「My wish・・・」
第12話 「 文 化 祭 」
第11話 目次へ戻る 第13話
2学期が始まって1ヶ月が経ち、残暑もなくなりかけ涼しくなってきた頃、文化祭が
近づいてきた。
普通、文化祭なんてものは運動部には関係ないものであるが、きらめき高校は
ちょっと違う。
当日のお客の動員数の集計を取り、優秀だった部は次年度の部費が倍になるという
特典があるため、文化部・運動部関係なく張り切っている。
かくいうバスケ部も練習終了後、文化祭のためのミーティングが行われていた。
そして、そこで主将から1年生に重大な命令が言い渡される。
「よし!当日客の相手をするのは1年で決めろ。」
ブーブー!
主将の言葉に1年の間からブーイングがあがる。
「えーい、うるさい。豪華賞品がかかってるんだからな!!盛り上げるんだぞ。」
バスケ部では3ON3をやることにしている。
更に手が空いている者で、観客目当てにクレープ屋もやろうと言うから大がかりだ。
お客の数を稼ぐため賞金も用意している。賞金は部費から出すわけだから、
あと半年の部の存続にも関わる重大な役割だ。
男女両方から代表が選出された。その中には当然のように公が入っていた。
最近の公は自主トレのかいあって、1年の中では上位実力者に迫っていた。
「木本もか。なら大丈夫だろ。」
ここ2ヶ月近く徹底的にシュート練習をしたおかげで、合宿の頃よりは確率が
上がった公は、素人相手ならそうそう苦戦しないだろうと思ったが、かったるい
気はした。
「お互い大変な役になったわねぇ。」
公に話しかけてきたこの女の子は、鞠川奈津江という。詩織と並んで有望視
されている1年生だ。
女子の1年では中心的な存在で、リーダーシップをとっている。
「鞠川さんもか。」
「そうなのよ。」
口振りとは反対にやる気は満々のようだが。
「詩織は?」
「詩織はクレープの方よ。」
「そうか。って大丈夫なのか?」
「大丈夫って、何?幼なじみのくせに詩織の料理の腕前も知らないのあんた。」
呆れ顔で言われるが、昔の泥団子しか知らない公は首を横に振る。
「家庭科の実習でも美味しいって評判よ。」
「知らなかった。」
「まっ、自分から自慢するものでもないか。」
そう言い残して更衣室に行ってしまう。
料理が上手だということは意外だったが、今、公が疑問に思っているのは、ダブル
デートのあの一件について、詩織が何も言ってこないことだ。
あの後我に返った公は、絶交も覚悟していたのだが、むしろ小学生の頃に戻った
ように話しかけて くるようになった。
『女心はわからん。』
一人悩む公だった。
「主人くん。」
そこにまた話しかけてきた女の子は十一夜恵という。占いやおまじないが大好きな子で、
女子部のマネージャーをしている。
「何?十一夜さん。」
「何か悩んでるみたいだけど、いいおまじない教えよっか?」
「いや、いいよ。」
占いの類はいまいち信じていないので丁重に断る。
「そう?何かあったら言ってね。」
「ありがとう。」
口ではそう言ったが、「運命は自分で切り開く」公はそう思っている。
文化祭の話し合いも終わり、帰るため校門に向かっていると詩織が待っていた。
「公くん。一緒に帰ろう?」
「う、うん。」 『わからん。』
二人が並んでいる姿は、他人の目にはどのように写っているのだろうか。
そんなことを考えていると、
「公くん、3on3のメンバーになったんだよね。」
「ん?そう。」
「頑張ってね。」
「ああ、ありがとう。詩織はクレープの担当になったんだって?」
「そうよ。」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫って?」
首を傾げている。
「いやその、詩織の料理は泥団子以来食べてないからなぁ。」
「泥団子?」
何それ?という感じでしばらく考えて大声をあげる。
「あー、それって小さい頃のおままごとの時のでしょう?」
「そうそう。」
「ひどーい!!私の料理の腕がそのままだって言うのね?」
左腕を振り上げるが、公は横に1歩飛んでよける。
「そう言う訳じゃあ。」
「ふんだ。もうあの頃の私じゃないのよ。一生懸命練習したんだから。」
「へー、それは楽しみだ。」
「だいたい、誰のために頑張ったと思ってるの?」
公を指さして、あなたよ!という仕草をする。
「えっ?俺?」
昔のことを思い出してみる。
あの頃泥団子を食べないと泣いていた詩織。嫌々ながら少し口にしていた俺。
「あっ、そういえば。いつだったか倒れたんだよな俺。」
「そうよ。」
いくら少しでも、泥を食べたんだから倒れて当然である。
「で、横になっている時、付き添っていた私になんて言ったか覚えてる?」
「ん〜、なんて言ったかな?」
全く覚えていない公は申し訳なさそうに聞いてみる。
「覚えてないの?」
「ごめん。」
「もう!!あのね・・・・・・。」
「うん。」
「な・い・しょ。ふふふ。」
公の鼻先に人差し指をあてて意地悪く言う。
「なんだよ。教えろよ。」
「だ〜め。」
小走りで逃げるように走っていく。
「待てよ。」
『料理がうまくならないとお嫁さんにしてやんない。って言ったのよ。』
追いかけてくる公に聞こえないように心の中で呟く。
文化祭当日。賞金がかかっていると聞いたバスケ好きの連中が結構集まり、
3on3が始まった。
キュキュキュ!
