刻一刻と空の青がくすんでいく。
冴え渡った青に西から金が広がり、そして東からは宵闇が迫り来る。
夜に主権を譲り渡し、ゆっくりと太陽が玉座を退く。
ビルの谷間には影が落ち、事物の輪郭が薄れ始める。
蒼はいつしか群青色になり、明るい一等星が輝き出す。
そして、街が夜に支配される時、不思議な変化が現れた。
身体を何かがすり抜けた。と思った瞬間、周囲の風景が一変する。
「お、おおっ!?」
思わず成一は声をあげた。
夜が来た、と思ったら、すでに彼らは王国の中にいたのだ。
「…フィールド予定地にいた場合、ドアを通らなくてもこっちに来れるんだな」
驚いた表情で、千里が分析する。万真は思わず苦笑した。
呆れた、という表情で日向剛志が呟く。
「……貴重なタイプだな、相馬は。分析とかするのが好きだろう」
「嫌いじゃないな」
あっさりと頷いて、千里は周囲を見回した。
先ほどまでは、わりと人通りの多い通りから少しはずれた路地にいた。振り返れば大通りの雑踏が見え、喧騒が肌に伝わってきた。それが今はない。
広がるのはどこまで続いているとも知れない暗くて細い道。道の両側には低いビルが並んでいる。
成一が胸の前で拳を握って身震いした。
「うーっ、ぞくぞくしてきた。イイね、この緊張感!」
「ヘンタイがここにいるー」
すかさず言った万真の首に腕を回し、ぐいぐい締め付ける。
「お前もうずうずしてんだろ? こういうシチュエーションは大好きだったはずだ」
「チョークチョーク」
言いながら、万真は笑った。能天気とはほど遠い、好戦的な笑顔。
「嫌いじゃないよ」
「よっしゃ、それでこそ俺の悪友」
「類友類友」
二人は不敵な笑顔をかわすと、拳を打ち合わせる。
日向はそんな二人を驚いた表情で見ていたが、やがてひとり静かな千里に眼をやった。相馬千里はいつもどおりの飄々とした態度で周囲を見渡している。
「相馬は落ち着いてるな」
「んー? さあ、どうかな」
千里はにやりと笑った。二人に負けず劣らない、好戦的で不敵な笑顔。
二人と同じくらい、いやもしかするとそれ以上に、千里も興奮しているのだ。
「まあ、とにかく生き延びるには俺と万真が力に目覚めないとな」
「簡単に言うなー」
万真が抗議の声をあげる。
それには取り合わずに、千里はぐるりと首を回して成一と日向を見やった。
「あと、日向と一があんまり目立たないでくれたら助かるね」
「がんばりまっす」
成一が不真面目な表情で言った。
とりあえず、日向は三人と行動をともにすることを選んだ。
三人に興味を持ったのだ。
目的もなく暗い道を歩きながら、日向は成一とじゃれあう万真に目を向ける。
学校での彼女とは別人かと思うくらい、生き生きとしている。今も万真は、成一のくだらない冗談にけらけらと笑っていた。時折千里も交えて、笑いあう。
明るい。
この三人は、この王国には不似合いなほど、明るい。
いつか彼らも、夜という色に塗りつぶされる日が来るのだろうか。
そうなった彼らは見たくない。
不意に千里が言った。
「こう暗いと、足元になにか転がっててもわからないよな」
「ばらばらになった死体とか、骸骨とか?」
「やめてっ」
耳を押さえる万真の反応に軽く笑って、千里は言う。
「ライトの力って便利だなーと思って。こうぽわっと光が灯って――……」
広げた千里の手のひらの上に、白い光の玉が現れた。
白々とした光を放って四人の姿をぼんやりと浮かび上がらせる。
沈黙がその場を支配した。
光は五分ほど輝きつづけると、次第にかすかになり、やがて消えてしまった。
「………えーと」
珍しく、千里の表情に困惑が浮かぶ。
「意外に早くわかったな」
冷静にコメントしたのは日向だった。
「千里の力って、ライトと同じか?」
「……もっと攻撃的ですごいやつがよかったなぁ」
千里の声には力がない。まだ驚いているのか、それとも自分の力にショックを受けているのか。おそらく後者のほうが強いだろう。
千里は三人の中では一番好戦的なのだ。本人にその自覚はないが。
「まあ、身についちゃったものはしょうがないよ。それより、もっぺん出してみて」
