「My wish・・・」
第30話 「レイの決意、詩織の決意」
サイドB「詩織の決意」
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サイドA
11月下旬になると、世の中はクリスマスのムード一色に包まれていた。
学校が冬休みに入ると、すぐにクリスマスがやってくる。しかし、全国大会出場が
決まったバスケ部では、そんな世情とは離れて練習で忙しい毎日が続いていた。
それでも、伊集院家のパーティーに行くというのは、部員の間では暗黙の了解
となっていた。大会は大会、クリスマスはクリスマスという、楽しいことには参加しない
と損だという考えで一致していた。まあ、招待状が届いていない男もいるのだが。
12月1週目の日曜日、今日も部活があった詩織と公は、一緒に家路についていた。
「さすがに寒くなってきたなぁ〜」
「そうね、雪でも降ってきそう」
マフラーを首に巻きながら答える。
公は白い息を吐き、すこし身震いする。
「公くん、マフラーくらいした方が良いよ」
「そうだな。誰か作ってくれないかなぁ〜」
コートのポケットに手を入れながら、チラッと詩織の顔を見る。
「えっ、わたし?」
「俺は何も言ってないけど」
「言ってるのと同じだよ〜」
腕を叩いて抗議する。
「ははは」
「もうっ!」
『でもマフラーか。私に出来るかな?』
編み物なんてしたことがない詩織だが、大好きな公のためなら。
「やってみようかな」
「えっ?何か言った、詩織」
「ううん。なんでもないよ」
家に帰った詩織は、すぐに母親に相談してみた。詩織が小さい頃は、セーター
とか手袋を手編みで作ってくれていたのを思い出したからだ。
「ただいま〜、お母さんお母さん」
慌ただしく靴を脱ぎ、鞄も置かずにそのまま居間にいる母親の元へと行く。
「なあに?いったい」
ソファに座ってパッチワークをしている母が、何事かと振り返る。
今は刺繍に凝っているのだ。
「お母さん。編み物得意よね」
「そうね。今はやっていないけれど」
「でしょ〜。それでね、マフラーの編み方を教えて欲しいんだけれど」
手を身体の前で組み、モジモジしながら聞いてみる。
「マフラー?あなた持ってるでしょ」
「う、うん。自分のはあるんだけれど〜」
「はっはあ〜ん。公くんに編んであげるんでしょう」
「えっ?そ、それは」
目をそらし、視線が宙を舞う。
「別に隠す必要もないでしょ。やったことがない編み物をやろうなんて言うんだ
から、それしかないじゃないの」
「わかる?」
「当然よ。で?クリスマス用に編むのね?」
「うん。私にも出来るかな?それと、どの位かかるのかな」
手先は器用だが編み物は初心者の詩織は、何がどの位で出来るのか、まったく
分からなかった。
「そうねぇ。セーターだと詩織には難しいけれど、マフラーなら大丈夫でしょ。
それと、私なら5日もあれば出来るけれど、あなただと勉強もあるし、2週間
位じゃないかしら」
カレンダーを見ながら答える。
「今からだとギリギリね」
「大丈夫よ。絶対に間に合わせるんだから」
公のためなら徹夜だってするつもりだ。
「早速今日から始めたいんだけど、毛糸ある?」
「あるわよ。公くんの好きな色は知っているの?」
「う〜ん。青系だと思ったけど」
「青か。確かあったわ。編み物の本を貸してあげるから、頑張りなさい」
「うん。ありがとう、お母さん」
その夜、晩御飯を済ませると、すぐに部屋に戻って本を読んでみた。
パラッと読んで顔を上げた詩織は、思っていたよりは簡単そうで安心する。
早速、借りてきた道具を取り出して編み始める。
「ここがこうなって〜、こうなって〜、こうかしら?」
順調に編み続けていると、久しぶりに妄想モードに突入する。
「公くんのために夜なべで編み物。なんだか彼女みたい。うふふふふふ」
久しぶりに壊れていく詩織ちゃん。当然編み目が段々ぐちゃぐちゃになっていきます。
いよいよクリスマスパーティーの夜が来た。
詩織は、昨日やっと出来たマフラーを紙で包み、綺麗にラッピングする。
「公くん、どんな顔するかな?楽しみ」
時計を見ると、すでに5時を回っていた。バッグに包みと招待状を入れて、
急いで家を出る。
「いらっしゃいませ。レイ様のお友達ですか?」
「はい。これ、招待状です」
門の所には、レイの付き人である外井が立っていた。
詩織の渡した招待状を見てハッとする。
『この方がレイ様の恋敵』
一瞬だけ目つきが変わるが、詩織は気付かなかった。
