「My wish・・・」

                   第14話 「クリスマス・イヴ 」

                                          第13話    目次へ戻る    第15話


 12月に入ると、イルミネーションでドレスアップされた街が普段よりも一層輝き、
 幸せそうなカップルが足を止めて巨大なツリーを眺めたりしていた。
 街ゆく人々皆がふわふわした気分で年に1度のイベントを楽しんでいた。
 そんな雰囲気の中、世間とは違った緊張感を漂わせ、きらめき高校女子バスケ部は、
 明日に迫ったウインターカップ本戦に向けて練習していた。
 大会が明日ということと、今日がクリスマス・イブということで、軽めの練習ではあったが。
 一方男子は惜しくも出場権を獲得することが出来なかった。残っていた就職組の3年生
 が引退して、次の新人戦に向けて新チームで動き出していた。
 年明け早々にも新レギュラーが発表される予定だ。

 今日は伊集院家でクリスマスパーティーが催される。もちろん詩織にも招待状が届いて
 いた。
 詩織は練習後、奈津江・恵と一緒にプレゼントを買いに駅前に来ていた。
「奈津江ちゃんは、今日のクリスマスパーティー出るの?」
 恵が、クリスマス用に飾られたショーウィンドウを覗いている奈津江に聞いた。
「わたし?ううん、出ないよ。」
「え〜!なんでぇ〜?」
「えっ?そ、それは。クリスマスは家族と過ごすって決まってるの家は。」
 少し動揺した奈津江を見て、詩織はピンときた。
「分かった。芹澤君と一緒なのね。」
「あっ、そっか。」
 恵は納得納得と頷く。
「ち、違うわよ!!」
「じゃあ、な〜に?」
 ちょっと意地悪っぽく返す。
「だから家族と・・・・・。」
「ハイハイ。」
「もう〜。」
 奈津江は顔を真っ赤にしている。
「かわいい、奈津江ちゃん。」
「知らない!!」
 プイッと顔を背けて拗ねる仕草をする。
「詩織ちゃんは行く?」
「うん。私は行くよ。」
「何着て行くの?」
「そうねえ〜。ドレスなんて持ってないし。」
 詩織も女の子。こんな時ぐらい、いつもよりもおしゃれをしてみたい。
「そういえば、伊集院君の方でドレスを貸してくれるっていうのを聞いたよ。」
「ホント?」
 ドレスなんて着たことがない詩織はぜひ着てみたいと思った、もし公が来るのなら
 出来るだけ綺麗な自分を見て欲しいから。

 その頃公は、冷え込む中自主トレをしていた。
「さむ〜。」
 さすがに外でやるには厳しい季節になった。かといって、他にバスケが出来る場所と
 なるとお金を取られることだろう。
「どうするかな。」
 今日は伊集院家のパーティーに出ることにしていたから早めに切り上げることにした。
 伊集院の招待というのは気にくわないが、詩織がドレスアップした
 姿を見たいと思い出席することにした。
「さてと、帰るか。」

