「最高のプレゼント」
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クリスマスも間近になってきた12月。
夕飯を食べ終えた真帆は、二階の部屋で明日の準備をしていた。
カチャ
「真帆ちゃん、明日は交代の日よね」
ドアを開けて、隙間から美帆が顔を出す。
「え?うん、そうだよ姉さん」
一卵性の双子である白雪美帆・真帆の姉妹は、親でも見間違えるほど顔がそっくりであった。
違う高校に通っている二人は、週に2回お互いを装い、美帆は真帆の、真帆は
美帆の高校に通うことを日常としていた。
美帆は最初乗り気ではなかったのだが、真帆が押し切った。
もう、かれこれ2年半もやっていて、明日はその交代の日だった。
部屋に入った美帆は、クッションに座った。
「ねぇ、真帆ちゃん。ひびきのは楽しい?」
「うん。楽しいわよ。面白い人がたくさんいるからね」
真帆は準備をする手を動かしながら、美帆のクラスメートを思い出す。
「そう?」
「うん。特に穂刈くんが面白いわね。ちょっと話しかけたり触れただけで、顔が真っ赤に
なるんだから。からかうのには、もってこいね」
「あの人は女の子に弱いから」
「それに、坂城くんも楽しいよね。正直、彼にするのとは違うけど、友達としてなら良いかな。
姉さんはどう?きらめきは楽しい?」
美帆は首を傾げて、アゴに人差し指を添える。
「私ですか?う〜ん、楽しいけれど、真帆ちゃんの真似をするのは結構大変ですね」
「それは、私も同じだよ」
「ふふふ、それもそうですね」
準備が終わった真帆は、ベットに腰掛けた。
「終わった〜」
「そうそう。もうすぐクリスマスですけど、真帆ちゃんはどうするの?」
「クリスマスかぁ。早いよね〜。そうね、一人でいるなんて私の趣味じゃないから、
伊集院家のパーティーに行こうかな。姉さんはどうするの?」
真帆はもちろん、伊集院レイから招待状をもらっていた。
「私も、伊集院さんのパーティーに行こうかなって」
「そっかぁ。じゃあ、また時間差で行かないとバレちゃうか」
「ええ」
昨年は二人とも行ったのだが、広い会場とはいえ、同時に同じ場所にいるわけにも
いかないので、交代で行ったのだ。
「う〜ん。また半分しか楽しめないなぁ。じゃあ、私は行かないかな。高校生最後の
クリスマスだし、男の子と二人きりで過ごしたいなぁ」
真帆はベットに横たわる。
「え?二人きりですか?は、はずかしい〜」
美帆は頬に手を当てて、一人で赤くなる。
『そうだ。いいこと考えた』
真帆は黙ったままガバッと起きあがり、パチンと指を鳴らした。
「なんですか?」
「あ〜、何でもない何でもない」
手を交差させて、何でもない振りをする。
「???」
「はいはい、出た出た」
真帆は、不思議そうな顔をする美帆の背中を押して、ドアへと向かう。
「え?ちょ、ちょっと真帆ちゃん?」
「はい、おやすみ〜」
「お、おやすみなさい」
バタン
「ふう」
邪魔者がいなくなったところで、真帆はクリスマスデートの計画を練ることにした。
真帆には好きな人がいた。
それは、ひびきの高校の3年生で、美帆のクラスメートの『主人公二』だ。
交代でひびきの高校に行くようになって数回目の時に、公二の方から話しかけてきたのだが、
当然、自分のことを美帆だと思っていた。
公二は際だっていい男ではないが、この夏まで剣道部の副キャプテンとして頑張っていた
スポーツマンだ。そして、なかなかセンスが良く、社交的で女子にも人気があった。
そんな公二から、なんと美帆にデートのお誘いがあった。
