「My wish・・・」
第17話 「ホワイト・デー」
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寒さも和らぎ春が近づいてきた3月、もうすぐ公達も2年生になる。公は授業
が終わった後、教室で今までのことを振り返っていた。
詩織に相応しい男になるためにバスケット部に入って、もうすぐ1年になる。
新生バスケ部になって初めての大会でベンチ入りする事が出来た公は、スタ
メンを目指して毎日のように自主トレを続けてきた。一人だとつまらなかった
かもしれない自主トレも、虹野沙希のおかげで楽しいものとなっていた。
最近はシュート確率も全角度で70%前後いくようになったし、自信もついて
きていた。
『詩織のために頑張ったけど、沙希ちゃんにも世話になったよなぁ』
「おい」
毎日のように作ってきてくれるお弁当やおやつも楽しみの1つとなっていた。
沙希にはお世話になりっぱなしだなぁと考えていたら、明後日がホワイトデー
だということを思い出す。
『詩織にお返ししないと。キャンディーでいいんだっけ?沙希ちゃんにもしない
と、それに』
「おいっ」
あの差出人不明のチョコレート、中身はお世辞にも美味しいとは言えなかった
が、作った娘の一生懸命な思いは伝わった。
「なんとかお返しできないかな」
日曜日に買ってこようと決めた時、隣からの呼び声にやっと気が付いた。
「おいっ!!」
「んっ?」
見ると好雄が恐い顔をしてこっちを見ていた。
「なんだ好雄」
「早く気付っちゅーの」
裏拳で突っ込みが入る。
「わりーわりー、考えごとしてたんだ」
「お返しのことか?」
「ああって、何で知ってるんだ」
「自分で言ってたぞ今」
「なんだ。超能力でもあるのかと思った」
「んな分けないだろ!」
もう1発入る。
「あ〜あ、いいよなぁ〜お前は。そんな悩みが持ててよ」
好雄が恨めしそうにぼやく。
「ははは、そっか好雄は貰えなかったんだもんな」
「笑うかそこで。なんて奴だ」
「悪い。来年は貰えるように頑張れよ」
「へっ!よけいなお世話だ」
「まあまあ」
肩に手をやりポンポン叩く。
「そうだ公、おまえチョコのお返しもいいが、なにか忘れてないか?」
「忘れてる?なにを」
何のことかまったく分からずにキョトンとなる。
「3月18日だよ、18日」
「何かあったか?」
「詩織ちゃんとお前の誕生日だろ〜が」
「んっ?そうか。すっかり忘れてた」
「かーーー、これだからな〜お前は。忘れるなよなぁ、こんな大事なこと」
額に手をやり、後ろに上体を反らしながら大げさに言う。
「サンキュー好雄。恩に着るよ」
そう言って部活へ行くために席を立つ。
「ああ、がんばんな」
14日の日曜日、午後の部活の前に駅前へ買い物に来た公は、ホワイトデーの
お返しを買った後、欲しいCDの発売日が昨日であったことを思い出し、CD
売場に来ていた。
「えっと、【イブニング娘。】は〜、あった。これこれ」
平積みにされた新譜CDの山からお目当てのCDを見つけて、満足げにレジへ
持っていこうとした時、隣の棚にクラシックCDの新譜をみつけた。
「これ、詩織が前に話してた楽団のCDかな?」
以前思い切って誘い一緒に帰ったときに、詩織が話していた事を思い出す。
「昨日出たんだ・・・・・、これをプレゼントにするか」
そう思い財布を確かめると、残念なことに3,900円しか入っていなかっ
た。これでは2枚買うことは出来ない。
「しょうがない」
考えるまでもなく自分のは諦めて、変わりにKNM交響楽団のCDを取って
レジに向かう。ふと時計を見ると12時を回っていた。
「やばい」
急がないと部活に間に合わない。CDを受け取ると、バス停に向かって走り
出した。
部活の間中、詩織はあることが気になってそわそわしていた。もちろん公がお
返しをくれるかということだ。
練習が始まる前に公に会った時は挨拶だけで何もなかった。
「公くん。忘れてないかなぁ」
公ならあり得る。それに最悪なのは、分かっててくれないことだ。なんだか
心配になってきた詩織は、練習に身が入らなかった。
「詩織?」
「ん〜?」
練習中に奈津江が話しかけても、ずっとなんだか上の空だった。
「ダメだわ、こりゃ」
午後4時、部活が終わった。詩織は帰り道に賭けるしかないと思って、公と
一緒に帰るため校門の前で待っていた。
「来た」
数分後、公が走って来るのが見えた。
「はあ、はあ。ここにいたのか」
よっぽど急いでいたのか、膝に手をつき肩で息をしている。
