「My wish・・・」

                     第24話 「迷探偵みのり」

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 ここはサッカー部の部室。今日もマネージャーの仕事を終えた沙希とみのりは
 後片づけを済ませ、更衣室で帰りの準備をしていた。
「ねえ、虹野先輩」
「なあに?みのりちゃん」
ジーーーー
 カバンのジッパーを閉じながら答える。
「駅前においしいケーキ屋さんが出来たんですよ。これから一緒に行きませんか」
「えっ、これから?」
 ピタッと手が止まる。
「なにか用事があるんですか?」
「えっ?え〜と、今日お夕飯の当番なのよ」
 ドアの方に後ずさりしながら答える沙希の顔は、焦っているように見える。
カチャ!
「それ、この間も言ってませんでしたか?」
「えっ、あっ、その〜、とにかくダメなのよ。ゴメンねぇ〜」
バタン!
 最後の方はドアをくぐりながら、申し訳なさそうに出ていった。
「むむむ、やっぱりあやしい」
 みのりは2ヶ月前に見た光景を思い出す。
 部室棟の脇で沙希と話していた男、確か主人公と言ったか。後でクラスメートである
 早乙女優美から聞いた話だと、バスケット部のエースでこの前の予選で
 も大活躍したらしい。惜しくも全国への切符は逃したが、人気上昇中なんだと自慢気
 に言っていた。
「今晩、優美に電話してみよう」


 みのりは夕飯を済ませ、部屋に入ると持ってきた子機の短縮ボタン3を押す。
ピッ、ピッ、・・・、トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル、カチャ
「はい早乙女です」
 お兄さんだろうか、男の声がする。
「あの、秋穂と申しますが、優美さんいますか?」
「秋穂?ああ、優美のクラスメートの。たしかみのりちゃんだよね」
「ええ、そうですけど」
「ちょっと俺の質問に答えてくれるかな」
「は?嫌です」 『なぁに?いきなり』
「まあまあ、そう言わずにさ。まず、最近凝っていることは?」
「だから嫌ですってば!!」 『しつこいなぁ』
「じゃあ、今好きな人はいるの、ワッ!!グワーーーーー!!」
「何をやってるのよ〜」
 足にタックルして前のめりに倒した好雄に、サソリ固めをかける。
「優美に来た電話でしょ?何話し込んでるのよ。ウォー、ウォー!」
「ギブギブ!分かった、変わるからやめろって」
 床をバンバン叩いて、ギブアップする。
『何やってるのよ』

 観念した好雄は受話器を渡して2階に退散する。
「もしもし、優美で〜す。誰ですか〜」
「終わったの、優美?」
「なんだみのりか、何か用?」
「なんだとはご挨拶ねぇ。まあ、いいけど」
 きらめき高校に入学してすぐに友達になった優美には、時々電話して何でもない
 長話をすることがある。今日は明確な質問があったので、早速切り出す。
「ねえ優美、主人先輩の事なんだけど」
「先輩のこと?」
「うん。その先輩って恋人いるの?」
「先輩に?私だよ」
「ええっ、ホントなの?」
 みのりは予想していなかった答えに驚く。
「これからなる予定なの〜」
「なんだ。これからなら全然違うじゃない」
「絶対なるんだもん!」
「はいはい。で、いるの?いないの?」
 呆れて相手にしてられないという感じだ。
「ぶ〜、ふんだ。ホントはいないよ」
「いないのか」
「うん。優美とは一緒に帰ることはあっても、寄り道とかしないし」
「ふむふむ、それと」
「あーーー」
「わっ、なになに?」
「プロレス中継が始まっちゃう〜、じゃあね、みのり」
プツッ、ツー、ツー、ツー
「あっ、優美!もうっ」
 恋人はいなくても、好きな人ならいるんじゃないかと聞こうと思ったのだが。
「そこまでは知らないか。優美のお兄さんなら知ってるかな?」
 好雄の噂は聞いている。なんでも、男子の間では愛の伝道師で通っているらし
 い。それに公の親友だとも優美が言っていたのを思い出す。
「あの人なんか苦手なんだけど。しょうがない、聞いてみようかな」


