「My wish・・・」

                     第25話 「インターハイ」

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 一学期の期末テストも終わり夏休みに入った。旅行に行く者、海やプールに遊びに
 行く者など、休みを満喫している生徒がいる反面、きらめき高校の体育館では、
 女子バスケ部がインターハイのため今日も厳しい練習をしていた。

「お疲れさまでした」
 体育館に部員の声が響き、優美達一年生が後片づけを始める。
「はい、タオル。お疲れさま」
「ありがと、恵。今日も疲れたわね〜」
「うん」
 奈津江と詩織がタオルを受け取り、流れる汗を拭う。
「しかし男子はお気楽よね、先に帰っちゃうしさ」
「そうね」
 詩織は何を考えているのか下を向いている。
「な〜に?なんだか暗いわね。そうか、主人君と一緒に帰れないから寂しいんでしょう〜」
「やだ奈津江ちゃん。違うわよ」
 顔を上げて、思いっきり否定する。
「隠さなくてもいいのよ。大会が近いんだから、男は控えめにね。アハハハ」
「違うったら、もうっ」
 と言いながらも、顔を赤くするので見え見えだった。
『最近部活で忙しくて、全然話してないから寂しいなぁ〜』
 夏休みに入ってからというもの、すれ違ってばかりでまともな会話をしていない
 二人だった。


 そんな詩織の気持ちなど知らずに、自主トレに励む公は、今日も沙希の差し
 入れを美味しそうに食べていた。
「最近、調子いいみたいね」
「うん。この前の負けが効いたみたいだ。部員のみんなも気合い入りまくりでさ、
 特に1年の石崎が頑張ってるよ。あいつ、次のウインターカップの予選には
 ベンチ入りできるんじゃないか」
「へーーー、そうなんだ。公くんも負けてられないね」
「そうなんだよ。2、3年だっているし、うかうかしていられないよ」
 実際みんな敗退をバネにして、また一段と成長しているのが感じられる。
 まあ、公も例外ではないのだが。
「みんなに負けないように、根性で頑張ろうね」
 ガッツポーズを作りながら言う。
「うん。あっ、そうだ沙希ちゃん」
 突然箸を止めて沙希を見る。
「なぁに?」
「もうすぐインターハイがあるだろ」
「うん」
「男子は負けたんだけどさ、コーチが女子の応援に行くって言ってるんだ。
 ついでに会場の雰囲気も体験してこようって。しかも旅費が出るんだって」
「そうなんだ。すごいね。それだけ来年は期待されてるってことだよ」
「そうなのかな」
 実はレイが公のことを思って裏で動いたのだが、それを知る由もない。
「女子が負けるまではいるみたい。それまで自主トレ出来ないから」
「分かったわ」
 公に会えないのは寂しいが、仕方がない。
「帰ったら電話するよ」
「うん。待ってる」
 表情が曇りそうになるのをこらえていた沙希だが、一転そう笑顔で答える。
 公のその一言が嬉しかった。自分の事を気に掛けてくれているというのが
 分かるから。


 一時間半後の主人、藤崎両家の前。
「あれっ、公くんだわ」
 コンビニに買い物に行っていた詩織が、沙希を送ってから帰宅した公の姿を
 見かけた。
「公く〜ん」
 向こうから走ってくる公に、手を振って呼びかける。
『あっ!!詩織じゃないか。マズイ』
 と言っても、来た道を戻るわけにもいかないので詩織の前で止まる。
「や、やあ詩織。買い物?」
 今の状態を突っ込まれないように、話をそらそうとするが。
「うん。お母さんに牛乳頼まれちゃって、公くんは何してるの?」
「え?え〜と」
 そんな努力もまったく無駄に終わり、言葉に詰まる。
「その格好からすると、ジョギングでしょ」
 それしかないでしょう?という感じで、得意気に言う。

