「My wish・・・」
第16話 「バレンタイン・デー」
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とうとう2月になった。2月と言えばそう、女の子にとって大事なイベントで
あるバレンタインデーが迫ってきている。
部活が終わった日曜日、詩織は部屋でベットにうつ伏せになって、手作り
チョコレートの本を読んでいた。
「今年は気合いを入れないと」
ふと昔のことを思い出す。小学4年生の頃から周りの目もあって、他の子に
あげるのと同じ義理チョコを公に渡していた。しかし今年は違う。
「手作りチョコで、言葉に表せない私の気持ちをちょっとでも察してもらえた
ら良いんだけど」
最近は詩織からも積極的に話しかけていたからか、前みたいなよそよそしさは
無くなっている。
「いい感じなのよねぇ。でも、まだまだ仲良しって程度だし。だから初詣は行き
たかったのに」
公がやっと誘ってくれたのに、事情があるとはいえ断ってしまったことを
今でも悔やんでいる。
「今度は私が誘ってみようかな」
そんな事を考えながら、また本に集中する詩織だった。
1月、2月のバスケ部は、ウィンターカップの熱も下がらないまま、そのまま
新人戦へと突入する。新生バスケ部にとって、とても重要な試合である。
女子はウィンターカップ出場校なので地区予選が免除されているから、県大会
からの出場となった。その県大会の決勝が昨日行われた。
男子女子共に決勝戦に進出したきらめき高校は、女子の優勝は当然としても、
男子が準優勝を果たすという好結果を残した。
男子が新人戦で準優勝したのはこれが初めてであり、インターハイ常連の
末賀高校に肉薄しての2位なので、夏は優勝も夢ではないと言うバスケ関係者
もいた。
年の初めに発表されたベンチ入りメンバーの中には公の名前もあった。
しかし、残念ながら地区大会から通して出番はなく、決勝戦も公の姿はずっと
ベンチの中にあった。
二週間後にある関東大会に向けて今日も自主トレに励む公は、伊集院のプレゼ
ントである体育館で汗を流していた。
「休憩しよう」
一息ついて腰を下ろす。
「お疲れさま」
沙希がタオルとドリンクを持ってきて渡す。
「ありがとう、沙希ちゃん」
「昨日は残念だったね」
試合を見に行っていた沙希は、公の出番を心待ちにしていた。
「ああ。でも初めてだもんな県の準優勝は」
「うん。それに関東大会で出番があるかもしれないしね」
「だといいんだけど」
「今日はベーコンとツナのピラフを作ってきたの。食べてみて」
「いつもありがとう。いただきます」
「どう?」
「うん、美味い。このツナが好きなんだ俺」
バクバクと勢い良く食べる。
「それと、ピリッと効いたカレー味がいける」
「ふふ。良かった」
こんな風に二人の時間をたくさん持つことが出来ている沙希であったが、
公にとっての自分は、ただの仲の良い友達に過ぎないと感じていた。
実際今はそうであるのだが。
2月14日のバレンタインデーには手作りチョコをあげて、少しは意識して
もらいたいと燃えていた。初詣のあれは抜きにして・・・・・。
問題はバレンタインデーが日曜日で、しかも13・14日が新人戦だという
ことだ。勝ち進めば14日にも試合がある。
観戦に行こうかとも思ったが、ちょっと無理っぽい。14日も自主トレをする
のか、それが問題だ。
その頃伊集院家では、レイがチョコレート作りの練習のため厨房にいた。
当然いままで料理などしたことがないレイは、本番に向けて特訓を始めようと
していたのだ。
「お嬢様、私どもが作りますから」
それをメイド達が、レイの手を取り止めに入っていた。
「何を言っているの?これだけは自分で作らないと意味がないのよ、あなた達も
女なら分かるでしょう?」
「それはそうなんですが」
「だったらその手を離しなさい!」
「は、はい。分かりました」
レイの言葉に圧倒されて思わず手を離すが、手伝いだけはさせて欲しいと願い
出る。
「分かったわ。わからないところは聞くから、一人だけついていてちょうだい」
「ありがとうございます」
さて、うまくいくのでしょうか。
そして2月14日、いよいよ関東大会も最終日を迎えた。
女子の新チームでスタメンガードとなった詩織だが、昨日優勝候補の清和高校
に敗れていた。惜しいところまでは行ったのだが6点差の惜敗だった。
一方男子は、今回が全国デビューにもかかわらず、僅差ではあるが準決勝に
進出した。今日の相手は優勝候補の羽田中央だ。インターハイ常連の羽田には
到底勝てるとは思えないが、諦めずに頑張ろうとみんなで気合いを入れた。
今日も公は控えのシューターとしてベンチに入っていた。
新チームのガードとしてスタメンを獲得した木本は、ここまで好調を持続させ
てきた。木本のお陰でここまでこれたと言っても過言ではないのだが、
その木本のパスも羽田中央には通用していないように見えた。流石に全国常連
の強豪であり、今までの相手とは格が違う。勢いで勝ち上がってきたきらめき
高校はまだかなわなかった。
後半も17分が過ぎて、88−60と大差がついていた。
ガンッ!
