「My wish・・・」
第10話 「詩織 VS 沙希」
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合宿も最終日、最後の紅白戦でコーチにフォワード転向を申し出た公は、木本と同じ組で
望んだ。すると、試合前に木本が寄ってきた。
「公、フォワードをやる気になったか、よしよし。」
「うまくいくかわかんないけどな。」
「大丈夫だ。おまえは好きなように動いてみろ。俺からのパスを取ったら、
入る入らないは気にしないで、チャンスだと思ったらどんどん打て。」
「ああ、分かった。」
試合は2年生中心の白組に、木本の好リードで紅組が押していた。
白組は2ー3のゾーンディフェンスを敷いている。
ドンドンドン。
木本がドリブルしながらパスを出すところを探している。
公は、自分がガードならどこにパスを出したいか、ディフェンスならどこにパスを出されたら
防ぐことが出来ないか考える。
ドン!
木本がディフェンスを抜きにいく。鮮やかなボールさばきで一人抜いた。
しかし、ケアに入った二人目が木本に迫る。
『ここだ。』
公は木本のケアで一瞬ディフェンスが薄くなったところに走り込む。
そこに木本からの絶妙のノールックパスが入る。
ドン。
「よし!!」
ゴール下ノーマーク。ダンクを試す良い機会と判断し、すかさずジャンプする。
ギュッ、ダンッ!
力一杯ジャンプした公は、リンクめがけてボールをたたき込む。
「何?」「公が?」「ダンクだと?」
その光景を見ていた全員が自分の目を疑った。そう、木本を除いては。
ガンッ!
決まった。
「よっしゃー!!」
一瞬時間が止まったかのように、みんなの動きが止まり、公の歓喜の声が響く。そして、
「ナイシュウ!」
木本の声でみんな我にかえった。
ちょっと前、インターハイを終えて帰ってきた女子バスケ部は、報告と反省会を兼ねて
駅から直行で学校に来ていた。
詩織はちょっと時間があいたので、体育館に公を見に来ていた。
「なんでフォワードをやってるの?」
公のポジションを見て驚く。それに今の動き。
まるで、木本のパスが出る所が分かっていたかのようなコンビネーション。
ディフェンスの動きを予測しながらパスがとおる所に走り込む。
わかっていても、一瞬で判断して、ディフェンスより半歩でも早く動くのは容易なことで
はない。そしてダンク。まさかあの公がダンクを決めるなんて。
「すごい。」
試合が進んでいく中、公と木本の息はどんどん良くなっていった。
しかし、パスは通るのだが、いかんせん公のシュート成功確率が低い。
マークがつくと入らないことが多い。
それでも、それまでの動きは大したものだ。
結局この試合は、73ー70で紅組が勝った。公の初めての勝利だった。
午後4時、合宿の全日程が終了した。
部室で帰り支度をしていると、木本が話しかけてきた。
「やったな公、バッチリだ。コーチも感心してたぞ。」
拳で軽く頬を小突く。
「おまえのお陰だよ。」
「まあな、俺の目に狂いはなかったということだ。」
「ハハハ、サンキュー。あとはダンク以外のシュート確率を上げないとな。」
「そうだな。」
お互い笑っているが、公にすれば深刻な問題だ。それでも、他の部員に与えた印象は
絶大だった。
みんな帰り、公が最後に部室を出ると沙希が待っていた。
「公くん。途中まで一緒に帰ろう。」
「沙希ちゃん、待っててくれたんだ。いいよ。」
快く受ける。
「良かったぁ。」
「あ、その前に鍵を置いてこないと。」
部室に鍵をかける。
その頃詩織は、校門の前で公が出てくるのを待っていた。
「遅いなぁ。」
カバンを揺らしながら公の姿を探している。
「もう帰っちゃったなんてことないよね。」
公に会ったら、なぜフォワードをやっていたのか、その理由を聞きたかった。
「格好良かったなぁ、公くん。」
目を閉じると、公の勇姿が浮かんで笑みがこぼれる。
しばらくすると、向こうから歩いてくるのを見つけた。
「あっ!公く・・・・・ん。」
公の隣に女の子がいる。何やら楽しそうにお喋りをしながら歩いてくるのが見える。
「あの子は・・・、虹野さん?」
サッカー部のマネージャーだということは知っているが、挨拶をする程度で友達という
わけではない。
「なんで?なんで虹野さんと一緒なの?」
自分が留守の間に何かあったのか?一瞬パニック状態になる。
「そっかぁ。見たかったなぁ。公くんのダンクシュート。」
「ハハハ、また今度ね。あっ!」
公も詩織に気が付いた。
「藤崎さんね。」
「知ってるの?」
「そりゃ知ってるわよ。」
藤崎詩織。きらめき高校の生徒でその名を知らない者はいない。
容姿端麗、成績・運動神経抜群とくれば目立たないわけがない。普通ここまで完璧だと、
女子には嫌われるものだが詩織は違った。一部の生徒以外にはむしろ好意を持たれて
いるという性格の良さがあった。
そんな詩織と公が幼なじみというのは知っていたが、
『公くん、藤崎さんのことどう思っているのかなぁ。ただの幼なじみ?
