NIGHT GAME 一章一話 ライト
 いやがおうにも不安をかきたてる音楽がひそやかに部屋の中に満ちる。テレビの中では、不健康な――ほとんど青白いと言ってもいいような顔色の女が白い着物を着て立っていた。女の紫色の唇が開き、幽鬼のような――まさにそうなのだが――恨めしげな声が漏れる。
 まるでバラエティー番組を見ているかのような表情で、熱い番茶をすすりながら相馬千里が言った。
「やっぱりホラーは日本製だな」
 スナック菓子をほおばりながら水城成一が同意する。
「ああ。外国のホラーはどっちかってーとグロテスク」
「日本人のホラーに対する感覚って、ある意味美意識に近いものがあるよな」
「究極の美?」
「と究極の恐怖。絵でもなんでもそうだけど、本当に美しいものってこう見ると背筋がぞくぞくするって言うか」
「なんだそりゃ」
「ほんとだって。昔フェルメールの――」
「フェルメール?」
「画家だよ画家。フェルメールの絵を見たときは、ほんとーに怖かったんだ。なんて絵だっけ、あれ」
 ひざを抱えてつまらなさそうに画面を見ていた伊織万真がぼそっと答える。
「青いターバンの少女」
「そう、それ。真っ暗な闇の中で女の人が肩越しにこっちを見てるんだ。すっげーきれいでさあ、子供心に俺は背筋にぞくぞくきたね」
「へー、そう」
 気のない相槌を打って、成一もまたテレビに目を向けた。テレビの中ではきれいな女性が顔を引きつらせて絶叫していた。生物学上は立派な女性である万真はことんと首を傾げた。
「――どこからでるんだろう、あんな声」
「声帯をフルに活用してます、って感じ」
「喉痛めるぞ。あんな声ばかりだしてたら」
 形のいい眉をひそめて千里が言った。高くもないし可愛らしくもない声の持ち主の少女は、クッションを抱えたままころりと床に転がった。短い髪がフローリングの床にさらりと広がる。それを見て千里はちらりと時計に目をやった。
「眠い?」
「ううん。つまらない」
 彼女の言葉がこの映画を指していることは明白だった。からになった菓子の袋を名残惜しそうに見やって成一も頷く。
「前評判だけはやたらと高かったんだけどなあ。やっぱり、ホラーは映画館で見るほうがいいか」
 千里は無言でテレビを消した。とたんに静寂が訪れる。どこか遠くで犬が寝ぼけてほえている。
 ここは千里の部屋だ。特に理由はないが、三人は週に一度はこうやって千里の部屋で夜を明かす。ビデオを借りてきて一晩中観ることもあるし、テレビゲームをして明かす夜もある。そして何をするでもなく、ただ黙って寄り添って過ごす夜もあった。
 彼らの関係を知った者は、皆奇妙な顔をしたあと決まってこういうのだ。
「変だ、お前ら」
 余計なお世話である。さらに万真はこれでも年頃の女の子なので、彼らの関係はさらに変だと言うことになる。加えて言うと、万真と二人の間には恋愛感情はない。
 三人はいわゆる幼なじみだが、それ以上のものが彼らの間にはあった。それを一言で述べるのは難しい。千里と成一は親友で悪友でけんか友達である。万真と成一、そして千里との関係も、やはり親友で悪友だった。
 千里は壁にかかった時計を見て、思い思いのことをしている二人に声をかける。
「散歩にでも行くか?」
「散歩?」夜の十二時過ぎに?
