小さな手ごたえと同時に現れた炎を、ナンはぼんやりと見つめた。ライターの火は吹くと消えてしまいそうなほど小さく弱々しい。
くわえていたタバコに火をつけようとライターを顔に寄せたとき、ふとなにかが炎を覆った。
あっという間にタバコが抜き取られる。
驚いて顔を上げると、苦々しい表情をした若い男が立っていた。
「ニコチンは毒だぞ」
ナンはしばらくその男の顔を見ていたが、やがて小さく息をつくと新しいタバコを取り出して火をつけた。
「だからなんだい」
紫煙が細く吐き出される。
「おい!」
ナンは無言で歩き出した。追いすがり、男は細い腕を掴んで引き止める。
「もうよせ。あとは俺がやるから――」
「うるさいよ、シュウ」
ナンは腕を振り払った。
「お前一人でなにができる? ここから先は、俺がやるから」
「寝ぼけてんのかい」
苛烈な声に、男は驚いて目の前の女を見つめた。
ナンははっきりとした瞳でシュウを睨みつける。
「ここまで来て、あとはあんたに任せて一人安全なところで結果を待つなんてことがあたしにできるはずないだろ! これはあたしの戦いだ。たとえあんたでも、手出しはさせない」
炎のような激しさに、男は眩暈にも似たものを感じ、思わずナンの腕を放した。
「…だが、なにもわかっていないじゃないか。あの真相も、本当のところはなにも、わかってない」
「だからそれを確かめに行くんだよ」
「自分が傷ついてもか」
「ああ」
ナンの瞳は揺るがない。まっすぐに、男を見つめる。
「……お前は、よくがんばったよ。けど俺は、これ以上お前が傷つく姿を見たくない。俺がここに戻ってきたのはこの茶番の幕を引くためだ」
ナンは男の瞳を見つめると、悲しそうに微笑んだ。
そっと腕を伸ばして男の胸を押す。
「悪いけど、それはあんたの仕事じゃない。トリガーを引いたのはあたしだ。だから、あたしがカタをつけるよ」
それだけ告げると、ナンは身を翻した。
長い髪が一瞬宙を舞い、軌跡を描く。
遠ざかる彼女の背中を見つめながら、男は呟いた。
「……お前ら、なにもわかってねえ。あいつは、こんなこと、望んでねえんだよ」
呟きに答えるものはなにもいなかった。
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