それとも一人の女性として見てるの?』
沙希は恋のライバルとなりうる女性の前で緊張した。
「おかえり詩織。」
公に続いて、
「こんにちは、藤崎さん。」
沙希も挨拶をする。
「ただいま公くん。」
そして、沙希の方を向いて、
「こんにちは、虹野さん。」
沙希の心を探るように、目を見て挨拶する。
『あっ!』
この時沙希は感じた。詩織が自分と公の関係を気にしていることに。
そして、公のことを幼なじみ以上の存在として意識しているのではないかと。
『藤崎さんは・・・。』
沙希は公と一緒に帰るつもりだったが、今日の所は一人で帰ることにした。
公の目の前で変なことになるのも嫌だった。
「私はここで。」
「えっ?う、うん。」
「じゃあ、またね公くん。」
『公くん?』
この時、詩織の眉がピクッと動いた。
「藤崎さん、さようなら。」
詩織にも別れを言う。
「さようなら。」
「またね、沙希ちゃん。」
またピクピクッと動く。
『沙希ちゃん?ちゃん?』
詩織は、自分たちとは反対側の道を歩いていく沙希の後ろ姿を見ながら、
頭の中が真っ白になった。
「行こう詩織。」
「う、うん。」
詩織を促して歩き出す。
「インターハイ残念だったね。」
「うん。」
女子は3回戦で敗退した。
「詩織は1、2回戦の後半で出たんだよな。」
「うん。」
勝ちが決まった場面でそれぞれ6分と4分間だけ出場する事ができた。
「やっぱり詩織でも緊張した?」
「うん。」
「詩織なら次はスタメンデビューだな。」
「うん。」
『ん?詩織さっきから「うん」しか言ってないぞ。』
気になって詩織の横顔を見ると、どこを見ているのか、なんだか上の空で目の焦点が合って
いない。
「詩織?」
「うん。」
まだ気が付かない。
「詩織!!」
ちょっと大きな声を上げる。
「えっ?何?」
やっと気が付いて公の方を見る。
「なんか変だよ。」
詩織は、心配そうな顔をしている公を見ながら、迷ったあげく思い切って聞いてみること
にした。
「公くんこそ、虹野さんと何があったの?」
「はっ?」
何を言っているのか分からない公は、変な声を出してしまった。
「虹野さんのこと「沙希ちゃん」なんて呼び方して。」
「そ、それは、沙希ちゃんが名前で呼んで欲しいって言うから。」
焦った公は、なんか怒ってるような気がしたので、正直に話すことにした。
一応、体育館で抱きつかれたことを除いて。
「実は・・・。」
合宿中自分が悩んでいたこと。沙希にはそれが分かり話を聞いてくれたこと。
体育館でダンクを試したら出来たこと。
「で、その時名前で呼んで欲しいって・・・。」
詩織は黙って聞いていたが、公にはその方がなんだか恐かった。
『公くんが悩んでいるのを見抜いた?』
よっぽどよく見ていないと公の顔色は分からないはず。
そして、名前で呼んで欲しいと言う。
『虹野さんは、公くんのことを・・・。』
好きかどうかは分からないが、明らかに好意を持っているのを確信した。
そうこうしている内に家の前に着いた。
あれから詩織は何も言ってくれなかった。黙って門の扉を開けると、
公に聞こえるか聞こえないほどの小さな声で、
「ばか。」
と言い残して家に入った。
「ばかって・・・・・。なんで?」
公にはその言葉の意味が分からなかった。その後2日間悩むことになる。
その夜の詩織は機嫌が悪かった。
「公くんのバカー!!」
枕をバンバンと叩きつける。
「公くんに名前で呼ばれていいのは私だけなのにぃー!!」
いままでの公は、女の子とどんなに仲良くなっても名字に「さん」付けで呼んでいた。
名前で呼ばれるのは、幼なじみである自分だけの特権だった。
そんな公が名前で呼ぶと言うことは、公自信もまんざらじゃあないようだ。
「このままだと虹野さんを好きになっちゃうかも。」
沙希の気持ちを予想すると、今までとは状況が違う。ただ卒業式を待っていたら
自分のしあわせを取り逃すかもしれない。
「もっと積極的にならなくちゃ。」
受け身のままではいけない。そう決心する詩織だった。
つづく
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みなさんこんにちは、こんばんは。
第10話いかがでしたか。
詩織ちゃんと沙希ちゃんが鉢合わせするシーンは、
どう書いていいか悩みました。
簡単に引き下がりすぎかな。(^_^;)
女性の読者がいたら、感想が欲しいです。
次はダブルデートです。
どうしようかな(>_<)
それでは、これからもよろしくお願いします。