 聞き返した成一に、千里は鞄の中から財布を引っ張り出して笑ってみせる。
「コンビニまで」
 床でごろごろと転がっていた万真が跳ね起きた。
「行く」  


 都会の夜は明るい。目黒区の外れのこの住宅街はさすがに静かだったが、夏の夜ともなればそれなりに人がいる。
 夜の街は、なぜか人の心を妙に昂揚させる。軽い足取りで三人は暗い水銀灯の照らす道を進んだ。人気のない道路をまっすぐ行こうとした万真を千里が呼びとめた。
「カズ、近道」
 千里の指はまっすぐに薄暗い路地を示していた。路地の奥にはコンビニエンスストア独特の明るい照明が見えている。
 万真は頷いて、二人に続いた。
 路地に足を踏み入れた瞬間。
「!?」
 体の中をなにかがすり抜けたような、そんな奇妙な感覚に、万真は思わず足を止めた。ほとんど同時に、連れの二人も立ち止まる。三人は顔を見合わせた。
「…?」
 首を傾げる。ふに落ちないものを感じながらも再び歩き出した成一は、前方に目を向けてまたも歩みを止めた。
「なあ」
 成一は前方を凝視している。そこにあるのは黒い闇。
「……さっきまで、コンビニ、見えてたよな」
 万真と千里は食い入るように闇を見た。ついさっきまでは明るい灯りが見えていたそこには、今はなにもない。背筋に冷たいものを感じて万真は千里の腕をつかんだ。
「戻ろう」
 頷いて振りかえった三人は、次の瞬間心臓が止まりそうになった。
 千里の腕をつかむ万真の指に無意識に力が入る。あとずさった千里の肩に、成一の肩が触れた。
 うわずった声で、成一が呟いた。
「なんだよ、これ」
 空間が歪んでいた。先ほど通った水銀灯に照らされた道が、油膜のようなものを通して陽炎のようにゆらめいていた。
 異様な光景に、三人はものも言えずにただ立ち尽くしていた。
 その時だった。

 ドン。

 三人の傍らのビルの上のほうで、なにか音がした。反射的に見上げて――。
 三人は絶句した。
 上からなにかが降ってきたのだ。
 その振ってきたモノは、彼らの真上で一回転すると音もなく着地した。まるで、体重などない、羽のような動作だった。
 声も出ず、ただ口をパクパクさせる三人の気配に気づいて、それは「誰だ!」と鋭く誰何した。と同時に、ポウと白い光が宙に浮かんだ。
 光はゆるやかに円を描き、三人の網膜に白い軌跡を残す。光に目がくらんで、彼らには男の姿を認識できなかった。
「――METHか?」
「はい?」
 研ぎ澄まされた刃を連想させる声に、成一の声が裏返った。
「メス?」
 光が揺れた。声にいぶかしげな響きが含まれた。
「――お前ら、どこのものだ?」
「?」
 三人は顔を見合わせる。ふっと、張り詰めていた力を抜くような、そんな気配がした。光が大きく円を描いて、彼らの頭上に上り、ひときわ明るく輝き出す。白い光の中に浮かびあがったのは、三人よりもひとつか二つ年上の若い男だった。
「まさか――お前ら、新入りか?」
 彼の言葉が理解できなくて顔を見合わせる三人に、若者は急ぎ足で近寄る。
「ちょうどいい。お前ら、どこから入ってきた? 扉はどこだ」
「ど、どこからって」
 詰め寄られて、万真は背後を指差した。静かに揺らめく陽炎を一目見て、男はそこに駆け寄る。慎重にそれに触れようとして、そしてうなった。
「くそっ。一方通行か」
 言うなり、きびすを返して走り去ろうとする。その背に千里は追いすがった。
「あの、待って!」
 男は立ち止まった。光がその頭上で揺らめく。
「ここはいったいなんなんだ?」
 男は奇妙な表情になった。同情と、そして軽い苛立ち。男はがしがしと頭をかくと、ポケットに手を入れた。
 取り出した携帯電話で誰かと話し始める。
「もしもし――あ、俺っス。うん、大丈夫、とりあえずまいたっス。え? ここ?」
 男が問い掛けるように三人を見た。
「ここ、どこ?」
 三人は顔を見合わせた。わからないから訊いたのだ。男は三人の表情に、苛立ちをこめて舌打ちした。
ここ! おまえらがいた場所だよ」
「え、ああ。――目黒の」
「目黒ぉ?」
 すっとんきょうな声で叫んで、彼はその場にしゃがみこんだ。