「ああ…」
万真に言われて、光の玉を思い描く。
が、やがて出現したのは、蛍火のようなか細い光球だった。
「……なんだかなあ」
「まあ、慣れればちゃんとしたのが出るって」
成一に慰められて、千里はますます落ち込んだ。
METHのあの青年のような、派手な力がよかった。
小さな光を灯しながら(それでも時折消えそうになっているが)しばらく進んでいると、広い道に行き着いた。
T字路だ。
とりあえず、右へ行く。これは成一がコインで決めた。
「なんか、あちこちでドンパチやってるかと思ったら、意外とそうでもないんだな」
成一がのんきな感想を漏らしたときだった。
「止まれや、そこの四人」
下品な声が響いて、四人は足を止めた。
前方に、二人の男が現れる。
感性を疑うような派手な原色のシャツが視神経を不快に刺激した。
虫の羽音のような音が響き、男たちの手に白い剣のようなものが現れる。細身の刃は白く輝いていた。
「経験値を上げさせてもらうぜ」
男のひとりが口の端を吊り上げてそう言う。
「コロシはご法度なんじゃなかったっけ?」
万真が呟くと、男たちは大口を開けて哄笑した。
「管理人になにができるってんだ。ひとりや二人殺したところで、誰も気づきゃしねえよ!」
確かに道理だ。
前に出ようとした日向を手で制して、千里は小声で呟く。
「ああいう馬鹿は、公害だ」
「まったくだ」
成一も頷く。
「一番、伊織万真、行きます」
呟き、日向が止める間もなく万真が飛び出した。
「へっ、馬鹿が!」
一人の男が剣を振りかぶり、万真に向かって突進した。
青白く輝く剣が少女めがけて振り下ろされる。
万真の身体が両断される。
そう思われた刹那、万真の姿が掻き消えた。
「…聞き飽きてるんだよね、その科白」
懐にもぐりこみ、万真は右足を振り上げる。
男のあごを蹴り上げて、振り上げた足をそのまま横に凪いでもうひとりの後頭部を強打した。
一分にも満たない早業。
一瞬で男たちは道路に崩れ落ちた。
「もっと独創性のある科白を吐きな」
昏倒している男を靴の先でつつきながらそんな捨て台詞を吐いている。
「お見事お見事」
「相変わらず鮮やかだな」
お気楽な表情で成一と千里がそんなことを言いながらやってきた。完全に伸びている男たちを覗き込む。
「こりゃ、あと一時間はぐっすり眠るだろ。そのあいだに襲われたらどうする?」
「自業自得」
万真は鼻を鳴らしてばっさりと切り捨てた。
千里はぽかんと口を開けている日向をちろりと見やる。
「感想は?」
「………驚いた」
としか、言いようがない。言葉が他に出てこない。
ようやく口を閉じて、日向は頭を振った。
どうやら伊織万真という少女は日向の想像をはるかに超越しているようだ。
「能力なんか必要ないな」
そう言うと、万真は顔の前で片手を振った。
「無理無理。ケンカだけじゃここでは生き残れないって、前回で思い知ったから」
だから、やっぱり力がほしい。
「俺の力ってやっぱりこんなんなんかなー」
千里はまだぐちぐち言っている。
明るい通りに出たので、光はすでに消してあった。
「雑魚でよかったよ。向こうから能力を教えてくれたおかげで、安心して飛び込めた」
恐ろしい科白を吐きながら、万真は能天気な笑顔を浮かべる。かわいらしい顔からは想像できない科白だ。
「…いくら腕に自信があるからって、相手は刃物だぞ?」
「真剣相手に渡り合ったこともあるよー」
あっさりと言われた言葉に、日向は一瞬目を点にした。なにを言われたかわからなかったのだ。
「……は?」
「素人が持つライトセイバーなんて怖くないって」
「まあ、素人でよかったよな」
二の句が告げない日向の隣で千里が言った。
「そういう問題か?」
「そういう問題」
千里と万真が口をそろえた。その言葉にはなんの気負いもなく、ただ単に事実を述べているだけ、という印象を受ける。
ひとりデイバッグの中をかき回していた成一が、スプレーの缶を取り出して壁に向かいながらぽつりと言う。
「ライトセイバーって、スターウォーズだっけ? やっぱダースベイダーだよな。渋すぎ」
