バレンタイン前日の放課後、私はあるお願いをするために意を決して詩織ちゃんに声をかけました。
「詩織ちゃん、……お、お願い事があるんだけど。い、いいかな?」
「なに?メグ。」
 がんばれ愛。勇気を出して言うのよ。
「詩織ちゃん、あっ…、あのね、…ぬ、主人さんに…、チョ、チョコレートを渡してほしいの!」
 言えた。
 で、詩織ちゃんの答えは……
「へっ?」
 あぁ……、やっぱし。詩織ちゃん、驚いて目がテンになってる。
 でも、そんなに驚かなくってもいいじゃない。

 

 

初挑戦競作SS

美樹原 愛SS 「わん・すてっぷ」

 

 

「ごめんね、メグ。ちょっとびっくりしちゃって。」
 詩織ちゃんはゆうに2、3分は固まっていました。
「で、何で公なの?」
 一番私が危惧していたことを詩織ちゃんは聞いてきました。
「やっぱり言わなきゃダメ?」
 あぁ、顔が引きつっちゃってる。
「何で、公なのかな?」
「言わなきゃダメ?」
 私は抵抗を試みました。
「な・ん・で?言いなさい!でないと協力しないわよ。」
 ……詩織ちゃんの意地悪。

 結局、私の抵抗は無駄に終わりました。
 私はあの人、主人公さんとの出会いを話すこととなりました。

 

 

 

 あれは……
 入学して間もない頃。
 まだ、全然友達がいなかった頃。
 用事で帰りが遅くなった日。
 すごい雨に降られて、カサはないし、暗くなってきて心細かった。
 そんなときでした。
 あの人がでてきたのは。
「ん?カサないの。」
 コクン。
 その時、今もですが、男の子が苦手だった私にはうなずくのが精一杯でした。
「そっか。じゃぁ、これ使いなよ。」
 そう言って、あの人はカサを差し出しました。
 あの人が持っているのはそのカサだけ。
 私は首を振りました。
「遠慮しないで。オレなら大丈夫、家近いから。で、オレは1−B、主人公。下駄箱にでもそれかけといてくれたらいいから。じゃっ。」
 あの人は私にカサを握らせ、土砂降りの中、走っていったのです。
 私はあの人の背中が見えなくなるまで見つめていました。
 次の日、御礼を言おうと思ったのですが恥ずかしくて、結局は彼の下駄箱に傘を置いていくことしかできませんでした。

 

 

 

――――それが始まり。

たわいもない

大きな事件

私には

お礼もいえなかったくらい

大きな事件でした。

 

 

 

 

「へー、公がそんなことをねー?」
「うん。」
 詩織ちゃんはちょっと疑ってるようだけど、本当にあったことなんです。
 それから、何度か御礼を意をうと試みたのですが、結局、言うことができませんでした。
「で、バレンタインのチョコレートといっしょに手紙でそのときのことのお礼をしようと思って。詩織ちゃんお願い!協力して!」
 詩織ちゃんに頼ってばっかしの私。他のことは自分で、と努力しようと思うけど、こればっかりはダメ。だって、恥ずかしいですから。
「メグが公のことをねー。」
 し、詩織ちゃん?いたずらを思いついた子供のような顔して何を考えてるの?ちょっと恐いんだけど…
「メグ、こう言うのはね、自分で渡さなきゃ意味が無いわよ。だ・か・ら、明日、私が公を呼び出してあげるから、自分で渡しなさいね。」
「えぇーーーーーー!!で、できないよー、そんなことしたら、私、恥ずかしくって鼻から心臓が飛び出しちゃうよ!!」
「(……ねぇ、右から?左から?)」
「だから、お願いッッ!詩織ちゃんから渡して!!」
 恥ずかしさで、今まで以上に顔が熱くなってきました。抑えた手がやけどしそうなくらいに頬が熱くなってます。多分、私の顔はトマトみたいに真っ赤になってると思います。
「でもね、メグ。どんなに恥ずかしがったて、チョコレートを渡したらメグのことわかっちゃうんだよ。それに、お礼は本人の口から言うべきだと思うのよね。」
 詩織ちゃんの言うことはもっともです。
「でも……、やっぱり……。」
「ねぇ、メグ?メグの中に私にお願いする勇気があったんだよね?だったら、渡す勇気だってどこかにあるはずだよ。結果を恐れてちゃ、何もできなくなるよ。がんばって、応援してるから、ねっ。」
「……うん……」
 そうですね。詩織ちゃんがこんだけ応援してくれているんです、がんばってみようかと思います。
 でも、私の中に本当にあるのでしょうか、渡す勇気が?ダメ、弱気になっちゃ。がんばるのよ愛!

