「My wish・・・」

                     第28話 「選抜予選決勝」

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 夜になるとだいぶ冷え込むようになった10月下旬、遂に高校選抜大会、通称
 ウィンターカップの予選が始まった。
 きらめき高校は男女とも地区予選を難なく勝ち上がり、県予選にトップで出場した。
 そして、地区予選を勝ち上がった上位3校、計12校がひびきの市で行われている
 県大会に進出し、トーナメントで本戦への切符を争った。
 その県予選も明日が最終日である。男子はここまで危なげなく勝ち上がり、
 明日の決勝までコマを進めていた。もちろん女子も勝ち残っている。
 決勝の相手はもちろん男女とも末賀高校である。男子は明日の決勝に勝てば、
 念願の全国への第1歩を踏むことが出来る。


「よしっ、5対5!」
「はいっ!」
 コーチの声が響く。体育館では、明日へ向けて最終確認がされていた。
 スタメン組と控え組に別れて、ゲーム形式で戦術の確認をする。
 木本から公にボールが渡り、ゴール下に切り込む。そこに1年の石崎が立ちはだかる。
 公の予想どおり、石崎はベンチ入りする事が出来た。残念ながらここまでの
 試合では、まだ出番はないが。
「主人先輩、入れさせませんよ!」
「石崎か」
 2mもある石崎からジャンプシュートを決めるのは容易ではない。
サッ!
「!?おっと」
 それならばとシュート体勢のフェイクで石崎を誘うが引っかからない。
「生意気な。じゃあ、これならどうだ」
 公が後ろにジャンプしながらシュートを放つ。
ババッ
「うわっ、届かない」
 石崎が目一杯ジャンプしても、ボールの軌道には手が届かなかった。
着地した石崎は、あれが入るのかとゴールの方を振り返る。
ザシュ!
「ナイシュー」
「オーーーーー!」
 公が初めて見せるフェイドアウェイに、部員から驚きの声が上がる。
「まだまだだな、石崎」
「次は止めます」
「すげーな公、フェイドアウェイかよ。なんで今までやらなかったんだ」
 ディフェンスに戻りながら木本が聞いてくる。
「末賀戦の秘密兵器だよ。て言っても、まだまだ試合で使う程じゃないけどな」
「そうか。しかし、どんどん新しい技を身につけるなお前って奴は。まったく
 頼りになるエースだよ」
 公の肩を叩いて感心する。
 この日の練習は、明日に疲れを残さないために早めに切り上げた。


 その夜。
 ベットに横たわり、天井の一点を見つめながら明日のことを考えていると、
 何だか緊張してきた。プレッシャーと言うほどではないが、この2年間の集大
 成をだし、なんとしても末賀に勝ちたいという思いが先走る。
「公く〜ん」
 そんな事を考えていると、窓の外から詩織の声が聞こえてきた。
「詩織か?」
 カーテンを開けると、詩織が手を振っているのが見えた。
ガララララ
「公くん、何してたの?」
「いや、明日のことを考えていただけだよ。ふ〜ん」
 思わず見つめてしまう。詩織は、可愛らしいピンクのパジャマを着ていた。
「なぁに?ジロジロ見て」
「いや〜、可愛いパジャマだと思ってさ」
「えっ?やだ、恥ずかしいなぁ」
シャッ!
 カーテンを引いて、身体を包み込む。
「ははは。なにもそこまでしなくても」
「もうっ、公くんが悪いのよ。そんなこと言うから。それより、いよいよだね。
 明日は頑張ってね」
「ああ、詩織もな。決勝の展開はどうなりそう?」
「うん。うちと末賀は実力が拮抗してるから、接戦になると思うわ。そっちは?」
「接戦か。男子はそうだな。やっぱり橋本をどれだけ抑えられるかだよな。
 2−3のゾーンでインサイドに頑張ってもらわないとな。そうすれば、俺が
 必ずゴールを量産してみせる」
 いつにも増して真剣な顔をする。そんな公を詩織が見惚れる。
「ん?どうしたんだ詩織」
「公くん、たくましくなったよね」
「な、なんだよ、いきなり」
 突然の言葉に困惑する。
「ふふふ」
 詩織は、公がときどき見せる、中学の頃にはなかった精悍な表情を見て、男の
 成長を感じていた。
「俺、変わったかな」
「うん。すっごく格好良くなったよ」
「そ、そうか?」
 腕を上げて、ボディビルダーのようなポーズをしてみる。
「ふふふふふ。なぁに、それ?」
「男らしさを表現してみたんだけど」
「そういうんじゃないよ」
「じゃあ、どういう風にだよ」
 ぶ然とした顔で聞き返す。
「そうねぇ。雰囲気とか」
「なんだそれ。よく分かんないな」
「本人には分からないかもね」
 運動は出来たが運動部には在籍していなかった公が、今は全国大会優勝を目指
 して努力している。その成果の一端として身に付いた、身体からにじみ出る
 雰囲気が良いのだと詩織は思っている。
「公くん。今、バスケが楽しくてしょうがないんでしょ」
「そうだなあ。最初の動機はともかく、今は毎日が充実してるよ」
『あっ、それは・・・・・・』
 詩織がピンとくる。それは1年の時にも抱いたことがある疑問だ。
「最初の動機?なぁにそれ?」
『しまった!!』
 思わず口に出てしまった言葉に焦る。
「えっ?俺、何か言ったか?」
「最初の動機って言ったよ〜」
 詩織が頬を膨らませて抗議する。
『むむむ、どうする?』
 表情はそのまま、頭の中はフル回転する。
プルルルル、プルルルル
 どうするか葛藤しているとき、タイミング良く電話が鳴る。
「あっ、電話だ。じゃあ、詩織おやすみ。明日はお互い頑張ろうな」
 早口でまくし立てると、詩織もそれに合わせる言葉を口にしてしまう。
「そうね、頑張りましょうって・・・・・」
ガラララララ、シャッ!
「もうっ!!待ってよ」
 詩織が言い終わらぬうちに、アッという間に窓を閉められてしまう。
「なによなによ、プンプン!いつか聞き出してやるんだから」
ガバッ!
 布団に潜り込んでふて寝をしてしまう。そしてそのまま眠りについてしまった。