「女子に聞いたらもう帰ったって聞いたから」
「公くん、私のために。ごめんね」
自分のせいで走らせる羽目になった公を見てすまなそうにする。
「ううん、待っててくれたんだね。行こう詩織」
「うんっ!!」
いつもの帰り道を仲良く並んで歩く。詩織は以前よりもちょっとだけ二人の
距離を縮め、いつホワイトデーの話しになるのか心待ちにしていた。
「新しいレギュラーメンバーはどう?」
「うん。いい感じだよ」 『まだかな〜』
「この間は惜しかったよな。清和っていえば全国上位の強豪だけど、6点差だも
んな」
「うん。ホントに強かったよ。まだ余力を残してる感じもしたし」
「そうなのか?う〜ん、まだまだ勝つには練習しないとな」
「そうだね」 『まだかな〜』
話をしながら、胸の高鳴りがドキドキと治まらなかった。
「あっ、そうだ詩織」
「なぁに?」 『あっ、いよいよね』
遂に来たかと心躍らせ、パッと顔を輝かせて公の方を向く。
「この前言ってたCDもう買った?」
「えっ?・・・・・・・CDってKNM交響楽団の?」
全然違うことを聞かれて、公の方を向きながらガラッと表情が変わる。
「そうそう、それ。どうしたの、疲れた顔しちゃって」
「ううん、何でもない。CDはまだ買ってないよ。今月はお小遣いが苦しくて。
もうすぐ今月分貰えるし、ちょっと我慢してるの」
気を取り直して答える。
「そっか、良かった」
「それがどうかしたの?」
「いいのいいの、忘れて」
「変なの」 『違ったよ〜、ねぇ忘れてるの〜?』
いつもの詩織なら公と自分の誕生日のことを思い出すのだが、今はそれどころ
じゃないようで、まったく気が付かなかった。
そんなこんなで、ホワイトデーの話がでないまま家に着いてしまった。
『着いちゃったよ〜』
「じゃあね詩織」
「うん。また明日」 『行っちゃうよ〜』
バタン。
詩織ちゃんピーンチ。公はそのまま家に入ってしまう。
「え〜、そんなぁ〜!!」
詩織は門にもたれて、顔を上げ天を仰ぎ、瞳には涙が浮かんでいた。
「私のチョコ、あんなに喜んでくれてたのにお返しがないなんて、私の事なんて
どうでもいいのかなぁ。グスッ」
今にも泣きそうになった時、公の家から大声が響いてきた。
「しまったーーーーー、詩織ーーーーーーーーーーーー」
ドンッ!!
勢い良く開け放たれるドアの音がする。
「えっ?」
顔を上げて公の家の方を見ると、公が玄関から飛び出してきた。
「公くん?」
詩織は涙を見せないために、すばやく目元を拭ってからポストの蓋を閉める
振りをして、今から中に入るような演技をする。
「あっ、詩織。ちょっと待って」
「なぁに公くん」
何事もなかったかのよに平然と答える。
「これを渡すの、すっかり忘れてたんだ」
「あっ!!」
公の手には一目で分かるものがあった。詩織が欲しかったものが。
「はい。チョコのお返しのキャンディー。詩織?」
それを受け取ると、せっかく見せまいとしたのに、自分の意志とは裏腹に
瞳からは大粒の涙が零れた。
「詩織さん?」
「遅いよ公くん。私のことなんて、どうでもいいのかと思ったじゃない」
そう言いながら近づき、頭を公の胸に預ける。
「わわわ、ごめん詩織」
「許さないわよ。グスッ」
「しおり〜」
「もうちょっとこのままでいて」
公は詩織の肩を掴んでそっと引き寄せると、そのままの体勢で泣きやむのを
待った。しばらくすると、顔を上げた詩織が今度は微笑みを浮かべていた。
「ありがとう、公くん」
「こっちこそ。おいしかったよチョコ」
「良かった」
「じゃあ、明日」
「うん」
泣いた後とは思えない軽い足取りで、詩織は笑顔で家の中に入っていった。
午後6時、いつもの体育館に行こうと公は家を出る。今度は忘れまいと、
バックに包みを2つ入れた。
「もう暖かくなってきたから、そろそろ公園に戻るかな」
そんなことを考えながら自転車を走らせた。
スポーツクラブに着くと、今日は他の利用者がいなく、体育館の中はシーンと
していて、ボールをつく音が心地よく鳴り響いた。
沙希の姿はまだなく。今日のおやつを期待しつつ自主トレを始める。
フリースローが終わりかけた頃、バスケットを手にした沙希が元気良く入って
きた。
「やってるかね〜」
「オッス!!コーチ」
「ふふふ」 「ははは」
沙希が来たところでパス出しをしてもらい、振り返ってからのシュート練習
に進む。元気なときに入るシュートよりも、疲れているときのシュートこそ
入れなければならない。相手が目の前にいるイメージをして黙々とこなす。
「ラストだよ」
ドンッ!