『ジョギング?そ、そうか、今日は荷物がないんだ。ラッキー!!』

「そ、そうなんだ。ジョギング」
 そう言いながら、その場で足踏みをしてみせる。
「頑張ってるんだね、公くん」
「今日はたまたまだよ。詩織こそ頑張れよ、インターハイ」
「うん、ありがとう。でも、公くんがいないから寂しいよ」
 表情が曇り、シュンとなる。
「え?ははは、そう?」 『ホントか?それは嬉しいなぁ』
「そうだよ」
「ん、あれっ?女子はまだ聞いてないのかな?」
「なにを?」
 何のことか分からずに首を傾げる。
「男子が応援に行くってこと」
「えっ?本当、それ。公くん来てくれるの?」
「うん。男子の半分位は行くよ、木本も行くし」
「ホントに?嬉しい〜」
 いきなり公に抱きついて、喜びを表す。
「わっ!し、詩織」 
『む、胸が・・・』
 突然の出来事に焦った公は、胸の感触を感じながらも赤くなって困惑する。
「あ、ごめんなさい。あんまり嬉しくて、つい」
 自分のしたことに気が付きパッと離れるが、恥ずかしくて下を向いてしまう。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 お互い数秒間沈黙してしまう。
「ま、まあ、そう言うわけだから。練習頑張れよ。じゃ、じゃあ、おやすみ」
 公はやっと口を開いてそう言うと、ギクシャクした動きで家に入っていく。
「う、うん。おやすみなさい」
 詩織もそれだけ言って家に入る。
バタン
『ビックリした〜』
『恥ずかしい〜』
 二人とも閉めたドアにもたれ掛かり、同時にズルズルと座り込んでしまう。



 8月に入り、いよいよインターハイが始まった。
 全国常連である女子だが、いまだ3回戦を突破したことがない。今年こそはという
 意気込みで毎年挑戦しているが、まだ達成していない。
 今年も気合いを入れて、大会が始まる2日前から会場近くのホテルに泊まり、
 近くの中学校の体育館を借りて練習をしていた。
 このホテルは、当然のごとく伊集院系列のホテルで、きらめき高校関係者は
 格安の料金で使用できた。
 そして試合前日の今日、男子バスケ部を含む応援団が現地入りした。
「先輩、早く来ないかなぁ〜」
 優美は練習中の体育館で、公が姿を現すのを入口近くの壁にもたれて心待ちに
 していた。すると、聞き慣れた声が耳に入った。
「あっ、来た。せんぱ〜い」
「あっ、優美ちゃん。グフッ!」
 走ってきた優美は、目の前で止まらずに、そのままラグビーの練習のごとく
 タックルしてきた。
「ゴホッ、ゴホッ。今日も元気いっぱいだね、優美ちゃん」
「はい。でも優美はベンチに入れなかったからなぁ」
「それは残念だったけど、優美ちゃんなら次は成れるよ」
「うん。頑張りま〜す」
 そんな公と優美を、練習中の詩織が横目で見る。自分も優美みたいに、みんな
 の前でもああいう風に公に接する事が出来たらどんなにいいか。そんな思いで
 苦々しく見ていた。

 練習が終わり、公が詩織に話しかける。
「詩織、調子はどう?」
「公くん。うん、良いわよ」
 詩織は抱きつきたい衝動を抑えて、普通に答える。
「明日の初戦はどんな感じ?」
「油断は禁物だけれど、普段どおりに戦えば勝てると思うわ」
「そうか、やっぱり問題は3回戦か」
「そうね。間違いなく桃花学園が勝ち上がってくると思う」
 桃花学園。女子の全国大会優勝回数最多の高校で、今大会の優勝候補筆頭の
 学校だ。
「でも、まずは2回勝たないと始まらないわ」
「そうだな。頑張れよ」
「うん」
 力強く頷く。


 気温が30度を越す日が続き、蝉の声もうるさい真夏日。
 いよいよ試合が始まった。
順調なスタートを切ったきらめき高校は、初戦を突破し、2回戦の高崎西戦を
 戦っていた。前半は27対23と接戦だったが、後半に入ってスピードアップ
 した攻撃が冴えて、46対33とリードしていた。
「はい。どんどん行くよ〜」
 長い髪をリボンで結んだ詩織が、みんなをリードしてゲームを組み立てる。
ドンドンドン。
「動いて〜」
 相手ゾーンディフェンスの隙を探す。
「奈津江ちゃん」
「よしっ」
 センターからパワーフォワードにコンバートした奈津江にボールが渡る。
キュキュキュ。
 相手センターも負けずに競り合う。それに合わせて奈津江が囲まれ、シュート
 コースが塞がれる。
「戻して」 
 詩織はいったん戻ったボールを、すぐにアウトサイドで待っていた3ポイント
 シューターに出す。
「いけるよー」
「それっ!」
 両手をボールに添えて、全身を使って放る。
「スリーーー」
 シュートと同時に審判が3本指を掲げ、応援席からはかけ声が上がる。
ザシュ!
「ナイシュー」
 その後もきらめきペースで試合が進み、結局66対45で快勝した。
 そして、午後に行われた桃花学園の試合は、予想どおり桃花の圧勝だった。