「どうぞお入り下さい」
「ありがとうございます」
詩織は門をくぐると、会場であるホールを目指して歩き出した。
中には、すでにたくさんの人が集まっていた。
早速貸衣装の部屋に行き、ドレスを物色する。
「確か去年は青だったよね。それじゃあ」
詩織は何百着もある中から、真っ赤なドレスを一つ選び、更衣室へと着替えに行った。
「あっ、公くん」
「よう詩織、先に来てたのか」
ジュースを持って歩いている公を見つけて呼び止める。
「メリークリスマス、公くん」
「メリークリスマス、詩織」
詩織のドレス姿を見た公は、下から上へと目線を走らせる。
「どうかな。このドレス」
「ありきたりの言葉しか言えないけれど、似合うよ詩織。綺麗だ」
「ホント?ありがとう」
パーティーが始まるまで、二人でたわいもない話をしている間も、詩織は袋に
入っているマフラーのことを考えていた。
「ねぇ、公くん」
「なに?」
「パーティーが終わったら、一緒に帰りましょう」
「いいよ、分かった。じゃあ、出口の所で待ってて」
「わかったわ」
沙希と帰る約束をされると困るので、先に約束してしまう。
しばらくすると、急に辺りが薄暗くなり、奥にあるステージにスポットライトが
当てられる。
ババッ!
そこにはタキシードを着たレイが立っていた。
会場から黄色い声が沸き上がり、それに手を振って答える。
「ありがとう、ありがとう」
数秒後、手を挙げてそれを静止させる。
「みなさん。今日はようこそ我が伊集院家のクリスマスパーティーにおいでください
ました。今宵は日頃の現実など忘れて、思う存分楽しんでいって下さい。
それでは、ミュージックスタート」
パチン!
レイが指を鳴らすと、待機していたオーケストラの演奏が始まった。
「伊集院にしては短い挨拶だったな」
「ふふふ、そうね」
レイは計画のことで頭がいっぱいでそれどころではなかった。
公と少し話をした後、愛を探すために公と別れた。
「メグはどこにいるのかな?」
「詩織ちゃ〜ん」
比較的近くから、美樹原愛の声が聞こえてきた。キョロキョロと周りを見渡すと、
人垣の向こうで愛の頭が見えた。ピョンピョンと跳ねているらしい。
「ここだよ〜」
愛に気が付いた詩織だったが、ワザと気付かない振りをする。
「え〜と」
さらに探している詩織を見ながら、愛が人垣の間から顔を出した。
「ここよ〜」
「あっ!メグ〜、ゴメン見えなかった」
「あ〜、ひっどーい、詩織ちゃん」
愛は口をとんがらせて拗ねてしまう。
「ごめん、うそうそ」
実際、身長が150cmの愛の身体は、こんなに人がいると見つけにくいのだ。
「もうっ!詩織ちゃんのいじわる!」
「ふふふ。許して、メ〜グ」
愛の腕に絡みつきながら、女の愛が嫉妬するくらいの笑顔で謝る。
「かなわないなぁ〜、詩織ちゃんには」
こんな詩織の顔を見ると、なんでも許してしまう気になってしまう。
1時間も愛と話していただろうか。ちょっと目線を窓の方に移したとき、
その先に公の姿が見えた。
「あれ?公くんだわ。どこに行くんだろう」
外の方に向かって歩いていく公を見て、なんだか女の勘が働いた。
「何かあるわね」
「どうしたの?詩織ちゃん」
愛が詩織の顔をのぞき込む。
「メグ、私ちょっと用があるから」
「あっ、詩織ちゃん」
詩織は、公の後を見つからないように追って行った。
盗み見なんて悪いことだと知りつつも、感情を抑えることが出来なかった。
二人からちょっと離れた木の陰に、詩織の姿があった。
「う〜ん。ここからだとよく聞こえないわ」
しかし中庭とはいえ、部屋の中のオーケストラの演奏とざわめきがここまで聞
こえてくるため、詩織の位置からは会話の内容を聞き取ることは出来なかった。
「でも、これ以上近づくと見つかっちゃうし」
仕方ないので、耳に手をかざして、目をつぶって精神を耳一点に集中する。
「もうっ!うるさいなぁ。全然聞こえないわ」
それでも聞こえないため、ちょっとイライラしてきた。
「それにしても、あの娘誰なのかしら?公くんの知り合い?」
めげずに耳をダンボにしていると、突然音楽が止み、辺りが静かになった。
詩織にも話し声が聞こえるようになる。
「私のこと、好きですか?嫌いですか?」
「何ですって?あの女の子、公くんに告白してるの?」
小声で呟き、二人を凝視する。
「好きか嫌いかって・・・・・・」
「どうなんですか?」
女の子が、身体を公の方に傾けて、顔を近づけている。
『何やってるのよ!』
バキッ!
