「My wish・・・」

             第3話 「保健室にて、」

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 チリンチリン、チリンチリン。
 放課後になり、帰る者、部活に行く者それぞれ席を立つ。
 公が部活に行く準備をしていると、隣の席の早乙女好雄が話しかけてきた。
「公、これから部活か?」
「ああ。」
 自称「愛の伝道師」の好雄のメモ帳には、きらめき高校の女子生徒全員のデータが
 書き込まれているらしい。詩織のページには何が書かれているのだろうか。ちょっと気に
 なる。女の子のことならいつでも電話をくれとは言われたが、いままで一度も電話をした
 ことがない。
「おまえはどうするんだ?」
 好雄は帰宅部だが、一応聞いてみた。
「俺?今日はちょっと調べることがあってな。校内を回るところだ。」
「調べること。何をだ?」
「チッチッチッ!企業秘密に決まってんだろ。」
 顔の前で指を揺らす。  
「女の子のことか?まあいいけど。犯罪になることはやめとけよ。」
「大丈夫だよ。」
 心の中では『見つからなきゃいいのさ。』と呟いていた。(おいおい大丈夫か)
「じゃ、がんばれよ。」
 好雄は鞄を置いて、席を立った。
「ああ。じゃあな。」
 公も体育館に行くため席を立つ。

 廊下を急ぎ足で体育館へ歩いていると、途中で虹野さんと会った。
「あっ公くん。これから部活?」
「虹野さん。そう、早く行って準備しないとさ。」
 公は昨日のことを、もう一度念を押しておこうと思い、
「虹野さん。昨日のことなんだけど。」
「うん。わかってるよ。内緒にしておくから。」
 ウインクをしながら、しーのポーズをとる。
「ありがとう。」
「ねえ公くん。」
「何?」 
 ちょっと公に近づき小声で聞いてくる。
「今日から自主トレ始めるの?」
「うん。そのつもりだけど。それがどうかしたの?」
「ううん。な、なんでもないよ。」
 手を振りながら、あわててそう答える。
「おっと、話し込んでる場合じゃないか。じゃあね虹野さん。」
 公はダッシュで走り出す。
「うん。頑張ってね。」
 虹野は公が見えなくなるまで見送っていた。
「さあ、私もグランドに行かなくちゃ。」
 

 きらめき高校バスケット部は結構強い。男子部はまだ全国大会に出場したことは
 ないが、予選では決勝トーナメントの常連だ。しかし、優勝には手が届いていない。
 女子部は全国大会の常連で、先に行われた予選でも優勝し、インターハイ行き
 を決めている。ちなみに男子はベスト4だ。
 公はもちろん補欠で、観客席で応援をしていたが、詩織はすでにベンチ入りしている。
 予選では出番こそなかったが、期待のガードである。
 
 部活が始まった。
 素人の公は、入部して2ヶ月間ハンドリングとドリブルの練習しかさせてもらえなかった。
 最近やっとみんなと同じメニューで練習している。フットワーク、対人パス、シューティング
 各種とすすむ。

 次はオフェンスとディフェンスに別れて1対1、2対2の練習だ。
 1対1。公のオフェンスの番だ。
 センターラインから勢い良く飛び出す公。
 伊達に2ヶ月もの間ドリブル練習をしていたわけじゃない。ハンドリングとドリブルだけは
 みんなに追いついている。
 トップスピードでディフェンスに突っ込む。
ダダダダ。
 直前まで来たとき、ボールを時計回りにまわして体の後ろでバウンドさせ、左手に持ち
 替えて左側を抜きに行く。
クルッ、ダンッ!バッ。
キュキュキュ。
ディフェンスもついてくる。

 そこで突然ドリブルをストップして急に止まる。
キュッ!!
 それに合わせるようにディフェンスが止まる。その一瞬の間を逃さずに再びダッシュする。
バッ!ダダダダ。
キュキュキュ。

 それでもディフェンスはついてきて公にかぶさってくる。
『もう少しだ。』
 ゴールに近づく。
 そのまま今度は、右足を軸にして180゜ターンしながら体の向きを変える。
クルッ。
 ゴールまでの視界がひらけた。
『いまだ。』
 1回ドリブルして、そのままジャンプシュートの体勢に入る。
ダンッ、バッ!!
 その時、左側からディフェンスの手が伸びてくる。
チッ!
 かすかにボールに触った。
 放物線を描いたボールは一回リングに跳ねてからバックボードに当たって落ちる。
ガンッ、バンッ。ドン、ドン、ドン。

