『見えない音色(ちから)』
第五章〜『残された未練(うた)・受け継がれた意志と音色』
第四章 投稿作品目次 第六章
『なぁ、公一!音楽作ろうぜ!音楽!!』
『あのねぇ、俺が歌下手なの知っててそう言う嫌みを言う訳?』
『そんなのは関係無い!音楽は己だ!個性だ!それが出ていれば音痴だろうが楽器が
下手だろうがリズム感が無かろうが問題じゃ無い!』
『やっぱ、俺が下手なの肯定してるじゃん』
『ははは、まぁ堅い事言うな!とにかく音楽作ろうぜ!』
「・・・夢、か。そう言えばアイツの夢なんて久しぶりに見た気がするな」
日曜の朝、セットした目覚ましが鳴る前に公一は起きて、アラームを解除した。
時刻は午前7時。彼としては十分に寝ていないが一度起きてしまうと二度寝が
そう易々と出来ない体質なので、そのまま朝食を摂る事にした。
(今日から春休みだし・・・久しぶりに遠出するか。どうせ暇だし)
朝食用に買ってきたフランスパンを食べながら、公一はそんな事を思った。
ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・
今、公一がいるのは電車の中。最初は父親から貰ったバイクで行こうと思った
が無免許運転がバレたら大変な事になるので止めた。ちなみに彼が今向かっているのは
『カガヤキ市』と言う所だ。
カガヤキ市は都内の隅の方にあるのだが、町並みは東京都内とは思えない程人の手が
加わっていない所であり、非常にのどかだ。
『まもなく、終点カガヤキ。カガヤキで御座います。お出口は右側になります』
カガヤキ市が近づいてきた事を、車内のアナウンサーが知らせてくれた頃には、
すでに景色はカガヤキ市となっていた。
(ここに来るのも結構懐かしいな・・・)
駅で降りて、そのまま目的の場所へ向かいながら、公一はそう思っていた。
このカガヤキ市は彼が生まれ育った町。このカガヤキ市からもえぎの市に移り住んでから
一年が経っていたので、この町並みが懐かしく感じられた。
(思えば、俺はアイツの事が切っ掛けでヴァイオリンを始めたんだよな。
中学卒業間近まで、ド下手だったけど・・・)
そう思うと急に公一は苦笑した。彼は物心付く前から音楽を始めた訳ではなく、
小学校に入学してから始めたのだ。そしてその友達は今・・・土の中で静かに眠っている・・・・・・
〜今から8年前の4月の末〜
『なぁ公一!音楽やろうぜ!』
あれは公一が友達の星川浩二と一緒に下校していた時だ。公一はその当時から
音楽に興味を持っていた訳ではなかった。
『なのねぇ、浩二。俺が音痴なの知っててそう言う事言うの?』
『良いじゃ無ぇか!一緒に音楽やろうぜ!お前と俺でヴァイオリンを弾いてよ!』
『えー、嫌だよ。だってヴァイオリンって、すっごい難しいんでしょ!?』
『良いの!俺はお前と一緒にやりたいんだよ!』
こんな事から公一は、毎日浩二の練習に付き合わされた。最初の方こそ嫌々やらされていたが、
そんなのは一週間で消え去った。公一と浩二が二年生に進級した頃、
二人はヴァイオリンの勉強を始めていた。二人にヴァイオリンを教え
てくれたのは近所に住んでいた元ヴァイオリニストのお爺さんだった。
しかし、そのお爺さんは彼等が三年生に進級した頃、亡くなった。それ以来、彼等二人はお爺さんの
家にあった楽譜などを見て、必死に演奏の練習をした。その甲斐あってか、二人はみるみるうちに上手くなった。
『なぁ公一。俺等が小学校、中学、高校を卒業した頃にはどうなってるかな?』
『さぁ?俺は未来の事は良く分からないけど、少なくともお前と一緒に文化祭とかで演奏してそう』
『アホ!そんな小規模な夢でどうする!?』
浩二はそう言って、公一の額にでこピンをした。
『俺はな、中学を卒業するまでには彼女を作りたい!それが無理なら高校を卒業するまでだ!』
『・・・大してやりたい事の大きさ変わらないじゃん』
浩二の語りに大して、公一は冷静に突っ込みを入れた。
『はぁ、お前は本当に夢のない男だなぁ。良いか?女子の夢=結婚と同じ様に
彼女を作る=男子永遠の憧れなんだぞ!?分かるか?!』
『分かるけどさ、例えが極端じゃない?』
『良いんだよ!それで!!』
やがて二人はカガヤキ中学に進学した。カガヤキ中学で二人は文化祭、開校記念日となれば演奏をした。
