「My wish・・・」
第15話 「お 正 月」
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年も暮れ、慌ただしく1日1日が過ぎ31日の今日、虹野家では今年も母と娘でおせちを
作っていた。
「お母さん。黒豆はこんな感じでいいかな?」
「どれどれ」
鍋から一掴みして口にする。
「うん。いい出来じゃない」
「ホント?」
「もう1人で全部作れるでしょ沙希は。これでいつお嫁に行っても大丈夫ね。
いい人いないの?」
「えっ?」
冗談で言った言葉に反応して顔が赤くなってしまう。
「あら、好きな人いるの?付き合ってるなら紹介しなさいよ」
「そんなんじゃないったら」
「ふ〜ん、片思いか。頑張んなさいよ。あんたは奥手なんだから」
「もうっ、知らないっ!」
そう言って頬を膨らませる沙希だった。
「どうしても行かないとダメ?」
藤崎家では詩織と母がもめていた。元旦に田舎のおばあちゃんの家へ家族で行くという
母と、残りたいという詩織。去年は詩織も一緒に行っていたのだが、今年は事情が違う。
ウィンターカップではまたもや3回戦の壁を破れず敗退してしまい、ちょっと落ち込んで
いたときに公から電話が来て初詣に誘われていたのだ。高校生になって初めて公が
誘ってくれたことですっかり舞い上がっていた詩織は今年もおばあちゃんの家に行くと
いうことを忘れていたのだ。
「公くん絡みなんでしょ」
「う、うん」
「それでもダメ」
「えーーーーー!」
3日前から抵抗していたのが、母には逆らえない詩織は結局一緒に行くことになった。
「あ〜あ、初詣一緒に行けないって電話しなくちゃ」
部屋に戻った詩織はすぐに子機を取って、短縮の1を押した。
おせち作りも一段落して、沙希は自分の部屋で、公のクリスマスプレゼントであるコアラ
のマグカップにコーヒーを注いで一口流し込む。
「うふっ!お・そ・ろ・い」
頬ずりなんかしてみる。
「な・に・を・し・て・い・る・の・か・なぁ」
年末ということもあり、5日までは自主トレは休むと言っていたので、それまでは会う
理由がない。昨日から何度も初詣に誘おうと子機を取ったが、今まで1度もかけたこと
がない公の家の番号を登録している短縮1を押すことが出来なかった。
「ううん。このままじゃダメ。もっと積極的にならないと」
再び子機を取り、背筋をピンと伸ばして姿勢を正す。
「えいっ!!」
ピッ!
一大決心で1番を押す。
公は詩織からのキャンセルの電話を受けて落ち込んでいた。
「あ〜あ、明日空いちゃったな」
小学5年生までは親同伴だが一緒に行っていた初詣に、5年ぶりに二人きりで行ける
と思っていたのに。
電話を切った途端ベットに倒れ込んだ公は、子機を持ったまま天井を見上げて
いた。と、その時手の中の子機が鳴った。
「ん?」
すぐに応答ボタンを押す。
「もしもし」
「わっ、はやい」
1コールで出たものだから名前も言わないでしまう。
「もしもし?」
「あっ、虹野ですっ」
「沙希ちゃんか、何?」
「えっとね。・・・・・今日はいい天気だね」
「えっ?雪降ってるけど・・・」
「そ、そうね。えっと、・・・・・今日は何してたの?」
「いや、これといって何にも。掃除くらいかな」
「お手伝い?偉いね」
「なんてことないよ」
「・・・・・・・・」
会話が途切れて、沙希にとって嫌な沈黙が流れる。
『根性よ沙希!!』
心の中で活を入れる。
「あ、明日は何か用事、ある?」
「明日?何にもないよ。詩織と初詣に行こうと思ってたんだけど、詩織が行けなくなった
から好雄でも誘おうかなって」
「そ、そう」
『藤崎さんを誘ったんだ。やっぱり公くんは藤崎さんを・・・・・』
このままではいけない。ここで根性を出さないでいつ出すんだ、という思いで次の
言葉を切り出す。
「じゃ、じゃあ、私と一緒に行かない?」
「沙希ちゃんと?それはいいけど」
「ホント?やったーーーーー」
あまりの嬉しさに、突然大声を出してしまった。
「わっ」
「あ、ごめんなさい」
「ビックリした〜。じゃあ、明日の11時に迎えに行くから」
「うん。待ってる」
「じゃあ」
「じゃあね」
ピッ!