「マジかよ……。うん。…みたい」
 電話に向かって話しながら彼がこちらを見たので、三人はどきりとした。
「ああ。ちょっと、厄介なことになっちゃって。大丈夫。そういう心配はないから。ただ……新入りなんスよ。ほっとけないっしょ」
 彼は立ち上がると、携帯電話を切って三人に向き直った。
「…俺はライトだ」
「ライト? right?」
 千里の言葉に、彼は頭上に浮かぶ光の玉を指差した。
light」
 納得して三人は頷いた。自分も名乗ろうとした三人を制して、ライトは背後を探りながら早口で言った。
「詳しい話はあとだ。とりあえず、今はここから逃げないと」
「逃げる? 追われてるの?」
 万真を一瞥して、ライトは身を翻すと走り出した。
「とにかく、死にたくなけりゃついてこい」


 小一時間ほど走り続けただろうか、三人よりも早くライトが音を上げた。壁にもたれて、荒い息をつく。
「……なんで…おまえら、平気なんだよ」
 なんでと言われても。
 三人は顔を見合わせる。代表して千里が答えた。
「体力には自信あるんだ」
「……あ、そ」
 なんとか呼吸を整えて、立ち上がる。再び走り出そうとした彼の全身に突然緊張が走った。鋭い瞳で周囲を見渡す。
「――おい。急ぐぞ」
 低く言って、走り出した彼の横合いから、突然黒い影が飛び出した。
 影を全身に食らってライトの身体がはじけ飛んだ。
「ライト!」
 駆け寄った三人の頭上から、数体の影が襲い掛かった。
「うわっ!?」
 すべてはまたたきする間に起こった。
 反射的に影の、人体で言えば急所にあたる部分を蹴り飛ばす。一瞬で影を地にのした三人を、ライトは倒れた姿勢のまま唖然としてみつめた。
「おいおいおい」
 汗もかいていない様子で、成一がライトを覗き込んだ。
「大丈夫か?」
 成一の手を借りて立ち上がると、ライトはまだどこか唖然とした様子で三人を見た。
「なにもんだ、おまえら」
 三人はお互いの顔を見ると、そろって肩をすくめた。
「そんなにたいしたもんじゃないよ」
「ただちょっと腕に覚えがあるだけで、あんたほどじゃない」
 ライトは軽く目を瞠ると、ややあって苦笑した。
「そうくるか」
 軽く笑って、四人は走り始めた。
「さっきのあれ、なに?」
 万真が言うと、ライトの表情が硬くなった。
「あれ、人じゃねえよな」
 成一が、さきほど蹴ったときの感触を思い出して言った。
「だって、手ごたえがなかったぜ」
 残る二人は無言でそれに同意した。
 確かに、まったくといって手ごたえがなかった。まるで空を蹴ったような感じだったが、なぜか影は地にふした。さながら本物の人間のように。
「………もしかして、これって夢? みたいなー」
 三人が共に考えていたことを、引きつった笑いを浮かべた成一が口に出した。
 こんなことが現実に起こるはずがない。
 こういう事態が起こりうるのは架空の出来事の中か、そうでなければ夢の中だけだ。
 ゆえにこれは夢である。
 三段論法を頭の中で打ち立てて、千里は走りながらしっかりと頷いた。
「なかなか臨場感のある夢だな」
「って、そんなのんきなこと言ってる場合!?」
 言っている間にも影が追いすがってくる。
 無言で光の塊を影めがけて投げつけて、
「こっちだ」
 ライトは横合いの路地に飛び込んだ。
 続いて路地に飛び込んだ三人を、またもあの奇妙な感覚が襲う。水の中にでもいるかのように、一瞬だけ、身体が重くなる。
 奇妙な感覚はすぐになくなったが、嘔吐感を覚えて万真は口を押さえた。
 再び迫ってきた影を肘鉄一発で地に沈めて、成一が不自然なほど明るい声を出した。
「いっやー、こんなリアルな夢見んの俺初めて」
「………リアルすぎっ」
 万真がうめく。
「なんか、ここまできたらもうゲーム感覚?」
「命がけのな」
 千里の声は冷たく乾いていたが、紛れもない焦燥感がある。懲りずに成一は言葉を続た。
「こんなゲームあったよな。ロープレじゃなくてヴァーチャル系」
 千里は答えない。無言で追いすがる影に足をかけ、そのひじにあたる部分を思い切り踏みつける。反動を利用して影をきれいに投げ飛ばして、成一は言った。
