでに遅かった。
「渡会が、なんだ?」
住吉は聞き漏らさなかったらしい。ぐ、と肩を掴んで、そして訊いてくる。
「…黙秘権」
「遅い。この際全部話してしまえ」
ぐぐぐ、と、肩を握られて。
痛いんです、それ。
「…わかった、わかったから離せ」
手が離れた。代わりに住吉が隣に並んでくる。
で。と促されて、仕方なく口を開いた。
「いや、だから。……渡会も、何年かしたらああいうふうになるのかなー、って」
住吉は奇妙な顔をした。
そしてそのまま、顎に手を当てて何事か考え込む。
「なあ。なにか言ってよ。今すっごく恥ずかしかったんだけど」
ほんっきで恥ずかしかったんだけど。
ポン、と、住吉が肩に手を置いた。
「おまえ、渡会にあんなになってほしいのか?」
「違うって。…その、ちょっと思っただけだし」
住吉はまたどこか遠くを見た。
そして、何度も何度もあたしの肩を叩いた。
正直、わけがわからなかった。
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