リクエストSS
A Spring Aniversary

〜ある春の日の情景〜


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ピンポン、ピンポン、ピンポン
 朝の7時45分、あるマンションの一室にチャイムの音が響く。
「華澄〜」
ピンポン、ピンポン、ピンポン
 ボタンを連打するが、中から返事はない。
「華澄〜・・・・・・・ったく、しょうがないな」
 公二はポケットから合い鍵を出すと、鍵穴に差し込んでロックを解除する。
カチャリ
「入るよ〜」
 ここは幼馴染みであり、恋人の麻生華澄の部屋だ。
 公二が午前中から学校があるときは、こうして起こしに来るのが常だった。
 華澄は、めちゃめちゃ朝に弱いのだ。
 高校を卒業して早3年、公二は大学4年生になっていた。
 卒業と同時に一人暮らしを始めた公二は、必然的に華澄の隣に越してきた。
 そして、自分の部屋とを行ったり来たりの半同棲生活が続いていた。
「華澄、起きてくれよ」
 寝室のドアを開けて中に入ると、ベットには気持ちよさそうに寝息を立てる
 華澄がいた。
「ほら」
ユッサ、ユッサ、ユッサ
 今まででの経験上、ちょっとやそっとじゃ起きないと分かっている公二は、
 結構強めに華澄の身体を揺らす。
「ん〜?な〜に〜?地震〜?」
「地震じゃないよ。早く起きて支度しないと、只でさえ朝は動作が鈍いんだから」
「む〜。もうちょっと〜」
 それでも惰眠を貪ろうと抵抗する。
「しょうがないなぁ」
 公二は仕方なく、強引に華澄の身体を引き起こすと、人形を操るように華澄を誘導する。
「ふぁ〜」
「着替えは、ここだよね」
 ユラユラと揺れながら立っているネグリジェ姿の華澄に問う。
「そう〜、そこ〜」
 公二は華澄が指差したクローゼットを開けると、中の制服を物色する。
「この紫のでいい?」
「う〜ん、いいよ〜」
 そう言いながら、おもむろにネグリジェを脱ぎ始める。
「わっ、わっ」
 下着姿の華澄が目に飛び込んでくる。
 ナイスバディの身体は、朝には刺激的すぎる。
 そのまま見ていたいとも思ったが、公二は慌てて寝室を出た。


 数分後、格好だけはピシッとした華澄が出てくる。
「公二〜、おはよう〜」
「華澄おはようって、それはぬいぐるみの公二だよ」
 4年前にファンシーショップで買った、大きな犬のぬいぐるみだ。
 公二は嫌がったが、どうしても公二にすると譲らなかった。
「ははは。毎朝の事ながら、寝ぼけてるなぁ」
 なんだか同じ事を繰り返している気もするが、それもまた楽しいものだ。
「おっと、こうしてる場合じゃないな」
「朝御飯は〜?」
 目が開ききっていない細目のまま、テーブルを見渡している。
「そんなの食べてる暇ないって」
「ダメよ〜、朝御飯は一日を乗り切る原動力、ふぁ〜〜〜」
 そう言いながら大きなあくびをする。
「はやく行くよ、バック持って」
「え〜?」
 公二は華澄のバックと車のキーを手に取ると、手を引っ張って外に出る。
カチャ
「戸締まりOK。行くよ」
「ふぁ〜い」
 まだあくびをしている華澄を、駐車場まで押していく。
 このまま運転するのは危険だろうと思っているでしょうが、大丈夫。
 華澄がキーを回してエンジン音が鳴ったとき、それは解決するのだ。
キュルル、ブオン、ブオン
「はっ!!ここはどこ?あれ?」
「おはよう、華澄」
「おはよう、公二。えっ?あれ?」
 華澄はいつも、これで目を覚ます。
 いつものことなのだが、頭が回らないからいつも同じように驚き戸惑う。
「ほらほら、遅刻するよ」
「そ、そうね」
 無事に車が発進する。



 公園の桜はそろそろ散り始める頃だが、道路沿いの花壇には色とりどりの花が
 植えられていて、道行く人達を和ませている。
「公二、今日は何時から?」
「今日は二時限目からなんだけど、その前に部室に寄るから」
 高校時代に甲子園出場を果たし惜しくも準優勝だった公二は、大学に入ってからも野球を続け、
 今では主将を務めている。
 そして、大学リーグでも首位を走るチームの1番打者として活躍している。
 どちらかといえば足と守備が光る選手であり、長距離バッターではない。
 しかし、その高い守備能力と走れる足、そして勝負強いバッティングは、
 プロのスカウトにも目を付けられている程だった。
「そっか。そうだ!!ねぇ、公二。今日が何の日か分かる?」
「今日?え〜と、華澄の誕生日は10月だし、みどりの日は来週だし」
 あれこれ考えるが思いつかない。
「もうっ、大事な記念日なのよ」
「記念日?わかんないな〜。なんなの?教えてよ」
「だ〜め、夜までに思い出しなさい!!」
 二人にとって大事な記念日を忘れるなんてと、ちょっと不機嫌になる。
「え〜、なんだよそれ〜」
「とにかく、宿題だからね。今日の帰りは?」
「今日は特になにもないから、部活やってから7時には帰ってくるよ」
「そう。私は部活お休みだから、6時には帰れると思うわ。夕飯の支度をして
 待ってるわね。ちゃんと思い出すのよ」
「う〜ん。わかったよ」
 そう話している内に、駅へと到着した。
「じゃあ、気を付けてね」
 華澄が窓を下げて、助手席に身を乗り出してくる。
「それはこっちの台詞だよ」
「なんですって〜」
 口を尖らせて、さらに機嫌が悪くなったところに公二の唇が重なる。