「ていうか一、古すぎ」
「うるせ」
成一は右手を大きく動かした。
壁いっぱいにでかでかと派手な赤いスプレーで「神威参上」と書いて、成一は三人を振り返りにやりと笑う。
「犯行声明。とにかく、ネームバリューをださねえとな」
成一の言葉の意味がよくわからずに困惑している日向を残して、三人はさっさと先に行く。慌てて後を追って、日向は千里に問い掛けた。
「なんであんな目立つことをするんだ?」
「簡単なことさ。なるべく敵は作りたくない」
「だったら逆効果じゃ」
「それが違うんだよ。ナンさん曰く、生き残る秘訣はなるべく同盟関係を築くこと。でも、弱小チームじゃ同盟するどころか吸収されるのがおちだ。対等か、同盟を組んでも損はない、と周囲に思わせないとな。そのためにはまず名をあげる。力があるってことを見せつける」
もちろん、成一が鬼だってことは知られずに。
そう付け足して、千里は苦笑する。
「まあ、個人の能力もものを言うんだろうけどな。それなのになあ…。せっかくいろんなプランを練ってたのに」
「計画倒れの天才だもんな、千里は」
「うるせーよ」
計画倒れとは言っても、千里の場合は一般に言うそれとは多少異なる。
夏休みの宿題を例にとっても、千里は最初に作ったプランよりも二週間以上早く宿題を終わらせてしまう。もちろん、計画などはないも同然だ。計画はあくまで目安であって、その通りに行動するとは限らない、と、千里はいつも言っている。
今回も、千里が予想していたよりもかなり早く、千里の能力が発現した。
「あとはカズの力に賭けるしかないか…」
「勝手に賭けないで」
「でもなぁ……」
千里はよほど自分の能力に消沈しているらしく、表情がずっとすぐれない。
と、先頭を歩いていた成一が足を止めた。ほぼ同時に後続の三人も立ち止まる。
「団体様のお着き〜」
成一が小声でかなりふざけたことを言った時、四人の前方に上から数体の人影が降り立った。ビルから飛び下りたらしい。
男たちはゆっくりと体制を整えると、四人を見やった。
「……命が惜しかったら、消えろ」
低い声が落ちる。
「……六人」
人影を数えて、千里は囁く。
向こうの力がまったくわからない今、この状況はこちらに不利だ。
「十秒だけ待ってやる。それでも去らない場合は、容赦はしない」
三人の顔を見渡し、日向は小声で尋ねる。
「…どうする」
「日向、あいつらの強さは?」
日向は闇を眇めるように目を細める。薄明かりの中に浮かぶ顔には見覚えがない。
「…わからん」
「使えないやつだな」
千里が吐き捨てる。
両者の距離は二十メートル強。
男のカウントは残り五秒を切った。
「とりあえず、今のあたしたちに必要なのは経験だよ」
ぽつりと万真が言う。
「確かにな」
頷いて、千里は右手を背中に回す。
ゆっくりと構えながら、成一が言った。
「日向、一つ教えてやるよ。俺たちのモットーはな」
「0。いい度胸だ」
「“引くなかれ”だ」
人影が身動きする。
前方に向かって、千里は右手を振り上げた。
白い光が人影の間で輝いた。
「うわっ!?」
万真が飛び出す。
突然の不意打ちに驚いた男が片手を振り上げたが、それよりも早く万真は男に肉薄していた。
「チィッ!」
万真の鼻先をなにかがかすめた。チッと鼻の頭に痛みが走る。
それには構わずに、万真は右の拳を男の腹にめり込ませた。
男の口から異音がして、万真の身体に男の重みがかかる。
(あ、しま――っ)
囲まれる、そう思った瞬間、身体が浮いた。
襟を思い切り引っ張られたのだ。
包囲網から救出されて、万真はしりもちをついた。
「……いきなり飛び込むやつがいるか」
呆れたような、怒っているような口調に驚いて顔を上げる。
目の前に日向のたくましいからだがそびえたっていた。
「バカ。日向に感謝しろよ」
「うぎぎ」
千里に右の頬を引っ張られ、
「イノシシ娘が」
「うぎ〜」
成一に左の頬を引っ張られる。そしてぱちん、と音がしそうな勢いで指を離された。
「……ごめん」
「謝るのはあとだ」
