「My wish・・・」

                     第18話 「新 学 期」

                                       第17話    目次へ戻る    第19話


 通学路の桜並木も満開になり、いよいよ新学期が始まった。
 公はその桜の下を、これから始まる2年生としての学校生活のことに思いを
 馳せながら校門に向かって歩いていた。
 すると、後ろからトタトタと誰かが走ってくる音がした。
「むっ!」
 一瞬なんだか嫌な予感がして、とっさに前屈のように頭を前に倒す。
ビュン!
 その上を何かが通り過ぎる音がしたかと思ったら、目の前で誰かが立ち止まっ
 た。
「なんだ今のは?」
「すごーい。優美ボンバーを避けた人、先輩が初めてです」
 女の子がパチパチと手を叩く。
「いやー、それ程でも、って君は誰だ?」
 見ると、ポニーテールのまだ幼い顔をした少女が立っていた。
「えーーー、優美を知らないんですかぁ?優美は先輩のこと知ってるのに」
「いや、そんな事言われても・・・」
 なんだか自分本位な事を言われて困っていると、後ろから聞き覚えのある声が
 聞こえてきた。
「優美〜、いきなり走って行ったかと思ったら、何やってんだ」
「もうっ!やめてよ、お兄ちゃん」
 好雄が頭を手で抑えながら言うと、少女はその手を払いのける。
「お兄ちゃん?」
 隣に並んだ好雄と少女の顔を見比べると、確かに二人は似ている。
「お前の妹か、その子」
「ああ。あれっ?言ってなかったっけ?」
「言ってないぞ」
「今日からきらめき高校に通うことになった、早乙女優美ですっ。よろしく主人
 先輩」
「なんで俺の名前を」
「こいつバスケット部に入るんだ」
「去年の文化祭で主人先輩を見ました」
「なるほど」  
「先輩かっこ良かったですよ」
「そうかい?」
 いきなりあんな事をされたのも忘れて、鼻の頭を掻きながら照れ隠しをする。
「うん」

チリンチリン、チリンチリン。
「やばい、予鈴だ」
「急ごうぜ」
「おう。じゃあ、部活で」
「うん」
 公と好雄は優美と別れて、自分たちの教室へと向かう。
「おい、公」
「ん?」
 好雄が走りながら話しかけてくる。
「お前、優美に気に入られたみたいだな」
「そうなのか?」
「ああ、大変だぞーーーあいつのお守りは」
「お前が言うか、そういうこと」
「兄の俺が言っちゃう程大変なんだって」
 首を振りながら、溜息混じりに言う。
「う〜む。肝に銘じておくよ」


 初日の今日は、午前中にクラブ勧誘のオリエンテーションをし、午後の部活
 では仮入部の新入生が早速体育館に集まってきた。
 男子25人、女子15人の希望者が集まり、その中には優美の姿もあった。
 これから5日間は、自分が本当に選んだ部活動を続けていくことが出来るかの
 判断をするための体験期間となる。
 男子女子からそれぞれ1人担当をつけて、2・3年生とは別メニューで練習
 する。

 公は、女子の1年生の中でも一際背の低い優美のことを見ていた。
 今は軽くミニゲームをやっているようだ。
「おっ!!」
 背の高いセンターのマークをフェイクでかわしてシュートする。
ザシュッ!
「おーーー、なかなかやるじゃないか」
 などと感心していると、コーチから怒鳴り声が掛かった。
「ぬしびと〜、何やってるんだ。よそ見してるんじゃない」
「ハイ。スミマセン」
 公は気を引き締めなおして練習に集中する。


「あー、今日も疲れたなぁ」
 練習が終わると、陽が沈みかけ辺りは薄暗くなってきていた。
 そんな中、公が疲れた足を引きずりながら校門へと歩いていると、後ろから
 声が掛かった。
「せんぱーい」
「んっ?」
 振り返ると優美が走ってくるのが見えた。追いついた優美は公と並んで歩く。
「早乙女さんか」
「ぶーーーーー」
 優美は頬を膨らませて、明らかに不満そうな顔をしている。
「どうかした?」
「先輩、優美のこと早乙女じゃなくて、名前の方で呼んで下さい。じゃないと
 泣いちゃうから〜」
「はぁ?ああ、わかったよ」
 こんなことで泣かれても厄介なので、あっさり了承する。
「じゃあ優美ちゃん。なにか用?」
「えへへ。先輩、一緒に帰りましょ?」
「別にいいけど」
「やった〜」
 優美はピョンピョン跳ねて喜ぶ。

「そうそう、さっきチラッと練習見たけど、凄いじゃないか。感心したよ」
「そうですか?照れるなぁ〜」
「中学でも結構いいとこ行ったんじゃないの?」
「え〜っと、県大会のベスト4が最高かなぁ〜」
「ホント、凄いな」
「えへへ」
 公に誉められてよっぽど嬉しいのか、練習の疲れも吹っ飛んで、疲れて重い足
 が軽くなったように一定のリズムを刻む。