 公園の外に、そんな公の様子を見ている女性の影があった。長い髪をなびかせて
 黒のベンツに乗り込んだ彼女は、公が帰る姿を目で追っていた

 午後6時、伊集院家の大広間でクリスマスパーティーが始まった。
 伊集院の嫌みな挨拶があったが、公は聞いていなかった。詩織の姿を探すのに夢中
 だったからだ。しかし、こう人が多いとなかなか見つからない。
 仕方ないので料理を皿に盛り、一人大広間の隅で黙々と食べていた。
「詩織は明日から試合か。」
 バスケットをやっている者にとって、ウィンターカップは一度は出てみたい大会だ。
 それに詩織は出場する。詩織に相応しい男になるという目標のためには自分もぜひ
 出たい。その為には練習あるのみなのだが、外の練習には寒さが身にしみるように
 なった。
「どうするかなぁ〜。」
 ブツブツと呟いていると。会いたくない奴が近づいてきた。
「やあ庶民。楽しんでいるかね。」
「何か用か?」
「いやいや。庶民はこのようなパーティーに慣れていないと思って心配でね。」
「余計なお世話だ。」
「ハハハハ。」
 これ以上嫌みなんか聞きたくないと、その場を立ち去ろうとしたとき。
「待ちたまえ庶民。バスケットの自主トレーニングは順調かね?」
「なっ!!何を言ってるんだ。」
「とぼけなくても結構だ。この街で僕がわからないことなどないのだよ庶民。」
「うっ。」
 こいつならあり得る。
 一番知られたくない奴が知っていたため、かなりのダメージを受けた。
「誰にも言ってないだろうな。」
「ハハハハ。安心したまえ。別に知りたい者もいないだろう。」
「そ、そうか。」
 何か引っかかるが、誰にも言っていないのなら問題はない。
「それはそうと、冬もまっただ中の今、外でやるのは辛かろう。」
「ああ。でも仕方ないことだ。」
「そんな庶民に良い場所をプレゼントしようではないか。」
「えっ?」
 伊集院がプレゼント?天地がひっくり返ってもありそうもないことを言われて、
 目が点になる。
「君が練習している公園の近くにあるスポーツクラブは知っているかね?」
「ああ。」
「あそこも伊集院家の物で、伊集院スポーツセンターとまではいかないが設備も
 なかなかいいぞ。」
「知ってるけど、毎日やってたら小遣いがなくなるからな。」
「ハハハハ。だからプレゼントだと言ってるだろう。冬の間だけ無料で使わせて
 やろうというのだ。」
「ホントか?」
「僕に二言はない。」
 それが本当なら願ってもないことだ。しかし怪しい気も拭えない。
「伊集院が男にそんな事するなんて、何を企んでるんだ?」
「失礼な。ただ、庶民が無駄な努力でどこまでいけるか見てみたくてねぇ。
 冬の間ろくな練習が出来なかったから、なんて理由が言えないようにしようと
 思ったのだよ。」 
「なにを〜。」
「顔パス出来るように手配しておくから存分に使いたまえ。ハハハハハハ。」
「くそっ・・・・・・、でも。」
 むかつくことは言われたが、あのコートをタダで使えるなんてラッキーだ。
 明日からは天候に左右されずに練習が出来る。そんな事を考えながら嬉しくて
 ニタニタしていると。

「顔が緩んでるわよ。」
「えっ?」
 声がした方に目を向けると、大胆に胸元が開いた鮮やかなブルーのドレスを着た
 詩織が立っていた。
「・・・・・・・・・・・・。」
「何よ?何か言ってよ公くん。」
「い、いや。あんまり綺麗だから、言葉が出なくて。」
「えっ?そんな・・・。照れるじゃない。」
 公の腕をはたきながら、頬を真っ赤に染めて下を向いてしまう。
「いやホント、マジで。」
「ありがとう。」
 公に誉めてもらってとびきりの笑顔になる。

「メリークリスマス、詩織。」
「メリークリスマス、公くん。」
チンッ。
 グラスの澄んだ音が心地よい。一口飲んで、もう一度詩織を見る。
「そ、それにしても。ゴクッ!」
 小声で呟きながら、目線がバストに向いてしまう。
「公くん?あ〜、どこ見てるのよ。エッチ!!」
 耳まで赤くして、腕で胸元を隠す。
「俺だって健康な男なんだから・・・・・。」
「フンッだ。」
「しおり〜。」
 情けない声で謝る。
「まあいいわ。許してあげる。」
「よかった。」
「変わりに教えて欲しいことがあるの。」
「何?」
「公くんはプレゼント何を持ってきたの?」
 出席者全員で行われるプレゼント交換の品を、必ず持ってくるようにと招待状にあった
 ため、公はなけなしのお小遣いで買ってきた。
「交換のやつ?内緒だよ。」
「教えてよ〜。」
「ダメダメ。楽しみが減るだろ。」
「むぅ!」
 頬を膨らませて拗ねてみる。
「拗ねてもダメ!ハハハハ。」
「ふふふふ。」
 やっぱり公といると楽しい。そんな事を思いながら雑談をしていると、奥の方に
 知ってる顔が目に入った。
「あっ、メグ。」
「メグ?」
「お友達なの。ちょっと行って来るね。」
「ああ。」
 話しかけてくる男を軽くあしらいながら、奥の方に歩いていく。