「そこだー」
「パスパス。」
「あっ、おしい。」
体育館では、シューズの音が鳴り響く中、集まった出場者と観客の声が上がり、
思った以上に盛り上がっていた。
「シュー。」
ザシュ!ピーーーーー。
ゴールネットを揺らしたと同時に終了の笛が鳴る。
「ナイシュー、公。」
アシストをした木本が声を上げる。
「ああ。竹原、交代だ。」
「よしっ、任せろ。」
予想どおり、そこら辺のバスケ好きくらいに負けはしない。連続で試合をこなした公は、
同じ1年生の竹原と交代した。
木本も交代して公について出てくる。
「ふうっ。思った以上に盛り上がってるな。」
「そうだな。」
マネージャーからタオルとドリンクを受け取り、扉の近くに腰を下ろした。
公はタオルで汗を拭きながら、次の試合を観戦している。
しばらくの間、黙って見ていると、
「おまえ最近絶好調だよな。さては、秘密の特訓でもやってるんだろう。」
ゲホッ、ゲホッ!
飲んでいたスポーツドリンクが、別の所に流れてしまった。
「な、何言ってんだ。」
「何焦ってるんだよ、冗談だよ冗談。」
「当たり前だ。」 『焦った〜。』
ホッと胸を撫で下ろす。と、またもや焦ることを言い出した。
「それよりさ。おまえ藤崎のこと、どう思ってるんだ?」
「な、何を。」
「好きなんだろ?」
ニヤニヤしながら、顔を寄せて小声で話す。
「い、いや。」
「隠すなよ。わかってんだから。」
「勝手にしろ。」
「昨日の見学も藤崎と行って来たんだろう。」
当日見学することが出来ない者のために、昨日は生徒の見学日だったのだ。
公は詩織を誘って、いろいろ見て回っていた。
「藤崎か。あのルックスであの性格なら、誰でも好きになりそうだよな。」
後ろを振り返り、体育館の外に設置された店でクレープを作っている詩織を見て頷く。
「実際、何人かの男が告白してるみたいだし。」
「ホントか?」
「当然だろ。でもみんな何かと理由を付けられて撃沈してるらしい。」
「そうか。」
予想はしていたが、あらためてそんな話を聞くと、早く自分に自身が持てる男にならないと
いけない。
「でもな〜。あんなに何でも完璧だと、男の方が大変だろ。」
どうやら、木本は詩織のことを何とも思ってないらしい。
「俺だったら、虹野の方がいいな。」
「沙希ちゃんか。」
「そう。・・・・・って、なんだその沙希ちゃんて。虹野さんにまで手を
出そうっていうのか、お・ま・え・は〜。」
首を軽く絞めてくる。
「い、いや゛。そん゛なん゛じゃない。」
外では詩織がそんな二人のじゃれ合いを見て笑っていた。
「ふふふ、何やってるのかしら?」
「チョコクレープ2つください。」
不意に声がかかる。
「あっ、はい。ありがとうございます。」
詩織の腕がいいのか、クレープの売り上げも上々だった。
その頃沙希ちゃんは、自分のクラスで開いた喫茶店で大忙しだった。
「虹野さん、ミートスパゲッティ2つね。」
「はーい。」
当然料理長を任された沙希は、11時からずっと作り続けている。
『あ〜ん。これじゃあ、公くんの応援に行けないよ〜。』
結局手が空くことがなかった沙希は、公の所には行けなかった。
ピーーーーー。
「お、終わったな。もう一働きしてくるか。」
「よしっ!」
二人は重い腰を上げてコートに戻っていく。
そんな二人の姿を、と言うより公のことを見つめている女の子がいた。
まだ幼さの残る顔立ちから、どうやら中学生らしい。髪型がポニーテールの女の子だ。
「ここに決めたっと。あっ、お兄ちゃんだ。」
遠くに知った顔を見つけた女の子は、駆け足で反対の方向に走っていった。
無事に文化祭が終わった。賞金である部費も無事だった。明日からは目前に
迫ったウインターカップの予選目指して厳しい練習が始まる。
ちなみに、今回の部費倍増の商品をもぎ取ったのは「公開薬品調合実験」を行った
科学部だった。何故か、お客さんが1番初めに科学部に足を運んでから他に流れていくと
いう、奇妙な現象が起こっていたのだが、その原因は分かっていない。
「フフフフ。再来年も更に倍額を頂くわよ。」
理科室のドアの隙間からそんな声がしたが、聞いた者は誰もいなかった。
つづく
あ と が き
お待たせしました。第12話いかがでしたか。
今回は苦労しました。
新キャラを出そうかな、とも思ったんですが、
新キャラを動かすのはとても苦労しそうなので辞めました。
自信がついたら、いつか出そうかなと。
今回も沙希ちゃんの出番がないも同然でした。
次こそは何とか活躍させないと。
それでは、これからもよろしくお願いします。
第11話 目次へ戻る 第13話