「助かった〜」
 早速子機を手に取りながら、安堵の溜息をつく。
ピッ!
「もしもし、主人です」
「あっ!公くん?沙希です」
 受話器から元気な声が流れてくる。
「沙希ちゃんだったのか。タイミング良かったよ、ありがとう」
「なぁに?どうかしたの?」
「まあまあ、いいじゃない」
「???」
 首を傾げる沙希だが、ここは突っ込まずに本題にはいる。
「いよいよ明日だね、決勝」
「うん」
「あなたの体調はどう?」
「バッチリだよ。ただ」
「どうかしたの?」
 バッチリだと言っているのに、どこか悪いのかと心配して表情が曇る。
「今日、沙希ちゃんの顔を見られなかったのがなぁ」
「えっ?また冗談言って〜」
「ホントホント」」
「ふふふ、ありがと」
 受話器越しには笑って返すが、冗談と分かっていても心の中では嬉しさがこみ
 上げてくる。
「明日は何時からだっけ」
 沙希はもちろん応援に行くと前々から言っていた。
「えっと、10時から女子の3位決定戦が始まって、男子の3位決定戦をやって、
 女子の決勝、それが終わり次第男子の決勝だよ」
「わかったわ。じゃあ、12時頃行くね」
 指で時間を数えながら、時計に目をやる。
「うん」
「あっ、もう11時過ぎたね。遅くなると悪いからこれで切るね。明日は頑張っ
 てね。根性よ」
「ありがとう」
「あっそれと、試合が終わったら、いつもの体育館に来て」
「えっ、なんで?」
「それは来てのお楽しみ。ふふふ」
「???分かった。必ず行くよ。じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
ピッ。
「『根性よ』か、うん。いままでの自主トレの成果を出し切って優勝するぞ。
 でも沙希ちゃん、なんの用だろう?」
 詩織の声と沙希の声で気持ちが安らいだ公は、その夜グッスリと眠ることが
 出来た。


 試合当日。
 女子の決勝が終わり、いよいよ男子決勝が始まる時間が近づいてきた。
 女子決勝の末賀戦は、詩織の予想どおりの接戦となった。
 終了3分前まで、入れられたら入れ返すの繰り返しをしていたが、疲れで出た
 末賀ディフェンスのミスを逃さずにスパートしたきらめきが勝利した。
 終わってみれば67対59の8点差だった。
 これで詩織は4回目の全国大会となる。


