「My wish・・・」

                     第26話 「プールでデート」

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 インターハイが終わり、後は楽しい夏休みを過ごすだけとなった。まあ、宿題と
 部の合宿はあるが。

 相変わらず暑い日が続いている8月の中旬、夜も熱帯夜で暑い。
 公は部屋でグターっと、だらしなく寝そべっていた。
「詩織、何してるかなぁ〜」
 ゴロリと寝返りを打って、窓の外を見る。
「花見以来、詩織とどこにも行ってないなぁ〜」
 バスケが忙しいのもあるが、このまま好きな女の子との、夏の思い出がないと
 いうのも寂しい。
「よしっ!詩織を誘って、どこかに行こう。さて、どこにするかな。う〜ん。
 夏と言えばプール、プールと言えば水着」
 そう、詩織の水着姿を見逃す手はない。
「よしっ、プールだ!」
 そうと決まれば、早速電話を手に取る。
トゥルルル、トゥルルル、カチャ
「もしもし、詩織?」
「あっ、公くん。今日は何?」
「明日、一緒にプールに行かないか」
「プール?」
 詩織は胸がドキリとしたが、気付かれぬように冗談めかして答える。
「それって、デートのお誘い?」
「えっ?ま、まあ、そうなるのかな」
 改めてそう言われると照れてしまう。
「ふふふ。ええ、いいわよ」
「ホント?じゃあ、明日9時半に迎えに行くよ」
「うん、待ってるわ。忘れないで来てね」
「ああ。じゃあ、お休み」
「お休みなさい」
ピッ!

「よしっ!」
「公くんとデート!デート!」

 公はガッツポーズをし、詩織も久しぶりのデートに胸を弾ませる。
「詩織の水着、楽しみだなぁ〜」
「公くんとプール、楽しみだなぁ〜」
 それぞれ楽しみの意味が違うが、喜んでいるのだから良いでしょう。


 次の日、9時半ピッタリに迎えに行くと、すぐに詩織が2階から降りてきた。
トトトトト。
「おはよう詩織、今日も暑いな」
「おはよう公くん、そうね」
 今日の詩織は、黄色のノースリーブニットと淡い黄緑色のスカート姿で、いかにも
 夏って感じの服装だ。
「行ってきま〜す」
 足にはお気に入りのサンダルを履いている。
「詩織、サンダルって歩きにくくない?」
「えっ?そんな事ないよ。これはそんなに踵高くないし」
 そんなたわいもないことを話しながら、二人はバスに乗りプールに向かう。

「次は、きらめき市立プール前でございます」
 20分後バスを降りると、冷房が効いている所から炎天下の外に出たため、
 一瞬クラッとする。
「あっつ〜、大丈夫か詩織」
「う、うん。大丈夫よ」
 流れる汗を拭って、プールまでの道を歩く。

 プールの入口は他の客で行列が出来ていた。こう暑いと、考えることはみんな
 同じである。
「じゃあ、中でな」
「うん」
 やっと料金を払って中に入り、途中で男女の更衣室に別れる。
「先週、メグと水着を買いに行っておいて良かったわ。思い切ってビキニにしたんだけど、
 公くんなんて言ってくれるかなぁ」
 詩織はドキドキしながら着替える。

 一方公は、ものの1分で着替えて詩織を待つ。
「まだかな〜、詩織」
 なんだかそわそわして落ち着かない。
「公くん、お・待・た・せ」
「いや、それ程待っていな・・・い・・・よ」
 声のした方に振り向くと、そこにはビキニ姿の詩織が、恥ずかしそうに立っていた。
 白のビキニを着た詩織は、「清純」という感じを漂わせていた。
『おお〜、詩織ってプロポーション良いよな〜』
 しばらくの間、見惚れてしまう。
「なによ〜黙っちゃって、なにか言ってくれてもいいじゃない」
「ああ、ごめん。あんまり可愛いものだから見惚れちゃって」
「可愛い?ホントに?」
 疑いの眼差しで見る。
「ホント、ホント」
「ファッション雑誌のモデルかと思ったよ」
「ふふふ。なぁに、それ」
「と、とにかく似合ってるよ、その水着」
「ありがとう。それで許してあげる」