「よしっ!」
とうとう二人きりでお出かけする事が出来る喜びでガッツポーズを作る。
「やった。やった。うふふふふふふ」
そしてそのまま妄想モードへ突入してしまった。
年が明けて1月1日元旦、9時40分。夜更かししたためやっと起きた公は、
パジャマのまま下に降りる。クリスマスプレゼントで使い込んだ為、今日の
初詣の資金さえないのだ。
「まずは軍資金を貰わないとな」
ドタドタと階段を降りて居間に入り、開口一番に出た言葉は。
「かあさん。お年玉!」
パーン。
頭のてっぺんから足の先まで衝撃が走る。
「いってー。何すんだよ」
目の前にはハリセンを持った母が立っていた。
「年が明けて最初に親にかける言葉がそれ?情けない。明けましておめでとう
くらい言えないのあんたは」
「いいじゃんか」
パーーーーーン。
今度は側頭部に入り、左耳から右耳にかけて振動する。
「いってーなもう・・・・・・。明けましておめでとう」
ブルブルと頭を振ってから答える。
「よろしい」
そう言ってお年玉袋を差し出す。
「サンキュウ、母さん。」
パーーーーーーーーーーン。
顔面直撃の一発が入り、鼻血が出そうになった。
「ありがとう、でしょ!」
「顔はやめて、顔は」
ゴッ!
鈍い音がする。
「柄はやめろ、柄は。あ〜もう、ありがとう!」
「よろしい」
「なんて親だ」
小声でぶちぶち言いながら中を開けると3万円も入っていた。
「こんなに?」
「家は親戚周りとかしてもお年玉をあげる子が少ないし、あんたはついてこない
から貰うことも出来ないからね。バイトも出来ないし」
「ありがとう。かあさん」
ヘヘー、と頭を下げながら、今度は心の底から言葉が出てきた。
おせちを食べてから部屋に戻り、出掛ける準備を始める。あと30分後には
沙希を迎えに行かなくてはならない。
虹野家の前に着いた公は立ち止まった。自主トレの後はいつも送っていたので、
家の前までは来たことがあるが、中に入るのは初めてなので何だか緊張して
しまう。
ピンポーン
「はーい」
沙希の母親の声がして玄関が開く。
「あなたが主人さん?」
「はい、そうです。沙希ちゃ、いや沙希さんの同級生で主人と申します。
あっ、明けましておめでとうございます。」
「おめでとう。沙希はもうすぐだと思うから、ちょっと待っててね」
「はい」
直立不動の姿勢で答える。
「沙希〜、彼氏が来たわよ〜」
「えっ?」
沙希は自分の部屋で準備をしていると、チャイムの音が聞こえた。
普通の女子高生からすると数少ない服の中から、どれを着ていくか悩んでいた
沙希は、下着姿で、あれにしようか、これにしようかとやっている内に公が来て
しまったのだ。
「わーーー、来ちゃったよ。どれにしようかな〜。もういいや、これ!」
やっと決まって急いで着ようとすると、下からとんでもない声が聞こえてきた。
「沙希〜、彼氏が来たわよ〜」
「な・な・な、♂◇□♀@△◎▽」
母の突然の言葉にパニック状態になった沙希は、真っ赤になり言葉にならない
音を発しながら着替えるのも忘れて階段を駆け下りる。
ダダダダダ!!
