「My wish・・・」
第13話 「沙希ちゃん一歩前進 」
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11月に入り、夜になると多少冷え込む季節になった。それでも、今日も自主トレに励む
公の姿が公園にあった。
以前、古くなって捨てるボールがあったらくださいと、用務員のおじいさんに頼んでいた
ボール4個と、合わせて5個のボールを今は使っている。
公の今の練習メニューは、真正面・左右の90゜・45゜を100本ずつ、休憩を挟んで
レイアップ左右100本、更におまけでダンクとダブルクラッチなんかの練習もしていた。
「94、95、あっくそ、96、97。」
5本打つ度にボールを集める。
「98、99、100。右45゜終わり。」
ベンチに座り休憩をとる。
「ふうっ。」
「もうすぐだな。」
いよいよ一年の締めくくりであるウインターカップ予選が始まる。
毎日の自主トレの成果か、一年生の中ではトップクラスに迫る程になった公だが、
全体から見るとだまだだ。今回もユニフォームがもらえず、ベンチ入りすることが出来な
かった。一年生では木本だけが選ばれていた。
「小学生の頃からやってる奴に追いつくにはまだまだ足りないってことだな。」
思わずそんな独り言を言っていると、
「そんなことないよ。」
「わっ!!」
突然後ろから声がかかったので、心底ビックリして飛び上がりそうになった。
「あっ、ごめんなさい。」
後ろを振り返ると、そこには制服姿の沙希が立っていた。
「沙希ちゃん?なんでここに。」
「えっ、えーと。あのね、あのね。えっと、えっと。」
思わず声をかけてしまったので、何と言っていいのか言葉が出てこない。
そこに、公が見当ハズレな事を言う。
「ちゃんとやってるか見に来たんだろ。」
「そ、そう。監視しに来たのよ。」
『応援に来たの。』とは言えなかった沙希は公に合わせてしまう。
「ハハハ。」
「フフフ。」 『あ〜ん。』
和やかな雰囲気?になったところで沙希が話を元に戻す。
「今回は残念だったけど、公くんなら絶対来年はもらえるよユニフォーム。」
「そうかな。」
ユニフォームを着た自分の姿を思い浮かべてみる。
「うん。いつも公くんの一生懸命な姿を見ていた私が言うんだから。あっ!!」
『言っちゃった〜』
恐る恐る公を見ると、なにか考え事をしているのか気づかなかったようだ。
良かったのか、残念だったのか複雑な気持ちだったが、いよいよ本題に入る。
「ねぇ公くん。」
「なに?」
「自主トレの前に夕食は食べているの?」
「いや、前は食べてからやってたんだけど、今は直接ここに来てるんだ。」
「そ、そうなんだ。」
ホントは分かっていたことだが、一応聞いておく。
「じゃ、じゃあ、お腹空くでしょ?」
「うん。でもしょうがないよ。」
「そ、そうね・・・・・・。」
平然と返されてしまい、次の言葉が続かない。
『根性よ沙希!!』
「じゃ、じゃあ、私がお弁当作ってこようか?」
「えっ?」
突然の申し出に呆気にとられる。
「あ、あのね。空腹のままじゃ集中できないでしょ?」
「うん。」
「え〜と、え〜と、怪我なんかしたら大変だし。」
「うん。」
「えっと〜。立ちくらみするかもしれないし。あれっ?何言ってるんだろ。」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきて、焦りまくる。
「と、とにかく、夕食に負担にならないように軽いもの作ってくるから。」
ドキドキと心臓の鼓動が聞こえ、逃げ出したい気持ちを抑えて返答を待つ。
「ハハハ。沙希ちゃんに作ってきてもらえるなんて大歓迎だよ。」
「ホント!?」
沙希の顔がパッと明るくなる。