「なんだっけ。バイオハザード? ゾンビが影な点があれだけど」
「やーめーてっ!」
 振り返りざまに見事なカウンターパンチを決めながら、万真が青い顔で叫んだ。
 なにしろ、相手があいてである。殴っても痛みはないし感触もなく、当然のことながら血も流れない影は、倒れるとまたむくりと起き上がり、なにごともなかったかのように追ってくる。これがゲームでなくて、なんだというのだ。
「チッ!」
 つかまれた腕を逆にねじり返して、関節を決めると、千里はそのまま影を投げ飛ばした。人間にしてみたら不自然な体勢。しかし、影はひじが折れることもなくふにゃりと地面に落ちる。そしてしばらく平面上でじっとしていたかと思うと、突然身体が膨らみ、起き上がった。
「げえー。気持ち悪いよ」
 万真が口元を押さえながら呟いた。
「うげ。やっぱバイオハザー…」
「だからっ、やめてってば!」
 影がゾンビにすりかわる。まざまざとそれを思い描いて、万真はプルプルと首を振った。絶対にこっちのほうが何千倍もましだ。影のみぞおちとおぼしき部分にひじを叩き込んで、千里は先を行くライトの背中に声をなげた。
「ライト! このままじゃ――」
「わかってる。後少し―――見えた!」
 ライトが叫んだ。
 彼の手前、路地の奥に、揺らめく陽炎が現れる。
 追いすがる影を振り切って、四人は陽炎に飛び込んだ。

 

 刹那、呼吸が苦しくなる。
 水の中とも違う。まるで油の中にいるような、そんな不快感が全身を包み込む。なにかが身体の中に浸入し、そして浸透するのがわかる。
「――ッ、ぷはっ!」
 三人は大きく息をした。陸に揚げられた魚のように酸素を求める。陽炎から飛び出す瞬間、油膜が脱出を阻もうと粘着性を帯びたのだ。
 大きく息をつきながら、たった今飛び出してきたところを振り返った。
 夜の闇の中、油膜の表面の波紋が街灯の灯りを反射してきらきらと光っている。
 影はそこで止まっていた。
 陽炎を通してゆらゆらとゆれる影が、黒く塗りつぶされた顔でこちらをみつめていた。
 思わず身構える三人に、ライトはぐったりとした様子で声をかけた。
「……大丈夫、こない」
 理由を問うてくる視線に、ちょっと待てと手で言って、ライトはその場に座り込んだ。大きく肩で息をしている様子は、はたでみているほうが苦しくなってくる。
「…あれは、これねえんだ。こっちには」
 こっち、と指で彼らのいる場所を示して見せる。
 困惑した表情で顔を見合わせる。
 と、突然万真が口元を押さえて唸った。
「……気持ち悪…」
 ライトは跳ね起きた。
「吐くのか!? 吐くんならそこにしろ」
 彼の指の先では、わりと大きな川がちゃぷちゃぷと音を立てて流れていた。黒い流れは、街灯やネオンを映して所々鮮やかな光が浮かんでいる。
 万真はふらふらと堤防を降りて川辺へ行った。
 さきほどのあの生々しい光景ですでにノックアウト寸前だったが、最後のあの油膜が効いた。あれで胃が大ストライキを起こしたのだ。
 青い顔でふらふらと戻ってきた万真の肩を叩いて、成一がいかにもいやそうな顔でライトを見た。親指で背後を流れる川を指す。
「つかぬ事をお尋ねしますが」
 そして多大なる努力を持って次の言葉を口にした。
「あの川、何川?」
 みたことがあるこの風景。深夜なのではっきりそうとは言い切れないが、ここには来たことがある。たぶん。だが、記憶にある土地はあまりにも突拍子もない場所だった。
「ああ、あれか? 隅田川」
 三人は沈黙した。耳を疑った。
 硬直した表情で、それでもなんとか千里が言葉をしぼりだした。
「じゃあ、ここは……?」
 ライトはぐるりと周囲を見回す。
「あれが白髪橋だから…南千住のあたりじゃないか?」
「み、南千住ぅ?」
 三人は目を白黒させた。とっさに言葉が出ない。
 さっきまでは確かに目黒区のはずれにいたのだ。それが、一時間足らずの間に走って南千住まで行くことができるはずがない。絶対にない。
(ってーか夢だ、ぜっったいに夢だ!)