 軽く準備運動をして、早速プールへ入る。
「ねえねえ、公くん。あれに乗ってみようよ」
「んっ?」
 少し泳ぐと、公の肩を揺らしながらウォータースライダーを指差す。
「うん。いいよ」
「やった〜。はやく行こうよ〜」
 腕を引っ張って、まるで小さい子供のようにはしゃぐ。
「おい、そんなに急かすなって」

「結構高いねぇ」
 二人は係員に促されて、公が後ろで詩織のお腹を抱える格好で縦に並ぶ。
「詩織いいかい?行くよ」
「うん」
「それっ!」
 公は勢いをつけて、詩織ごと前に身体を押し出す。
ザザーーーーーーー!!
「きゃ〜、気持ち良い〜」
「うわーーーーー」
 二人はけっこうなスピードで滑り落ちていく。
「あん。くすぐったいよ」
 滑っていくうち、お腹に回していた公の手が、だんだん上の方にずれてくる。
「あっ、ごめん」
「ううん。きゃっ」
ドンッ!
 コースのつなぎ目でちょっとジャンプした拍子に、公の手に柔らかいものが触れる。
ムニュ
「こ、これは」
 頭の中が真っ白になり、本能的に手に力を入れてしまう。
「きゃあ〜」
ジャバ〜ン
 下について水の中に潜ってしまうが、それでも公の手は離れない。
「ぷはっ!」
 同時に顔を出し、詩織は自分の胸を見る。
「公くん、い・つ・ま・で・掴んでるの?」
 ワナワナと身体を震わせている。
「わあ〜、ごめん。詩織」
「ふんっ!!」
 胸を手で押さえながら顔を紅潮させる。
「ごめんなさい、ごめんなさい。何でもするから」
 公は水に顔をつけて、必死に頭を下げる。
「何でも?」
 詩織の目がキラーンと輝く。
「はい、詩織様」
「じゃあ、お昼おごって」
「えっ、それでいいの?」
 もっと凄いことを言われるかと思っらから、拍子抜けして余計なことを言ってしまう。
「なぁに、何か不満でもあるの?」
「とんでもございません。おごらせていただきます」
「ふふふ。よろしい」
 そんな公を見ていたら、怒りもどこかに行ってしまった。それに、公になら
 別にいいかな。なんて思いもあった。
 それから二人は、ビーチボールをしたり、波のプールに行ってボディーボード
 をしたりして、たっぷり遊んだ。 


「そろそろお昼にしましょう」
「そうだな」
 二人は売店前のパラソルが立つテーブルに座る。
「詩織、何にする?」
「そうねぇ。公くんのおごりだから、一番高いのにしよっかなぁ〜」
「ははは、お手柔らかに。まあ、こういう所の食事なんてたいして高いものは
 ないからいいんだけど・・・・・」
 と言いながら値段表を見る。
 焼きそば、お好み焼き、ラーメン、カレーライス、スパゲッティ・・・・・。
 定番のメニューが並ぶ中、最後の方に一つ見慣れないものが載っている。
「ぶっ!なんだありゃ。フカヒレラーメン?それも時価だって?」
「あっ、それおいしそうね」
「勘弁してくれ、詩織〜」
 いったいいくらするんだか、見当もつかない。それに、何でこんな所にあるんだろう。
「ふふふ、冗談よ。カルボナーラとオレンジジュースでいいわ。あと、二人で
 たこ焼きもいいなぁ〜」
「はいはい、わかりました」
 公は、焼きそばとお好み焼きのセット、ドリンクにアップルジュースを頼んだ。
 10分ほどで出来上がり、公が席に運ぶ。
「いただきま〜す」
 詩織はフォークとスプーンを使って、器用に麺を巻く。
パクリ
「うん、おいしい。なんでプールの売店のスパゲッティが、こんなに美味しいんだろ」
 もちろん麺はアルデンテで、噛むとプツンという感じで切れる。
 何でかな?と公が売店の方を見ると、見たくもない文字がそこにあった。
「ああっ、あそこに伊集院の文字が・・・」
 売店の看板を指差す。
「ホントだ。道理で」
「こんな所にまで・・・。この焼きそばも美味しく感じてしまう。タコはどこの
 を使ってるんだか」
 つま楊枝でたこ焼きをつつく。
 たかがプールの売店にまで進出するなんて、さすがというか何というか。
 恐るべし伊集院家。


