「My wish・・・」
第31話 「全国デビュー」
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12月25日、世の中は年末を迎えて忙しい中、いよいよウインターカップが始まった。
会場には、全国から予選を勝ち抜いてきた代表48校が集まった。
昨日の初日は女子の一回戦が行われ、男子は2日目からの開催となる。
昨日行われた女子の一回戦は、詩織の好リードできらめき高校が順当勝ちした。
今日の2回戦では、2月の新人戦で破れた清和高校と当たる。
そして男子もいよいよ全国デビューを飾るときが来た。1回戦は千葉代表の
市立舟橋高校と対戦する。下馬評では、やはり舟橋有利となっていた。
「公くん」
「よう、詩織。今日の試合も頑張れよ」
「うん。新人戦で負けた相手だもん。連続で負けられないわ」
「そうそう。その意気だ」
女子はあの頃よりもレベルアップしているはずだ。新人戦では手を抜いていた
という清和であっても、勝てると公は確信していた。
「公くんもいよいよだね。緊張してカチカチなんじゃないの?」
「まだ大丈夫だよ。始まる直前はわからないけど」
「そうなんだ。強いね公くん」
自分が初めて全国大会に出たときの緊張を思い出し感心する。
「それよりもさ。木本の奴がダンクコンテストに出ろっていうんだよ」
ウインターカップの初日は、男子がダンクコンテスト、女子が3ポイントコンテスト
を行うのが恒例となっている。
「コーチと先輩もおもしろがって賛成しちゃうし」
「ホント?いいじゃない」
手をあわせて賛成する。
「詩織まで〜」
ちょっと拗ねてみせる。
「からかってるわけじゃないのよ、公くんなら優勝だって出来るかも」
「無理無理」
「私は見てみたいなぁ」
瞳をウルウルさせて、必殺のお願い攻撃が炸裂する。
「う〜ん。わかったよ。かなわないなぁ、詩織には」
「やった!頑張ってね」
「ああ。やるからには優勝を目指すよ」
以前なら人気が上がるような事はして欲しくなかったが、今は違う。
一昨日のことがあってから、公の凄いところをみんなに見て欲しいという気持ち
に変わっていた。
『ふふふ、公くんてば拗ねてるところが可愛いんだから』
まあ、詩織と沙希くらいしかそうは思わないでしょう。
「さあ、恒例のダンクシュートコンテストです」
一回戦が始まる前、軽快なアナウンスとともに会場から歓声があがる。
参加者の列に並んでいた公は、他の参加選手を見渡してみる。
『みんなでけーな。やっぱ』
身長は変わらず176cmの公は、バスケット選手の基準だと当然小さい部類に入る。
190cm以上の選手に上から見下ろされると、内心馬鹿にしてるんじゃないかと
思えてくる。
会場には、公の晴れ姿を見るために沙希の姿もあった。
「あれっ?公くんもダンクコンテストに出るんだ。これは優勝間違いなしね」
沙希は確信を持ってそう思った。
「ふふふ。私は知ってるもん」
自主トレのダンク練習を見ている沙希は、フリーで打つ公のダンクの凄さを
良く知っている。ましてや、他の選手よりも背が低い公のダンクシュートだから、
インパクトも強いはずだ。
ダンッ!
ボールをゴール方向に向かって一回バウンドさせ、それを空中で取りそのままダンク。
ガコン!
「ワンバウンドの一人アリウープだ〜」
大きい選手の迫力あるダンクに、観客から拍手と歓声が起こる。
「判定は?おしい48点です」
5人の審判員が1人10点までの札をあげ、50点満点で競われる。
演技はどんどん進み、最後に公の出番が来た。
「最後は初出場きらめき高校のエース、主人公くんです。おっと、主人くんは身長が
176cmですが、リングに届くのでしょうか?」
会場からも、驚きとからかいの声が聞こえてくる。
ここは公の地元であるから、一部には公のことを知っている観客もいたが、
ほとんどは知らない人ばかりだ。
「余計なお世話だよ」
予想どおりのアナウンスと観客の反応に一言呟くと、ゆっくりと走り出す。
『ここは、あれいってみるか』
勢いを付けるために、トップスピードに切り替えてゴールに迫る。
ダダダダダ、バンッ!
走り幅跳びのように力強く踏み切って跳び上がる。そして、ボールを持った
公の身体は、まるで空中を滑るように移動する。
観客の目には、あたかもスローモーションのように見えた。
ガコンッ!!
「ものすごーーーい!な、なんと、エアーからのダンクだーーーーーーー!!」
ザワザワザワ
「うおーーーーー」
会場にどよめきが走り、驚愕の声があがる。
「すごいすごい」
詩織が手を叩いて喜ぶ。
「さすが〜」
見慣れている沙希は特に驚かないが、頬に手を当てジッと見つめる瞳は、
まさに恋する乙女だ。
「さあ、何点が出るでしょうか?」
みんなが審査員を注目する。
ババッ!