初めは美帆だけが出掛けていたのだが、興味が湧いた真帆も、間もなく出ていくことになった。
「真帆ちゃん。主人さんからデートのお誘いがあったんだけど、その日は大事な
約束があったのにOKしてしまったの。だから、真帆ちゃん代わりに行って来
て。お願い」
「えーーーーー。ったく、しょうがないなぁ〜」
と、渋る言動とは裏腹に、内心では喜んでいた。
「会ったときから、あいつとは相性が良いかなって。ピンと来るものがあったのよね〜」
2年生になる頃には、公からのお誘いの電話を5回のうち4回は真帆が取るようになっていた。
ワザと電話の近くにいたときもあった。
そして、最初は美帆の真似をして話していたのだが、3年の春からは自分のことに
気が付いて欲しくて、デートの時は真似るのを止めていた。
しかし、正体をバラすまでの度胸はなかった。
「クリスマスより前に約束すると姉さんにバレる可能性があるから、当日の朝に電話して〜。
どこかでディナーなんかいいなぁ〜」
クッションを抱いて、物思いに耽る。
「でも、ディナーって高いのよね。お母さん持ってないかな?その後は、どこかイルミネーションが
綺麗な場所に行って、ベンチでお話する」
考え出したら、色んな事が浮かんでくる。
それは、公二と一緒の時間を楽しみたいという気持ちが大きい証拠だ。
「そこでキスなんて迫られたらどうしよう〜。拒んだら泣くかな。あいつ涙もろいからなぁ。
ふふふ。映画見て泣いてるんだもん」
つい先日に行った、映画館での出来事を思い出す。
そんなことを独り言のように呟きながら、いつも見ている音楽番組を忘れるくらいに熱中した。
そして、綿密な計画が立てられた頃には、真帆は突っ伏して眠ってしまっていた。
次の日、ひびきの高校に登校した真帆は、昼休みに公二に話しかけた。
「主人さん。ちょっといい?・・・いいですか?」
「なに?美帆さん」
仲が良いのをクラスメートにバレないように、というか美帆にばれないように、
真帆の方から話しかけないときは、あまり話さないことにしているので、
待ってましたと言わんばかりに返事をする。
「クリスマスは、何か用事がありますか?」
「クリスマス?う〜ん。伊集院のパーティーには行ってみるけれど、門前払いされるかもしれないし・・・・・」
「なぁに言ってるのよ。公二なら大丈夫だって」
バシンと肩を叩く。
「え?」
「わわわ。だ、大丈夫ですよ」
慌てて訂正するが、公二は気にしてない様子だ。
「そうかな?だといいけど。美帆さんは?」
「え?え〜と。確か・・・・・」
公二のスケジュールだけ聞けば良かったのだが、これでは答えないわけにいかない。
昨夜の美帆の言葉を思い出す。
「わ、私も行くんですよ」
「そっか。じゃあ、是非とも審査を突破しないと」
「その意気ですよ」
これで、公二がパーティーに行くことが決定した。
「そうそう、昨日のMステ見た?」
「え?ごめんなさい。ちょっと眠ってしまって」
「へ〜、珍しいね。昨日はね」
「うん」
公二は美帆に説明しながら、いつもの疑問が沸き上がっていた。
その日の夜、公二は部屋のベットに横たわって、美帆のことを考えていた。
「美帆さんて不思議だよなぁ」
最初話したのは、美帆がぶつかってきた時だった。
その頃は、不思議な雰囲気の美帆に興味はあったが、特に何とも思っていなかった。
しかしある日、何かいつもと違う雰囲気を感じた時から気になり始めた。
「デートの時は、あんなにはしゃいでるのに。学校だと物静かなんだよな」
おしとやかな日があれば、陽気で明るい日もある。
性格にムラがあるのか、機嫌によって左右されるのか。
今では学校で話すときも、その日の美帆の状態で話題を変えている。