『いけない』
名も知らぬ女の子の行動に興奮した詩織が、木の枝を折ってしまう。
ベンチの方を見ると、二人の世界に入っていて、こっちには気が付いていないようだ。
『良かった〜』
再びその後の展開を見守る。
「え〜と、いまちょっと話しただけだからよく分からないけれど、
君は美人だし、性格も良さそうだし、別に嫌いじゃないよ。
どちらかと言えば好きかな」
「ホントですか?」
「あ、ああ。嘘を言ってもしょうがないし」
「じゃ、じゃあ、私と付き合っていただけますか?」
『えっ?』
公の言動に動揺が走り、女の子の言葉に鼓動が早くなる。
そして、身体が無意識のうちに動こうとする。
「ちょ、ちょっと待って。落ち着いてくれ」
詩織の身体がちょっと動いたが、また動かなくなる。
「?」
今にも飛び出しそうになった身体を、公の言葉を聞いて何とか理性で止める。
「た、確かに、好きか嫌いかといったら好きだけれど、その好きは
付き合うとかの次元の好きとは違うんだ。なんて言ったらいいか、
そう、友達としての好きなんだ」
「ともだち・・・・・、ですか」
「ごめん」
「それじゃあ、公さんは今、好きな女性がいますか?付き合いたい、
愛したいという女性が」
「うん。いる」
『いるんだ公くん、好きな人が。いったい誰なの?』
詩織も、公の次の言葉を息を殺して聞き入る。
「それは誰なんですか?」
「・・・・・・」
「やはり答えて下さらないのね。じゃあ、お怒りになるのを
覚悟で言います。それは、藤崎詩織さんではありませんか?」
「えっ?」
「えっ?、むぐっ」
驚いた詩織は、大きな声を出しそうになって、慌てて自分の口を両手でふさぐ。
『どうして私の名前を知っているの、あの娘』
「どうして詩織の名前を知っているんだ君が」
「そんなことはいいじゃないですか。どうか教えて下さい」
「そ、それは」
『私が知りたかった、公くんの気持ちが聞けるの?』
ググッと、詩織が身を乗り出したとき、再びオーケストラの演奏が始まった。
『えーーー!!』
また二人の会話が聞こえなくなってしまった。
『一番大事なところが聞こえないよ〜』
詩織が静かに地団駄を踏んでいると、かすかに、しかし力強く公の声が聞こえてきた。
「ただ、それは確かな思いじゃない。これからどうなるか
分からないけれど、今、好きだとハッキリ言えるのは、
藤崎詩織だけだ。これだけは確かなんだ。情けないことに、
まだ告白する勇気はないけれど」
『えっ?』
詩織は耳を疑った。しかし、確かに聞こえた。自分のことが好きだという公の言葉が。
「公くんが、私のことを・・・・・好き?」
ここでまた、二人の会話は聞こえなくなった。
しかし、詩織の頭の中はそれどころではなかった。
考えがまとまるまで、二人の姿は目に入らなくなっていた。
公が自分のことを好き?そのことが頭の中をグルグルと目まぐるしく廻っていた。
最初は伝説の木が気になって告白できなかった。そして沙希が出てきたこと
で、卒業前でも伝説を無視してまで告白しようか迷っていた。
その迷いがここにきて一変してしまった。公は自分のことが好きなのだから、
このまま上手くいけば、卒業式まで大丈夫なのではないかという考えが浮かぶ。
自分勝手なのは分かる。もし公に知れたら、絶交されるかもしれない。公の
気持ちを弄んだことになるのだから。
それでも、伝説に憧れる心がそうしろと言っているみたいだった。
しかしこの考えが、後に重大な事件を引き起こすことになろうとは、今の詩織
には予想することが出来なかった。
それでも、今の時点での結論が出てしまった詩織は、再び二人に視線を戻す。
「あの娘、泣いてるわ」
あの展開から見ても振られたわけだから、泣くのは分かる。しかし、何故か
笑っているようにも見えた。
「いったい、どうなったの?」
すると、突然公が女の子を抱きしめた。
「なあに?どういうこと?」
