「My wish・・・」
第11話 「 花 火 大 会 」
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合宿が終わって3日後、部活が休みなので家でグータラしているところに、好雄から
電話があった。
夏休みに入る前に約束したダブルデートを、今日の花火大会でするというのだ。
しかも詩織を誘っているから、迎えに行って一緒に来いという。
午後5時、自主トレの汗をシャワーで流し、詩織に電話をかける。
3日前の事が気になったが、このままでもしょうがないと考えるのをやめた。
「もしもし、藤崎さんのお宅ですか?」
「公ね。私よ。」
「詩織か。好雄から聞いてると思うけど、準備は出来た?」
「ええ。もうちょっとだから、あと10分位したら来て。」
「分かった。じゃあ。」
「うん。」
ガチャ
「なんだ?普通だったな。」
それに、なんだか上機嫌だったようにも聞こえた。
「まっ、いいか。」
ピンポーン。
10分後、家を出た公は藤崎家のインターホンを鳴らす。これを押すのも何年ぶり
だろうか。
「ハーイ。いま行く。」
中から詩織の声が聞こえてきて、しばらくすると朝顔の柄の浴衣を着た詩織が出て
きた。
「どう?公。」
その場で一回転すると、裾がヒラリと舞い上がる。
「かわいいよ詩織。よく似合ってる。」
「ホント?嬉しいな。」
うちわを口元にもってきて照れている。
「行こうか。」
「うん。」
バスに乗って20分後、神社に着いた公と詩織は好雄の姿を探した。
さすが夏の一大イベントだけあって、たくさんの人でごった返している。
すると、どこからか声が聞こえてきた。
「お〜い。ここだ〜。」
「おっ、いたいた。」
声のした方向を見ると、好雄ともう一人、沙希の姿があった。
「虹野さん?」
詩織は沙希の姿を見て戸惑った。
「もう一人は沙希ちゃんだったんだ。」
「うん、よろしくね。公くん、藤崎さん。」
二人の目が合う。
3日前好雄から誘われたときは、詩織に気後れして、正直やめようかとも思ったが、
それでは進展は望めないと、思い切って承諾した。
「沙希ちゃんも浴衣なんだ。似合ってるよ。」
「そう?ありがとう。」
ニコッと微笑む。その時詩織は対照的にムッとしていた。
『なによ!虹野さんにまで同じこと言わなくても。』
顔は微笑んでいたが、心では炎が燃え上がっていた。
「花火が始まるまで時間があるから、夜店でも見て回るか。」
好雄が提案する。
「そうだな。」
「よしっ!行こうぜ。」
先頭に立って歩き出す。
夜店では、小さい子供達が親からもらった少ないおこずかいで、悩みながら楽しん
でいる。こういう所にいると、詩織との幼い日々を思い出す。
「なんか懐かしいなぁ。なあ詩織。」
「そうね・・・・・。って、ふんっ。」
なんで怒っているのか分からない公は、不思議そうな顔をする。
『そういえば昔、詩織に何か買ってあげたような気がする。何だったかな?』
しばらく歩くと沙希が立ち止まった。
「あっ、わたし金魚が欲しいなぁ。」
いかにも、というお兄ちゃんが座っている。
「よし。公、勝負だ。俺の腕前を見せてやるぜ。」
「いいぜ。」
公は受けて立つ。
「がんばって好雄君。」
詩織は好雄を応援する。
「詩織、捕れたらあげるから。」
「あら。公くんに捕れるのかしら?私は好雄君からもらうから。」
『・・・・・?なんかトゲがあるなぁ。』
詩織は、さっきの事を根に持っているようです。
「がんばって公くん。」
ピクピクッ。
沙希の応援が追い打ちをかける。