 そして今は、男子決勝が始まる前の練習時間が始まろうとしていた。きらめき
 高校と末賀高校がそれぞれ控え室から出てきて、ハーフコートに別れてシュート
 練習を始める。
 きらめきには既に固定ファンが出来つつあり、今日も初の全国行きが決まるかも
 しれない一瞬を見るために、たくさんの観客でいっぱいになった。
 その中には、もちろん部員の父兄もいる。
「いよいよですね、主人さん」
「はい。ドキドキしますわ。詩織ちゃんはずっと全国に行ってらっしゃるのに、
 公はまだですから」
 応援席では、公と詩織の母親が話していた。
「男子と女子ではレベルが違うって詩織が言ってました。それに公くんは高校に
 入ってからバスケットを始めたんですよね?詩織がいつも感心していますよ」
「そんなものなのかしら。どちらにせよ、今日こそは末賀に勝って欲しいですね」
「そうですね。一生懸命応援しましょう」
「ええ」
 そんな二人の姿を、コート内の公が見ていた。
「何を話してるんだろ、母さん。変なこと吹き込んでなきゃいいけど」
 そこに3年から声が掛かる。
「なにやってるんだ、公。いくぞ」
「はい」
 慌ててコート内に入っていく。
「おっ、きらめきが練習を始めるぞ」
 観客の視線が集中する。もちろん公が、一番注目を集める
 まずは軽くアップから始める。
 部員がゴール前に1列に並び、先頭の木本がバックボードにボールをバウンド
 させると、後ろの者が空中でキャッチして再び放る。
ドンドンドン
 一定のリズムで繰り返される。
「うまいもんだ」
 観客席で感心する声が上がる。バスケをやっていない者にとっては、これだけでも
 感心してしまう。
ピッ!
 次はマネージャーがボール出しをして、順番にレイアップシュートを決めていく。
「ナイシュー」
「ナイシュー」
 しばらくそれが続くと、終わり間際に木本がマネージャーからボールを取り上げる。
「あっ!」
「公、1発決めてやれ」
 それに気が付いた公が、コクンと頷いて走り出す。
シュッ!
 鋭いパスが手元に届き、空中高く跳び上がる。
「きたきたーーー」
 それを見た観客席から声があがる。
ガコンッ!!
 バスケファンの間ではすっかり有名になった公のダンクシュートが炸裂する。
「これだよ、これ」
「キャーーー、格好いいーーー」
 黄色い声援が響く。
「これで今日の観客はこっちに付いたな」
 木本が公に耳打ちする。
「そんなものか?」
「そんなもんだ」
 その光景を見ていた詩織が呆れる。
「もうっ、公くんたら。それにしても、今日も女の子が多いわね」
 一時期の盛り上がりはなくなったとはいえ、やはり公の人気は衰えてはいない
 らしく、近くにあるひびきの高校の制服もチラホラ見えた。
 詩織はもう慣れてしまい、怒る気にもならなかった。

 その時、やっと会場に着いた沙希が、息を切らしながら公のダンクを見ていた。
「はあ、はあ、はあ。間に合った〜」
 午前中にあるものを作っていたため、家を出るのが遅くなってしまった。
「はあ、はあ。今日も調子良さそうね。悔いが残らないように頑張って」
 負けてもいい。後悔がないように全力でプレーしたのならば。
「私、見てるから」
 そして、きらめき側の応援席へと向かう。

 審判と選手が紹介され、いよいよ試合が始まろうとしていた。
「今日こそ、うちが勝つからな」
「ふふ。返り討ちにしてやる」
 木本と橋本が握手をする。
ピッ!
「始まったぞ」
 会場に歓声が響きわたり、観客席が一気に盛り上がる。
 まずはきらめきがボールを奪う。
「速攻」
 すぐに公の位置を確認してパスを出す。
 インターハイ予選に引き続き、公のマークに入った松本が追いかけるが、
 今回は追いつくことが出来なかった。パスが綺麗にとおる。
「くそっ、ダメか」
「よしっ、ナイスパス木本」
 そのまま走り込んでダンク。
ガコン!
「ナイシュー」
 ベンチから掛け声があがる。
「戻れーーー」
 すぐさま戻ってゾーンを組む。
 末賀は、橋本の出来にかかっていると言っていい程インサイド勝負のチームで
 あるから、ディフェンスはやはり2−3ゾーンが適している。
 3年生が中を固めて、外からのシュートには公と木本で素早くカバーする。
 これを徹底的に練習してきた。
「ローポスト注意しろーーー」
 インサイドの2人が厳しくボディチェックをする。
「中入ったーーー」
「まだまだ甘い」
 流石は全国区のプレーヤーだ。この固い守りをもかいくぐりシュートを決める。
「ナイシュー」
「すまん。次は止める」
「ドンマイドンマイ」
 木本が声を掛けて、オフェンスに頭を切り変える。

