「My wish・・・」   

               第1話  「詩織のために」 

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  夕暮れ時も過ぎた頃、きらめき高校の体育館から、

 ダン、ダン、ダン、ダン、ダン、ダンッ、バスッ、ダン、  ダン、   ダン。

  と、誰かがボールをつく音が聞こえる。
  今年きらめき高校に入学した主人公である。公は、1人体育館でシュート練習を
  していた。
  幼なじみの藤崎詩織を追ってこの高校に入学してから3ヶ月。詩織に相応しい男に
  なろうと決心して詩織と同じバスケ部に入部した公は、部活が休みの今日も、
  1人で自主トレをしていた。
  いままで運動部に入ったことがない公は、まだ練習についていけていないのだ。
  詩織の方はと言うと、小学校からやっているだけあって相当の腕前だし、中学の時は
  全中にも主将として出場しているほどだ。
  公はと言えば、まあ、運動神経だけは良い方なので、いまはまずボールに慣れることが
  大切だと考え、こうして1人残ってドリブルとシュートの練習をしているのだ。

 「ふう〜、ちょっと休憩するか。」
  座り込む公、
 「なかなか上手くいかないなぁ。まあ、まだ3ヶ月だもんな。そんなに甘くはないってね。
  それにしても、自主トレやるにも体育館だと時間に制限があるし・・・・・。う〜ん。」
  少し考えて思い出す。
 「そうだ、あの公園にリングがあったっけ。街灯もついてるし。早速ボールを買って
  帰ろう。」
  公は、ボールを片づけながらハッとする。
 「こづかいまだあったかなぁ〜。」
  帰路の途中にある商店街のスポーツ店でボールを見ていると、いきなり声を
  かけられた。

 「公くん。何やっているの?」
 「あっ!虹野さん。」
  虹野さんは、バスケ部に入って朝のジョギングなどを始めて頑張っていた頃、
  いきなり教室でサッカー部に勧誘してきた女の子だ。6月上旬にあった球技大会でも
  怪我の治療でお世話になったりして仲良くなった。虹野さんは、部活の買い出しに
  来たんだそうだ。
 「ちょっとボールを選んでたんだ。」
 「ボールを?買うの?」
 「うん。早くボールに慣れるためにね。それと・・・・・。」
 「それと?」
 「自主トレのためにね。」
  公は小さい声で恥ずかしそうに言った。
 「自主トレって、部活動の他にもやるってことだよね。」
 「そう。ほら近くの公園にリングがあるじゃない。あそこでさ。」
  虹野は感心した顔で、
 「そっかぁ。えらいなぁ。頑張ってるんだねぇ〜。やっぱり私の目に狂いはなかったわ。」
 「えっ?」
 「その根性があればすぐに上手になるよ。」
  うん、うんと頷きながら言う。
 「ハハハ。買いかぶりだよ」
 「ううん。そんなことないよ。応援してる!!それにしても惜しいなぁ。」
  と、悔しそうに言う。
 「なにが?」
 「もっと早く勧誘していれば、サッカー部に入ってくれていたかもしれないのに・・・・・。」 
  苦笑しながら、
 「ハハハ。そうかもね。」 
  そう言って、公は選んだボールをレジに持っていき、会計を済ませると二人で店を
  出る。
 「さようなら、公くん」
 「うん。さよなら。」
 「あっ!!虹野さんちょっと待って。」
  虹野を呼び止める。
 「何?」
  うつむきながら、
 「あのさ。」
 「うん?」
 「自主トレのことなんだけどさ。」
 「ええ。」
  顔を上げて、
 「みんなには内緒にしていてくれないかな?やっぱり・・・・・、恥ずかしいから。」
 「そう?うん、わかったわ。二人だけの秘密だね。」
  くすっと、ちょっと微笑んだ。
 「ありがとう。じゃ、さよなら。」
 「さようなら。公くん。」 
  二人ともそれぞれの帰途につく。

 その帰り道、沙希は、
 「一人で自主トレか〜。すごいなぁ〜。お弁当作って応援に行ったら迷惑かなぁ?」
  と、楽しそうに考えながら歩いていた。(早くも虹野さんのハートをゲットか?)

  一方公は、
 「ただいま〜。」
 「あら、遅かったわね。」
  母親が出迎える。
 「うん。ちょっとね。これを買いに行ってきたから。」
  と言ってボールを見せる。母親は不思議そうに、
 「ボール?何するの?」
 「何って、これで近くの公園で自主トレしようと思ってさ。」
 「自主トレ?あんたが?ホントに?」
  意外だという顔をして言う。
 「なんだよ。おかしいかよ!!」
 「いえいえ、そんなことは。ついに怠け者のあんたがやる気になったのね。」
 「怠け者?う〜ん。そうだったかな。」
 「そうよ。何にしてもめでたいことだわ。これはお赤飯を炊かないとね。」
  パンッと手を叩く。
 「ぶっ!!何だそりゃ。やめてくれよ〜、そんなの。」
  びっくりして、吹き出してしまった。
 「い〜え。明日のお弁当はお赤飯に決定よ。いいわね。」
 「え〜。ホントかよ〜。」
 「ほら、さっさとご飯を食べて、お風呂に入っちゃいなさい。」
 「へ〜い。」
  公は二階の自分の部屋に上がっていく。

  ちょっと時間をさかのぼって、詩織の部屋。

 「公くん、私と同じバスケ部に入ったけど、どうしちゃったんだろ。
  いままで何にもしてなかったのに。」
  小学校3年生のあたりから、公と一緒にいると周りに冷やかされることが多くなり、
  公の方からだんだんと離れていってからというもの、中学校に入ってもあまり話すことが
  なかった二人である。
  とは言っても、詩織の方は別に嫌いになったわけでもなく、周りが気になって
  話しにくかっただけなのである。いまでも昔と気持ちは変わっていない。
  だから、公から同じ高校を受験すると聞いたときはすごく嬉しかったし、小さい頃に
  戻れるかと思っていたが、中学と変わらず公からは積極的に
  話しかけてはくれない状態が続いている。
  自分から積極的になろうかとも思ったが、きらめき高校のあの伝説を知ってから、
  気持ちを打ち明けるのは卒業式にしようと心に決めていた。
  と、その時、公の部屋の明かりがついた。
 「あっ。公くん、今帰ってきたのかな?今日は部活お休みだったのに。」
  窓の外を見ながら考える。
 「公くんって、運動神経は良いのに何にもやらなかったんだよね・・・。」
  詩織は中学に入ったときに、帰宅部をしていた公にいろいろ勧めたものである。
 しかし公は、「面倒だから。」と言って3年間帰宅部を通したのだ。
  そんな公が突然、
 「詩織。俺もバスケ部に入る!!」
  と言ったときはうれしい反面、驚いたものだ。
 「明日、理由を聞いてみよっ。さあ、今日の復習でもしようかな。」
  このことについて考えるのはやめて、勉強机に向かった。


             つ づ く


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