 再びプールに入ったところで、詩織が提案する。
「公くん、競争しよっか。50mで負けた方が、あの飛び込み台から飛び込むの」
 プールのはじにある、結構高い飛び込み台を指差す。
「ええっ?確か詩織、水泳得意だろ。ハンデをくれよ〜」
「ダメよ。よ〜い、ドン」
 公を残してフライングスタートをする。
「あっ、ずるいぞ詩織」
 公もすぐに追いかける。
 しかし得意種目だけあって、無駄のないフォームで泳ぐ詩織にはまったくかな
 わなかった。あっという間に離されてしまう。
「ぷはっ」
 公がゴールしたときには、すでにゴールした詩織が踏切台の所に座っていた。
 公を見下ろしている詩織の後ろからは太陽が照りつけ、輝いて見えた。
『綺麗だな、詩織』
 そんなことを考えていると、一気に現実に引き戻される。
「遅いぞ〜、公くん」
「はっ!得意種目で勝負なんてずるいぞ」
「ふふ〜ん。なんとでも言いなさい。はい、行ってらっしゃ〜い」
 聞く耳持たないよ、という顔で楽しそうに手を振り、飛び込み台へと送り出す。
「くっそ〜、わかったよ」

 公は渋々飛び込み台へ行き、階段を昇る。
「やっぱり高いな〜」
 下を見ると、水面が遙か彼方に感じる。
「頑張って〜」
 下では詩織が応援?している。
 ここは格好いいところを見せるためにも、深呼吸をして覚悟を決める。
スー、ハー
「よしっ!」
ドンッ!
 踏み板で思いっきり反動を付けてジャンプする。
『前方宙返りのおまけ付きだ』
 体育でやったマット運動を思い出して、身体を縮める。
「あっ!」
 宙返りをする公を見て目を見開く。
グルン・・・・・・バシャーーーン!
 深いプ−ルに飛び込み、しばらくしてから顔を出す。
「ブハーーー!」
「すごーーーーーい」
 手を叩いて喜ぶ。
「どうだ、詩織」
「うん。格好良かったよ、公くん」
「そうだろ、そうだろ」
「あっ」
「んっ?」
 公の横に、見慣れた海水パンツが浮かんできた。
「俺のだ」
「きゃあ。もう、ふふふふふ」
 詩織は後ろを向いて、顔に手をやり赤くなりながらも笑ってしまう。
 公は素早くパンツをはく。
「ねぇ、公くん」
「ん?」
「二人でプールに来るのなんて、初めてじゃない?」
「うん。小学校の頃は親も一緒だったからな」
「そうね。その前は、家の庭でビニールのプールに入ってたよね」
「ああ。あっ!!ふふふふ」
 公はおもむろに思い出し笑いをする。
「なぁに?変な声で笑ったりして」
 こっちに向き直り聞き返す。
「はははは、あの頃は詩織も裸で入ってたなって」
「な、なんてこと言うのよ。幼稚園の頃なんだからしょうがないでしょ、H!!」
 公の腕を思いっきり叩く。
「いてっ。ははははは」
「ん、もうっ!!そんなことを言う公くんは、こうだ〜!!」
 公の頭を上から押さえつけて沈める。
「ガバババババ」
 水面に気泡が溢れる。
シーーーーーーーン
 詩織は手を離したが、公の身体がうつ伏せ状態で浮かんだまま動かない。
「また〜、冗談でしょう」
 と言いつつも、恐る恐る手で押してみる。
「ブワーーー、やったな〜」
 すると、突然顔を出して詩織に襲いかかる。
「きゃあ〜、襲われる〜」
「待て詩織〜」
 泳いで逃げる詩織を追いかける。
 こんなどこから見ても恋人同士のような二人は、時間を忘れて楽しんだ。