ときどき話の内容がすれ違うこともあるが、特に気にしていない。
「バレると恥ずかしいから、デートの話は学校でしないでって言われてるし。
学校のみんなには、本当の自分を見られたくないのかな」
性格がまるっきり違うのだから、ある意味騙している感覚もあるが、
公二は自分の前でだけ本音をさらけ出してくれている。などと勝手に解釈していた。
「クリスマスパーティーか。ホントは美帆さんを誘いたいんだけどなぁ。高校生最後のクリスマスだし」
とは思うものの、美帆もパーティーに行くと言うし、どうすればいいのだろうか。
悩んでいると、机の上の電話が鳴った。
トゥルルル、トゥルルル
「はいはい」
ベットの上にある、子機を取り上げた。
「もしもし、主人ですが」
「もしもし、公二か?俺、穂刈だけど」
「おう。珍しいな、純から電話が来るなんて」
「ま、まあな」
穂刈純一郎は公二の親友であり、剣道部の主将であった。
2年から3年の最後の大会まで、公二が副将、純一郎が大将という不動の地位を築いていた。
この夏にはインターハイにも団体で出場して、ベスト4に進出する原動力となった。
今は、下級生の相手と自分自身の鍛錬のために部活に出ている。
「で?何かあったのか?」
「う、うむ。お前も伊集院のクリスマスパーティーに行くって言ってたよな。
プレゼントは、もう買ったか?」
「プレゼント?ああ、交換用のやつか」
「そ、それもそうなんだが・・・・・」
純一郎の言葉が途切れた。
「どうした?」
「あ、いや、その。なぁ?」
何か言いにくいようだ。
「なあって、言われてもなぁ〜。あっ、わかったぞ」
「な、なんだよ」
大袈裟に狼狽える。
「純、そうかそうか」
「なんだよ。俺は別に、好きな人が出来たからプレゼントに何を買えばいいのか
相談しているわけじゃないぞ」
「なに?好きな人が出来たって?」
「な、なんで知ってるんだ?」
「お前が今、ぺらぺらと白状したんだよ」
「なに?しまった〜」
「あのな」
女の子のことになると、どうにも制御がつかない純一郎だった。
電話の向こうでは、顔が赤くなっているに違いない。
「ま、まあ、とにかく。そう言う訳なんだが・・・・・」
「好きな人へのプレゼントねぇ。それは相手が誰かにもよるけど、
その娘の趣味にあった物とかが良いんじゃないか?」
実は、公二も交換用の物しか買っていなかったので、美帆のことを思いだしていた。
「趣味か。なるほど。じゃあ和風の物だと、何がいいかな?」
「なんだ、やっぱり水無月さんか」
「な、なんで知ってるんだ!?」
思わず耳から受話器を離して、それを見ながら叫ぶ。
「俺はお前の親友だぞ。お前のことなら何でも分かるんだよ」
「そ、そうか。そうだったのか」
聞く人が聞けば、すぐに気が付く事なのだが、純一郎は本気で感心しているようだ。
「は、ははは。それは置いといて、水無月さんへのプレゼントかぁ。変なの贈ると、
口も聞いてくれなくなりそうだな」
「うむ。だから、お前に相談してるんだ」
「そうだなぁ」
流行の物は雑誌を見れば分かるが、琴子となると話が違ってくる。
「わかった!!着物の小物なんか、どうだ?」
「小物?」
「ああ。たとえば、巾着とか、かんざしだな」
「うむ。なるほど」
受話器の向こうから、メモ書きする音が聞こえてくる。
「そういった物なら、はずれはないと思うぞ」
「うむ。恩に着るよ。」
「大袈裟だな。頑張れよ」
「ありがとう。じゃあな」
「また明日」
ピッ!!
ドサッ
公二は受話器を置くと、再び横になった。
「好きな娘にプレゼントか。よしっ、美帆さんに何か贈ろう。美帆さんて何が好きかな?