「おらおらおらおらおら〜。」
好雄はすごい勢いで金魚をすくっていく。
「すごい!!好雄君の手が何本も見えるわ。」
あっという間にお椀がいっぱいになる。
それに引き替え公は、慣れない手つきで恐る恐るやっている。
『もう。何やってるのよ。』
詩織は心の中では公を応援していた。やっとのことで2匹捕った公に比べて、
ビニール袋6つに30匹も捕った好雄の圧勝だった。
「はい、沙希ちゃん。」
「ありがとう。」
沙希は公から袋を受け取り、なにか思いついたのかニコニコしている。
「ねぇ。公くんは好き嫌いある?」
袋の中の金魚を見ながら言う。
「えっ・・・・・?とりあえず金魚は嫌いかな・・・。」
思わず後ずさりした公が真面目に答えると、
「フフフ。冗談よ。」
「フハハハハハハ。沙希ちゃんなら料理しちゃうかと思った。」
焦った公は、乾いた笑いを漏らす。
一方、
「はい、詩織ちゃん。」
「え、ええ。」
袋を受け取ろうとした詩織だが、
『この数はちょっと・・・・・・。どうしよう。』
流石に30匹もの金魚を飼うのは気が引けた。テキ屋のお兄さんも恐い顔してるし。
というわけで、一瞬考えた末に、
『ごめんね好雄君。』
心の中で平謝りしつつ、
「あっ!!」
バシャーン!!
手を滑らせた振りをして、袋を水槽の中に落とす。すると、紐が緩んで金魚が
全部水槽に戻ってしまった。
「ごめーん。落としちゃった。」
「あーーー。お兄さん、一回取ったんだから良いだろう。」
お椀を手に取ってお兄さんを見ると、鋭い目つきで好雄を睨んだ。
「うっ。いえ、何でもないです。」
好雄はその眼孔に怯んでしまった。
「行こうぜ、みんな。」
機嫌を悪くして先に行ってしまう。
「おい待てよ。」
公と沙希も後に続く。詩織も行こうとしたが、テキ屋の兄ちゃんに呼び止められた。
「姉ちゃん。さっきはありがとよ。わざとだろ、あれ。」
「えっ?わかりましたか?」
「あたぼうよ。変わりにこれやるよ。なにか食べな。」
そう言って券をわたす。
「ありがとうございます。」
ペコッとお辞儀をしてからみんなの後を追う。
家から持ってきたと言って、もらった券でたこ焼き、お好み焼きなどを食べたが、
その時の沙希の行動には驚かされた。
「沙希ちゃん、あれはやばいよ。」
沙希はお兄さんが作っているところを見て、いろいろ文句をつけたのだ。
タコが小さいとか、お好み焼きの生地には、とろろを入れるべきだとか。
男が言ったら確実に喧嘩になったであろう言葉をどんどん言っていた。
「だって〜。」
「まあまあ。もうそろそろ花火の時間よ。」
詩織が間に入る。
「そうだな。」
4人は花火の会場に向かって歩き出す。
祭のメインだけあって、会場までの道は人でいっぱいだった。
「みんな、はぐれないように。って、言ってるそばからこれだよ。」
公が周りを見ると、詩織が隣にいるだけで好雄と沙希の姿は見えなくなっていた。
「はぐれちゃたわね。」
「しょうがないなぁ。そうだ!!こっちだ詩織。」
そう言って詩織の手を握り、小道に入っていく。
「あっ!」
「確かこっちに、良い場所があったはず。」
どんどん暗い道を歩いていく。
『キャッ!公くんたら大胆!』
3分くらい行くと、ちょっと広いところに出た。その時花火も始まった。
ひゅ〜〜〜、ドン!!
「わあ〜。綺麗ねぇ。」
ドン!ドン!ドン!
機嫌が悪かった事など忘れて、しばらくの間見入っていたが、ずっと手をつないでいる
ことに気が付く。それに周りを見ると、二人だけで他には誰もいない。
ドン!ドン!ドン!
ドキ!ドキ!ドキ!