 その夜、明日の事を考えると眠れなくなった詩織が、ホテルの展望室のソファ
 に座っていた。ホテルに展望室があるとは、さすが伊集院家のホテルである。
 もうすぐ日時が変わるかという時刻にも関わらず、まだまだ街の灯りは消えて
 おらず、なかなかの夜景が広がっていた。
 その輝きを眺めながら、一人明日のことに思いを巡らせていた。
「いよいよ3回戦だわ」
 毎年ここで敗退している女子は、今年は桃花学園と当たる。はっきり言って
 実力的にまだまだ劣るきらめきは、負けて当然当たって砕けろの状態にある。
 しかし詩織は、負けるにしてもただでは終われない。なにも残さないで負ける
 のは絶対に嫌だという思いを抱いていた。
「・・・・・・」
 とは言え不安でないわけがない。
 試合を組み立てる立場にある詩織が、もっともプレッシャーを感じているのか
 もしれない。
「詩織、眠れないのか?」
「公くん」
 そんな詩織を公が見つけた。そして隣に座る。
「うん。明日のことを考えると・・・・・、ね」
「そうか」
「桃花には正直勝てるとは思っていないわ。でも冬に向けて何か残さないと。
 ただ負けるのは嫌じゃない」
「そうだな。ただ負けるのは納得いかないよな」
 腕組みをしてウンウンと頷く。
「そうでしょう?」
「ああ。でも今までやってきたことを全て出し切れば、何かが得られるさ」
「・・・・・、うん。そうよね。頑張るね」
「それに、冬の選抜と来年に向けて、今自分たちがどの位の実力を持っているの
 か試すには、絶好の相手だよ桃花は」
「そうね・・・・・?」
 その言葉に引っかかりを感じた詩織は、首を傾げてちょっと考え込んだ。
「ん?どうした詩織」
「公くん、もしかして全国大会で優勝を目指しているの?」
「もちろんだよ。詩織は違うのか?」
「ううん。私だって優勝はしたいわ。でも相手は、全国から優秀な人が集まって
 くる学校なのよ。やっぱり無理なんじゃないかっていう気持ちの方が大きいわ」
「それは俺も考えたことがあったよ。でも、羽田とやったあたりからかな、少し
 考え方が変わったんだ。俺達だって一生懸命努力すれば、強豪にだって通用す
 るんだって。それに、うちの木本だって大した奴だよ」
 詩織は驚いた。まさか公が、このような思いを抱いてバスケに取り組んでいた
 なんて。蔑むつもりは全然ないが、まだ一度も全国大会に出場したことがない
 のにだ。
「ふ〜ん、男の子ってやっぱり違うなぁ」
「えっ?どういうこと、それ」
「どんどん変わっていくってこと」
「?」
 公には理解できなかったが、詩織はいまの言葉を聞いて勇気づけられた。
「よーーーし、頑張るぞーーー」
 腕を振り上げて、気合いを入れる。
「その意気だ。精一杯応援するからな」
「お願いね」
「まかせとけ、コホッ、コホッ」
 自分の胸を叩いて咳き込む。
「大丈夫?ふふふ」
「ははは」

 その頃優美は、公がどこに行ったのか探していた。
「先輩どこに行っちゃったんだろ?まさか藤崎先輩と一緒だったりして」
 ズバリ的中していたのだが、二人を見つけることは出来なかった。
「せっかく二人っきりになって、いい雰囲気になろうと思ったのにな〜」
 そんなことをブツブツ言いながら、夜中の1時頃までホテル内を徘徊する優美
 の姿があった。


 翌日、とうとう桃花戦の朝が来た。
「みんな、相手は強敵だが、最後まで諦めずに戦おう」
「はいっ!」
 今は朝食後のミーティングが行われている。
「藤崎、今日もお前に全て任せるからな。桃花に一泡吹かせてやれ」
「はい」
 そんな緊迫した中で、なんだか眠たそうにしている部員が何人かいた。
「どうしたの、みんな」
 ケロッとしている優美が、右隣の同級生に聞く。
「あふ。ん〜?」
「優美が昨日の夜、部屋に帰ってくるまでの間にね、出たのよ」
 左隣の1年生が、優美の耳に口を寄せる。
「なにが?」
「お化けよ、お化け。どこからか変なうめき声が聞こえてきたのよ〜」
 感情を込めて、おどろおどろしく言う。
「え〜!!ほんと〜?」
「うるさいぞ、早乙女」
 思わず大声を上げてしまい、コーチに怒られる。
「あっ!ごめんなさい」
 立ち上がって謝ると、座ってすぐに話の続きを聞く。
「マジマジ。優美が戻ってきてからはおさまったみたいなんだけどね。その声を
 聞いた子は、その後も眠れなかったみたい。私もなんだけど。ふぁ〜」
「ふ〜ん。優美も聞きたかったなぁ〜」
 このお化けの正体は・・・・・。そう、優美です。