 校門に近づいてきたとき、公は門の所に詩織の姿を見つけた。
「詩織」
「公くん、一緒に帰らない?」
 優美の方をチラッと見てから、普通に切り出す。
「ダメですよ〜、先輩は優美と一緒に帰るんです〜」
 詩織と公の関係を知らない優美は、公の腕を取って意地悪く言う。
「あっ、優美ちゃん」
 腕を引っ張られた公は困った顔をする。
『うわっ、詩織の目が恐い』
『む〜!』
 優美は公の顔を見ていたので気付かなかったが、詩織は優美を睨んでいた。
「あ〜と、優美ちゃんも一緒だけどいいかな」
「えーーーーー」
「構わないわよ」
 優美の声に内心煮えくり返っているが、ここは先輩の余裕?を見せるために
 平然とした態度で答える。
「優美ちゃん。俺と詩織は幼なじみで家が隣なんだよ。だからいいかな?」
 詩織の態度にちょっとビクビクしながら、優美に了解を得る。
「そうなんですかぁ?う〜ん。先輩がそう言うならいいです」
「そっか、じゃあ行こうか」
『良かった〜』
 三人は公を挟んで並んで歩く。
『この娘、初日から公くんを誘うなんて、良い度胸してるわね』
『藤崎先輩って、ただの幼なじみなのかなぁ〜。先輩のこと好きなのかな〜』
 公はこの時点で、さっきまでの緊張が解けまったく気にならなかったが、
 何気ない会話の中にも、詩織と優美の間には緊張した雰囲気が流れていた。
 それを、優美の言葉が更に深刻なものにする。
「先輩。今度の日曜日暇ですか?」
 優美は公の前に回り込み、後ろ歩きをしながら公の顔をのぞき込む。
「日曜?」
『えっ?』
 詩織が驚いて優美の方を見るが、優美は構わず公に問う。
「暇なら〜、映画に行きませんか?」
「映画か、う〜ん」
『一緒に帰る上に、私の目の前で公をデートに誘うなんて』
 この1年間自分が出来なかったことをあっさり実行している優美を、
 憎くも羨ましくも思いながら、じっと公の返事を待った。
『私以外の女の子と、二人きりでデートなんて許さないわよ〜』
「ねぇ、先輩いいでしょ〜」
 駄々をこねる子供のような声でもう1度聞く。
「う〜ん」
『早く断りなさいよ〜』
 無言のプレッシャーを掛ける。まあ、公は気付いていませんが。
「う〜ん。ごめん優美ちゃん。その日は先約があってダメなんだ」
「えーーーーー、そんなぁ」
『ホッ!よしよし、良かった〜』
 表向きは顔色1つ変えずにこのやりとりを聞いていたが、安心した詩織は二人
 に聞こえないような小さな溜息をついた。
「ホントごめん」
 両手をあわせて謝る。
「じゃあ、いつかどこかに遊びに行きましょう」
「ああ、わかった」
「約束ですよ〜」
 優美は約束を取り付けたので、渋々引き下がった。

 途中で優美と別れ二人きりになった時、詩織は優美に対する公の本心を
 探るため、冗談気味に切り出した。
「良かったわね〜、あんな可愛い女の子にデートに誘われてぇ〜」
「な、なにを言ってるんだよ詩織」
「ふ〜ん、どうなの?まんざらでもないんじゃない?」
 と言いながらも、心臓はバクバクと高鳴っている。
「なに言ってんだか、なんとも思っちゃいないよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
 公の目を見ると嘘は言ってないようだ。公が嘘をつくと目を背ける癖がある
 のを詩織は知っている。
『良かった』
 今度は心の底から安堵する。

 家も近づいてきたとき、公の口から意外な言葉が出る。
「詩織、今度の日曜日暇か?」
「うん。特別何もないけど、なに?」
 先ほどの話から公には用事があると思っていたから、頭に?マークが付き
 首を傾げる。
「そうか、じゃあどこか遊びに行かないか」
「えっ?じゃあ、さっきの先約って言うのは」
 何を言っているのか察知した詩織は、満面の笑みを浮かべて次の言葉を待つ。
「ああ、詩織を誘うって決めてたから」
「そうだったの。嬉しい。もちろんいいわよ」
「そっか、良かった」
 何かイベントがあるとき以外は、詩織を誘うことなんてなかった公だが、
 この間の大会でデビューできたから、思い切って誘ってみることにしたのだ。
「じゃあ、中央公園にお花見に行きましょう」
「うん。いいね」
「私、お弁当作っていくわね」
「ホント?楽しみだなぁ」
 最近は詩織の料理の腕も認めた公は、素直に喜びを言葉にする。
 そんなこんなで家に着いた二人は、手を振って別れた。


 その夜の詩織は、部屋でベットに入るまで顔が緩みっぱなしだった。夕飯の時
 には母親に突っ込まれてしまいあわててしまった。
「ふふふ、公くんとデート、デートだよーーーーー」
 小さな声で呟きながら浮かれまくりの詩織は、優美のことなど頭にはなく、
 まだまだ先の日曜日に気持ちが飛んでいってしまっていた。
「公くんと二人きり、そしてそこで二人は・・・・・」
 などと様々なことを妄想しながら、幸せそうな顔で眠りにつく詩織だった。