花火の音と重なるように鼓動が早くなる。
公は二人きりになるためにここに連れてきたのだろうか?そうだとすると・・・・・。
自分のことを1人の女として、好きだと思ってくれているのだろうか。
これは、一気に進展させるチャンス?
この時公は、詩織がなんで不機嫌なのか、その原因を考えていた。
そのため、二人きりで手をつないだまんまだということも気にならなかった
対照的に、詩織の頭の中ではいろいろな考えが浮かんでは消えていっていた。
しかし、あと1歩が踏み出せない。
時間が経つに連れてこの状態に耐えられなくなってしまい、つないでいた手を離して、
前に歩き出す。
「あっ、詩織危ない。」
ガクッ!!
暗くて足下がよく見えなかったため、地面に伸びている木の根につまづいてしまう。
「あっ!」
ドサッ!!
地面に倒れるのを覚悟して目をつぶったが、全然痛くない。
公がとっさに回り込んで、詩織を胸で受け止めていた。
「大丈夫か詩織?」
「う、うん。」
公はすぐに離れようとする。
「待って、もう少しこのままでいて公。」
「えっ?ああ。」
なんだか安心する。今自分は、好きな人の胸に抱かれている。
『公の胸ってこんなに厚かったんだ。』
詩織は目を閉じたまま公の温かさを感じていたかった。
公の頭はパニック状態だった。いったい何が起こっているんだ?
詩織が自分の胸の中にいる。しかも、このままでいてと言う。これは夢か。
なんだかこうしていると、恋人同士になったような錯覚に囚われる。
「詩織・・・・・。」
詩織の肩に手をやり、少し離れて見つめ合う二人。
頭が真っ白になって、よく考えもせずに身体が勝手に動く。
『えっ?なに公。これって・・・・。』
この状況でこの体勢となればあれしかない。
「公・・・・・。」
詩織は覚悟を決めて目をつぶる。
二人の唇が近づき、重なりそうになったとき、
「こ〜う。しおりちゃ〜ん。」
という掛け声が聞こえてきた。
「えっ?」
一気に現実に戻った公はそれに気付いて顔を離す。
後ろを振り返ると好雄と沙希がきょろきょろしながら歩いてくるのが見えた。
まだこっちには気付いていないようだ。詩織も気付く。
バッ!!
瞬間的に公は距離をとった。
「ご、ごめん。」 『何をやってるんだ俺。詩織怒ったかな。』
「ううん。」 『あ〜、ビックリした。』
二人とも目を逸らして真っ赤になる。
「あー、いたいた。」
「よ、よう好雄。」
「なにが、よう好雄だ。二人でどっか行っちゃうんだもんなぁ。探したぜ。」
「悪い悪い。」
何事もなかったように話を合わせる。
ドン!ドン!ドン!
「それにしても、ここ良い場所だな。ここでみていくか。」
「ああ。」
花火を見ている間、詩織はさっきのことを思い出していた。
『あ〜あ、惜しかったなぁ。もう少しだったのに。』
どざくさまぎれとはいえ、キスし損ねてガッカリしていた。
『やっぱり、ちゃんと告白してからじゃないとダメかな?』
今はまだとっておこうと思う詩織ちゃんでした。
一方沙希は、花火を見ている間一言も喋らなかった。
詩織の表情を見て何かあったんじゃないかと、ちょっと落ち込んでいた。
『ううん。いつまでも落ち込んでいちゃダメ。頑張らないと。』
こちらも決意を新たにしていた。
つづく
あ と が き
お待たせしました。第11話でした。
どうやって、二人を接近させようか迷ってしまい、
書くのに時間がかかりましたが、
結局は良くあるパターンに落ち着きました。(^_^;)
これはこれで良いかなと。
やっと詩織が活躍?しました。
まだまだ先は長いし、ネタが尽きちゃうよ。(>_<)
それでは、次回もお楽しみに。
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