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ZODIAC 00

わが迷宮にようこそ



 御来(ごらい)市は、聳(そび)え立つ山脈が織り なす複雑な地形の中に、取り残されたように 存在する盆地の上に築かれた町である。周囲 を取り巻いている山々には、南ドイツの黒い 森(シュヴァルトゥヴァルト)よろしく、鬱 蒼(うっそう)とした不気味な樹海が果てし なく広がっている。
 その由来を知る者すら絶えて久しい遙か昔 から、連綿として続いてきた御来市の歴史は、 常に、血と悪夢に彩られた恐怖の歴史、その ものだった。
 その恐怖は、近代的な都市として生まれ変 わった今日においても、なお途絶えることな く続いているのだ。
 冥神(めいじん)大学は、学園研究都市と して再生した御来市の、中核の研究機関とし て誘致された大学である。
 一私大に過ぎなかった冥神大学が、並み居 る強敵を押さえて、誘致対象の第一候補に選 ばれたについては、戦後日本を操る巨魁とま で言われる謎の人物の介入が、取り沙汰され ていた。
 この物語と、それを構成する幾つかのエピ ソードは、御来市、そして冥神大学を舞台に、 あるいは、これらに関連して展開していく。


 九頭竜(クトゥリュウ)−−希代のホラー 作家にして巨万の富の所有者。彼は、御来市 近郊、黒い樹海に覆われた山奥に、広大な土 地を領有し、ここに、九頭竜の<迷宮>とし て知られる巨大な城を築き上げた。
 この<迷宮>を舞台として、年に一度開か れている仮面舞踏会には、毎年、九頭竜自身 が、これはと見込んだメンバーを招待し、飲 食や歌舞音曲、歓談などに明け暮れる習慣と なっている。
 本人も大の人嫌い、ほんのわずかの友人に しか本名も知らせず、客との応対にも、いつ も仮面を被って現れる、という九頭竜が選ん だメンバーだけに、招待される者たちの中に は素性怪しげな連中−−犯罪者や狂人すら含 まれている、といった噂まで、実(まこと) しやかに囁かれていた。
 第4回幻想ホラー小説大賞の栄誉に輝いた 新進女流作家、鷹羽恭子(たかば きょうこ) は、受賞を契機として、九頭竜からの仮面舞 踏会への招待状を受け取る。
 喜び勇んで九頭竜の屋敷に赴(おもむ)い た恭子を待っていたものは−−ヨーロッパの 貴族の城館を彷彿(ほうふつ)とさせる広大 な洋館と庭園。玄関の扉から顔を覗かせた仮 面の執事。そして、同じく顔を仮面で覆った 九頭竜夫妻。
「あれが、私の<迷宮>です」
 九頭竜が、バルコニーから夜の一点を指差 して、誇らしげに言う。広大な屋敷の、さら に何倍もの面積を有する、巨大な<迷宮>。 それは、鏡の大理石で築かれた奇妙な建造物 だった。
 九頭竜の言葉によれば、その中央の広間で、 真夜中きっかりに、仮面舞踏会が催される。 <迷宮>を抜けて舞踏会に参加できた者だけ を、彼は友人として遇し、自らの仮面をはず して素顔を見せると言う。
 <迷宮>の途中には、占星術で使われる十 二宮(ゾディアック)を模した十二の部屋が 設けられていて、各部屋に一人ずつ、十二人 の語り手たちが、彼女を待っているのだ。
 恭子は、語り手たちが紡ぎ出す恐怖と戦慄 の物語に耳を傾けながら、彼らから、正しい <迷宮>の道順を聞き出していかなければな らない。
「出口で待っています。きっと、あなたにと って、生涯忘れられない体験になると思いま すよ」
 恭子の背後から、九頭竜の声が告げる。
 <受胎><伝道者><約束><水魔>……。 今は亡き狂気の幻想画家によって描かれた、 十二枚の絵に導かれて、恭子が辿る地獄の迷 宮行のゴールに待つものは……?
 −−その部屋で、恭子を待っていたのは、 九頭竜自身だった。 「あなたは……誰なの?」
 遂に明かされる九頭竜の正体とは?


 物語のラストには、恐るべきどんでん返し と、絶望の終末が、読者を襲うべく、てぐす ね引いて待ち構えていた−−。


扉の鍵