「なに言ってるのよお母さん」
「何って、彼氏ってこと?」
「そうよ!そんなんじゃないんだから」
「じゃあ、これからなる」
わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
母親と沙希の声が重なる。
「公くん、気にしなくて良いからね。って、公くん?」
公を見ると、顔を真っ赤にして呆然としている。
「どうしたの公くん」
何かあったのかと母の方を見ると、自分を指さしている。
「えっ?」
「あんた、自分のいまの格好分かってんの?」
「かっこう?」
首を傾げて下に目をやると、そこには服はなく下着姿の自分が写っていた。
一気に血の気が失せて一瞬呆然となり、すぐに今度は顔をトマトのようにして
悲鳴をあげる。
「きゃーーーーーーーーーーーーー」
バッっとしゃがみ込んで、きゃーきゃー言ったかと思ったら、突然公の両目に
自分の手かぶせるて足をドタドタと交互に踏む。
「見ないでーーーーーーーーーーー」
「わわわ」
「沙希、公くんが困ってるでしょ。ごめんなさい公くん。後ろ向いてもらえるかな」
「はい」
目を瞑ったまま回れ右をしてドアの方を向く。
「ほら沙希、さっさと着替えてきなさい」
「う、うん」
ダダダダダダ!
今度は駆け上がって部屋に入る。
「ホホホホホ!ごめんなさいねぇ、はしたない娘で」
「い、いえ」
「それにしても、沙希も成長したわねぇ。胸はまだまだだけど、ねぇ公くん」
「そうですねって、いえいえ」
「ふふふ。でも、もうちょっと大きくなると思うから安心してね」
そう言って自分の胸を指さす。
「はあ」
そんなことを話していると、着替え終わった沙希が降りてきた。
「お待たせ。さあ、行きましょう」
「うん」
「行って来ます。お母さん」
「はい、行ってらっしゃい」
公は一礼して外に出る。
バス停までの間気まずい雰囲気が流れたが、沙希が口を開く。
「ねぇ、お母さん何か言ってた?」
「えっ、何も言ってないよ」
公の態度から、なにかあると思った沙希だが、きっと恥ずかしいことだろう
から問いつめるのはやめた。
「そ、そう」
「うん。なんにも」
そう言いながら沙希の方を見ると、下着姿を思い浮かべてしまう。
『全然太ってないよ。ドレス似合っただろうに』
パーティーの事を思い出す。
『それに、ぽっちゃりしてるのも良いかも』
などとスケベなことを考えていると、顔が緩んできた。
「公くん?エッチなこと考えてるでしょ」
そんな公の顔をのぞき込んで突っ込みを入れる。
「えっ?あっ、その〜。あっ、もうすぐバスが来るよ。急ごう」
「もうっ」
うまく?はぐらかされたが、見られたのが公だったから、まあ良いかと沙希は
思った。
『別の意味で気になる存在になったのかな?』
などとも考えた。まだまだ余裕があるようです。
二人はバスで、ここら辺では一番大きいきらめき神社に来た。夏祭りで来た
ところだ。
「さすが元旦は混んでるなぁ」
「そうね」
「沙希ちゃん、はぐれないように手を繋いでいこう」
「えっ?そ、そうね」
ギュ!
公は沙希の手を強く握りしめた。
「・・・・・。あったかい」
「えっ?」
「ううん。何でもないよ」
公の暖かくて大きい手に握ってもらうと、なんだか心まで包まれている
ような感じがして心地よい気がした。
やっとお参りが出来る所まで来た二人は、5円玉のお賽銭を入れて両手を
合わせる。
パンパン。
『早くレギュラーに成れますように。そして詩織と・・・・・』
『サッカー部が国立競技場に行けますように。それと、公くんと相思相愛に
なれますように。』
「よしっ、行こう。おみくじ引こうか」
「うん」
再び手を繋いで歩き出す。
「ねぇ、公くんは何をお祈りしたの?」
「え?も、もちろんレギュラーに成れるようにだよ。沙希ちゃんは?」
「私は、サッカー部が国立に行けるようにって」
「さすがマネージャーの鏡」
「そんな事ないよ。あとねぇ〜」
公の方を向いて思わせぶりに言う。
「ん?まだあるの」
「あるけど内緒!」
「そこまで言ったら教えてよ。気になるじゃない」
「下着姿を見たお返し」
「そんなぁ〜」
「ふふふ」
カランカランとくじを引き、バイトのお姉さんからおみくじを受け取る。
「なんて書いてるかなぁ」
沙希はドキドキしながらくじを見る。
「中吉かぁ」
迷わず恋愛のところに目をやり真剣に読む。すると「思い人に急接近するかも
しれない」みたいなことが書いてあった。
「ふむふむ。」
「沙希ちゃん?」
それを読みながら妄想モードに突入してしまう。
『今日は恥ずかしい姿を見られたけど、いつかはその先も・・、えへへへへ』
「お〜い。あ〜あ、いっちゃったよ。しばらくそっとしとこう」
何回か同じことがあり、最近は慣れてしまった公は、しばらくの間沙希の
百面相を眺めていた。
「そろそろいいかな?」
ポンッ!