「もちろん。正直言って、家に帰る時間が勿体ないから直行で来てたんだけど、
腹が減って困ってたんだ。」
「でしょう。フフフ。」
これで堂々とここに来る口実が出来た。
「よろしく頼むよ。さてと、練習再開だ。」
「そうね。ねぇ、見ていていい?」
「いいけど、退屈だと思うよ。」
「そんなことない。頑張ってる人を見ているのは全然退屈じゃないよ。」
真剣な顔で恥ずかしいことを言う。
「そう?なんか照れるなぁ。」
早速レイアップシュートから再開すると、沙希は終わるまで黙ってみていた。
ウィンターカップ予選が始まった。公が出ていない男子は放っておいて、
女子の方に目を向けてみましょう。
全国の常連である女子はベスト4まで危なげなく勝ち進んできた。
いよいよ実力伯仲の強豪校との戦いとなった。昨日の準決勝で、最近体育科が
出来て成長著しい旭学園を辛うじて退け、遂に今日の決勝を迎えた。
決勝の相手は永遠のライバル末賀高校だ。
詩織は今回も背番号12番でセカンドガードとしてベンチ入りしていた。
きらめき高校は残り時間2分04秒、45ー49で負けている。
両校ファールがかさむほどの接戦だ。
きらめき側の攻撃。ポイントガードを基点にボールをまわす。
「こっち、こっち。」
「戻して。」
きついマークがそれに合わせて張り付く。
ダンダンダンダン。
「奈津江。」
センターの奈津江にボールが渡る。
しかし、さすがの奈津江も、背が高いセンターが二人いるツインタワーの末賀
ディフェンスに手こずっていた。
「くっ。」
バシッ、ドンッ。
体のぶつかり合いで奈津江の体力は限界にきていた。
残り5秒になり苦し紛れにシュートを放つ。
ガンッ!!
無情にもリングに跳ね返され、ディフェンスリバウンドを捕られる。
「じっくりいくよ。」
末賀は残り時間を考えて、30秒ギリギリ使ってパスを回し、遅い攻めをする。
きらめきの選手がそのテンポの遅さにいらだち始めると、いきなりスピードを早める。
すると、それに対応しきれなかった選手がノーマークを作ってしまい、パスが通る。
「マズイ。」
パスが通った選手の一番近くにいたきら高のキャプテンであるガードが、シュート
体勢に入った選手に向かってファール覚悟でシュートブロックに跳ぶ。
ビー。
シュートはブロック出来たが、選手の手に触れてしまいファールを取られた。
キャプテンはこれで5つ目のファールになり退場となる。
「キャプテン!!」
「仕方ない。藤崎交代だ。」
すぐにコーチから指示が出る。
「はい。」
詩織はベンチから立ち上がり準備をする。
「藤崎ちょっと来い。」
「はい。」
「残り時間からみても早い攻めが必要になる。」
「はい。」
「オールコートで球を奪い取って速攻だ。おまえも積極的に打てよ。」
「はい。」
コーチの指示を聞き終わると、戻ってきたキャプテンとハイタッチをする。
「詩織、逆転するの期待してるよ。」
「はい!!キャプテン。」
力強く返事をしてコートに入る。
入るとすぐに、コーチからの指示を他の選手に伝える。
「わかったわ。」
「よしっ。」
「倒れるまで走るよ。」
「いくよ詩織。」
それぞれ気合いを入れてフリースローラインに並ぶ。
ピッ。
試合再開。残り時間1分05秒。
末賀のフリースローから始まる。
ガンッ!!
あまりの緊張からか2本とも外し、リングに弾かれたボールが宙に舞う。
「リバン!!」
奈津江がボールを捕るためにジャンプしてボールを手にした瞬間、詩織を除く
3人はゴールにダッシュする。
奈津江は着地すると、すぐに詩織にパスして自ゴールにダッシュする。
「速攻。」
詩織は抜群の瞬発力で一気にコートを走り抜ける。
ダダダダダダ!!
戻りきれていない末賀ディフェンスを一人かわす。
キュッ!!