 弱気になったり、自分で自分を励ましたりしているうちに運命のときはやってきました。
 詩織ちゃんが今、あの人を呼びに言っています。
 緊張で心臓がものすごくどきどきしています。落ち着くために何度も深呼吸をしてるのに全然落ち着くことができません。本当に渡すことができるのでしょうか?

「メグ、準備はいい?」
 そうこうしているうちに詩織ちゃんが戻ってきました。
「えっ?あの……、えっと……。」
 ダメです、緊張で頭の中がパニックです。
「メグ、落ち着いて。ね?」
 詩織ちゃんの手が私の頬を包み込みました。少し冷たい手が熱くなった私の頬を冷やしてくれました。少し、落ち着くことができたような気がします。
「落ち着いた?さ、がんばって!」
 そう言って、詩織ちゃんは私の背中を軽く押しました。
「……大丈夫かな?」
「大丈夫。メグ、勇気を出して。」
 詩織ちゃんの声援を受けて、私は小さいけれども、大切な一歩を踏み出しました。

「あ、あの……」
 なんで?あの人を前にしたら言おうと思ってたことがでてこない。頭の中が真っ白になっていく。寝る前にあれほど考えたのに……。
「あれ?君は?」
「私…、美樹原愛と言います。……こ、これを、う、受け取ってください。」
「ありがとう。ありがく……、って、美樹原さん!?」
「メ、メグ!?」
 彼のうれしそうな顔をみたら急に恥ずかしくなって、私は走ってその場を離れました。
 詩織ちゃんと彼が何か言っていたような気がするのですが、今の私には聞いている余裕はありませんでした。

 ようやく落ち着いて立ち止まったのは伝説の樹の下でした。
「メ〜グ。」
 後ろからちょっと弾んだ詩織ちゃんの声がしました。
 詩織ちゃんの顔はなんだかうれしそうでした。
「ねぇ!彼、喜んでた?受け取ってくれた?」
「うん。すっごく嬉しそうだったよ。」
 詰め寄る私に詩織ちゃんはやさしく、というよりはちょっと楽しそうに答えてくれました。
「そ、そう。良かった……。」
 気の抜けてしまった私はその場に座り込んでしまいました。
「ふふ……。」
 そんな私を見て詩織ちゃんは笑い出しました。
 私もなんだかうれしくって、自然と笑いがこぼれてきました。

「それで、次はどうするの?」
 帰りしなに詩織ちゃんはこんな質問をしてきました。
「次?」
「もう!チョコレートを渡して、ハイ、終わり、じゃダメだよ。一緒に帰るとか、デートに誘うとかこれから先のことよ。」
 そんなこと全然考えていませんでした。チョコレートを渡すことだけしか考えていませんでした。
「メグ、せっかく一歩踏み出したんだから止まっちゃダメだよ。進まなくっちゃ。いい方向に進むか、悪い方向に進むかはわからないけれども、今回だって結果を恐れずに勇気を出したらうまくいったじゃない。だから、次のこと考えなくっちゃ。」
「詩織ちゃん……。」
「それに、ちゃんと御礼言ったの?公ったら、『何で彼女、オレにチョコくれたんだろ?』なんていってたわよ。」
「あっ!!」
 肝心なことを言うの忘れていました。あの人の前に立ったら、緊張感と恥ずかしさとで渡すのが精一杯で、御礼を言うのを忘れていました。
「やっぱりね。で、どうするの?」
「……明日にでも、いっしょに帰ろうって誘ってみる。そのときにでも言おうと思うの。」
 少し考えてから答えました。
「あら?メグったら大胆。やっぱり、恋する乙女は強いわ。」
「し、詩織ちゃーん。」
「ふふ、冗談よ。メグがんばってね。応援してるから。」
「う、うん。」

