『見えない音色(ちから)』

第二章〜もえぎののバイオリニスト

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〜PM 8:00〜

(・・・うん、前半はこんな感じで良いかな?あとは、これにピアノが混ざれば良いんだけど・・・)
 夜、公一は自室で楽譜を書いていた。彼はそれ程作曲に熱心と言う訳では無い。
 思いついた時のみ楽譜を書いて、演奏をするというのである。ちなみに、このもえぎの市には演奏仲間はいない。
 以前住んでいた所では、演奏仲間とよく文化祭等で演奏をしていたらしいが。
(この伴奏は、もう少し暗めにした方が・・・・・)
『メールが一通届きました』
 タイミング悪く、パソコンの方から新着メールの知らせが来た。
 っと同時に、公一はスクリーンセイバーのままにしていた事を思い出した。
(今度からちゃんと電源切っておこう。電気代とか節約しないといけないし・・・)
 そんな後悔を背負いながらも公一は早速、新着メールを開く事にした。
『こんばんわ、麻倉さん。
 月夜見です♪実は私、今まで病院で治療を受けていたのには訳があります。

 それは丁度去年の12月でした。私と私の親友は、中学校生活最後の思い出作りの為に
 スキーをしに行きました。スキーをしている間は時間を忘れる位はしゃいでいました。
 そして、帰りのバスで事故が起きて・・・・・・
 ごめんなさい、変な事描いてしまって。
 それでは。月夜見☆』

(そっか、だから初代TOPの音楽が儚かったんだ・・・)
 公一は、月夜見のメールを読んで胸がキュンと痛くなったのを感じた。
(何て、返事を書けば良いんだろう?)
 公一は必死に悩んだ。トイレに行くのを忘れて、夕飯を忘れて、時間も忘れて必死になって考えた。
『こんばんわ、月夜見さん。
 まず最初に辛い事を聞いてしまって、すみませんでした。きっと月夜見さんは
 その事故でとても辛い思いをしたのでしょう。
 あくまでメールで書いた言葉ですから上手く伝わるかどうかは分かりませんが、
 月夜見さんに言っておきたい事があります。
 人は辛い体験をした時こそ、その人の真価が問われる時なのです。現に月夜見さんは今、
 こうやって生きています。そうやって生き残った人は、死んでいった人達の分も、大切な人の分も
 生きて行かなければならないのでは無いでしょうか?
 もし気に触ってしまったらすみません。
 それでは。麻倉』

 メールを送信した後、公一は後悔していた。
『何故、自分はあんな事しか書けないのだろう?』っと。


〜翌日 PM 7:55〜

『こんばんわ、麻倉さん。
 励ましのメール、ありがとうございました。麻倉さんの言う通り、その事故では多くの人が
 犠牲になりました。その時、私は自分を呪いました。
 自分の目の前で友達が死にそうなのに自分は何も出来なかった事を。
 でも麻倉さんのメールを読んで、彼の分まで生きていこうと生きる希望が見えてきました。
 本当にありがとうございます。
 それでは。月夜見☆』

(良かった。元気が出たみたいだな・・・)
 月夜見さんからの返信を読んで、公一はホッとした。
「さてと!作曲に集中しないとな!」
 自分に気合いを入れた公一は早速、作曲の続きに入った。


〜翌日の昼下がり〜

『いらっしゃいませ!本日はクリスマス前夜と言う事で、全ケーキが半額となっておりまーす!』
 公一はこの日、店長から人手が足りないと言う電話を受けたのでバイト先のケーキ屋に駆けつける事になった。
 っと言っても、家に居た所で作曲作り以外に何もする事が無いので駆けつけたと言う理由もあるが。
「すみません、そこのキャロット・ケーキを二つ下さい」
『はい!キャロット・ケーキ二つですね?』
「苺ケーキを三つ下さい」
『かしこまりました!少々お待ち下さい。苺ケーキ三つお願いしまーす!』
 この店の売りは、何と言ってもケーキの美味しさである。この店は他のケーキ屋とは違い、
 小さいケーキならその場で作って直接客に渡す。それがまた結構受けているので、
 クリスマスになると行列が出来るのである。
     ・
     ・
     ・
「お疲れ様でしたー!」
 閉店になった所で、公一は職場の人とクリスマスパーティをやっていた。
 職場に居る人は殆ど独身女性。それも20代前半。バイトは公一一人だけである。
「いやー、悪いねぇ。折角のクリスマスだって言うのにバイト手伝わせちゃって!」
「いえ、別に家に居ても作曲位しかやる事ありませんから」
「まぁ!公ちゃん何か楽器が弾けるの?!」
「え、えぇ・・・」(鈴木先輩、仕事が終わるとどうしてそうお酒を飲むんだろう?)
 半分酔っている鈴木に、公一は少々困っていた。
「おぅし!今日のクリスマスはバイト、浅野公一の演奏と行こうじゃないか!」
「あ!それ賛成!」
「あの〜、僕が弾けるのはバイオリンなんですけど・・・・」
「ノー・プログレム!店長もバイオリンを弾くから大丈夫よん♪それに奥の方に
 バイオリンがあるから、ね」
 職場に居る先輩達は完全に乗っていた。その大半の理由は言うまでもない。
 しばらくして店長が、奥からバイオリンを持って出て来た。
「それじゃ、『きよしこのよる』で良いですね?」
「大丈夫大丈夫、公ちゃんの曲だったら何でもオッケーだから」
(駄目だ。鈴木先輩完全に酔い始めてきた・・・・)
 公一は呆れながらもバイオリンに手を掛けて演奏を始めた。そして歌詞の部分に入った時、
 その場に居た従業員が歌い始めた。
『き〜よ〜し〜〜。こ〜のよ〜る〜〜。ほ〜し〜は〜、ひ〜か〜り〜〜・・・』
     ・
     ・
     ・
「今日はありがとね。わざわざ独身女性の宴会に付き合ってくれて」
 時刻は既に10時。職場の女性が、公一を車で家まで送っていた。
「いえ、それに僕も彼女とか居ませんから丁度良いじゃありませんか」
「そう言う訳には・・・・そうだ!危うく今日のバイト代渡すの忘れてたわ!」
 公一の家の前で車が止まった所で、先輩はポケットからバイト代の入っている封筒を取り出して渡した。
「何か、厚みがありますけど?」
「気にしない気にしない♪それじゃね!公ちゃん!」
 そう言うと先輩は車に乗って去っていった。