 そんな詩織を見ていると、沙希が近づいてきた。
「メリークリスマス、公くん。」
「沙希ちゃん。メリークリスマス。」
チンッ。
「沙希ちゃんはドレスじゃないんだ。」
 沙希は青が基調のセーターを着ていた。
「えっ?似合わないよ、ドレスなんて。」
「そうかなぁ。」
「スタイルだって良くないし。それより、今日は行けなくてゴメンね。」
「全然。今日はこれがあったし。毎日は大変でしょ。」
『自分のこと太っていると思ってるのかな?』
 結構気にしているのか、さらっと話を変えられてしまう。
『そんな事ないと思うけど。あっ、そうだ。』
 さっき伊集院に言われたことを、モノマネ付きでそのまま伝える。

「フフフ。へ〜、伊集院君がそんな事を?」
「そうなんだ。ホント嫌な奴だよ。」
「そうかなぁ。公くんの事心配してるんだよきっと。男の友情だね。」
「う〜ん。」
 いまいち納得できないが・・・・・。
「でも良かったね。」
「そうなんだけどね。」
 それからいろんな事を話していると、アッという間に時間は過ぎていった。
 そして最後に、プレゼント交換の抽選が始まった。

 会場のみんながステージの前に集まる。
「47番の方。」
「俺だ。」
 公がステージに上がる。
「この3つの中から好きなのを選んでください。」
「じゃあ・・・・・、これ。」
 ふたを開けると、中から出てきたのは可愛い水色の小さな巾着袋だった。
 元の所に戻ると沙希が見覚えのある箱を持っていた。
「俺のだ。」 「私のだ。」
 二人の声が重なる。
「えっ?」 「えっ?」
 またもや重なると、一瞬の沈黙の後、可笑しくて笑ってしまう。
「ハハハハ。」
「ふふふふ。」
 沙希が箱を開けると、コアラの絵柄のマグカップが入っていた。
「わあー、可愛い。」
「気に入ってくれた?」
「うん。」
「それと対のを俺も持ってるんだ。」
「ホント?じゃあペアのなんだ。ありがとう大事にするね。」
「良かった。で、こっちは。」
 巾着袋を開けてみると、中にはいろんな形のキャンディーが入っていた。
「もしかして手作り?」
「そうよ。」
「へー、お菓子作りも得意なんだ。」
「得意って程じゃないけど。」
 すぐ後ろでは、詩織が公のプレゼントを引き当てた沙希を恨めしそうに見ていた。
「ねぇ詩織ちゃん。目が恐いよ。何かあったの?」
「えっ?ああメグ、何でもないわ。」
 初めてみる詩織の表情に愛は驚いた。彼女でもあんな顔をするんだと。

 プレゼント交換が終了し、パーティーも終わりに近づいてきた。
 詩織は一緒に帰ろうと、公に話しかけようとした。
「あっ!」
「ねぇ公くん。一緒に帰らない?」 
 公に近づこうとしたら、沙希が公を誘っていた。
「公くん・・・・・。」
 公が沙希の誘いを断るわけがないと思い諦めようとしたとき、公の口から
 思いがけない言葉が出てきた。
「ごめん沙希ちゃん。先約があるから。」

