『見えない音色(ちから)』

第六章〜『予定は未定』

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=4月9日・入学式後の音楽室にて=
 

それ程難しくも無い曲の演奏中に事故は起きた。
 

『びんっ!』
 

 ヴァイオリンの弦が切れたのである。
 普通、ヴァイオリンの弦が切れると言うトラブルはまず無い。弦が切れると言うのは非常に珍しい事である。
 そして公一が普段から愛用している
 ヴァイオリン(初心者用)の弦が切れたのはこれで2度目である。
 そんな訳で公一は仕方なくと言った様子でヴァイオリンの弦を張っているのだが、これはこれで面倒な作業である。
 (まぁ、流石に5年以上も使い込んでいれば切れるよな・・・)
 渋々した様子で公一は弦を張り替えていたが、これが以外と時間がかかる。その理由は公一は『不器用』だからだ。
 ヴァイオリンを弾く時の指使いはプロ顔負けなのだが、何故かこういう細々とした作業はとにかく下手を通り越して『ど』が付く程の
 下手っぷりである。(ハァ、入学式早々付いてないなぁ)
 そんなこんなで公一がヴァイオリンの弦を張り替え作業をしている最中───
『ヤッホー!浅野君、おつかれー!』
「・・・・」
 何の前触れも無く、クラス替えで一緒になった女子の渡井かずみが勢いよくドアを開けてきた。何となく、悪タイミングの様な気もする。
「・・・・どうしたの、渡井さん?」
 渋々弦の張り替え作業を中断して公一はかずみと向き合った。幼い頃から他人に対する礼儀作法はヴァイオリンを伝授した師匠に
 厳しくしつけされてたのでこういう動作は殆ど無意識のうちにやってると言っても良いだろう。
「エヘヘ♪ 実はちょっとお願いがあるんだ!」
「あまり無理なお願い事じゃ無ければ・・・」
 少しばかり、ぶっきらぼうにも聞こえるがかずみは気にも止めずにこう続けた。
「えっとね、実は二学期にやる文化祭の時に浅野君に演奏して貰おうと思ったんだけど、駄目かな?」
「・・・・演奏って言っても俺、ヴァイオリンしか出来ないし、ノリの良い曲とか苦手だから他にも適任者は居るんじゃ無い?」
「そうじゃないよ! 浅野君の他にも私も含めて相沢さんに和泉さんを誘って文化祭盛り上げようって考えてるから演奏するのは
 浅野君だけじゃ無いよ。それなら問題無いでしょ?」
 微笑ましい笑みを浮かべてかずみは言い寄ってきた。
 

=翌日の放課後=
 

「それじゃ、早速第一回目の会議を始めーす!」
 誰も居ない教室で教壇に立っているかずみを中心に公一、ちとせ、穂多琉は静かに椅子に座っていた。
「取り合えずみんながどんな楽器弾けるか確認を取ったんだけど、浅野君はヴァイオリン、和泉さんはピアノ、相沢さんはボーカル、
 私は木琴。
 それで、今日の話し合いはどんな曲にするかって事なんだけど何か提案ある人居る?」
 っと言ってもすぐに手を挙げる人はまず居ない。何よりこの組み合わせにはそれなりに無理がある。
 一番障害になっているのは、やはりと言うか、当然と言うかヴァイオリンだろう。
 元を辿ればヴァイオリンは庶民生まれの楽器なのだが、現代の本業はクラシックや気品のある曲等で使用されている
 (昔はノリの良い曲もあったらしいが)次にボーカル。これは『楽器』と言うより『歌う』と言った方が正しいだろう。
 仮に上記の組み合わせが上手い具合に行ったとしても、歌う側はその曲にあったテンポと雰囲気で歌わなければならない。
 ちとせの性格からすると、恐らくクラシック調で歌うのは難しいだろう。
 オペラで歌うと言う方法もあるが、あれは発生音量が高いし専門的な訓練も必要とされるし、他の楽器とも合わない。
 何より文化祭向けとは言えない。そんな中、最初に提案を出したのは意外にもちとせだった。
「ジャズでええんや無いのか? クラシックとかそないな曲やったら盛り上がんしなぁ」
「相沢さん、ジャズも文化祭には少し向いてないと思うけわよ?」
 ちとせの意見に異議を唱えたのは穂多琉だった。
「せやったら他に何があるんや?」
「それより、まずは発案者の意見を聞くのが良いと思うけど?」
 二人のやり取りに待ったをかける様に公一が言った。
「お? せやな。ほんならかずみは何か意見あるんか?」
 公一に言われて、ちとせがかずみの方を向きながら
『どや? 何か名案あるんか?』
 とでも言いたそうな顔で迫ってきた。
「エヘヘ。色々考えたんだけどね、やっぱりロックかな? ロックって言ってもノリはロック調で実際は元気の出る曲とか、
 そう言うテンポの曲で勝負しようかなー? って考えてた所なんだけどどうかな?」
かずみの意見はおおむね合っていた。それは音楽家(?)の穂多琉や公一も納得の行く意見だ。
“音楽は想像力”と言うのを前提として作曲・演奏している二人に関しては尚更の事である。
「えぇ。その方が良いかも知れないわね」
「うん。それなら何とかなるよ」
「せやったらまずは楽譜集めや! 流石に素人のアタシ等が全くのオリジナル作るんは無理があるからな。
 次の集会の時に何かビビ!っと来た楽譜や音楽あったら持ってくるなり録音するなりするのが一番やで!」
 こうして、文化祭に向けての発表会の最初の会議は終わった。
 

