『見えない音色(ちから)』
第四章〜『バレンタインの聖歌』
第三章 投稿作品目次 第五章
『2月13日、要注意』
(これ、一体何なんだ?)
2月10日の夜、公一はバイトから今後の予定表に目を通していた。そして何故か14日だけ
アンダーラインに加え、色ペン、大文字で一際目立つ様にしてある。
(13日って、何かあったのかな?それとも何か重大な事でもあるのかな?)
結局公一は訳の分からないまま、13日のバイトを迎える事となった。
〜店内にて〜
「チョコレートケーキ下さい!」
『ハイ、少々お待ち下さい・・・・・チョコケーキお願いしまーーーすっ!』
「すみませーーーん、二段チョコケーキ下さい」
(なるほど。バレンタイン前日に何も用意してない女性が店内に群がってうちの店の
安くて美味しいケーキを買いに殺到してくるから要注意だったのか・・・)
そんな事を思いながら、公一は黙々と焼いてるケーキの火加減を調整していた。
元々料理を作ったりするのが好きなだけあり、こういう作業も今では店員の方から頼まれる程である。
(一部の人では雑用名人と呼ばれているらしい)
「すんませーーーん!このチョコケーキ3つお願いします」
ふと店内の方からはいきの良い大阪弁が一際目立って聞こえてきた。恐らく彼女は明日、
学校で義理として誰かに配るのだろう。
「ちとせ、そんなに沢山買って大丈夫なの?」
「心配無用やで、ゆっこ。そんな事より、あんたあのキザい白鳥の分買わんでええんか?」
「えぇ!?何で白鳥君が出てくるの!?」
「へっ?だってゆっこ、同じ部活やろ?」
「そっ!それとこれとは関係無いでしょ!」
(楽しそうだねぇ・・・・)
「浅野!こっちの土台(スポンジの事)10個にチョコ塗っておけ!」
「ハイ、只今!」
「お疲れ様。取り合えず初日さえ乗り切れば二日目はさほど問題無いから」
「それじゃ、お先に失礼させて頂きます」
今日の分のバイトを無事終えると、公一は疲れた顔を浮かべながら自宅へ向かった。
(明日はバレンタインか・・・・まぁ、俺には縁の無い話だから別にどうでも良いんだけどさ・・・・)
バイオリン一筋でここまで来た彼は今まで、クラスの女子等からはチョコを貰った事は無いのだが、
別に貰えなくて残念だ等と言う気持ちになった事は一度も無い。
(まぁ、折角のバレンタインだから、何かそれに合う作曲でもしてみようかな?)
2月14日
「お願いします相沢様〜、何とぞこの私めにそのチョコレートケーキを・・・」
「しょ〜があらへんなぁ。ホレ」
「有り難う御座います」
「ハイ、○○君。受け取って」
「あぁ、毎年済まないね・・・」
登校するや否や、校内は既にバレンタイン一色と言った雰囲気に包まれていた。
チョコを貰えて喜んでいる奴、貰えないで嘆いている奴、駄目もとで女子にチョコを催促している奴・・・
「よっ!何つまらない顔してんだ?」
昼休み、公一は廊下でバッタリと友達の矢部と遭遇した。しかも矢部は何やら顔がニタニタとかなりにやけている。
「何だ、矢部か・・・」
「さてはチョコを一つも貰えないからショック受けてんだろ?」
「チョコを貰ってないのは認めるけど、別にショック何て受けてはいない」
「お、お前随分あっさり答えたな」
「まぁ、チョコが貰えないなんて毎年の事だから。それじゃ、失礼するよ」
そう言って右手で挨拶をして、公一は教室の方へ姿を消していった。
(えっと、この辺りは日本語より英語にした方が良いかな?タイトルも英語の方が良い感じを出してるし・・・)
放課後、バレンタインの雰囲気が静まりかえった学校の音楽室で公一は一人、作曲をしていた。
今回はバレンタインと言う事もあり、歌詞も一緒に作っていた。
勿論、歌詞を作るのは用意では無い。詩と違い、歌詞はその曲のイントロとマッチする様な言葉、
リズム感が要求されるのである。
(でも、この曲はヴァイオリンで奏でるよりピアノとかで奏でた方が良いかな・・・・
まぁ、物は試しって言うから一度ヴァイオリンで弾いてみるか)
作曲作りに一段落した公一は一度、録音の準備をした上で演奏へと移った。
『〜〜
〜〜〜
〜
〜
〜〜
〜〜』
(あら?この音は・・・ヴァイオリン?)