「ふう、さすがに疲れたわね。ちょっと休みましょう」
「そうだね。ソフトクリームでも食べようか」
「いいわね」
「何がいい?」
「う〜んと、バニラがいいなぁ」
「了解。あそこで待ってて」
 リクライニングチェアーを指差す。
「うん」
 公はいったん更衣室に戻って小銭を持ち、売店に買いに行く。


 椅子に座ってのんびり公を待っていると。ロン毛で日焼けした、いかにも軽そうな
 男が近づいてきた。
「ねぇ君、ひとり〜?」
「えっ?私ですか?」
 周りを見渡して、自分しかいないことを確認する。
「俺が声かけるのは、君みたいな可愛い娘だけだよ〜」
「はあ」
『なあに?』
 詩織はこういうタイプが苦手で、ちょっと嫌な顔をする。
「そんな顔しないで〜、一緒に遊ばな〜い?」
『もしかてナンパ?』
「い、いえ、連れがいますから」
「連れ〜?女の子?それとも彼氏〜?」
「えっ?そ、それは」
 詩織は男の突っ込みに戸惑ってしまう。公は彼氏ではない。しかし、男友達や
 幼なじみと言うと、しつこく誘われそうだ。
「ねぇ、ねぇ〜」
「おい!」
 次の言葉に困っていると、後ろから公の声がした。

 その3分前。
 ソフトクリームを二つ持った公が、詩織が待っている椅子の所に向かっていた。
「ん?なんだ、詩織の横にいる男は?」
 詩織に向かって何やら話している。
「知り合い?そんな感じゃないな。ナンパか?う〜ん、さすが詩織だ」
 あんな可愛い娘を、ああいう男が放っておくわけがない。改めて詩織の魅力に
 関心する。
「おっと、関心してる場合じゃないな」


「おい!」
「ん、なんだ?」
 男に向かって声を掛ける。
「公くん」
「なんだ、おまえ」
 男は、『今いいところなのに邪魔なんだよ』という顔をする。
 それに負けずに、眼光鋭く言い放つ。
「俺の彼女に手を出すな!」
「彼女?なんだ男連れか。ちぇっ」
 男はそう言い残して去った。そしてすぐに他の女の子を物色し始める。
「まったく。なんて奴だ」
「公くん、か、彼女って」
「ああ、ごめん。とっさに口から出たんだ。ああいう男にはビシッと言った方が
 いいと思って。怒った?」
「ううん。そんなことないよ」
 顔が赤くなったのを気付かれないよう、慌てて立ち上がり歩き出す。
「そう、良かった。あっ詩織、ソフトクリーム」
『あんな風に言ってくれるなんて』
 平静を装ったが、本当は嬉しくてしょうがなかった。


 その後プールを出た二人は、軽くウインドウショッピングをした。
 帰る頃には陽も傾いていて、夕陽が二人の影を長く伸ばしている。
 バスを降りて家までの帰り道、公は道路側の方を、車から詩織を守るようにして
 並んで歩く。
「今日は楽しかったね」
「ああ」
「また誘ってね」
「うん」
ブロロロロ
 後ろから車が走ってくる。
 それに合わせて、公が詩織の身体を優しく包み込む。
 その時、二人の手が微かに触れた。
「あっ」
「あっ、ごめ・・・」
 言い終わらぬうちに、詩織が公の手をサッと握る。
「し・・・」
 詩織の顔はほんのり赤くなったが、夕陽がそれを隠し、公には分からなかった。
 詩織はそのまま、何も言わずに歩き出す。
 公もそれに合わせて歩き出す。

 それから二人は、家に着くまで一言も喋らず、お互い手の温もりだけで会話を
 しているようだった。

      つづく

   あとがき

 第26話でした。

 夏だからプールくらいは行かせようと思い、
 つなぎのつもりで書いたSSだったけれど、
 なかなか良い雰囲気を描けました。

 次回はどうするかな。
 時期的には修学旅行なんだけど、
 僕が行ったのって10年近くも前だもんなぁ。
 と言うわけで?1話保留します。

 では、次回をお楽しみに。

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