目の前で公が女の子を抱きしめている。その状況は、詩織には堪えられるもの
ではなかった。すぐに出ていって引き剥がしてやりたいくらいだが、今出ていくと、
自分が盗み見をしていたことがばれてしまう。
それでは、公に嫌われてしまうことが目に見える。
詩織は、走ってその場を去った。
レイと別れた公は会場に戻ったが、プレゼント交換はすでに終わっていて、
帰る人もチラホラ見えた。
「あっ、公くん。どこに行ってたの?」
「沙希ちゃん」
あれから優美に何かと質問されたが、適当に答えて誤魔化し逃げてきた沙希は、
公のことを探していたのだ。
「ちょっとね」
「もうそろそろお開きみたいだから、一緒に帰ろう」
「ごめん沙希ちゃん。詩織と帰る約束してるんだ」
「そ、そう」
沙希の表情が曇ってしまう。
「ごめん」
「ううん、いいの。それじゃあこれ、私からのクリスマスプレゼントだから」
そう言って、ラッピングされた袋を差し出す。
「ありがとう。俺からのもあるんだ」
「ホントに?」
「もちろんだよ。いつもお世話になってるんだから」
公も持ってきた包みを渡し、二人で中を見せ合う。
「これは、リストバンドだね。ありがとう、試合でつけるよ」
沙希はいつも自分を感じていて欲しいと思い、刺繍入りのリストバンドを作った。
「あは、かわいい」
公からのプレゼントは、バスケ小僧のイラストが刺繍されているエプロンだった。
いつも自分を思って料理を・・・などという深い意味はなかったが、沙希は
そう感じるに違いない。
「ありがとう、公くん」
「うん。じゃあ、送ること出来ないけど、気を付けて帰ってね」
「わかった。それじゃあ、大会頑張ってね」
「ああ」
手を振り、こちらを何回か振り返りながら、沙希が帰っていった。
「さてと、詩織はもう待ってるかな?」
ちょっと中を探したが姿が見えないので、公も急いで出口に向かった。
その時詩織は、出口の近くの椅子に座っていた。
さっき人垣の中に沙希の姿を見かけたから、公が沙希と一緒でないことは
分かっている。もうすぐ公も出てくるだろう。しかし、なんだか公の顔を見る
のが恐かった。さっきの言葉がまだ信じられなかったし、あの娘を抱きしめた
のも気になっていた。
でも、このまま会わないで帰る事もできなかった。
いろいろ考えている内に、公が出て来た。
「詩織、待った?」
「公くん。ううん、そんなに待ってないよ」
顔を上げてその声に答えるが、やはり公の顔を見ることが出来ない。
すぐに目を逸らしてしまう。
「どうかした?詩織」
「ううん。なんでもないよ。行きましょう」
「ああ」
なんだかおかしいと思いつつも、詩織の横に並んで歩き出す。
会場を出てからというもの、詩織は一言も喋らなかった。なんだか二人の間に
いつもと違う雰囲気が漂う。恋には鈍い公も、何かを感じていた。
「なんだか変だよ詩織。どうしたんだ?」
それでも黙っている詩織に、公も口をつぐんでしまう。
しばらく歩くと、突然詩織が口を開いた。
「ねえ、公くん」
「ん?」
「さっき、パーティーの途中で中庭に行ったみたいだったけれど、何をしてたの?」
「えっ?」
さすがに、近くで見ていたなんて事は言えなかったが、自分のことを好きだと
言ったのに、あの娘を抱きしめたのは何故なのか知りたかった。公ならありえ
ないだろうが、二股ということも考えられるからだ。
公が隠せばどうにもならないのだが。
「ああ、あれ。見てたのかい?」
「チラッと、外に行くのが見えただけ」
そう言いつつも、詩織はとても深刻そうな顔をする。
公は、隠す必要もないだろうと本当のことを話した。なんだか、心から心配し
ているようなので、安心させようと思ったし、そうするべきだと感じたからだ。
ただ、詩織が好きかという質問は省いて。
「断ったの?」
「ああ」
友達になったということも話してくれたから、詩織は安心した。