 優美は好雄から、詩織のことを聞いていた。詩織の優秀さは嫌と言うほど
 分かったが、それでももし公のことが好きならば、引き下がるつもりはない。
「負けないんだから〜」
 この恋実らせてみせる。と燃え上がった優美は、その闘志を今は好雄に向かっ
 て放出していた。
 その夜早乙女家からは、いつにも増して苦しそうな叫び声がこだましていた。

 一方沙希は、優美のことを聞き悩んでいた。優美のことは何とも思っていない
 と公は言っていたが、この先どうなるのかは分かったもんじゃない。
 それに、この先も公が活躍する度にファンが増え、中には好きだという子も
 出てくるのだろうか、という心配も出てきた。
「公くん」
 沙希は、いつか両思いに成れる日を思いながら眠りについた。



 5日後、仮入部期間が終わった。バスケット部には男子8人、女子10人の
 1年生が残り、正式な部員となった。
 そして、簡単な自己紹介から部活が始まった。
 
「早乙女優美ですっ。中学ではスモールフォワードをやっていました。好きな
 ものは漫画とゲームとプロレスで、得意技は優美ボンバーですっ」
 優美の自己紹介にクスクスと笑いが起こった。
「早乙女さん。優美ボンバーって何なの?」
 ある先輩が面白がって優美に質問すると、みんなは内心笑いながら返答を
 待ったが、公だけはドキリとなった。
「それはですねぇ〜」
 優美は、隣で次の順番を待ちながら緊張している男子の1年生を見てニコッと
 笑う。
「よけろ1年」
「えっ?」
 公の叫び声の甲斐なく、優美ボンバーが発動する。
「これでーーーす」
 180度回転しながら腕を振り上げ、回転式の優美ボンバーが炸裂する。
ガーーーン!!
バターーーン!!
「わーーーーー、大丈夫か1年」
 そんな騒動も、詩織は冷静に見ていた。

 今日の練習は新入生の実力を見るため、1年と2・3年生の混合チームを
作って紅白戦が行われた。女子の方では、優美が詩織と同じ組で出ていた。
ドンドンドン!
「いくよー」
 詩織がボールを運びながら1年生の動きを見る。特に優美の動きを見定める。
 今のところは公の気持ちは優美には向いていない。この先もそんなことは
 させないつもりだ。しかし恋愛と部活動は別物だから、そこら辺の私情は挟ま
 ないで真剣に取り組む。
 その目で見ても、小柄からか優美のフットワークは良く、オフェンスの早い
 動きにも何とか対応しているようだ。

 中学時代の優美は県大会ベスト4の経験もあるとおり、素早い動きで相手を
 かく乱するプレーで結構有名だった。
 しかし、流石は全国レベルのきらめき高校、そんな優美もついていくのに苦労
 していた。
『高校は違うなぁ〜』
 心の中で感心しながら、それでも所狭しと動き回ってパスを待っていると、
 ディフェンスに隙が出来る。
「前が空いた」
 と呟いた瞬間に声が掛かる。
「早乙女さん、カットイン」
 そこに詩織からパスが入る。
『きた!わっ、早いよ〜』
 詩織の早いパスに何とか反応しボールを受け取った優美は、隙が出来た所に
 ドリブルで割って入る。
「早い」
 カバーに入った2年生の顔に風を残して抜き去り、そしてシュート。
ザシュ!
「やったーーーーー」
『藤崎先輩か、すごいパスを出す人だなぁ』
 自分が見定めた所にバッチリのパスが来たのだから、ちょっと驚いた。
 好雄の言うとおり運動神経は抜群のようだ。
「ナイシュー」
「やるわね」
 今の鋭いカットインは目を見張るものがあるし、手加減なしの自分のパスに
 反応したのも大したものだ。
「詩織、やるじゃないのあの1年」
「そうね」
 奈津江も感心したようだ。レギュラーにはまだまだだが、戦力になる素質は
 十分のように感じた。

「おりゃーーーー」
ドンッ!
 一方男子の方では、大声を張り上げてリバウンドに跳ぶ長身の1年生がいた。
「あいつなかなかやるじゃないか」
 公が木本に話している。
「そうだな」
 この間の大会で浮き彫りになった弱点の1つに、センター不在というのがあった。
「まだまだ覚えることは沢山あるけど、見込みはありそうだ」
「さすが言うことが違うね、来年のキャプテン候補は」
「茶化すなよ公」
 お互い小突き合いながら笑う。すぐにインターハイ予選はやってくる。

     つづく

   あとがき

 みなさん、こんにちは。
 第18話でした。

 とうとう優美が入学してしまいました。
 思い人が4人になってしまいましたが、
 果たして動かしていけるのか?

 次はデートの話か、書けるかな。
 ちょっと不安です。

 それでは、これからもよろしく。

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