 次の日。
 私は彼が出てくるのを校門のところで待っていました。
「先に帰ちゃったのかな?」
 待ち始めて15分。いっこうに彼が出てきません。授業が終わってすぐにきたつもりだったんですが…。
 あっ!来ました。
「あっ!美樹原さん、よかったら一緒に帰らない?」
「えっ?」
 彼の言葉の意味を理解するのに時間がかかりました。
 だって、誘ってもらえるなんて思っても見なかったからです。
「もしかして、誰か待ってるのかな?」
「い、いえ。あ…、あの、か…、帰りましょう。」
 帰り道、私は緊張して、御礼をいった以外、ほとんど話すことができませんでした。
 せっかく彼と帰る事ができったって言うのに。話そうとしてもうまく言葉が出てきませんでした。

 うまく話せぬまま、詩織ちゃんと帰る時に別れる交差点のところまで来てしまいました。
 確か、彼の家は詩織ちゃんの隣だったはず。ということはここで別れないといけないんですね。
「あの……、私、こっちなんで……。」
「そうなんだ。あっ、そうだ!美樹原さん今度の日曜日ひまかな?」
「えっ…、えぇ。」
「じゃぁ。あれ?どこに入れたかな?あった、あった。」
 彼はかばんの中から二枚のチケットを取り出しました。
「スケートに行かないかな?」
「は、はい!。」
 私は彼の言葉にとっさに答えました。
「それじゃぁ、えっと、時間とかは後で連絡するね。オレはこっちだから。じゃぁねー。」
「さ、さようなら。」
 私はしばらくその場に突っ立ていました。
 最後の彼との会話を思い出しながら。

 ……えっと、彼が持ってたチケットは二枚。
 一枚は私で、もう一枚は彼…、よね?
 これってもしかして……。
 で、でででででっ、デート!!?

 やっと動き出した頭が彼にデートに誘われたとこを理解しました。
 すぐに出てきたのは、はすかしいというよりもうれしいでした。
 ダメです。顔がにやけてしまいます。
 足取りが軽くって、スキップでもしそうです。
 顔が火照って熱いです。
 心臓がどきどき言って止まりません。
 まだ先のことなのに今からこんなんで大丈夫なんでしょうか?
 また、緊張しすぎてしゃべれないかも。
 うれしい反面、心配なこともあります。不安もあります。
 でも、私はもう逃げたり止まったりしません。
 一歩一歩が小さくても、ゆっくりでも止まらずにゴールを目指して進みます。

 とりあえずはデートのときに彼と普通に話せるようにがんばります。

 

終わり 


  〜あとがきのようなもの〜

 はじめまして、桃虎といいます。
 美樹原さんの登場シーンのうちの一つ、バレンタインデーを元にしてみました。時期はずれもいいところ  ですね(苦笑)
 何とかテーマに沿ったものができたと思います。内容は他の作家さんに比べまだまだですが。
 もしよろしかったら感想をくださるとうれしいです。
 

 で、なぜに美樹原さんかと言うと、答えは簡単。誰も書かないと思ったからです(笑)
 案の定、誰もいませんね(01/5/3の時点で)
 小説では無理だがキャラくらいは人と違うものをと思って考えた結果です。

  でわ皆様、ごきげんよー。

  


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