『見えない音色(ちから)』
第三章〜雪のむこうは?
第二章 投稿作品目次 第四章
『新年、明けましておめでとうございます。今年は・・・・・』
公一はラジオから流れる新年の挨拶に耳を傾けながら、出掛ける支度をしていた。
新年の始めにやる事と言えば当然『初詣』、公一は身だしなみを整えた上で財布を手に取り、もえぎの神社へ出掛けた。
(ふぅ、流石に人盛りで混んでるな。早めに切り上げないとな)
溢れかえる人の波に関心しながら、公一は人波をかき分けながら奥へ進んでいった。
「しっかし、あの楽譜誰か持っていったのかな?だとしても、あんまり大した事のない曲だし。別に良いか・・・・・」
そんなどうでも良い様な独り言を呟いている内に、最前列が少し見え始めてきた事に公一は気付いた。
(お?もう少しで初詣だ♪)
「浅野君」
ふと聞き覚えのある声がしたので、声のする方を振り向いてみた。声の主は穂多琉だった。
この日の穂多琉は、何ら変わらない普通の晴れ着を着ていた。
「和泉さん、新年あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
軽く会釈した穂多琉を見て、公一もつられて会釈をした。こうしてみると何だか社交辞令の様で
何処かぎこちない雰囲気だと公一は思った。
「それと、これ二学期の最終日に音楽室に忘れていったでしょ?」
そう言うと穂多琉は、晴れ着の内ポケットから公一がなくしたヴァイオリンの楽譜を手渡した。
「あ、これ和泉さんが保管してくれてたんだ。どうもありがとね」
軽くお礼を言ってから、公一は手渡された楽譜をポケットにしまった。
(ま、和泉さんが見た所で、特に何かが変化する訳でもないから別に良いか・・・・)
「あの・・・」
公一が楽譜の構造をまとめている最中に突然、穂多琉が声を掛けてきた事に少し驚いたが直ぐに対応した。
「え?何?和泉さん・・・・・」
「この楽譜に書かれている歌詞の事なんだけど、凄く良い仕上がり具合だと思うの」
(えっ?)
最初、公一は穂多琉が何を言っているのか分からなかったが落ち着いた後、
穂多琉が自分の書いた楽譜を誉めてくれたと言う事に気付いた。
「あ、ありがとう・・・・」
元々女性と一緒に話す機会の少ない彼は、こういう場面に出くわすと
少し恥ずかしながらの口調になってしまうのである。
「ううん、本当の事だから。最初の方は儚い始まり方だけど、次第にその儚さに
ほのぼのとした雰囲気が伝わって来る素敵な音楽よ・・・・・」
(それは、和泉さんの音楽を参考にしたからね・・・・)
そう言いたかった公一だが、何故かそこで言葉に行き詰まってしまった。
「・・・あ、折角だから前良いよ。最後尾に並ぶのも大変でしょ?」
「ありがとう」
そう言うと穂多琉は公一の前へ移動した。それから数分後、公一達に順番が回ってきた。
(さてと、何をお願いしようかな?)
財布からお金を出しながら公一は願い事を考えた。
(取り合えず、このもえぎの市でパートナーが見つかる事でも祈ろうかな?)
願い事を決めると、10円玉を賽銭箱に入れて念を入れる様に強く願った。
(・・・・良し。後は家に帰って残りの宿題でも済ませるか)
初詣が終わった所で公一は、早速神社の出口の方へ向かった。
「そう言えば、浅野君は良く家でもヴァイオリンとか弾くの?」
帰り際に穂多琉が尋ねてきた。公一は、一呼吸置いてから穂多琉にこう言った。
「別に家で毎日弾いてる訳じゃないよ。家では時々弾く程度で、大体は学校の音楽室とかで弾いたりしてるよ。
家じゃ殆ど作曲作りとかに専念してるからね」
「そうなんだ。でもヴァイオリンが弾けるなんて、凄いわよ」
「ありがとう。それじゃ、俺の家こっちだから」
「うん。それじゃ、さよなら」
鳥居前で分かれた後、公一は穂多琉から渡された楽譜を見ながらしばし考え込んだ。
(こっちに引っ越してから随分経つけど、誰かに誉められたのは本当に初めてだな。
それに和泉さんが俺の作った音楽を誉めてくれたのは本当に嬉しいな・・・)
そんな事を思いながら公一は、家に帰ると早速作曲の作業に取りかかった。
新学期が始まったこの日、公一は例の如く、作曲の事ばかり考えていた。
(ただ作曲するだけじゃつまらないからな。こっちでも前の町でやっていたみた
いに、メンバー編成でもしてみようかな?)
ぼけーっとしたまま公一は、廊下を歩いていた。その時・・・・・。
「どいてどいてーーーーー!!」
(えっ?)
突然前方から聞き慣れない声がしたので、ふと公一は我に返った。
「危ないよ!ぼけーっとしたまま廊下を歩く何て!前方注意だよっ」
公一の目の前にいる女子生徒は、元気あふれる女の子。
そして何事にもめげない様な元気な笑顔が第一印象だった。
「廊下を走ってる方が危ないと思うけど?」
「私はバイトで、前方に最新の注意を払ってるから平気だもん!」
(そう言う問題なのか?)
公一は彼女の言った事に首を傾げた。
「そう言えば、君の名前は?」
ふと公一は彼女の名前が気になったので尋ねてみた。
「あ、私の名前は『渡井かずみ』よろしくね」
「俺は浅野公一。宜しく」
そう言って二人は軽く握手をした。
「それじゃ、おつかれー!」
元気な声とともにかずみは、公一の前から走り去っていった。
(渡井かずみか。何か本当に元気な女の子だな・・・・)
そんな事を思いながら、公一は音楽室へ向かった。
(うーん、ここはルバート(間を開ける事)を入れた方が良いかな?それとも何か伴奏でも入れた方が良いかな?)
音楽室では公一が、あれこれ楽譜を組み立てていた。今作っている音楽はクラシック。
楽器はピアノ、チェロ、ヴァイオリンの3種類だけで奏でる曲の楽譜を作っていた。
それは彼が無駄なスペースを減らす為なのだが・・・・・。
っと言っても公一は、どうにかこの曲をなんらかの形で公開したいと思っていた。
HPに流すのではなく、文化祭などのイベントで流したいと彼は思っていた。
しかしピアノを弾ける人がいても、チェロ等と言う弾くのさえ難しい楽器を扱える高校生は、
このもえぎの市にはそうそういない。
(ま、メンバーは気長に探せば良いか・・・)
最終下校を告げるチャイムが鳴り、公一は荷物をまとめて音楽室を後にした。
(お?天気予報で言ってた通り、雪が降り始めてきた)
空から降って来る雪を、公一はジッと見つめながら自宅へ向かって行った。
それと同時に、自然に詩が頭に浮かんできた。
『あの雪の向こうには何がある?
あの雪空の向こうには何がある?
僕たちは厳しい雪の寒さを耐え抜いて生きて行く。
だってその先には春があるからさ。
雪達は水に姿を変えて水となる。
そして新しい命へ繋いでゆく・・・・』
続 く
後書き
今回はいきなり隠れキャラの渡井かずみさんが登場する始末・・・・。
これからもメモキャラは何処かで登場させる予定でいます。
さて、次の話も詩を入れていきたいとと思います。
それでは!
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