 きらめき高校対桃花学園戦は、王者桃花の試合ということで、会場は詰めかけ
 た観客でいっぱいになった。
 そしてその試合も、すでに後半の10分が過ぎようとしていた。
「あっ、しまった」
 奈津江の横を桃花の選手が抜いていく。すぐ後ろにいた3年がフォローに
 入るが、そのために出来たフリーの選手にパスをとおされる。
ドン!
 そして間髪入れずにシュート。
「ナイシューーー」
 桃花のディフェンスは、ボックス・ワンで詩織を潰す作戦だった。
 詩織さえ止めてしまえば、勝てるとふんだのだ。桃花の5番渡辺が詩織のマークに
 付いた。それが見事当たり、30対48とリードされていた。
「このままじゃ。私が何とかしないと」
 焦った詩織は、強引に中に入る。
「そこっ」
 フェイントをかけて抜こうとしたが、ドリブルをカットされる。
「あっ」
 しかし運良く味方がそのボールを拾ったので、それを見た詩織がそのまま中に
 切り込む。
「詩織」
 パスを受けると、桃花のディフェンス3人が迫ってきた。それでもシュートに
 いこうとする。
「無理よ、戻して」
 奈津江の声がしたが、かまわずジャンプ。三人の手が目の前に立ちはだかった
 が強引に押し込む。しかし、ディフェンスの手に当たり軌道が変わったボール
 はリングに入らない。
ガンッ!
「リバンドォォォ」
 弾かれたボールに、シュートをした詩織自ら跳ぶ。
ガッ、ダダン!
「ファール、きらめき4番」
 詩織の腕が、ボールを掴んだ桃花の選手に当たりファールを取られる。
「しまった」
ビーーーーー
 ここで、きらめき側がタイムをとる。
「どうした藤崎、お前らしくないぞ、落ち着け」
「は、はい」
 そこに、後ろの応援席にいた公から声が掛かる。
「どうした詩織、気持ちを切り替えろ」

『今までやってきたことを全て出し切れば、何かが得られるさ』

 昨日のことを思い出す。
「公くん・・・・・、うん!」
ビーーーーー
 桃花のフリースローから試合が再開する。
「ナイシュー」
 決められて30対50。もう逆転は無理かもしれないほど離されている。
 しかし、このままでは終われない。
『落ち着くのよ。もう勝てないかもしれないけれど、今出来る最高のプレーをし
 よう。桃花は私を潰しにきているんだから、他の選手をもっと使って攻めないと』
「みんな!!早いパス回しで相手を攪乱させるわよ」
「詩織。よしっ、来い」
「分かった」
「いいわよ」
「OK」
 きらめきが詩織の声で一気に活気づく。
「先輩」
 スリーポイントラインとハイポスト付近で、相手のチェックが来る前に素早い
 パス回しをする。
「あっ!」
「くっ!」
 すると桃花ディフェンスが、突然の変化に付いていけずに混乱する。
「そこよ」
 詩織から奈津江にボールが渡る。
「シュート」
ザシュ
「いいぞーーーーー」
 流れるようなプレーが決まり、応援席も盛り上がる。
 焦った桃花は、攻撃にもそれが出てしまう。
「はっ」
 シュートブロックに跳んだ奈津江の手にボールが当たり、弾いたボールが詩織
 の手におさまる。
「速攻!!」
 すぐさまダッシュして攻め入る。ロングパスでハイポストのセンターに入れる
 が、さすが桃花すぐにシュートコースを塞ぎにかかる。
「くっ」
 シュート出来ずにキープしていると、詩織が走り込んでくるのが見えた。
「詩織」
「はい」
 ボールを受け、ゴール下に切り込む。
「はやい」
シュッ!
 フロントチェンジで1人抜き、フォローにきた選手さえもバックターンでかわす。
「詩織、そのままシュートだーーー」
 公の声が聞こえたのか、回転した振り向きざまにジャンプシュート。
ザシュ!
「ナイシューーー」
「すごい、藤崎先輩」
 優美は感嘆した。自分にあんな事は出来ない。恋のライバルは関係なく、
 部の先輩として尊敬に値する人だと思った。