「えっ?」
 断るなんて予想していなかった詩織は思わず声を出してしまった。
 しかし、先約というのは誰のことだろう。自分は約束していないのだから。

「そう。残念。」
「ごめん。」
「ううん、いいの。じゃあまたね。さよなら。」
「さよなら。」
 お互い手を振って別れる。沙希が外に出るのを見届けると、振り返った公が詩織を
 見つけて早足に近づいてくる。
「詩織、一緒に帰らないか?」
「えっ?だって先約って・・・。」
「先約?ああ、聞いてたのか。詩織が先約ってことだよ。」
「あっ。」
 自分のために沙希の誘いを断るなんて、目を見開いて驚き、そして心の底から
 嬉しかった。
「詩織?何かあるの?」
「えっ?」
 何を言っているの分からず聞き返してしまう。
「まだ返事聞いてないんだけど。」
「あっ!もちろんOKよ。」
「良かった。」

 すっかり暗くなった夜道を二人並んで歩いていた。隣を見ると月光に照らされた
 詩織の横顔があり。なんだか神秘的な感じさえした。
「明日からいよいよ始まるな。」
「うん。」
「今度もスタメンは無理っぽい?」
「そうね。まだまだキャプテンにはかなわないもの。」
「そっか。でも詩織が羨ましいよ。」
「えっ?」
「バスケットをやってる高校生の憧れ。インターハイとウィンターカップに1年から
 両方に出られるんだから。」
「そうね。幸運だと思うわ。」
 公に言われて改めて実感する。
「男子も、もう少しで行けそうじゃない。」
「そうだけど、俺がコートに立っているかは分からないからな。」
「公くんなら大丈夫よ。」
「ありがとう詩織。」
 たわいもない話をしながら歩いていると、いつしか家の前に着いた。
 公は、詩織が門を開けて中に入る前に呼び止めた。
「あっ、詩織ちょっと待って。」
「なに?」
 鞄を開けて何かを取り出した。
「メリークリスマス。」
 そう言って、綺麗にラッピングされた袋を差し出す。
「えっ?・・・・、ありがとう公くん。」
 自分のために用意してくれていたなんて、思いがけないプレゼントに驚く。
「ねぇ、開けても良い?」
「いいよ。」
カサカサ。
 中にはチェックの柄のヘアバンドと音符のブローチが入っていた。
「あっ!これ欲しかったの。」
「良かった。」
 詩織が喜ぶ顔を見ていると自分も嬉しくなる。
「あっ、私の方からなんにもない・・・・・。」
「いいよ。そんなの。」
「ううん。そういう訳にはいかないわ。何か欲しい物ない?」
「そうだなぁ〜。」
 公はちょっと考えてから、冗談半分に無理であろうことを答える。
「じゃあ。詩織のキスがいいなぁ、なんて・・・。」
 そう言い終わる前に、甘いような香りが鼻をくすぐり、
 左頬からやわらかい感触が全身に走る。
「あっ!」
「お・か・え・しふふふ。」
 耳元でそっとささやくと、門を開け、後ろにステップしながらドアの前に行き、
 胸の前で両手を小さく振ってから中に入る。
「お休みなさい。」
バタン。
 呆然としてしまった公は、詩織がドアを閉めてもういないのに、遅れて手を振る。
「ああ、お休み。」
 再び数十秒間ボーとしていると、突然に感情が戻ってきた。
「ハッ!!ヨッシャーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
 キスをされた頬に左手を当て、右腕でガッツポーズを作り喜びを爆発させた。
 詩織がキスをしてくれた。好意を持ってくれている?そんな事を思いながら。

 その声は近所中に響きわたり、部屋に戻った詩織の耳にも届いた。
「もう。公くんたら。」
 こんなに喜んでくれるなんて、私のこと好きでいてくれてるのかな?
 そう考えると嬉しかった。
「今はまだほっぺだけど、いつかは・・・・・。」
 二人の未来の関係を想像して微笑む詩織でした。

        つづく

  あとがき

 みなさん、こんにちは。
 第14話いかがだったでしょうか。
 今までで一番長くなりました。結構良い出来だと思ってます。
 
 僕はファッションに疎い奴なんで、服に関しては無知です。
 なので、表現のしようがありませんでした。
 申し訳ない。

 そして、今後伊集院の出番はあるのか?
 それは作者も分からない。(^_^;)

 それでは、次回お正月編をお楽しみに。

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