千里の声は冷静だ。彼の視線を追って、万真は五人になった人影を見やる。彼らは今、仲間を目の前でやられた雪辱に燃えていた。
「……どこのチームだ」
「神威」
千里が毅然として答える。
沈黙の後、低い、怒気のこもった声が返ってきた。
「新入り風情が…!」
刹那、四人の目の前に赤い花が咲いた。
なにかが爆発したのだ。
直後に千里の真横で小さな爆発が起きる。
「な、なに!?」
「一ッ」
千里に名を呼ばれても、成一は混乱しきっていた。
「まてっ、こんなん消せねえよ」
「落ち着いて、あいつの手を見ろ」
「手?」
日向に言われて目を凝らすと、男の指が差すところで爆発が起こっている。
「あとは、タイミングだ」
「簡単に言うな!」
日向に怒鳴り返した時、不意に彼の横で声がした。
「さん、に、いち、今!」
万真の声と同時に彼らの頭上で花が咲く。
「万真、わかるのか?」
「来るよ、一の右上!」
成一の頭上で起きた爆発は、不完全なままに終わった。成一が押さえ込んだのだ。
「…応戦一方じゃ、埒があかない」
万真と成一のコンビネーションでなんとか爆発は回避できているものの、このままでは持たない。
「一の力は防御だ。日向は?」
「…場合による」
どういう意味だ、と問い返そうとした時、火球が飛んできた。
「うわっ」
爆発に気を取られていた成一は慌ててそれに意識を集中させたが、彼よりも早く日向が動いていた。
軽く右手を突き出すと、火球の勢いが衰える。そして日向がぐるりと腕を回すと火球もその動きに従う。
「なっ――!」
「返すぞ」
日向はひょい、とそれを投げ返した。
「わ―――!!」
男たちから絶叫があがった。
驚いたことに、男たちは生きていた。多少火傷は負っているかもしれないが、それでも大声を出す元気は十分に残っているようだった。
「な、なんだお前らは!」
「だから、神威だよ」
プラスアルファのお助け人のことは卑怯にも言わない。成一は調子に乗って、さらに言った。
「まだやるか? 十秒以内に消えるんなら、見逃してやるぜ」
「くっ」
屈辱的な科白だが、勝てないと判断したのだろう、男たちはじりじりと後退していく。
「……覚えてろ」
言い捨てて、男たちは駆け去った。
彼らの姿が完全に見えなくなったのを確認して、成一は日向を見やった。多少やっかみを含んだ口調で言う。
「便利だな、お前の力」
「そうでもない。さっきみたいに方向性のあるものなら操作できるが、あの爆発や、シャドウの影なんかは手におえない」
「へえ」
成一の力は攻撃こそできないが、シャドウの影ぐらいなら消すことができる。
日向をまじまじと眺めながら、千里は呟いた。
「なるほどな、それで鬼ってわけか」
「シャドウがそう言ってるだけだ」
男たちが言い合っている間、万真はきょろきょろと周囲を見渡していたが、やがて彼らを振り向き、言った。
「ねえ、移動したほうがいいんじゃない? さっきのやつらが仕返しに来るかもよ」
「あ、そうだな」
頷いてのろのろと歩き出した千里は、ふとなにかに引かれるように背後を振り向いた。
「わッ!!」
目の前に火球が迫っていた。
日向と成一が慌てて身動きしたが、すでに遅く、火球は千里の鼻先にまで迫っている。
(やられる―――!)
瞬間、脳裡をシャドウの影がよぎった。攻撃を受け止め、無効化していた、あの影。
熱風が額をなで、千里は堅く目をつぶる。
その直前、黒いものが視界を埋め尽くしたような気がした。
「千!」
音を立てて火球ははじけ飛んだ。
「千里!」
「相馬!」
自分を呼ぶ声に、千里はおそるおそる眼をあける。不思議と衝撃はなかった。
目を開けても、視界は暗かった。いや、正確には、目の前が黒かった。
目の前に立つものがなにか認識したとたん、千里は声を上げて後方に飛びのいていた。
「な、なんでここに――!?」
影が、目の前に揺らめいていた。
火球を受け止めたせいだろう、影はゆらゆらと揺らめくと、ゆっくりと薄くなり、周囲の風景に溶けるようにして消えてしまった。
千里は呆然とする。
シャドウの影が、自分を助けた? そんなバカな!