 インターハイ予選の時の末賀は、体力的な問題からマンツーマンを後半から
 出すという作戦だったが、今回は自信を持って前半から出してくる。
「おっ、最初からそうきたか」
 ボールを運びながら木本が驚く。
「それでも、きらめきはその上をいってみせる」
 守りでは2−3ゾーン、攻めではマンツーマンを想定しての練習を積み重ねてきた。
「そっちの体力がどこまで持つか、勝負だ!」
「チェック、チェック」
 しかし、やはり始まったばかりとあって末賀のチェックが厳しい。みんなノー
 マークを作ろうとするが、これではパスを出すコースがない。
「なかなかやるな」
 感嘆する木本だが、それでも点を入れないと始まらない。
「公!」
「よしっ」
 公が激しく動き回り、マンツーマンをかき乱す。
「いくぞ」


 前半が始まって16分が過ぎた。
「相手も頑張ってるなぁ」
 沙希は末賀の動きを見て感心する。公の自主トレに付き合うようになって、
 だいぶバスケットには詳しくなった。だから、マンツーがどれだけ凄いことな
 のか何となくだが分かる。
「公くん、頑張ってーーー」
 かといって、末賀を応援するというわけではないが。
 試合は、マンツーを何とか切り崩しながら点を入れるきらめきと、固い守りを
 弾き飛ばして点を入れる橋本、という展開になった。
「くそっ、しぶとい」
 公が愚痴る。前半も終わるというのに、末賀の体力はいまだ衰えていない。
 なんとか離されないように着いていってるが、このままでは点差が縮まらない。
「シュートいったーーー」
 末賀が3ポイントシュートを放つ。
 リバウンドのためにゴール下で構える橋本に、激しいボディチェックをかける。
ガッ、ガッ!
「グッ!」
 橋本がうめき声を漏らす。
ガンッ!
 それでも弾かれたボールに、橋本ときらめきの2人が跳び上がる。
ガッ、ガツッ!
 空中でも三人の身体がぶつかる。
「ナイスリバン!」
 橋本はそれでも負けずにボールを奪う。そしてシュート。
「ナイシュー」
『くっ、身体が重い』
 シュートを決めたのはいいが、橋本は徐々に体力が削られていることを感じて
 いた。そして、ちょっと変わったその顔色を、きらめきのコーチと木本は見逃
 さなかった。

ビーーー
 前半が終了して、30対38。前半は守り合いの展開で終始した。
「さすがは末賀だわ。いまの男子をここまで抑えるなんて」
 毎日男子の練習を見てきた詩織は、今回は楽に勝てるのではないかと思ってい
 たのだ。それが蓋を開けてみればこんな展開になろうとは。
「それでも自分たちを信じて頑張って、公くん」
 控え室に戻る公を見つめながら、小さく呟く。
「全国でも上位に行く所は違うな」
 控え室では、末賀の持久力に舌を巻く選手達がいた。
 練習どおりにやってはいるが、それでも橋本を止め切れていないのだ。
「そうでもありませんよ。ねぇ、コーチ」 
「うむ。お前も気が付いたか」
 木本が冷静に口を開くと、コーチも腕を組んで頷く。
「なんだ、木本」
 質問する公の声とともに、みんなが木本を注目する。
「橋本の最後のシュートがあっただろ」
「ああ」
「あの時のプレーなんだが、普段のあいつなら、あそこでボールをキャッチして
 着地するなんて事はないんだ。あれなら着地をしないでシュートか、タップ
 シュートを決めている場面だよ」
「そうか?ということは」
 今度はコーチの方を見る。
「そうだ。橋本の体力は確実になくなってきている。ディフェンスではマンツー
 マンで常に動き、オフェンスではお前らの激しい当たりを受け続けながら孤軍奮闘だ」
 3年の二人を指差す。
「これじゃあ、さすがの橋本も疲れるはずだ」
「そうか、じゃあこのままいけば良いんですね」
「そうだ」
「コーチ時間です」
 マネージャーから声が掛かる。
「分かった。みんな、残り20分全力を出し切れよ」
「よっしゃーーー」
 コーチの檄と選手の叫び声が響く。

     つづく

    あとがき

 第28話をお送りしました。
 いよいよ予選も大詰め、公は勝つことが出来るでしょうか。
 そういえばレイの出番がなかったなぁ〜。
 早乙女兄妹も影が薄くなってきたし。
 やばいなぁ。

 しかし、それでも話は続いていくのであった。(^_^;)
 次回もお楽しみに。 

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