〜翌日の月曜日〜

 この日は二学期最後の登校日の日。っと言っても学校の雰囲気は殆ど変わらない様子だった。
「お早う、和泉さん」
「おはよう・・・」
 公一の挨拶に対して、穂多琉は素っ気なく答えた。
「それじゃ、行こうか?」
 公一が言った『行こうか?』とは教室まで一緒に行こうと言うお誘いの意味である。
「別に構わないわ」
 穂多琉はまたも素っ気なく答えた。どちらかと言えばその場しのぎの様な答え方だった。
 教室に行く間、公一は色々話題を変えて話し掛けていたが、どれも反応は今一つだった。
(俺、嫌われてるのかな?)
 穂多琉の態度に公一はそう考えたが、特に気に止める事はなかった。
〜〜〜〜〜〜』
 放課後、公一は出来上がった楽譜を実際に弾いてみる為に音楽室に居た。
 この曲は、穂多琉と初めて逢った時に聞いたものを元に作られた曲なので、
 最初から最後まで儚い感じに仕上がっている。っが、その曲は何処か心が和む演奏だった。
(まぁ、こんな物かな?)
 自己作品に満足したのか、公一は音楽室の片付けに入った。
『ガラガラ』
 片付けをしてからどれ位時間が経っただろうか。ふと音楽室のドアが開いたので振り返ると、
 そこには穂多琉が教材を持って立っていた。
「あ、和泉さん。もしかしてその教材上に置いておく物?」
「えぇ・・・」
「だったら俺がやって上げるよ。その教材はあそこに置くやつだから、女の子にはきつい仕事だよ」
 そう言って公一は軽く笑って見せた。確かに重さ20kgの教材を高い棚の上に置く作業は、
 女子にとってはこの上ない重労働である。穂多琉は公一の申し出を素直に受け入れた。
『ゴト・・・』
 教材を手に持ち、公一は脚立に上がって教材を棚に置こうとしていた。
 その時穂多琉は、ふと楽譜立てに置かれている楽譜が目に飛び込んできたので、
 その楽譜を手に取って読んでみた。
(コレ、きっとバイオリンの楽譜だわ。でも誰が作ったんだろう?)
「あ、和泉さん。一応教材は棚の上に置いたから。それじゃ」
 聞いているのかいないのか確認しないまま、公一は音楽室を出て行った。穂多琉はただずっと、
 楽譜に書かれている歌詞を読んでいた。バイオリンの楽譜の解読に挑戦してみたが良く分からなかったので、
 歌詞の方に目を向ける事にした。
(凄い。私がこの前作った曲と似ている。でも、それとは違って何処か心が温まるわ・・・・・)
 穂多琉は、しばらく時間を忘れてその楽譜を見ていた。そして楽譜の裏に書かれている名前を見つけて驚いた。
(嘘!?この楽譜、浅野君が描いた物なの・・・・?)
 意外に思えた。とても音楽とは無縁に育っている様に見える彼が、バイオリンの楽譜を
 手書きで書いているのだから。ふとその時、穂多琉はある事に気付いた。
(あ、楽譜・・・三学期になってからじゃないと返せない・・・・)
 その事に気付いた頃には既に、時計の針が5:30分を指していたので遅かった。
 結局公一の作った楽譜は冬休みの間、穂多琉の家で過ごす事になった。家に帰ると穂多琉は、
 楽譜に書かれているピアノの伴奏を弾いてみる事にした。
〜〜〜〜〜〜』
(凄く良く出来てるわ、この曲。でも彼が作曲してるなんて、ちょっと意外だわ・・・・)
 そんな事を思いながらも、穂多琉はピアノを弾いていた。


〜その頃、公一の家では〜

(・・・・あ!楽譜忘れて来ちゃった!!)
 今頃になって、楽譜を音楽室に置いて来た事を思い出したのだが既に後の祭り。
 仕方なく、公一は気分を切り替えて外の空気を吸う為に窓を開けた。
 窓からは12月の寒い冷気が容赦無く部屋の温度を奪っていくが、気分転換には丁度良かった。
 これは余談ではあるが、寒さを感じると脳が活性化されて集中力等に影響が現れる事が、
 最近分かってきているのである。
(ま、あの楽譜を誰かに見られた所で、誰かに評価される訳でもないから良いか)
 そんな事を自分に言い聞かせながら、公一は夕飯の支度に入った。


   続  く



後書き

 メールの内容がかなり本編と違っています。すみません、最近ときメモやってませんから
 メールの内容とか綺麗さっぱり忘れてしまいました(死)

 それと、前回手術の事がメールでは出てきてませんでしたが、
 コレは本編とは違うストーリー線で行きたいと思っています。
 この話では、この時点で既に穂多琉さんの病気は治っているという設定になってますので(おい)

 それでは!

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