「千、大丈夫? 怪我ない?」
「あ、ああ――…」
なんとかそう答える。
困惑した表情で、成一が首を傾げた。
「今の、シャドウの影だよな? なんでここに?」
「近くにあいつがいるのかも」
万真が慌てて身構える。
呆然としていた千里は、やや離れたところで彼を驚いたような表情で見つめている日向に気付いた。
日向は、眼を見開いたまま、言った。
「――…驚いた」
その声に、万真と成一も彼を見る。
日向は千里をみつめたまま、呟いた。
「お前の能力がわかったぞ、相馬」
「コピー能力者だ」
我知らず、衛は叫んでいた。興奮に震える指でメガネを押し上げる。
ふわふわと長い髪を揺らしながら踊っていた紗綾が怪訝な顔で振り向いた。
「え? なにか言った?」
衛はそれには答えない。上擦った声で、呟く。
「まちがいない、コピーだ。すげえぞ、これは。鬼なんて目じゃない!」
「衛くん? どうしたの? なにか見えたの?」
紗綾が衛の顔を覗き込んできた。あどけない顔立ちにあるのはただ困惑。
騒ぎに気付いて、他の面々も集まってきた。
「なにかあったのか?」
屋上に降り立って、興味なさそうに慧が問い掛けた。
まどかが前髪をかきあげて衛を軽く睨む。
「なにがあったか知らないけど、あんたの任務は重要なのよ。ちゃんとこの世界を監視しなきゃなんないんだから」
「それどころじゃないんだ」
「だったら早く言えよ」
じれたように衛の足元に座り込んでパソコンの画面をみつめている亮が言った。画面から視線を上げて、衛を見上げる。
「千里の力がわかった。なんだと思う?」
慧があからさまに顔をしかめた。
「まだあいつらに関わってるのか。いいかげんにしろよ」
「まあ聞けよ慧。―――コピーだ」
沈黙が降りた。
困惑の表情は、次第に驚きに変わる。
「…嘘だろ?」
亮は呆然と呟いた。
めったに表情を変えない慧までもが目を見開いている。
「………すげえな」
口元を片手で覆って、まどかが叫んだ。
「コピーって、あれ伝説じゃなかったの?」
「俺の調べじゃ、数十年前にひとり能力者が出てるな」
「じゃあ…千里くんは、本物のコピー能力者なの?」
かすれた声で紗綾が言った。
「あの、千里くんが……?」
「ああ。間違いねえ」
衛はゆっくりと背後を振り向き、眼下に広がる夜の街を見下ろした。
所々で爆発音がし、閃光が走る。
メガネの奥の目を細めて闇を透かし見ていた衛は、突然背後に向かって声を投げた。
「――エリアD−6へ飛んでくれ。やつらラリッてやがる」
「お、おい」
思わず声を上げた亮を振り返り、軽く笑う。
「あいつらの様子を見るぐらいならべつにいいぜ、リーダー」
亮は顔を輝かせた。
「わかった。なにかあったら連絡をくれ」
駆け出そうとした亮は、衛に名を呼ばれて足を止める。
「顔をつき合わせても名を名乗るなよ。ちょっと、調べたいことがあるから」
亮は怪訝な顔をしていた。それは紗綾とまどかも同様で、まどかは眉を上げて衛を見返す。
「なんでよ」
「いいから。とにかく、昔の話は絶対に持ち出すなよ。とりあえず、様子見だからな」
三人は顔を見合わせる。亮がしぶしぶ頷いた。
「…わかった」
階段を下りていった三人から、衛は宙に浮かんで自分を見下ろしている少年に視線を移す。
「……なにを考えてる?」
「さあてね」
慧はしばらく衛の顔を見ていたが、やがて肩をすくめると彼に背を向けた。
「まあいい。俺には関係ない」
言い残して、宙を駆けて行く。衛は慧の姿が闇に溶けてしまうまで、じっと見守っていた。
「……コピー能力者、か」
数十年に一度の逸材。
“鬼”をも超えると歌われた、究極の能力。
鬼とコピー能力者が一つのチーム内にいる。
「……これは、荒れるぞ」
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