   

 不意打ちのキス。
「あっ!もうっ、生徒に見られたらどうするのよ」
 車の中から周りを見回す。
「ははは。じゃあ、ホントに気を付けてね」
「うん。わかった」
 公二は手を振りながら、駅の中へと消えていった。
「もう。どこであんなこと覚えたのかしら?今晩問いつめなくっちゃ」
 その言葉とは裏腹に、上機嫌の華澄だった。




 アッという間に夜になり、公二は寄り道など一切しないで帰宅した。
ピンポ〜ン
 自分の部屋には行かずに、華澄の部屋へと直行する。
「お帰りなさ〜い」
 ドアが開き、中からエプロン姿の華澄が出てきた。
「ただいま、華澄。ん?いい香り」
 靴を脱いでいると、部屋に漂う美味しそうな香りが鼻をくすぐる。
「でしょう?今日のは上手くできたのよ」
 そう言って台所へと向かう後ろ姿は、まるで若奥様みたいだ
「練習で汗かいたでしょ?ご飯の前にお風呂に入る?」
「う〜ん。一緒に入ってくれるなら、そうしよっかな」
「え?もうっ、我が儘言わないの!!」
「ちぇっ」
 悪態をつきながら、服を脱ぎ始める。
「こら〜、バスルームで脱ぎなさい!!」
「は〜い」
「もうっ、だらしないんだから〜」
 ブツブツ呟きながら、脱ぎ捨てられたジージャンをハンガーに掛けようとする
 と、公二が置いた荷物の中にケーキ屋の箱が混じっているのを見つけた。
「あら?思い出したのかしら」
 それを取り上げ、台所へと持っていく。


「ふう〜、いいお湯だった」
 20分後、トレーナー姿の公が出てくる。
「上がった?じゃあ、ご飯にしましょう」
「うん」
 テーブルにつくと、華澄特製の夕飯と買ってきたケーキが置かれていた。
「あっ、それ」
「うん。思い出したんでしょ?」
 ニッコリと微笑む。
「ああ」
 椅子に座りながら頷く。



 公二が大学3年になった春。
 大学生の春と言えばそう、新歓コンパだ。
 その頃から野球部のレギュラーとして活躍していた公二は、そのルックスも相まって、
 男子女子に関係なく人気があった。
 当然、言い寄ってくる女の子が沢山いた。
 新入生はもちろん、在学の女の子もだ。
 公二は普段あまり飲み会というものに出席しない性格なので、必ず出る新歓コンパは、
 公二を狙っている娘には絶好の機会なのだ。
 しかし、公二は何かと理由を付けて早く帰るのが常だった。


 その日のコンパは、本当に華澄との約束があったため早く帰ろうとした公二
 だったが、女の子達が引き留め続け、けっきょく帰ったのは深夜の2時だった。
「ふう〜、華澄怒ってるだろうなぁ」
 疲れ切った身体を引きずりながら、ふらふらとマンションの廊下を歩いていく。
 すると、部屋の前にしゃがんでいる人影があるのを見つけた。
『あ、あれは、まさか』
 公二は駆けだしてその人影に近づくと、案の定、華澄だった。
「華澄。何やってるんだよ」
「ん〜?」
 キョロキョロと辺りを見渡し、やっと公二に気が付く。
「あーーーーーー!!何やってたのよ、公二ーーーーー!!
「わわわ。しーーーーー、華澄声が大きいって」
 口を手で塞いで落ち着かせる。
「ふごふごふご」
 わかったと首を縦に振るのを見ると、公二は手を離して溜息を吐く。
「ふう〜」
「何やってたのよ、公二〜」
 今度は低い声で、しかし怒りのこもった低い声で言う。
「え、え〜と。なかなか出てこれなくてさ〜」
「どうせ〜、可愛くて〜、若くて〜、ぴちぴちの女の子に、『公二くん、まだいいじゃないの〜』とか
 言われたんでしょう〜」
『ギクッ』
 華澄の言葉に、身体が微かに反応する。
「いま、ギクリとしたでしょ〜」
「い、いや、そんなことないよ」
「わーーーーー!!どうせ私はおばさんですよーーーーー!!
 そこまで言うと、今度は顔を伏せて押し黙ってしまう。
「ま、まあ、まあ、まずは中に入ろう。まだ夜は寒いから」
 公二は華澄の腕を取って立たせると、華澄の部屋の中に入っていった。