やっぱり、ケロケロでべそちゃん関係か?」
しかし、流行物が好きな感じもあるし。いまいち判断出来ない。
「う〜ん、わからん。まるで、人格が二人分あるみたいだし」
煮詰まった公二は、テレビのリモコンを掴み電源を入れた。
画面には、何かのドラマが流れていた。
クリスマス間近と言うこともあって、まさにその場面が映っている。
「おっ、これは使えるかな?」
プレゼントをもらって喜んでいる女優がいた。
「これなら嫌いってことはないだろう」
早速明日にでも買いに行こうと決め、眠りについた。
クリスマス当日。
あいにく空は曇っていて、いまにも雪が降ってきそうだった。
休みなのに珍しく早起きした真帆は、と言っても朝の9時であったが、
早速公二の家に電話を掛けた。
トゥルルル、トゥルルル
「あれ?出ないな」
「はい。主人です」
「あっ、もしもし」
「ただいま出掛けております・・・・」
留守番電話のテープが流れてきた。
「もうっ、どこに行ったの?こんなに早くから」
頭に来た真帆は、テープに入れることなく携帯を切ると、ベットへと乱暴に放り投げた。
「公二の奴、いまどき携帯も持ってないなんて、おかしいよ」
これでは連絡が取れず、クリスマスデートに誘うことが出来ない。
公二はこの時、純一郎に呼び出されて駅前に向かっていた。
どうしてもプレゼントが決まらない純一郎に、買い物に付き合ってくれと懇願された。
親友に頼まれて断れるはずもなく、バスに揺られていた。
「う〜」
恨めしそうに携帯を睨むが、これからどうするか頭を抱える真帆だった。
夜になり、盛大なパーティーが幕を開けた。
大広間の中央に飾られた巨大なツリーと、オーケストラの演奏がクリスマスを演出している。
「去年も来たけど、何度来ても凄いな」
「ああ」
公二が感嘆すると、純一郎も頷いた。
結局遅くまで純一郎に付き合わされた公二は、家には着替えに寄っただけで、
すぐに会場へとやってきていた。
そして純一郎と落ち合い、こうしてツリーを見上げていた。
「まあ、良かったな、水無月さんへのプレゼントが決まって」
純一郎が大事そうに持っている包みには、なんと『どてら』が入っていた。
「ああ、サンキュー。ところで、お前は持ってきてないのか?」
「俺?あるけど、持って来てはいないんだ」
「どういうことだ?」
「いいじゃないか。まずは腹ごしらえしようぜ」
「あ、ああ。そうだな」
二人はバイキング用の皿を持つと、高級料理が並ぶテーブルへと突入していった。
「うまい。さすが伊集院家だな」
「うむ。あっ、あれは」
話などそっちのけで箸を動かしていた公二と純一郎だったが、向こうから碧と白の
二色のドレスを着た琴子が歩いてくるのを見つけた。
「純、頑張れよ」
「お、おおお、おう」
すでに顔が上気してきている。
「それと、純。プレゼントじゃなくて、贈り物だからな。間違えるなよ」
「わ、わわわ、分かった。い、いいい、行って来る」
ギクシャクと歩き出した純一郎を見送る。
「あいつ、同じ側の手足を同時に出してるぞ。大丈夫かよ?」
などと人の心配をしている場合じゃない。
食べるものを食べたら、美帆を探さないといけない。
「主人さん」
「わっ!!」
後ろから声を掛けられ驚いて振り返ると、そこには美帆が立っていた。
「美帆さん」
「こんばんわ。お一人ですか?」
「うん。美帆さんを探しに行こうと思ってたんだ」
「そうなんですか?おかしいですね」
首を傾げる。
「おかしい?なんでだい?」
「あのう〜。今日の朝とかに、私からお電話いきませんでしたか?」
「え?美帆さんから?」
「はい」
公二は、何を言っているんだという顔をする。
美帆本人が、自分から電話がいかなかったかと質問するなんて、どうしてもおかしいからだ
しかし、いつものことだと、すぐに受け流す。
「いや、来てないよ」