彼等のヴァイオリンの音色は瞬く間にカガヤキ市に知れ渡り、『カガヤキヴァイオリニスト』と言う
あだ名まで付けられる程だった。
そして、公一と浩二が3年生に進級したある日の事。
『なぁ、公一。俺が小6の時、お前に言った言葉、覚えてるか?』
『え?そりゃ、覚えているけどよ・・・・どうしたんだ?突然?』
『い、いや、実はだな・・・俺、好きな人が出来たんだ』
『・・・へ?マジかよ・・・・』
『こんなの冗談で言うか、普通?』
『あ、悪い。でも良かったじゃないか!』
『いや、まだ知り合った程度だから。その・・・友達にも満たない状態なんだ』
『はは、でも応援してやるぜ!俺に出来る事があったら遠慮なく言えよ!我が親友の為に人肌脱いでやるからよ!』
『こ、公一・・・うぅ、俺は良い親友を持ったな』
『よ、よせよ!気持ち悪い・・・』
浩二に好きな人が出来た日以来、浩二の瞳は何かを目指す目つきへと変わっていった。
ヴァイオリンへの情熱が増したのは勿論、成績もグンと伸び始め、顔も生き生きとしていった。
だが、浩二が好きになった相手の顔、名前は公一も知らなかった。
いや、正確には公一が聞かなかっただけだ。公一は無理に聞かず、浩二が自分から言い出すのを待つ形を取った。
だが浩二の幸せな日々は、長く続かなかった。
『え?ラブソング?』
『あぁ。卒業式の後に彼女に聴かせるんだ。早い話がこの歌詞事態が告白なんだけどね』
『そんな大事な物をどうして俺に?』
『いやね、冬休みに日帰り旅行に行くんだよ』
『全然話が咬み合わないんだけど・・・』
『だからさ。俺が居ない間に親にこんな恥ずかしい歌詞を見られるのは嫌だから、お前に預かって欲しいんだよ』
『ん?そうすると俺が見ちゃうけど?』
『ん?あぁ、お前は、良いんだよ。今のお前はそれを読んでも人を愛する事が良く分からないだろ?
だけど、その内お前も俺みたいに恋に落ちる。その時の為の参考書と考えてくれ』
『ふーん。ま、そうさせてもらうよ』
『あぁ。それじゃ、帰ってきたら、すぐにお前ん家行くからな。大事に取って置けよ。
あ!後他の奴には絶対見せるなよっ!!』
『約束するよ』
そう言って浩二の後ろ姿を見送ったのが、浩二を最後に見た時だった。その翌日、公一の家に
電話が掛かってきた。相手は浩二の両親だった。公一が少し気遣う様に訪ねたら両親はこう答えた。
───浩二が、死にました。直ぐに病院に来てくれ・・・っと
公一は浩二の母から告げられた事実にショックを受けた。それと同時に今までの思い出が頭に浮かんで、
消えていった。
『浩二ぃーー!!!』
浩二の亡骸に公一は泣きついた。それからの事は良く覚えていない。ただ浩二の亡骸に
ずっと語りかけていた気がする。そして、浩二の葬式直前に、公一は浩二の母からある物を渡された。
『公一君。ちょっと良いかしら?』
浩二の母に呼び止められた公一は、ふと振り向いた。見ると浩二の母の手には
浩二のヴァイオリンケースがあった。『これを、浩二が愛用してたストラティバリウスを、受け取って・・・』
『・・・おばさん、僕にはこのストラティバリウスは相応しくありません。むしろ浩二の彼女にあげるべきでは?』
『いいえ、このストラティバリウスはあなたに受け取って欲しいの。他の誰でもない。あなたに・・・・・』
『僕、ですか?』
『えぇ。それに、このストラティバリウスは浩二の意志その物。それに浩二は良く、
こんな事を言ってたの。このストラティバリウスの音色でみんなを幸せにしたい。
そしてこの音色を次の世代に受け継いで行きたい。そう言う意味で、あなたにこのストラティバリウスを
受け取って欲しいの』
『おばさん・・・・・』
公一は、浩二の意志を受け継ぐ様にストラティバリウスを受け取った。
「・・・・っとまぁ、俺の今の現状はこんな感じだ」
公一は、浩二の墓の前で話しかける様に話していた。
「こう言っちゃお前に悪いかも知れないけどよ。最初お前がなんでそんなに格好良くなりたいか
分からなかった。だけど、今は分かるよ。」
そこまで言って公一は、一旦一呼吸置いた。そしてゆっくりと口を開いた。
「・・・彼女の前では、格好悪い所、見られたくなかったんだろ?」
それは、とても説得力のある言葉だと公一は思っている。もし自分に好きな人が出来たら、