最後に抱きしめてとお願いされたということも。
「何で振ったの?可愛い娘だったんじゃないの?」
「内緒だよ」
公はそう言いながら笑って誤魔化すが、詩織は真実を知っていた。
『そうだったの』
これで、唯一の疑問も解けた。
安心した詩織は、今日の目的を思い出した。
「そうだ。公くん、プレゼント交換の時いなかったでしょう」
「ああ」
「そんな可哀相な公くんに、私からクリスマスプレゼントで〜す」
いよいよ朝から気になっていた時が来た。またまたドキドキしながらラッピング
された袋を公に渡す。
「ありがとう、詩織。俺からもあるんだ」
ポケットの中から、リボンが付いた小さな箱を出す。
「ありがとう、開けてもいい」
「うん」
箱を開けると、イヤリングが入っていた。
「かわいい」
1つ手に取り、耳に持っていく。
「どうかな?」
「うん。似合ってるよ」
「でも、高かったんじゃない?」
「全然、そんなことないよ」
本当は母親に頭を下げて、お年玉の前借りをしたのだが黙っていた。
「そう?ありがとう」
「じゃあ、詩織のは」
ガサガサガサ
リボンをほどいて中を見ると、淡いブルーのマフラーが入っていた。
「マフラーか。あっ、もしかして」
いつだったか、マフラーを作ってくれないかと催促したことを思い出した。
「そうよ〜。初めての編み物だったんだから。だからちょっと編み目が変なんだ
けれど。ちょっと長くなったし」
恥ずかしそうに、だんだん声が小さくなる。
「そんなことないって。いい出来じゃないか。この色も好きな色だし」
「そう?良かった。くしゅん」
「んっ?寒いの、詩織」
その時、空から白いものが舞い降りてきた。
「雪。ねえねえ、雪だよ公くん。素敵ねぇ」
子供のような笑みを浮かべて、クルクル廻ってはしゃぐ。
「危ないよ、詩織」
「くしゅん」
「ほら、風邪ひくって」
公は詩織の肩を掴んで、自分の方に抱き寄せる。そして、今もらったばかりの
マフラーを、自分と詩織の首に巻き付ける。
「あっ!?」
ピッタリくっついた二人の身体。詩織の顔のすぐ横に公の顔がある。
「こ、公くん」
「あっ、ごめん。嫌か?」
「ううん。そうじゃないの。ちょっとびっくりしただけ」
「そう。じゃあ行こう」
「うん」
詩織のことが好きだという気持ちを再確認した公の、大胆な行動だった。
『びっくりした〜。もうっ、突然なんだから。でも、あたたかい』
詩織は、自分を好きだと言ってくれた男性に寄り添いながら、卒業式で伝説を
実行するその日まで、公に好きでいてもらえるような素敵な女性になろうと決意した。
そして、自然と身体が動き、二人の距離が更に近づく。
『詩織、全然嫌がらないんだな。マフラーも編んでくれて』
なんだか、幼なじみの仲良しな男女以上の好意が感じられる。
そんな公の中で、今まで思いも寄らなかった考えが浮かんでくる。
『詩織は・・・・・・・、もしかして・・・・・・・、俺のことが・・・・・、
好き・・・・・なのか?まさか!?』
二人の心の距離も、ちょっとは近づいたホワイトクリスマスの夜だった。
つづく
あとがき
第30話サイドBをお送りしました。
いかがだったでしょうか。
今回の第30話は、いままでの甘いSSとひと味違って、
ちょっと重い話を書いてしまいました。
えっ?全然重くない?予想していたって?
賛否両論あるでしょうが、
僕が考えたプロットでは、なくてはならない展開なんです。
特に詩織の行動(伝説を優先する)には、抗議のメールが
くることも覚悟しています。
甘かったり、重かったりするところも、
ガラッと変わって変だとか、メリハリがあって良いとか意見が
別れるところでしょう。
もし、こんなのは違うと思った方は、
ここで読むのをやめても結構です。
まだこの続きを読みたいと思った方は、
これからもお付き合いして下さい。
それでは、次回をお楽しみに。
あとがきも長くなったな。(^_^;)