「そうなんですか」
とそこに、美帆に話し掛けて来る女の子がいた。
「あれ?来てたんだ〜、真・・・・・、やばっ」
「あら、夕子さん」
「あっちゃ〜、美帆だったのか。やばいやばい。ごめんね」
美帆が、少し慌てて公二の顔を見る。
「大丈夫みたいですよ」
バレていないことを確認すると、少女にそう告げた。
この少女は、真帆のきらめき高校での親友であった。
真帆は、この親友にだけは、姉と交代していることを話していた。
それは美帆も承知している。
「あれ?彼は確か・・・・・」
「そうなんですよ」
公二は、見ず知らずの赤い髪の女の子に、ジロジロと見られて戸惑う。
「あいつは来てないんでしょ?」
「はい」
「そっか〜、連絡付かなかったみたいね」
「そのようですね」
こそこそと内緒話のように話し始めた二人を、公二は黙って見ていた。
「主人さん」
「な、なに?」
いきなり振られたので、ビクッとする。
「今すぐに、主人さんから外に出てくださいませんか?」
「え?なんで?」
美帆とお喋りでもしようと思っていたので、一瞬何を言っているのか分からなかった。
「理由はいつか説明します。先に出て、ひびきのタワーに行ってください。私も
後から行きますから。早く」
「わかったよ」
公二は、言われるがままに走り出した。
「真帆ちゃん。頑張ってください」
妹思いの優しい目をして、タワーにいるであろう真帆のことを思い浮かべる。
「美帆も意地悪ねぇ。真帆があの人のこと好きなの、結構前から知ってたのに」
「ふふふ。だって、真帆ちゃんも、伝説の木を気にしているのでしょう?」
「ま、そうなんだけどさ」
美帆は、実は真帆が公二のことを好きなのを知っていた。
クラスメートにはバレないように気を遣っていたようだが、姉の目は誤魔化せない。
以前、真帆にタロット占いを頼まれたことがあり、その時に、真帆が自分の身近な人を
好きになっていると出ていたのだ。
よく公二の話をしていた真帆が、いつの頃からか公二に触れなくなってきたのも、
怪しいと思っていた。
決定的だったのは、3年の春頃に公二とデートをしているところを目撃したことだった。
そこで夕子に相談してみたところ、初めは黙っていたのだが、いつしか妹想いの美帆に
負けてしまい白状したのだった。
「高校生最後のクリスマスだもんね。好きな男の子と一緒にいたいよね」
「ふふふ。そうですね。ところで夕子さんは、早乙女さんの所に行かなくて良いのですか?」
「え?な、なに?美帆知ってたの?」
一歩後ずさりして驚く。
「はい。真帆ちゃんから、全部聞きました」
「真帆の奴〜。彼のこと美帆に話してしまって、少しは申し訳ないと思っていたのに〜。
損しちゃったじゃない。後で、おごらせるんだから」
どっちもどっちなのに、無茶苦茶なことを言う夕子だった。
「クシュン。あれ、風邪かな?」
真帆はタワーの展望室で、ひとり寂しく座っていた。
さっきまで、親からもらって用意して置いた券を使って、公二と一緒に食べる
予定だったディナーを一人で食べていた。
「はあ。なにが悲しくて、こんな所に一人で居るんだろ」
窓の外に広がる夜景を見ながら溜息を吐く。
周りにはたくさんのカップルがいて、肩を組んで語らっている。
嫌々ながら、それでもここに居るのは、もしかして公二が来てくれるかも知れないという
期待があったのかもしれない。
「やっぱ来ないよねぇ・・・・・・。帰ろっかなぁ」
そう呟いて立ち上がったとき、後ろにあったエレベーターのドアが開いた。
「美帆さん」
「え?」
振り返ると、そこには公二が立っていた。
「公二?な、なんで」
「なんでって、美帆さんがここに行けって、言ったんじゃないか」
「私が?」
「そうだよ。あれ?」
『なんで俺よりも後に出た美帆さんが、先に居るんだ?服も違うし』