 次の日、休み時間に好雄を捕まえたみのりは、公の事について質問した。
「公に好きな人がいるかどうかって?」
「はい。是非教えて下さい」
「みのりちゃんも公のことが気になるのか。あいつ〜」
「いえ、私は何とも思ってないですよ」
 大袈裟に手を振って否定する。
「ホントかなぁ。じゃあ何で」
「いいじゃないですか〜」
「う〜ん。気になる娘はいるみたいだけど」
「誰なんですか?」
「それは秘密だよ」
「え〜、教えて下さいよ」
「ダメダメ、俺の信用に関わるからな、聞きたいことはこれだけ?」
「は、はあ」
「じゃあ用事があるから行くわ」
「あ〜、待って下さいよ」
 みのりの止める声も聞かずに行ってしまった。
「う〜ん。気になる娘かぁ。それが虹野先輩だったら、どうしてくれよう」
 公に対して敵対心を持ったみのりの目は、メラメラと燃えていた。


 それからというもの、みのりは学校にいる間中、時間が空くごとに公の事を
 遠くから見張っていた。
「う〜む」
 公が話す女子と言えば、やはり詩織が一番多い。一時期二人は恋人同士かという
 噂が流れたが、こうしてみると、今のところは幼なじみ程度の仲の良さにしか見えない。
 公の人気の盛り上がりも一段落していたので、詩織も元に戻ったからだ。
 どうやらあの騒ぎも一過性のものだったらしく、挨拶程度はするが、言い寄ってくる
 女子はいなくなっていた。
「どうなってるのかな、あの二人」


 みのりは再び沙希を誘ってみた。
「虹野先輩、今日は空いてますか?」
「えっ?ごめんなさい。今日もダメなの」
「・・・・・、そうですか」
「じゃあねみのりちゃん、また明日ね」
「はい。お疲れさまでした」
「お疲れさま」
バタン
 みのりを残して行ってしまう。
「こうなったら尾行するしかないわ」
 みのりはすぐに部室を出て、沙希の姿が見えるところまで走り出す。
 すぐに沙希の後ろ姿を見つけ、今度は一定間隔をあけてゆっくりと歩く。
「まさか、あの人と一緒に帰ってるなんて事は・・・・・ないのか」
 校門を出ても公の姿は見えない。付き合ってるのなら、待ち合わせて帰るのかと
 思ったのだが、どうやら違うようだ。
「まだまだ安心できないわ」
 更にみのりの尾行は続く。


 沙希の表情は明るく、なんだか新婚の奥さんみたいです。
「さてと、今日は何にしようかなぁ〜」
 沙希の足は帰り道にあるスーパーマーケットに向かっていた。毎朝冷蔵庫を確認して、
 材料がないときは、こうして買い物をするのが習慣になっていた。
 毎日のように差入れをするようになって半年以上が経った。最初のうちは公と自分の
 小遣いで作っていた。しかし高校生の小遣いなど長続きするものではなく、
 小遣いがなくなりかける頃には、虹野家の冷蔵庫が空になるスピードが早くなるという
 怪奇現象が起きた。ついでに主人家のお米も。
 母親に見つかったときは、それはもうこっぴどく叱られたが、本当の事を話したら、
 散々からかわれたが許してくれた。そして、今では沙希が週に何回か虹野家の夕飯を
 作って、そのついでに公の分も作っている。そうすれば3人分も4人分も同じようなもの
 だから、節約もできて一石二鳥だ。
 スーパーに着いた沙希は、みのりの尾行に気付かず中に入っていく。
「買い物?夕飯の当番っていうのは本当なのかな。ううん、中にいるかも」
 沙希に続いてみのりも中に入る。

 買い物かごを持った沙希は、何を作ろうか考えていた。
「7月に入って、暑さも厳しくなってきたよね。こういう時は食欲増進のために
 辛いものを作ろうかな。そうすると・・・、あれにしよう」
 メニューが決まったので、まずは野菜売場でタマネギとキュウリをかごに入れる。
 次に精肉コーナーに来た沙希は、売場のおばちゃんに声を掛けられる。
「いらっしゃい、沙希ちゃん。今日は何にする?」
「こんにちは。今日はね、牛の挽肉を300gちょうだいな」
「はい。ちょっと待ってね」
 ケースを開けて、量りの上の包み紙に乗せていく。
「今日も彼氏のために差し入れ作り?」
「彼氏って、違うって言ってるじゃない。もうっ!」
 顔を赤くして否定するも、嬉しそうです。
「はい。ちょっとおまけしといたからね」
「いつもありがとう」
「なあに。また来てね」
「うん。それじゃあ」
 足取りも軽く次の棚に向かう。
 みのりはそんな様子を陰で見ていた。
「う〜ん。何を喋ってるんだろう。良く聞こえないなぁ。あっ、移動しちゃう」
 店内にはこの店のテーマソングらしきBGMが流れていて、話の内容までは
 聞こえなかった。