「ドンマイ!!」
「ナイス、ディフェンス。」
 他の部員から掛け声が上がる。
「くそっ、ダメか。うまく抜けたのに。」

 普通にフリーでシュートを打つ分には、今の公でも問題はない。
 しかし、試合中にフリーになることは滅多にない。チームプレーの前に練習することが
 たくさんある。いまは練習あるのみだ。
『でも、自主トレではこういう練習が出来ないからなぁ。』
 
「あっ、おしい!」
 そんな公を見ている女の子がいた。もちろん詩織である。
『すごいなぁ、公くん。』
 心の底からそう思う。
『まだ本格的に始めて3ヶ月なのに、シュートに持っていくまでの動作は
 いい感じだもの。』
 本気になった公の上達スピードは詩織も目を見張るものがある。
「私も負けてられないな。よしっ!」
 女子は実践形式の紅白戦練習をやっている。

「おっ、さすが詩織だ。」
 ゴール下に鋭いパスを入れている詩織が見えた。
 詩織の実力はよく知っているが、名門のきらめき高校でも1年にしてベンチ入りしている
 詩織を見ていると、もっと頑張らなければといつも思う。
と考え事をしていると、
「公、あぶない。」
「えっ?」
 声のする方に振り向くと、ボールが凄い勢いで飛んでくる。
バンッ!!
 公の顔面にヒットする。
 立ったまま、そのまま後ろに倒れる。
バタン!!
「おい、大丈夫か。」
「う〜ん・・・・・。」
 
「なに?」
 男子の方を見ると、倒れている公を見つける。
「公くん?」
 考える前に体が動き、公のもとに走っていく。
 側に行くと、男子部のマネージャーが心配そうに見ていた。
「あっ、藤崎さん。」
「大丈夫なの?」
「詩織か?大丈夫だよ。」
 公が目を覚ます。
「そうですね。ちょっと脳しんとうを起こしているかもしれないです。」
「私、保健室に連れて行くわ。」
 女子部の先生を見ると、いってらっしゃいという仕草をする。
「じゃあ、お願いします。」
「うん。わかった。」
 公の腕を担いで起きあがらせる。
「詩織。いいって。」 
「ダメよ!!」
 と言って歩き出す。
『うっ、周りの目が・・・。』
 詩織を狙っている男子が先輩、同学年問わず公を睨んでいる。
『夜道には気を付けよう。』
 と思う公であった。

 保健室につくと保健の先生はいなかった。詩織は公をベットに寝かせて椅子に座る。
「大丈夫?公くん。」
 心配そうに公を見ている。
「ああ。」
『おいおい。二人っきりだよ〜。』
 開いた窓から入ってくる風が詩織の髪を揺らす。
 数十秒か数分か沈黙が続き、ドキドキしている公に詩織が聞く。
「ねぇ、公くん。」
「な、なんだ。」
 詩織の方を見る。
「なんでバスケ部に入ったの?」
「えっ。」
 公は少し考えて。本心を悟られないよう普通に言う。
「いままで何もやっていなかったから。何か始めようと思ってさ。」
「それだけ?」
「そ、それだけって。それだけだよ。」
「そう。」
 また沈黙が流れる。
「私がバスケ部だからじゃないの。」
 突然核心をついてくる。
『うっ!!またもや鋭い。悟られちゃダメだ。』
「違うよ。」
 詩織から目もそらし、ドキドキしながら言う。
「そうなの。ちょっとざんねん。」
 最後の方は小声で呟いた。
「えっ。何?」
「なっ、何でもないよ。」
 詩織は、顔が赤くなったのを悟られないように立ち上がり、
「じゃあ、わたしもう行くね。公くんはもう少し休んでた方が良いよ。」
「わかった。」
「じゃあね。」
 ガラガラガラ。詩織は保健室を出ていった。
「ホント、女ってカンがいいよなぁ。」
 思わず感心してしまう公であった。

 はやく詩織に追いつかないと。
「さあ、今日から自主トレ開始だ。」

          つづく


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