「リバン」
きらめきのシュートが外れて、弾かれたボールに選手が跳ぶ。
しかし、身長が2mを越すという羽田のセンターに奪われる。
「ナイス、リバン」
「くそっ!たけーよ」
センター同士の争いは、力に加えて、位置取りでも試合開始から負けていた。
「戻れーーーーー」
今までの相手ならディフェンスも通用していたが、羽田の高さを利用した
立体的なオフェンスにやられていた。
「シュートくるぞ」
中に切れ込んできた選手のシュートを止めるためブロックショットに跳ぶ。
バッ!
「ドンピシャ!あっ」
タイミングぴったりだと思ったらシュートをしないで後ろにパスを出す。
それを羽田中央主将である森川が受け取り、そのままダンクにいく。
ガコン!!
「よっしゃーーーーーー」
応援団から歓声があがり、会場も盛り上がる。
「これで30点差か」
「ああ、もう無理だ」
「何言ってるんですか、負けて当たり前、諦めずに終了まで頑張ろうって言って
たじゃないですか」
「そうは言ってもな、木本」
ビビーーー
きらめきがタイムアウトをとる。
「どうだ羽田は」
コーチが選手に聞いてくる。
「どうだって、何もかも上ですよ」
「高いし、速いし」
「そうか。木本はどうだ」
全面的な信頼を置いている木本にも感想を聞く。
「はい。やっぱり今の段階ではあっちが上です」
「そうか」
終了3分前で30点もの差がついていては、そう言うしかない。
「よしっ、全員今後の課題が浮き彫りになっただろ。あと3分は木本、おまえに
任せるから、好きにやって良いぞ」
「ホントですか?」
「ああ、今のきらめきを引っ張っているのは、お前なんだからな」
「じゃあコーチ、主人を入れてください」
「えっ?」
その会話を聞いていた公は思わず声をあげてしまった。
みんなが公の方を見る。
「なに?主人を」
「はい。先輩達も怒らないで聞いてください。新チームになって俺のパスを基準
にして練習してきましたが、今の時点では公だけが俺のパスを引き出すことが
出来るんです」
「うむ。そうだな」
コーチの目も節穴じゃない。確かに木本のパスを受けるときの公の位置取りは
非凡なものがある。ただシュート率がいま少しなのだ。
他の選手も、公の成長ぶりと木本とのコンビネーションは認めていた。
「シュートの事を気にしてるとは思いますが、今の俺の最高のパスが羽田に通用
するのか主人で試してみたいんです。主人の経験にもなります」
「わかった」
「ありがとうございます」
「主人!準備は良いか?」
「うっス」
ビビーーーー
試合再開のブザーが鳴る。
「遂にこの日が来た」
詩織に相応しい男になるために入部して10ヶ月、とうとう試合に出ること
が出来る。ここで良いところを見せて認めてもらわないと。
普通ならガチガチになりそうなものだが、不思議と緊張はしていない。
負けが決まった試合だからなのかプレッシャーはない。むしろワクワクして
いるくらいだ。自分がどれ程の実力なのかを確かめるために。
「公、リラックスしていけ。期待してるぞ」
「木本。ああ、どんどん来い」
詩織達女子は観客席で応援をしていた。30点も差がつき、流石に勝ちは諦め
ていたが、頑張っている男子に向かって声援を送っていた。
詩織はタイムアウト中、じっと公を見つめていた。
「公くんの出番はないのかなぁ」
とブツブツ呟いていると、公がジャージを脱ぎ始めた。
「あっ!」
コーチに肩を叩かれてコートに入っていく。
『やったね、公くん』
他の女子に聞こえないように心の中で祝福する。
きらめきボールで試合が再開される。
羽田は1−3−1のゾーンディフェンスできらめきの攻撃を抑えてきた。
30点の差があるため、公が入ってもこれまで通りの陣形のようだ。
「いくぞ」
ダンダンダン!