「卵はまだあったから、あとは、ししとうがらしとチリソースね。あっ、もうこんな時間、
 急がないと」
 沙希が駆け出したので、みのりもつられて駆け出す。
ドサドサッ!
「あっ!!」
 積まれてあったカップ麺に、腕を引っかけて倒してしまう。
「あっちゃ〜」
 そのままにしていく訳にもいかないので、素早く直してから沙希を探す。
「あれ〜、どこに行ったのかなぁ、虹野先輩」
「なぁに?みのりちゃん」
「えっ?わきゃーーーーーーーーーーー!!」
 突然目の前に現れた沙希を見て、店内中に響きわたるような大声を出して驚くと、
 沙希は思わずかごを落としてしまう。
「ビックリさせないでよ、みのりちゃん」
「に、に、虹野先輩」
「偶然ね」
「えっ、えっ?あ、あの〜」 『マズイ』
「みのりちゃんもお買い物?」
「えっ?は、はい。そうなんですよ、お菓子でも買おうと思って入ったら、虹野先輩を
 見かけたんです」
「そっかぁ。でも、間食は体に良くないから控えめにネ」
「は、はい。分かりました。じゃ、じゃあ私、失礼しま〜す」
 みのりは慌てて出口に向かって走る。
「???どうしたんだろう、みのりちゃん。・・・あれっ?お菓子を買いに来たんじゃ」
 何も買わずに出て行くみのりの後ろ姿を見ながら、頭に『?』マークが浮かぶ。

「はあ、はあ、はあ、ビックリしたよ〜」
 訳が分からなくなって無我夢中で走ったものだから、尾行していたことを忘れて
 しまっていた。
「これじゃあ、意味がないわ。どうしよう。・・・・・でも、なんだか夕飯の当番っていうのは
 嘘じゃないみたい。ふう〜、帰ろう」
 本当はその後に大事なことがあるのだが、それに気付くはずもない。
「何やってるんだろ、あたし。・・・・・ううん、負けないわ」
 今日の所はどっと疲れたため、諦めて家路についた。


 それから2時間後、みのりの見えないところで、いつもの光景があった。
「これうまいね。とうがらしの辛さがピリッっと効いてて」
「そう?良かった。辛いの嫌いだったらどうしようかと思っちゃった」
「この位の辛さなら丁度いいよ。うん」
 今日の差入れは、インドネシア風チャーハン、ナシゴレンだ。
「暑いときには辛いものに限るね」
 何だかいつもよりも、口に運ぶスピードが速い。
「ふふふ。そんなに急がなくても良いわよ。とうがらしにはね、カプサイシンっていう
 成分が含まれていて、食欲増進や脂質やエネルギーの代謝促進の作用があるんだよ」
「そうなんだ。さすが沙希ちゃん詳しいね」
「そんなことないって。そういえば、もうすぐテストだね」
 公の手が止まり、沙希の顔をじとーーーっと見る。
「突然だね。テストか、来週だっけ?嫌なこと思い出させるなぁ」
「ふふふ。勉強してる?公くん」
「う〜ん。そろそろ家でも勉強しないとな。でも、授業でやったところが出る
 んだから、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
 自主トレを始めたばかりの頃は、疲れが溜まって授業も寝てることが多かった公だが、
 去年の秋頃からは体力が付いたみたいで授業はちゃんと受けていた。
 もともと頭の作りは悪くないのだから、授業の内容だけで応用が効く。
「公くんてテスト勉強しないの?」
「うん。あんまりしないよ」
「ホント?すごいなぁ」
 沙希は口を開けて心底感心している。
「いいなあ、頭の作りが違う人は。神様は不公平なのね」
 頭をもたげてガックリする。
「ははは、そんなに違わないって」
「そういえば、3月の学年末テストの結果良かったよね。これでテスト勉強もしたら、
 100位以内に入るんじゃない?」
 今度は手をあわせて、パッと顔を輝かせる。
「さあ、どうだろう」
『沙希ちゃんてコロコロ表情が変わって、見てて飽きないよなぁ』
 何だか微笑ましくなる公だった。

「ふう、ご馳走様」
「はい、お粗末様でした」
「よしっ、最後に3ポイントシュートをやって上がろう。沙希ちゃんパス出しお願い」
「うん。もうひと頑張りね」
 レイアップやジャンプシュート、ダンクは大分良くなったので、最近ではアウトサイドの
 3ポイントシュートと、ダブルクラッチなど空中戦に磨きをかけるべく特訓している。