変なことに気が付いた公二は、ハッと目を見開いた。
ここに走ってくるまでの間に考えていたことが、現実味を帯びてきたのだ。
美帆は、二人いるんじゃないかというバカな考えだが、今までのこと、
そしてパーティー会場での出来事が、それを確信へと近付かせていた。
そんな思いとは裏腹に、目の前の美帆は、目に涙を浮かばせながら抱き付いてきた。
「公二〜」
来ないと思っていた公二が来たため、感極まってしまった。
「わあ!!」
驚いた公二は、先程の疑問なんて吹き飛んでしまった。
「み、美帆さん?」
「公二、会いたかったよ」
目の前にいる美帆は、もしかしたらパーティー会場にいた美帆ではないかもしれない。
しかし、こうして会えたのだから、それもどうでも良かった。
「メリークリスマス、公二」
「メリークリスマス、美帆さん」
ビシッと決めた公二だったが、数秒後には、顔が自然にだらしなくなった。
それもそのはず、胸の辺りに、今まで感じたことがない感触があったからだ。
「ん?あっ!!もうっ、Hなんだから」
表情の変化に気が付きバッと離れると、胸を隠して後ろを向く。
「そんな事言ったって・・・・・」
悲しい男の性というか、どうしても反応してしまう。
「ごめん」
「まあ、来てくれたから。許してあげる」
頭を下げる公二の手を取ると、エレベーターに向かって歩き出した。
「どこに行くんだ?」
「これから、私が考えに考えたデートコースを全部回るんだからね。覚悟してよ」
公二の腕に絡みついて、レッツゴーと左手で指差した。
街はイルミネーションで飾られ、楽しそうなカップルで賑わいを見せていた。
その中に溶け込んでいる公二と真帆は、見事にライトアップされたツリーを見上げた。
「綺麗だね」
「うん」
伊集院家で見たツリーも良いが、このツリーは別格だった。
何といっても、好きな人と見ているというのが格段に違う。
もしこれが、部屋の中にある小さなツリーであったとしても同じことだ。
隣に誰がいるのか、それでまったく違う物に見えてくる。
「あったかい物でも飲もうか」
公二は自動販売機を見る。
「おごりなら飲むよ」
「おやすいご用さ」
二人はコーヒーとミルクティ−を買い、手近なベンチを探した。
「寒くない?」
「大丈夫よ。缶があったかいし、このコート暖かいから」
「そう?残念」
「なに言ってるのよ?あっ、分かった。もっとくっつけると思ったんでしょう」
残念でしたという風に、悪戯っぽく舌を出す。
「ちぇっ、バレたか。え?」
真帆は絡ませていた腕を更に寄せると、身体を密着させた。
「今日だけだからね」
「ケチ」
「なんですって!!あはは」
真帆は楽しそうに笑った。
「ははは」
公二もつられて笑う。
ベンチを見つけた二人は、色んな所を回って疲れた身体を休めながら、無言で飲み始めた。
楽しくお喋りをするのもいいが、こうして相手を近くに感じているだけでも心地よい。
「あったかい」
「うん」
このまま、いつまでもこうしていたい。
そんな気持ちに、お互いがなっていた。
「今日ね、ひびきのタワーのディナー券で一緒にお食事しようと思ったの。
一人で寂しかったんだからね」
「ごめん。来年は必ず一緒に食べよう」
「うん。約束だからね。あーーーーー」
突然、大声を出して立ち上がる。
「どうした?」
「私、プレゼントを買ってくるの忘れちゃったよ」
どこに行こうかと色々なことを考えている内に、すっかり忘れてしまっていた。
「ごめん。でも、公二もないんだから、おあいこよね」
真帆は再び座ると、公二の肩に頭を乗せ目をつぶった。
「そうだね」
「来年は交換しようね。これも約束」
「ああ。ん?ほらほら」
公二が白い物に気が付き、肩を少し動かした。
「なに?あっ、雪だ」
「うん。冷えてきたと思ったら、降ってきたね」
「いいよね。クリスマスには雪がないとね」