木本がボールを持って進む。
木本のパスは相手の一瞬の隙をついて通すキラーパスのため、受け取る選手は
ただ惰性的に動いていてはダメだ。ディフェンスの動きや考えを見抜いて、
通常ならパスが出そうもないところや、タイミングを自分で作らないといけない。
そこに木本は確実にボールを出すのだ。これは難易度がかなり高いが、公には
出来る。天性の感とでもいうのか、相手の嫌なところを探す嗅覚が他の選手よ
りも秀でているのだ。
『1−3−1か』
公は相手ディフェンスの動きを観察しながら隙を探し、木本はパスをまわして
隙を作り出そうとする。
「戻して」
木本にボールが戻った時、それに合わせて変化するディフェンスの動きが
一瞬遅れた。ゴール下に隙が出来る。
『ここだ』
公はその一瞬を逃さずゴール下に走り込む。
『ヨッシャー!いけ公!』
ズバッ!
ボールが空気を切り裂いて公の手元に送られる。
「うわっ!」
驚いた羽田のセンターが、慌ててシュートコースをふさごうとするが、
公は鋭い突っ込みでそれをかわし、力一杯跳ぶ。
バッ、ドンッ!
「なに?」
176cmの身体が空を飛ぶように高く舞い上がり、ボールを持った腕を伸ば
すと、305cmもあるリングの所まで届いた。
ガシャン!
「ナイッシュー、公」
「ダンクだと?」
羽田だけでなく、会場にいるみんなが驚き一瞬静まり。そして、ドッと歓声が
起こる。
「ヤッター!!公くん」
詩織が興奮して、立ち上がって声を上げる。
「詩織?」
ディフェンスのため自陣に走っていた時、その声を聞き分けた公が、きらめき
の応援席を見る。そこには、両手をブンブン振る詩織の姿があった。
それを見てガッツポーズで答える。
『公くん。初得点おめでとう』
結局残り3分で、木本から公へのパスは5本とおり、公はそれを全部決めた。
練習では決めたことがないようなものもあった。どうやら公は、本番で力を
十二分に発揮するタイプのようだ。これでコーチの考えも変わった。
試合には負けたが、きらめき高校としては今後の方向が見えた有意義な試合
だった。
新幹線で戻ってきて駅で解散したため、公は詩織と一緒に帰ることにした。
当然公のデビューが話題になる。
「おめでとう公くん」
「ありがとう、詩織」
「あのコーチ、もっと早く公を出してれば勝てたかもしれないのに」
「いや、俺の力じゃまだまだだって」
「そうかなぁ」
詩織はまだ興奮が冷めずに力説している。
「今日は出られただけで十分だよ」
ちらっと公の横顔を見ると、ホントに満足げな顔をしている。
「でも」
すぐに真剣な顔になって言う。
「次のインターハイ予選ではスタメンをもぎ取ってみせる」
「うん。そうだよ」
そんな公を見てると昔を思い出す。何にでも諦めずに一生懸命だった頃を。
『真剣な顔の公くんって素敵〜〜〜』
少し暗くなってきたので見えないが、顔を赤くしている詩織だった。
試合の事を話していたら、興奮のあまりチョコレートを渡すということの
ドキドキを忘れていた詩織は、家の前に着くと思い出したようにバッグから
綺麗にラッピングされた箱を取り出し公に渡した。
「はい、公くん。バレンタインのチョコレート」
「えっ?」 『そう言えば今日はバレンタインだった』
ここ数年縁がなかった公は、すっかり忘れていたのだ。
「これを俺に?」
「もちろんよ」
「ありがとう、嬉しいよ」 『やったーーーーーー』
「一応手作りなのよ」
「手作り?」
心の中の感激が一気に冷めて顔が曇る。
「なあに、その不信そうな顔は」
詩織の料理の腕は文化祭のクレープで見直したが、まだちょっと疑っていた。
「そんな顔するようならあげないわよ」
チョコを取り返そうと手を伸ばすと、公は大きく手を振り上げて避ける。
「とんでもない。ありがたく頂きます」
「ならよろしい。ふふ」
「ハハハ」
可笑しくて二人とも笑い出す。
「公くん。私以外から貰ってないよね」
「ああ。残念ながらね」
昨日からの試合で学校にも行ってないし貰う機会がなかった。まあ、行ったと
しても貰えるとは思っていないが。とはいっても、表向きは残念そうに言う。
「残念そうね。で・も・ね」