 次の日の昼休み。
「公くん」
 昼休み、自分の席で弁当を食べようとしていたら、ランチボックスを持った詩織が来た。
「一緒に食べよ」
「ああ、いいよ」
 詩織は前の席の椅子を反対にして座る。
「えへへ」
「何だよ、変な声だして」
「何でもないよ」
『こうやって一緒に食べると、いつもよりも美味しく感じるのは、好きな人と一緒だからかな』
「変な奴」
 そんな二人を、みのりがサンドイッチをパクつきながら覗いていた。
 反対側の校舎から、窓越しに公の席が見える所があり、そこから見ていた。
「二人でお弁当?これは幼なじみ以上の行動かな?」
 更に凝視する。
「公くん、テスト勉強はどう?」
「ん?まあぼちぼちだな」
「ふ〜ん。この間のテスト凄かったじゃない。もうすぐ二桁だよ」
 1年の期末では350人中308番だったが、学年末では126番まで順位を上げていた。
 生徒数が多いきらめき高校で100番に入るのは容易なことではない。
 80番辺りだと、もう平均が8割台になる。公の126番だって、大したものなのだ。
「詩織は相変わらず凄かったな。14番だっけ?」
「うん」
「俺にはそこまでは無理だな」
「そんなことないわよ。公くんはやれば出来るんだから」
 そんな話をしていたが、みのりに聞こえるはずもない。そこに、みのりを見つけた
 優美が声を掛けた。
「み〜のり、何やってるの?」
「わっ!優美か。別に何もやってないよ」
 突然肩を叩かれたのでビックリして振り向く。
「そう。なんだか真剣な顔してるから、夏休みにどこに遊びに行くのか考えてるのかなぁ、
 なんて思っちゃった」
「なんでそんな事を真剣な顔で考えなきゃならないのよ」
「え〜?じゃあ、まさかテストの事考えてたの〜?」
「テスト?あーーーーー!!」
「わっ!!びっくりしたなぁ〜。もう何?」
「ううん。何でもない、何でもない」

 その夜みのりは悩んでいた。
「う〜ん、すっかり忘れてたわ。どうしよう」
 テストまであと3日となったが、今日の今日までテストの事を忘れていた。
 昼休みの優美との会話。それまで、頭の中は公と沙希の関係の調査でいっぱい
 だったからだ。
「うう〜。今からでもやらないと〜」


 テストも最終日の休み時間、好雄が廊下を歩いていると沙希に呼び止められた。
「あっ、早乙女くん」
「何?虹野さん」
「公くんどこにいるのかなぁ」
「公の奴なら屋上じゃないかな」
「そう、ありがとう。じゃあ」
「あっ、虹野さん。ちょっと待って」
 すぐに屋上に向かおうとした沙希を呼び止める。
「なぁに?」
「最近公の奴と仲がいいねぇ」
「えっ?えっ?」
 すぐに顔に出る沙希は、好雄に簡単に見抜かれてしまう。
「いいってことよ。俺は言いふらすなんてことはしないから」
「わたし、何も言ってないんだけど・・・・・」
「言わなくてもいいし、言わない方がいいよ。そうだ、公が藤崎さんのことをって
 いうのは・・・・・知ってるのか」
 一瞬沙希の表情が曇ったので察知できた。
「う、うん。知ってるわ」
「そっか、あいつは鈍感だから大変でしょ」
「ふふふ、よく分かってるのね公くんのこと」
「当然。そう言えば、この間みのりちゃんに公のこと聞かれたなぁ。知ってるでしょ?」
「ええ」
「みのりちゃん自身は何とも思ってないとは言ってたけどさ」
「ふ、ふうん」
「ま、頑張ってよ」
「ありがとう好雄くん。じゃあね」
「ああ」
 沙希は歩きながら、みのりのことを考えていた。
『みのりちゃん。私が公くんのことを好きになったことに気付いたのかな。そう言えば、
 最近よく寄り道に誘われるよね。それも関係してるのかな?』
 みのりが自分の事を慕ってくれるのは嬉しいが、公との仲を邪魔されるのは避けたい。
「う〜ん。たまには付き合った方がいいかも。それとも自分から誘った方がいいかな。よしっ」
 屋上で公と会った沙希は、今日は行くのが遅れるということを伝えた。
 
「あっ!いたいた。みのりちゃ〜ん」
 みのりは何だか肩を落として歩いていた。それもそのはず、テストの出来が芳しく
 なかったからだ。しかしそんな憂鬱な気分も、沙希に誘われたことできれいサッパリ忘れ、
 ケーキ屋で楽しい時間を過ごすことが出来た。

    つづく

  あとがき

 第24話でした。

 これでひとまず、みのりちゃんの目は誤魔化せたのかな。
 
 次は、いきなりですがインターハイが始まります。
 どんどん話を進めないと終わらない気がするんで。

 では、これからもよろしく。

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