「うん。そうだね」
真帆は手袋を取ると、手の平を上に向けて雪を受け止めてみた。
「冷た〜」
それは手の平に乗ると、アッという間に消えていった。
『公二に、私の正体をバラしたら、どうなるのかな?この雪みたいに、いなくなっちゃうかな』
溶けて消えてしまう雪を見ていたら、そんなことを考えてしまった。
「ねえ、公二」
小さい声で言う。
「ん?なに?」
「公二は、私といて楽しい?」
「なにを今更。楽しいに決まってるじゃないか」
「そう?ほら私って、性格が2つあるじゃない?」
「え?」
真帆は、公二の真意が知りたかった。
それは、美帆のことをどう思っているのかだ。
もし、活発な美帆(自分)に会っているときも、本物の美帆の性格が好きなのに、
自分に合わせているとしたら。
それは自分ではなくて、美帆の方が好きということになる。
「どっちの私が・・・・・好き?」
客観的に見ると変な質問であるが、真帆は真剣だ。
とても不安そうな目で、公二の目を見つめる。
その瞳には、公二しか映ってはいない。
「美帆さん」
いくら鈍感な公二でも、このとき確信に近いものを感じた。
いま自分の目に前にいる美帆は、クラスメートの美帆ではないということに。
しかし、例えそうであっても、公二の方から問いただすのは違うと思い、
質問にだけ答えることにした。
「う〜ん。確かに、まったく正反対の性格に戸惑ったときもあったよ」
「うん」
「でも、俺は。いま俺の瞳に映っている、君の方がいいな」
「ホント?」
「誓ってホント」
「嬉しい」
真帆は、この幸せが永遠に続いて欲しいと願った。
デートを満喫した二人は、白雪家に向かって歩いていた。
「ねえ、公二」
「なに?」
腕を組んで歩いている真帆を見る。
「さっき、どこに電話してたの?」
公二はデートの途中で、公衆電話を使ってどこかに電話をしていた。
「私の携帯、使っても良かったのに」
「内緒」
「え〜、なんなの?気になるじゃない」
「すぐに分かるって」
「もうっ」
真帆がふくれたところで、白雪家に到着した。
「ちょっと待って」
門を開けようとした真帆を止めて、公二が腕時計を見る。
「なに?」
「そろそろかな」
「え?」
公二が横を向いたので、つられてそちらを見ると、1BOXのワゴンが走ってきた。
「あれだ。ちょっと待ってて」
白雪家のちょっと前で止まったワゴンに、公二は近付いていった。
そして、運転していた人に一言二言話すと、何かを受け取っているのが見えた。
「何か書いてるの?」
ちょっと考えては、カードらしき物にメッセージを書いた公二は、それを封筒に入れた。
「え?」
運転席から誰かが降りてきて、後ろの荷台から真っ赤な花束を取りだした。
公二は礼をして車を見送ると、真帆の所に走ってきた。
「お待たせ。メリークリスマス」
「こ、これって」
真紅に染まるバラの花束を受け取った真帆は、戸惑いを隠せない。
「うん。実はあったんだ。ホントは何か品物と一緒に渡すんだろうけど、
何がいいか分からなくって。わわわ、どうしたの?」
真帆は口に手を当てて、熱いものを我慢していた。
「ら、来年は何か贈るから、今年はこれで勘弁して」
怒っていると勘違いした公二は、焦って言う。
「違うよ。感動してるの!!もうっ、公二は知ってるの?バラの花言葉をさ」
男性からバラの花束をもらうなんてもちろん初めてだったっし、
女の子なら一度は経験してみたいことかも知れない。
「花言葉?う〜ん、知らないけど・・・・・」
「ったく。これなんだから」
真帆は呆れつつも、好きな人だけに見せる満面の笑みを浮かべた。
そして、自分だけプレゼントがないことに気が付いた。
「いいって、いいって。来年を楽しみにしてるからさ」
何か考え事をしている真帆を見て、それに感づいた公二は手を振った。
「そう言うわけにいかないよ。でも、なんにもないし」