同時刻、穂多琉が顧問の先生に頼まれた用事を済ませて帰ろうとした時、
僅かだがヴァイオリンの音が聞こえてきたので足を止めた。
(誰かしら?こんな時間にヴァイオリンを弾いてる人って・・・)
不思議な音色につられる様に、穂多琉はそのまま音楽室へと歩いていった。
音楽室へ向かうたびに穂多琉は、その音色が何だかとても懐かしい雰囲気に絡まれる感覚に襲われた。
そして音楽室のドアを開けようとしたが、穂多琉はそれを止めた。ここで開けてしまうと、
この懐かしい感覚が消えてしまいそうな気がしたのでそのまま横に腰掛けてこの不思議な音色を聴いていた・・・
しばらくして、音色がピタリと止まった。それを確認した穂多琉は何気なく音楽室へと入って行った。
「あ、浅野君・・・・」
穂多琉は音楽室に居た彼を見て驚いた。彼がヴァイオリンの楽譜を書いた紙を見た事はあるものの、
彼がヴァイオリンを弾いていると言うのには流石に少々驚いた。
「あ、和泉さん。もしかしてピアノ弾きに来たの?」
そう言いながらさり気なく録音テープを止め、録音したテープを鞄の中にしまった。
「ううん、ヴァイオリンの音がしたからちょっと立ち寄っただけ・・・」
それを言った後、穂多琉は素っ気なさすぎる答えだと後悔してしまった。
「そっか。それじゃ、明日学校で・・・」
「待って!」
ヴァイオリンをケースにしまい、音楽室から立ち去ろうとした彼を穂多琉は反射的に止めた。
「あの、さっきの曲なんだけど、タイトルとかあるの?」
それは穂多琉の正直な感想だった。本当は沢山聞きたい事があったのだが、
あれこれ聞くのは迷惑だと思ったのでタイトルだけ聞く事にした。
「『GET YOUR LOVE』まぁ、特に深い意味とかは無いけど、今日はバレンタインだから、
それにちなんだ曲でも作ろうかな?って思ったからそれらしいタイトルを付けたつもりなんだけどね」
苦笑しながら公一は穂多琉の質問に答えた。
「本当にバレンタインに似合う曲ね・・・・・・・・ありがとう」
「ん?」
最後の方は小声だったので、良く聞き取れなかった彼は思わず聞き返した。
「う、ううん。何でも無い。それじゃ、さよなら」
そう言うと穂多琉は音楽室から出て行った。
(しかし・・・・今思えばかなり恥ずかしい歌詞だな・・・・いっそ取りやめるか?)
そう思いながら公一は、再び歌詞を書いた紙を見つめた。
胸の奥がキュンとなる 瞳が重なる度にね
夢の中で何度も『好き』と言ってるけど
ねぇ神様 お願いなの 気持ち届けて・・・
Get Your Love この手を伸ばし、貴方のココロに触れたいの
今日が大切になる記念日をつくりたいの
恋するステップを 笑顔で見つめて
身体中がドキドキ 廊下ですれ違うだけで
DOKIDOKI高鳴る鼓動 これは恋の予感?
夢の中で何度も 『好き』とつぶやいて
ねぇ神様 お願いなの 気持ち届けて
Get Your Love この手を伸ばし 貴方のココロに触れたいの
今日が大切になる 記念日をつくりたいの
恋する気持ちはもう止められない
(やっぱ、恥ずかしいな・・・)
続 く
後書き
バレンタインって複雑ですよねぇ・・・・
多分僕のSSの中では永遠のテーマの一つでしょう。
バレンタインになれば特定の女子生徒はそれぞれの思いを胸にして
チョコレートを渡す一期一会ですから。
恋と言う物は本当に老若男女を問わず、憧れの対象ですから。
それでは!
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