二人目の目の前で急に足を止める。すると相手はそれについていけずに
バランスを崩す。
それを横目に奈津江がゴールに向かって走り込むと、詩織からのパスが入る。
ダンッ!
パスを受けた奈津江は、そのまま2ステップでレイアップにいく。
ザシュ!
「ナイシュー!」
47ー49。残り時間は45秒。
ここで末賀がチャージド・タイムアウトをとり、いったんベンチに戻りコーチの指示を
聞く。
試合が再開されると、詩織はすぐにボールを持つ選手に走り出し、ハーフラインを
超える前から激しいプレスをかける。
キュキュキュキュキュ!
さらにもう一人がつきダブルチームでボールを奪おうとする。
「しつこい。」
隙あらばスチールしようとプレッシャーをかけ続ける。
「くっ。」
『いまだ!!』
あまりのプレッシャーに耐えられなくなり、ほんの一瞬集中力が途切れた。
その一瞬を逃さずにボールに手を出す。
ビシッ!ドンッ!
かすかに当たった詩織の指が、垂直に弾んでいたボールの軌道を変える。
「ナイス詩織。」
素早く反応した3年生がサイドラインを超えそうになったボールに飛びつき詩織に
パスする。
走り出しながら前を見ると、ゴール前1対2の状況となっていた。
二人のディフェンスをかわしてシュートをしてもいいが、それだと49−49の同点だ。
チラッと時計を見ると残り時間は31秒。もう1回攻撃が出来る確率は低い。
そう考え迷いながらも、一人をバックロールターンで抜こうと身体を反転させ
後ろを向くと、先輩が走り込んで来るのが見えた。
「詩織。」
3ポイントを得意とする先輩だ。それに反応して、シュートしやすいようにパスをする。
ドン。
詩織の考えと同じだった先輩は、ボールを受け取ると迷わず3ポイントを放つ。
「いけーーー!!。」
「お願い、入って。」
ゴール目指して放たれたボールに向かって、詩織達選手、そして応援団全員の
思いが集中する。中には両手を組んで祈っているものもいる。
「入れーーーーーーー。」
ザシュ。
見事リングに当たらずネットを揺らす。
「やったー。」
あちこちで歓声が上がる。
50−49。ついに逆転した。しかし残り時間は21秒もある。
1ゴールを決める時間は十分にある。
「みんな気を抜かないで。」
詩織は末賀の反撃を食い止めるため、みんなに声をかけ、自分はすぐにボールを
持った選手をチェックに行く。
「行かせない。」
腕を使ってパスのコースをふさぎぐ。
時間が10秒を切った時、末賀のガードの選手が苦し紛れにパスを出そうとすると、
すかさず手を出してボールをカットする。
詩織は敵の横をすり抜けて、前に弾いたボールに素早く反応する。
そしてディフェンスが1人もいないゴールへ向かい、そのままレイアップシュート。
ダンッ、ザシュ!!
「ナイシュー。」
ピーーーーー!
掛け声と同時に試合終了のホイッスルが鳴る。
「詩織〜!!」
奈津江が詩織に抱きつくと、二人でピョンピョン飛び跳ねる。
「勝った〜。」
「うん。うん。」
終了の礼を済ませると、選手達が集まって監督を胴上げし、2番目には見事な
逆転劇の立て役者になった詩織がかつがれた。
宙に舞う詩織の笑顔は輝き、瞳からは涙が零れていた。
その場面を、公は観客席から見ていた。
「くそっ、俺も早くコートに立ちたい。詩織に負けていられない。」
直ぐにでも帰って練習がしたいと思いながら、グッっと握り拳を作っていた。
つづく
あとがき
みなさん、こんばんは。
第13話でした。
今回は詩織の活躍を描いてみました。
なんか凄かったですね。
バスケット経験者の方々。こんな試合の展開はあり得ない。
と思うかもしれませんが、目をつぶってください。
次はクリスマスです。
それでは、これからもよろしくお願いします。
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