 ライトは呆然とする三人をどこか笑いを含んだ表情でしばらく見ていたが、ややあって言った。
「ほら、いつまでもこんなところにいてもしょうがない。場所を変えよう」


 再びあの油膜を通って薄暗い路地に入り込む。もう周囲にあの影はおらず、入り組んだ路地を何度も折れて、また陽炎から「外」に出た。
 身体がなれてきたのか、今度は吐き気をもよおさなかったことに、万真は内心安堵した。
 薄暗い街頭の下をしばらく行くと、小さな公園があった。
 鉄棒やブランコがあるその公園の中央には、コンクリートでできた小山があった。
 小山の頂上に、誰かが座っていた。薄暗い明かりの中、鮮やかな赤が目に入る。
「ナンさん」
 ライトが声をあげた。人影は、それに気づいて軽く片手を挙げてよこした。
 三人を促して公園に入り、小山に駆け寄る。ライトが口を開く前に、影がそれを制した。
「それかい? 新入りってやつぁ」
 それが女の声であったことに三人は驚いた。
 分厚い雲の隙間から満月が顔を出し、彼らに純白の光を降り注ぐ。
 見上げると、月明かりの下、その人物が女であることがわかった。
「なんだ、まだガキじゃん」
 くわえたタバコに火をつけると、ようやく彼女はライトに目を向ける。
「で? やつは無事まけたの?」
「あ、なんとか。こいつらのおかげで」
「へえ?」
 女が身を乗り出した。
 無遠慮にみつめてくる視線に、居心地の悪さを覚えて三人は身じろぎした。
「なに、入ったばっかでもう覚醒したわけ?」
 ハイッタバッカデカクセイ。
 頭の中でカタカナが踊った。
「いや、ふつーに。影をばったばったと殴り飛ばして…」
 女は目を丸くした。そして高らかと笑い出す。
「あっは…それって、すごい。もんのすごく特異な才能だわ、それ」
 再び三人を見た女の瞳は柔らかな光を帯びていた。
「いいね、新入り君。そういうコ好きよ、あたし」
 そういうコってどういうコ?
 困惑して混乱していても、なぜかそういう冷静な突っ込みは入ったりするのが不思議だ。
 女は組んだ脚の上にひじを置き、両手に頬をはさみこんで三人を見下ろした。
「さてと。新入り君、“夜の王国”へようこそ。ゲームはもう楽しんでるかな?」
 深紅の派手なパーカーを着た女はナンと名乗った。ここでは本名は決して口に出さないのが常識なのだそうだ。理由を問うと、彼女は思わせぶりな口調で言った。
「いろんな能力者がいるからね」
 相変わらず頭の中は疑問符だらけだったが、それでも律儀に彼らが名前だけを名乗ると、ナンとライトは目を丸くして、笑った。
「一千万? ほんっとにおもしろいねあんたたち」
 成一千里万真、三人あわせて一千万とは、昔から言われすぎていて、三人はもうなにを言う気にもなれない。
 ひとしきり笑って、女はふとまじめな表情になった。小山から飛び降りると、三人と目線を合わせる。
「まあ、冗談はこのくらいにして、あんたたちが知りたいと思ってることを話そうか」


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