「ハッ!!」
軽く肩を叩くとどうやら我に返ったようで、目をパチクリさせる。
そして公は、何もなかったかのように言う。
「お守りでも買っていこうか」
「そうね」
沙希がお札売場で何を買おうか迷っていると、服が引っ張られる感じがした。
「ん?」
後ろを振り返ると小さな男の子が立っていた。
「なあに?僕」
「ママ〜」
今にも泣きそうな顔で言う。
「ええっ?」
「さ、沙希ちゃん。こ、こんなに大きな子供がいたんだ」
公はまるで、「衝撃!!虹野沙希には子供がいた!!」というスクープを目撃
したように真顔で言う。
「えっ?えっ?」
そんな訳がないのは本人だから分かっているのだが、公に言われてパニック
になる。
「な〜んて、冗談だよ、冗談」
「えっ?あっ、そうよ。ビックリした〜。もうっ、意地悪ね!!」
腕を叩いて反撃する。
「ママ〜」
さらに服をグイグイ引っ張る。
「どうやら迷子みたいだ。迷子センターなんてあるのかな。ここ」
「う〜ん。一緒に捜してあげましょうよ」
「そうだね」
公は男の子から、名前と母親の特長を聞いてから境内を捜し歩いた。
こう人がいると何時間かかるのかと覚悟していたが、1時間位で見つかった。
母親も子供の名前を叫びながら必死に探していて、その声を偶然聞くことが
出来たからだ。
捜し回っている間、ぐずついて座り込んだり、泣き出したりするのを沙希が
慰めながら歩いた。最後の方は歩き疲れたのか、泣き疲れたのか、眠ってし
まったのを公がおぶっていた。
そんな子供を見つけると母親はしきりに頭を下げ、二人に何度もお礼を言った。
神社からの帰り道、沙希は昔の事を話し始めた。
「私も子供の頃に迷子になったことがあるの」
沙希が4歳の頃、母親の買い物にデパートへついて行ったときの事。
ちょっと目を離した隙に、途中にあったおままごとセットを見るため母親から
離れた事がある。母が気が付き、あそこだろうとおもちゃ売場に行ったとき
には沙希の姿はなく、自分が来た道も分からないのに一人母親を捜しに歩いて
いたのだ。
「あの時はすごく恐かったのを覚えているわ」
「ふ〜ん」
「でね、何分位経った頃だろ、ぐずぐず泣きながら歩いていたら、今の私たち
みたいに一緒になって捜してくれたお兄さんがいたの」
「うん」
「その時はすごく嬉しかったし、安心したわ」
「そうか、だからさっき子供の気持ちがよく分かってたんだ」
ぐずつく子供を慰めている時の沙希の表情を思い出して考える。
自分も小さい頃に同じ目にあったとして、あの沙希の目を見たら、そして心に
触れたなら、きっと安心するのではないかと。
なんだか母性というか何というか、そういう一面を見ることが出来て、
無意識のうちに沙希を見る目が変わってきている公だった。
つづく
あとがき
こんにちは、第15話でした。
今回は沙希を気になりだしている?公を書いてみました。
いかがでしたか。
詩織がリードしているとの感想を頂いたので、
沙希の出番をちょっと増やしてみました。
次はいよいよ「バレンタインデー」です。
次回をお楽しみに。。