迷ったあげく、真帆は公二の顔を見た。
「公二」
「え?」
名前を呼ばれた公二は、真帆の方を見た。
すると真帆はスッと一歩前に出て、公二の目に一杯に映った。
そしてつま先立ちになると、顔がスローモーションで近付いてきた。
柔らかい唇が、公二の唇に触れる。
ほんの数秒であったが、二人にとっては長い時間が流れた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
静かに離れると、お互い無言になった。
二人とも胸が高鳴っている。
「な、何とか言いなさいよ!!私のファーストキスを捧げたんだからね」
顔を赤くして、怒鳴るように言う。
「あ、ありがとう」
動転した公二は、間抜けな返答をしてしまう。
「純情な乙女のファーストキスなんだから、責任取ってよね」
「もちろん」
やっと我に返った公二は、力強く言った。
「え?」
「そのカードを見てもらえれば、分かるよ」
バラの中に挟んであるメッセージカードを指差す。
「これ?」
「うん。恥ずかしいから、俺は帰るからよ。部屋に入ってから読んで」
「う、うん」
「じゃあ、いくよ。おやすみ」
公二は、手を振りながら走っていった。
「おやすみ」
真帆はその背中を見送りながら、バラを抱きながら高鳴っている胸を両手でおさえた。
「まだドキドキしてる」
指で唇をなぞる。
「キ・・・ス・・・しちゃった。迫られるどころか、迫っちゃった」
自分の部屋に入ってからも、バラを見ながらしばらくの間惚けてしまう。
「これ、読むんだっけ」
思い出したように封筒を取り、カードを抜き出した。
そこには、こう書かれていた。
『顔は知っているけれど、まだ名前を知らない君へ
俺の目に映っているのは、君だけです。
いつか、君の本当の名前を教えてください。
主人 公二』
読み終わった真帆の目は、瞬く間に潤んだ。
流れてくる物を止めることが出来ない。
「公二」
これから来年の2月までは、公二に会うことは出来ない。
9月にデートした時、公二から剣道で大学に進学することが決まったというのを聞いた。
しかし、いまの自分の学力では、公二が行く大学には少しだけ足りない。
そのため、明日から猛勉強を始めようと決めていた。
「卒業式には必ず、公二にこの気持ちを告白するよ。そして、同じキャンパスを
一緒に歩くんだからね」
カードをもう一度読み、公二と共に写っている写真が入った額の前に置く。
勉強が辛くなったら、それを読み返して励みにするために。
「好きだよ、公二」
零れた涙でにじんでしまった『公二』の部分にキスをした。
それから2ヶ月後。
ひびきの高校の卒業式の日。
校門の前には、きらめき高校の制服を着た女の子が立っていた。
おわり
あとがき
メリークリスマス。
クリスマスという日を、皆さんは、いかがお過ごしでしょうか?
一応、読者の皆さんにクリスマスプレゼントということで、
初めて白雪真帆について書いてみました。
美帆の振りをしたまま公二に恋をして、
正体を話し出せずに3年の冬を迎えてしまった真帆。
話したくても話せない乙女の葛藤を描いたつもりなんですが、
いかがでしたでしょうか(^_^;)
途中、美帆と真帆の名前がゴチャゴチャになったりして、
読みにくかったと思いますが、楽しんでいただけたのなら幸いです。
個人的に真帆は好きなキャラクターの一人なんですが、
隠れキャラなので、ゲームではイベントが少ないですよね。
願わくば、館林みたいに主演級のサイドストーリーが出ないかなと、
思っています。
真帆を絡めて、もうちょっと長い話しも書きたいんですが、
美帆の方は、それほど好きじゃないんですよねぇ(T_T)
まあ、1のキャラとも絡めやすいので、今後も注目のキャラですね。
でわ、これからもよろしくお願いします。