沙希からのパスを受け取り、180度回転して素早くボールを放つ。
「シュッー」
バサッ!
「ナイシュー」
沙希の掛け声が体育館内に響く。
「お疲れさま。はい、タオル」
「サンキュー」
バサッっと、公の頭にタオルが舞い降りる。
今日は日曜なので、お弁当ではなくおやつの日だ。
「今日は何かな?」
「ふふ。今日は、パイナップルのホットケーキと100%ジュースでーーーす」
「パイナップルの?」
「そう。パイナップルの輪切りに、ホットケーキの素をまぶして焼いたものよ」
バスケットから小さなお皿とフォークを出して、ホットケーキを乗せる。
「どうぞ」
「いただきます」
モグモグ。
「どう?」
「うん。うまい」
「ホント?」
「この甘いケーキの生地に続いて出てくる、パインの食感と酸っぱさが良いよ」
「良かった」
バクバクバク。
公はどんどんたいらげていく。そんな喰いッぷりのいい公を見て、沙希も幸せ
を感じた。
「ふふ。そんなに慌てなくても」
10分もすると、全部お腹に入れた公が満足げにジュースも飲み干した。
「ふう。おいしかった。ご馳走様でした」
両手を合わせて一礼する。
「お粗末様です」
一息つくと、数分間静かな時が流れる。沙希はこの時が好きだった。楽しく
お喋りをするのも良いが、こういった時が止まったような安らかな感じもいい
ものだ。
そこに公が何かを思いだしたように声を発し、また時が動き出す。
「そうそう、また忘れるところだった」
そう言って立ち上がる。
沙希の元に戻ってきたとき、公の手にはリボン付きの箱あった。
「はいこれ、チョコのお返し」
「えっ、私に?」
「もちろん。チョコ美味しかったよ」
「うん。その言葉が一番嬉しいよ」
沙希は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「そんなに喜んでくれるなんて。照れちゃうなぁ」
「そうだ。私も思いだした。公くんのお誕生日もうすぐでしょ?」
ホントは忘れる訳がないのだが、白々しく言う。
「うん。なんで知ってるの?」
「えっ?あの〜。早乙女君が言っていたのよ」
「ふ〜ん」
「プレゼント楽しみにしていてね」
「えっ、ホント?悪いなぁ」
「ううん」
「沙希ちゃんの誕生日っていつなの?」
「わたし?私は1月13日よ」
「えっ?過ぎちゃったね。ごめん。知らなかったんだ」
両手を合わせて謝る。
「いいのよ。知らなかったんだから。来年期待してるから」
「うん。分かったよ」
休憩後の自主トレも終わり、公は更衣室で帰り支度を始める。
「う〜ん。このキャンディーどうするかな?」
最後に残った包みを見ながら、どうすれば本人に届くのか考える。
「ん〜」
ここは伊集院家専用の更衣室だから、ここに置いてあったバックに入っていた
ということは、この部屋に置いておけばその娘が見つけてくれるかも知れない。
そう結論を出した公は、机の上にキャンディーとメッセージカードを置く。
【見知らぬ女の子へ
チョコレートありがとう。美味しかったです。
これはお返しです。】
「これでいいかな」
電気を消し更衣室を出て、沙希の待つ所へ急ぐ。
しばらくすると、どこから繋がっているのか、更衣室の壁からドアが現れ
机の上にあった包みががなくなっていた。甘い香水の香りを残して。
3月18日、公は詩織にCDをプレゼントした。非常に喜んでいた詩織は、
「来年は一緒にお誕生日会をやりましょう」なんて言っていた。
そして、詩織からはイブニング娘のCDを、沙希からはイニシャル入りの
リストバンドを貰った。
つづく
あとがき
こんにちは。第17話でした。
最後は誕生日をかなり簡単に書きました。
ネタを来年に取っておくためですのでご了承下さい。
公達もやっと2年生になります。
必然的にキャラが増えますが、さばききれるのか俺。
では、第18話「新学期」でお会いしましょう。