「うん」
「そ・れ・で・いいのよ」
顔を近づけ、迫力ある低い声で言う。
「う、うん」
公はその気迫に押されて、思わず返事をする。
「わかればよろしい。じゃあ、また明日学校で」
「あ、じゃあ」
お互い手を振って別れた。
いつもの体育館には沙希の姿があった。
「公くん来るかなぁ」
今日の試合を気にしながらも、徹夜で作ったチョコレートをカバンに忍ばせ、
胸の高鳴りを聞きながら公を待っていた。
とその時ドアが開いて公が入ってくる。
「公くん!!」
「あっ、沙希ちゃん。チューッス!」
「ふふ、チューッス」
練習後に今日の試合のことを聞いた沙希は、まるでそこにいるかのように興奮
していた。そして、公の晴れ姿?を見ることが出来なかったとしきりに悔し
がった。
「初の公式戦の初得点がダンクなんてスゴイネ!」
「ハハ、まぐれまぐれ」
「ううん、ずっと見ていたからわかるの。すっごい上達してるよ」
「ありがと」
「でね。そんな公くんに、ご褒美をあげます」
カバンから取り出して差し出す。
「はい、チョコレート。手作りなのよ」
「えっ?」
義理チョコぐらいは貰えるかな?と思っていた公は、手作りチョコをくれる
なんて考えもしなかったため、しばし呆然としてしまう。それと。
「公くん、どうしたの?」
さっきの詩織の言葉がふと頭をよぎったが、お世話になっている沙希からの
贈り物を断るわけにもいかない。
「ありがとう、沙希ちゃん」
「良かった」
顔をほころばせる沙希を見ていると、こっちも嬉しくなる。
「ん?」
そんな沙希の目を見ると、なんだか赤いようだ。
「沙希ちゃん、目が赤いよ」
「えっ?うん。サッカー部のみんなの分も作ったから徹夜しちゃって」
昼間に部活があった沙希は、部員全員にチョコを配ってきていた。
「サッカー部全員の分を?」
「うん」
「全部これと同じものを?大変だ」
「ううん。それは公くんだけ。特別製よ」
「そうなの?」
公はちょっと感動した。そりゃあ詩織も手作りのをくれたんだから、同じくら
い手間をかけてくれたんだし、なによりも詩織からなんだから嬉しいに決まっ
ている。問題は詩織以外の女の子から貰ったというところにある。
ただ、そこで普通なら自分に気があるのでは?という疑いを持つのだろうが、
そこは主人公、ご褒美という言葉を真に受けているため、感激はするものの、
俺のことが好きなのか?なんて事は微塵も感じていないようだ。公相手には、
ズバッっと直球勝負をしないとダメですね。
そして、沙希を送る途中のこと。
「今日の出番は最後の3分かぁ。でも次はスタメンを狙うよ」
「そうよね」
歩きながら、「頑張ろう〜」と腕を上にかざす。
「そこで明日から沙希ちゃんにお願いがあるんだけど」
「なぁに?」
「試合を想定して、パスを受けてからシュートするっていうのをやりたいんだ」
「なるほど。私は何をすればいいの?」
なんて言いながら、運動が得意でない沙希はちょっと不安になる。
「沙希ちゃんには、軽くでいいからパス出しをして欲しいんだ」
それなら出来そうだと思い、パッと顔を輝かせた。
「軽くで良いの?分かったわ。役に立てるならそのくらい」
「ありがとう」
沙希を家まで送り帰ってきた公は、貰ったチョコレートを取りだそうとバック
を開けた。すると、もう1つ見たことがない包みが入っていた。
「なんだこれ?」
手に取ると、見た目はちょっと悪いが挟まっていたカードには「主人公様へ」
と書いてあった。どうやらチョコレートらしい。
「誰だ?」
カードには自分の名前しかなく、誰からのものか分からなかった。
不審に思いながらも3個目のチョコレートをゲットした公だった。
つづく
あとがき
みなさん、こんにちは。
新人戦の部分も書いたためちょっと長くなりましたが、
バレンタインのお話でした。
中身については、今回は詳しく書いていません。
せっかく恥ずかしい思いまでしてチョコの本を買ったんだから、
来年のバレンタインか、番外編で細かく書くつもりです。
バスケの方は、これからの活躍にご期待下さい。
次は、ホワイト・デーと誕生日です。
それでは、次回をお楽しみに。