 しかし、このままやられっぱなしの桃花ではない。
「ほらみんな、なに浮き足立ってるのよ!!落ち着きなさい。いつも通りに
 プレーするのよ」
 キャプテンである黒田から活が入る。
「おう!」
「キャプテン、はい!!」
 これで落ち着きを取り戻した桃花は調子を取り戻し、一進一退の点の取り合い
 となった。

「5・4・3・2・3・1・0」
ビビーーーーーー!
 結局終わってみれば、58対67と20点差を9点差まで追い上げた。
「負けた。でも悔いはないわ」
 詩織は、負けはしたが晴れ晴れとした表情をしていた。いまの精一杯を出し
 切ったのだから。
 そんな詩織の元に、桃花10番の選手が近づいてきた。
「あなた、なかなかやるわね。藤崎詩織さんだったわね。覚えておくわ」
 この10番、名を三木聖美(さとみ)といい、来年の桃花のキャプテンになる
 娘であった。
「ありがとう」
 詩織は目をパチクリさせて、それしか言えなかった。
「じゃあね」
 三木はそれだけ言って、行ってしまう。

「お疲れさま、詩織」
「公くん」
 出迎えた公がドリンクを差し出す。
「ありがとう」
「何か得るものがあった?」
「うん」
 ストローに口を付けながら、満面の笑顔で答える。
『もっともっと仲間を信じて、チームワークに磨きをかける。そうすれば、あの
 桃花にだって通用するんだ。エリート集団にだって負けないくらい練習しよう』
 それが詩織なりの答えだった。
「がんばったな、詩織」
 そう言って、詩織の頭を撫でる。
「あっ」
 いままでの疲れなんて一気に吹き飛び、心地よい気分になる詩織だった。


 その15分後、男子のコートでは全国大会連覇中の能城工業と末賀の試合が
 始まった。
「くそっ、ダメか」
 きらめきが苦戦した橋本が抑えられている。
 能城はディフェンスが鍛えられているチームである。中でも、相手校のエース
 を抑え込む選手の動きは凄いものがある。そしてボールを奪ったら、切れ味
 鋭い速攻に出る。それが止められても、インサイド、アウトサイドどちらにも
 隙がない。まさに現在無敵のチームだ。
 そして能城工業はこの後、決勝戦で羽田中央を破ってインターハイを制する。
「あの橋本が、エースキラーの菊川にやられてるな」
「ああ」
 公と木本が2階で観戦していた。
「全国はすごいよ木本、俺のまだ知らない上手い奴が山ほどいるんだろうな」
「ああ」
「でも、末賀を倒した後にもそう言う奴らがいると思うと、やり甲斐があるってもんだ」
 公はすでに、ウインターカップ本戦にも目を向けていた。
 そんな公を見ていると、とても頼もしく思う。
『おまえだって、十分すごい奴だよ』
 正直にそう思う木本だった。


 その夜、今日のニュースできらめきの敗退を知った沙希は、自分の部屋で
 ベットに体育座りをして小さくなっていた。手には子機が握られている。
「電話まだかなぁ〜」
 予定通りなら今日帰ってくるはずだ。
「母校の負けを喜ぶなんて、私って悪い子だなぁ」
 それでも、はやく公の声が聞きたい。たった4日会えないくらいでこんなに
 寂しい気持ちになるなんて思わなかった。
「こんなに好きになっていたなんて・・・・・。公くん、早く逢いたいよ〜」 
 この3日間泣いた夜もあった。そしてまた涙が出そうになったとき電話が鳴った。
トゥルルル
「きた!」
ピッ
 ボタンに添えられていた指が反応する。
「わっ!」
 急に繋がったのでビックリする。
「もしもし」
「あっ、沙希ちゃん?」
「うん」
 久しぶりに聞いた公の声。
「いま帰ってきたよ」
「うん」
 目頭が熱くなる。
「なんか久しぶりだね」
「うん」
 嬉しいはずなのに、目から流れるものがある。
「どうしたの?なんか変だよ沙希ちゃん」
「うん」
 止めどなく流れる。
「???」
「お帰りなさい、公くん」

   『好きだよ

    つづく

   あとがき

 第25話でした。
 インターハイの話だから、詩織ちゃんが大活躍して、
 沙希ちゃんはチョイ役になるかと思ったら、
 書いている内に出てくる出てくる。
 これじゃあどっちがメインだったのか。
 むしろ最後にきた沙希ちゃんの方が印象に残ったのでは?
 まずいな。
 
 では、次回をお楽しみに。
 

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