「ごめん、華澄。機嫌直してよ」
 両手を合わせて謝り、頭を擦りつけて土下座をする。
「フンだ」
「華澄〜」
 華澄はソファに座って横を向き、公二は土下座のまま30分が経過した。
「ねえ、公二」
「は、はい。何でしょうか、華澄様」
 やっと口を開いてくれる。
「私、不安だったの」
「不安?」
「私、この間高校の同窓会に行ったのよ。そしたら、ほとんどの女の子が結婚していたわ。
 卒業式の時、あなたは私とずっと一緒に歩んでいってくれるって言ってくたけど、私ももう26歳。
 結婚だって考えなくちゃならない」
「華澄・・・・・」
 公二は、突然の告白に言葉が出ない。
「ううん、分かっているの。あなたはまだ学生だし、そこまで考えてはいないと思うし、
 それが当たり前なのよ。こんなこと言って、結婚を迫る女には絶対になりたく・・・・・・なかった。
 自分の・・・・・ことしか考えない・・・・嫌な女・・・・には・・・・なりたく・・・・なかったのに」
 途中からは、涙混じりの声になる。


 下を向き涙を流す華澄を見上げ、公二はこれからのことをキチンと考えた。
 そして、今度は公二が告白する。
「華澄。華澄の言うとおり、今まで結婚なんて考えたこともなかった。ごめん」
「ううん。当然よ、まだ21歳だもの。早いわ」
「でも、華澄は早くないんでしょ?」
「なっ!!喧嘩売ってるの?公二」
 思わず握り拳を作る。
「だから」
「えっ?」
「だから、今日から考えるよ」
「公二」
「ちゃんと将来を見据えて、考えるから」
 真剣な目で見つめる。
 その言葉を聞き、その目を見た華澄は公二に抱き付いた。
「公二〜」
「か、華澄」
「ありがとう。その言葉で十分よ」
 二人はしばらくの間無言で抱き合っていた。


「なあ、華澄さん」
「えっ、さん?」
 ちょっと離れて、顔を目の間に向かい合う。
「俺ね。ちょっと前までは、華澄さんとの年の差を気にしていたんだ。でもね、
 最近そういうのは感じなくなっていたんだ。これってすごいことだと思わない?
 それくらい二人でいることが楽しかったんだよ。俺が社会人になるまではあと
 2年あるけれど、その頃には完全に追いついてみせるよ」
「うん。じゃあ、追いついたらどうするのかなぁ〜」
 再び抱き付いて、耳元に囁きかける。
「そ、それは、その時に言うよ」
 公二は、耳たぶまで赤くしてしまう。
「ふふふ、可愛いんだから」
 今はまだ、年下の幼馴染みというものを意識することもある。
 しかし、時とともにそれもなくなっていくだろう。



 ということが、去年の今日にあったのだ。
「あの時の華澄には参ったよ」
「まあ、朝まで忘れてたくせに」
 ちょっとだけ頬を膨らませる。
「ははは。でも、そんな日を記念日にしなくても良いのに」
「なにを言ってるのよ。二人にとって大事な日じゃないの」
「う〜ん、そうなんだけど。まさかっ!」
 公二が何かを思いついたような声を出す。
「なに?どうしたの?」
「もしかして、ホントはこれだけじゃなくて、もっといろんな記念日があるん
 じゃないの?」
「ええ、あるわよ。ホントは全部お祝いしたい位なんだけど、今日のは特別だから」
 男にとっては恐ろしいことを、サラリと言う。
「そ、そう。た、たとえば他に何があるの?」
「例えばねぇ、初めてキスした日でしょ、初めてデートした日でしょ、
 初めて華澄って呼んでくれた日でしょ・・・・・」
 指折り数えて、どんどん出てくる。
『やばすぎる。全然覚えてないよ』
 公二は、内心冷や汗をかく。
「あとね〜、初めて愛し合った日かな。きゃ〜、何を言わせるのよ〜」
「何って、華澄が一人で・・・・・」
 頬に手を当てて、一人で盛り上がる華澄を見ていると、公二まで頬が緩んでくる。
「華澄、これからも楽しくやっていこう」
 ずっと二人で人生を歩んでいくのだから。

「もちろんよ。大好きよ、公二」
「俺もさ、華澄」

    


      おしまい 

    あとがき

 初めての華澄SS、いかがだったでしょうか。
 実は、これには元になった漫画があります。
 それも4コマ漫画です。
 これが分かったらすごい。よほど僕と趣味が合う方ですね。

 リクエストの内容は、同棲又は半同棲で、
 幼馴染みという点を生かしたもの、ということだったんですが、
 幼馴染みという点は、ちょっとクリアしてなかったかも。

 女性の方が年上という事を考えたとき、
 やはり結婚のタイミングって難しいと思うんですよ。
 ましてや、華澄はSSの中では26歳ですからね。
 一般的に行き遅れの歳じゃないですか。
 まあ教師の結婚は、遅いイメージが僕にはあるんですが。
 その不安な気持ちを、華澄に表現してもらいました

 また一遍だけのときメモ2SSを書きたいと思いますので、
 その時はよろしく。

 ではまた。


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