〜〜〜〜
 家に帰るなり、公一は昔、父が好んで聞いていたアーティストのCDを引っ張り出して、そのテンポを猿真似の様に弾いていた。
 

Toto,Teh Eagles,Stevie Wonder,The doodie Brothers,イエロー・マジック・オーケストラ,etc・・・
 
 どれもその年代特有の味があって、あまりロックを知らない人も好きになりそうな曲が多い。
 公一の自己評価ではこれ等の曲はリズムは合っているのだが───
「・・・・上手く行かない」
 ついさっき直したばかりのヴァイオリンで、近所の迷惑にならない程度の音で演奏しながら公一は呟いた。
 さっきから様々なアーティストのリズムで弾いているが、どうも『これだ!』と言うリズムが無い。
 そもそも今手元にあるCDは全て、自分が生まれる前のアーティストばかりであるから自分と音楽スタイルが大きくずれていても
 不思議では無い。最近の曲、例えば浜崎あやみ等と言うCDは買ってないし買う気すら起きない。
 自分のCD専用の棚にあるのは『サトウキビ畑』や『喜びの歌』等、クラシック系のCDが大半だ。
 よく見ると『学園パラダイス』と言ったノリの良い曲もあるが、そう言う系の音楽CDはせいぜい2,3枚程度しか無い。
 何より他の楽器と合わせるのには無理があった。
(しかし、約束したからには守らなければな。有言実行だ!)
 自分に意気込みを入れつつ、公一は曲のアレンジに取りかかった。
 

=同時刻・穂多琉の部屋=
 

(何で、相沢さんの頼みを引き受けたのかな・・・?)
 自室にあるシンセセサイザーの鍵盤を何気なく何度も押しながら穂多琉は考えていた。
 かずみの第一印象は、誰にでも親しく接する風情で、少し嫌な感じがあったが彼女と話をしている内にそれが無くなってきた。
 そしてこの心の変化は公一と一緒に  居る時と似ている。
(渡井さんも良い人だけど、浅野君も本当に良い人。でも───)
 

───あえて何も聞かない。
───気付いても詮索もしない。
───自分への気配り。
 

 全て何もかもと言う訳では無いが、何処か“彼”の面影を肌で感じる事がある。
 そしてその“彼”もまた、ヴァイオリンを好んで弾いていた。そしてにわかには信じがたいことに“彼”が演奏する時に見せる癖すら、
 あの公一は“彼”と似ている。
(馬鹿ね。浅野君が彼な訳無いのに・・・。何考えてるのかしら、私?)
 そうは思っても、彼女の思考は止まらない。その雑念を振り払うかの様に穂多琉は気晴らしに演奏を始めた。
 

「おはよー!和泉さん!」
 朝、普段通りに登校をした穂多琉に元気よく声を掛けてきたのはかずみだった。
「お早う、渡井さん」
 彼女の挨拶に穂多琉は軽く会釈をして答えた。
「いやー、やっぱり春の朝って気持ち良いよね。私いつもは新聞配達のバイトして休憩した後学校行くんだけど、
 やっぱり春だと身体がウキウキしちゃってね♪」
 作り顔では無い、本当の笑顔でかずみは穂多琉に接している。
「そうね。朝の空気を吸うと何処か清々しい気持ちになれるし、今日も頑張ろうって言う気持ちも起こるわよね」
「そうそう! あと学校の校門にある桜の樹が風に揺れて桜吹雪になった時とかスッゴイ幻想的な気持ちにならない!?」
「えぇ。私もそう思うわ」
 自然に振る舞うかずみとしばらく話をして穂多琉は自分が打ち解けていると言う事実に気付いた。
 かずみは少女の様に振る舞う節がある。そして小さな事にも気付くし大きく感動する。
 その小さな事は、普通なら見落としてしまう様な小さな穴なのかも知れないが、彼女はそれを素直な心で受け止めて、口にする。
 だからかずみとは自然に話をする事が出来るのだろう。
「あれぇ、どうしたの和泉さん? 急に黙り込んで?」
 自分の顔をマジマジと覗くかずみの愛くるしい姿に、穂多琉は本当に、本当に少し苦笑した。
「何でも無いわ。それから、渡井さん。・・・・ありがとう」
「あれ? 私何かした?」
 やや困惑しながらもかずみは不思議そうに訪ねた。
「ふふ、内緒よ☆」
「えー! 教えてよ和泉さ〜ん、気になるよ〜!」
 今度はだだをこねる様な子供の様に自分にすがってきた。本当に彼女は沢山の表情<かお>を持っていると穂多琉は実感した。
 昔、何かの本で読んだことがある。
 
『人は色々な仮面を付けている』っと。
 
 仮面。
 取りようによっては本性を覆い隠す時に使う言葉でもある。悪い様にも聞こえるが、その逆もある。
 普段からある表情を基準としてるのならそれを『本性』と言うのだろうが、笑ったりする時は笑った顔の仮面。泣く時は泣いた顔の仮面。
 時には醜い仮面や偽善・嘘の仮面を人は被る。しかし全ての人がそうでは無い。
 10人居れば、そこには10以上の仮面がある。その中には善や悪の仮面もある。常に自分の本性をさらけ出す様な人は居ない。
 それは自分にも当てはまる。だから人は仮面を被る生き物だと言える。
(不思議ね。以前の私なら、こういう言葉はネガティブに考えていたのに・・・)
 少し角度を変えただけで、その言葉の意味が違ってくる。固定的に物を見るのも良いかも知れないが、
 別の角度から物を見るのもまた一興かも知れない。
 

 後書き

 ハイ、言うまでも無くかなり遅くなりました。申し訳御座いませんm(_ _)m

 次回作は今回の様な事に日を締め切りを設定して送る次第です。
 
 



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