格好悪い所だけは見られたくないだろう。今では、あの時の浩二の気持ちが凄く分かる。
「そうだ、今日お前の夢みたんだよ。俺とお前がヴァイオリンを始める切っ掛けになった時の夢をよ。
あと、今日はお前に俺の新曲を聴いて貰おうと思ってよ。ちゃんと最後まで聴けよ。
わざわざ歌詞をラジカセに録音して来たんだから。それに、お前が作ったラブ・ソングを参考にして作った、
俺の初ラブソングだからな。もっとも、聴かせる相手が居ないからお前に聴いてもらおうと思ってきたんだけどね」
そう言って公一は、浩二が使っていたヴァイオリン、ストラティバリウスとラジカセを出した。
そう言えば、このヴァイオリンで演奏するのは二度目だと公一は思った。
初めて弾いた時も、浩二の墓の前だったから、反射的に公一はそんな事を思ったのだろう。
「それじゃ行くぜ?タイトルは『stop the time』だ」
そう言うと、公一は浩二に語り掛けるようにヴァイオリンを弾き始めた。
それと同時に録音していた自分の声がラジカセから聞こえた。
人を愛すると不思議なものだ
何故か君の事しか考えられない
まるで stop the time 時間が止まった様だ
stop my time 自分の中の時計の針が止まった様だ
だけど不思議なものだ 君の為ならなんでも頑張れる
格好つけたいんだ 君の前では
stop the time 僕の瞳の中は君だけさ
教えてくれ 君は僕の事をどんな風に思っているんだ?
君の為なら僕はどんな事も頑張れる
君が望めばテストで100点取るさ
君が望めば頑張れるさ
君は僕のエネルギー源
君は僕の心の支えさ
sutop the time もう他の事なんて考えられない
君以外の恋人(ひと)なんて居ないさ
だって 俺は君の事をいつも考えてるからさ
Ah もう君を離したくない
Ah もし君と僕が別れると言う運命(シナリオ)があるのなら
僕は運命と言うシナリオを越えて君を愛し続ける
『パチパチパチ・・・・』
公一が弾き終わると、後ろの方で拍手が聞こえたので振り向いて見ると、浩二の母が立っていた。
おそらく花を取り替えに来たのだろう。手には花束が抱えられていた。
「素敵な演奏だったわ」
「ありがとうございます。でもこれは俺が弾いたのではありません。アイツの意志が、
この上ない程にこのストラティバリウスの音色を最大限に出してくれているんです」
「そんな事ないわ。あなたは十分にその音色を出しているわ」
そう言って、浩二の母は墓標の前に花束を添えた。
「懐かしいわね。浩二がヴァイオリンをやりたいって言い出してから、何年が経ったかしら?」
「大体8年です。当時の俺は嫌々でしたが、今では音楽なしの生活なんて考えられません」
「ふふ、ヴァイオリンの音色に惚れたのかしら?」
「えぇ、ヴァイオリンを教えてくれたお爺さんの音色を聴いてから、ひたすら
ヴァイオリンに打ち込みました」
「不思議ね。ヴァイオリンの音色一つで、その人の人生を変えたりするけど、
ヴァイオリンの音色で、その人の心まで映し出すから・・・」
「そうですね。ヴァイオリンは演奏者の心の鏡とも言っても良いですから」
ヴァイオリンとラジカセを閉まいながら、公一は浩二の母の意見に同意した。
「今日は、この辺で失礼します」
「えぇ、また今度来て頂戴。公一君ならいつでも大歓迎だから」
二言三言交わした後、公一は駅の方へ歩いていった。
もえぎの市まで戻ってきた公一は、ふと時計を見てみた。時刻は午後6時を過ぎた所。
辺りは既に夕焼け空だ。
(もう春休みも終わりか。来月からは新学期。気を引き締めて行かないとな。
それに、いつまでもアイツの事を考えてたら笑われるしな)
そんな事を思いながら公一は、自分の家の方へ歩き出した。しかし彼の過去の戒めは
そう簡単には振り切れない事を彼はまだ知らなかった・・・
続 く
後書き
前回の投稿から一ヶ月の間が空いてしまいました(滅)
さて、今回のお話は公一君とその親友が中心でした。この話は殆ど番外編に
近い感じですが一応本編です。
っと言うより、これ以上解説すると後の展開がバレバレになりますのでこの辺
にしておきます。
・・・今でももうバレバレですけど(笑)
それでは。
中島さんに感想を送る 第四章 投稿作品目次 第六章