「出ました。50点満点です」
審査員全員が10点の札を上げる。
あと30分で1回戦が始まるという時、公と詩織が廊下で話していた。
「ほら、私の言うとおりになったでしょ?」
詩織が自分のことのように胸を張る。
「うん。ホントはフリースローラインから跳びたかったんだけど、トレーニング
不足でさ。でも、まさか優勝するとはな」
あの後、満点が3人いる中で、もっとも印象に残った公が優勝者として表彰された。
「あれで十分よ〜」
フリースローラインから跳ぶ?あまりの凄さに感心を通り越してしまう。
初出場を果たした高校はきらめき以外にも何校かあったが、アベック出場を
果たしたのはきらめき高校ただ一校だった。
それだけでも注目を集める要因となったが、インターハイベスト4の末賀高校
に競り勝っての出場というのが、それに拍車を掛けた。
そして新たに、公のダンクコンテスト優勝というものが加わった。
「次は本番だ」
「そうね。いよいよ全国デビューよ。私の自慢の幼なじみが活躍するところ、
観客のみんなに見せてあげてよ」
「ああ、頑張るよ。女子の2回戦は午後からだよな」
「うん。じゃあ、もう行くね」
「応援よろしく」
「任せて」
詩織はきら高ベンチ裏の応援席に向かう。
その反対側の方から、見覚えのある娘がキョロキョロと周りを見ながら歩いて
来るのを見つけた。
「沙希ちゃん」
手を振って名前を呼ぶ。
「あっ、公くん。やっと見つけた」
沙希が小走りで近づいて来る。
「来てくれたんだね」
「もちろん。さっきのダンクも見てたよ。優勝おめでとう」
いつもの元気な笑顔で祝福する。
「ありがとう。まさか優勝するとは思ってなかったんだけどね」
「ううん。私は絶対優勝するって思ってたよ」
「そう?」
頭を手で掻きながら照れる。
「うん。それはそうと、もうすぐ一回戦が始まるね。緊張してる?」
「う〜ん、ちょっとだけね」
コンテスト前、詩織には緊張していないなんて言っていたが、試合が近づくに
つれてさすがの公も緊張してきた。
「でも、いままでやって来たことを出し切るだけさ。負けたらそれは、今の段階
ではそこまでだってことだし」
「そうよね。一生懸命練習してここまで来た人達の大会だもんね」
末賀に勝ったからといって、ベスト4まで行けるというわけではないし、
今まで戦ったこともないタイプの高校もあるだろう。
「おっと、もう行かないと」
「そうね。じゃあ、応援してるから頑張って。それと」
公の手を取り、両手でしっかりと握る。
「ファイトだよ」
「沙希ちゃん・・・・・。ありがとう、じゃあ」
手を振る沙希に見送られて歩き出す。
「沙希ちゃんにああ言われると、元気が出てくるよなぁ」
手に残っている温もりを感じながら、みんなが待つ所へと急いだ。
男子の1回戦が始まる直前の練習時間、公が出てくると、コンテストを見て
ファンになった女の子達の声援がきらめき高校に集中した。
会場からも一斉に声が上がり、一身に注目を浴びることとなる。
「あの7番の人、さっきのダンクコンテストで優勝した人だよね」
「うん」
「格好いいよね〜」
「うんうん」
他校の女生徒が話しているのを聞いた詩織は、ちょっと優越感に浸っていた。
『やっぱりファンが出来たわね。でも、彼は私のなの〜』
余裕しゃくしゃくの詩織だった。
一方コートでは、公と木本が話していた。
「緊張してるか、公」
「ちょっとな。お前は中学の時に全中に出てるから緊張してないだろ」
「失礼な。俺だって緊張してるさ。2年振りだし、高校では初めての全国だからな」
「そうか?そうは見えないぞ」
「顔に出ないだけだよ。それよりも」
公の身体を引き寄せて、口を耳元に近づける。
『藤崎が見てるんだから、いいとこ見せないとな』
応援席にいる詩織を見ながらささやく。
「な、なんだそれ。余計なお世話だ」
顔を赤くしながら木本を突き飛ばす。
「ははは。うちはお前にかかってるんだ。どんどんパス出すからな」
「わかった、わかった」
シッシッと犬でも追い払う仕草をする。
「ん?何やってるの?あの二人」
自分のことが話題になっているとも知らずに、首を傾げる詩織だった。
センターサークルに選手が集まる。
『いよいよだ』
やっと詩織に近づくことが出来る。そして全国優勝への第一歩が始まる。
「公せんぱ〜い。頑張ってくださ〜い」
応援席で旗を振りながら優美が叫ぶ。
ピッ!
審判がボールをトスし、試合が始まった。両校のセンターが跳び上がる。
「木本!」
「よしっ」
3年のセンターが木本に向かってボールをはたく。
その時すでに、ボールの軌道が木本に向かっているのを見極めていた公は、
相手選手を置き去りにしてダッシュしていた。
「早い!」
「公っ!!一発決めてやれ!」
それを見た木本が、すかさず鋭いパスを出す。
ビュン!
「ナイスパス。任せろ」
「とおった」
応援席の詩織と沙希は同時に呟き、そして同時に叫ぶ。
「「いっけ〜」」
ガンッ!!
全国デビュー初のシュートを、ダンクで決める。
『よっしゃーーー』
ディフェンスに戻りながら、心の中で叫ぶ。
一気に盛り上がる応援席。
「「ナイシュー」」
詩織と沙希も、手を叩いて喜ぶ。
相手の市立舟橋高校は全国常連のチームで、オフェンスに定評のあるチームだ。
センターよりはフォワードに良い選手がいる。よって、この試合はハイペース
な試合になっていった。もともときらめきも攻撃型のチームであるから、それ
は望むところだ。そして、この試合は公の出来にかかっているといっても過言
ではなかった。
前半が始まって15分が経過した。
相手のお株を奪うオフェンス力、特に公の速攻で着実に得点を重ねたきらめきは
舟橋を焦らせた。
「リバンド」
敵のシュートが外れて、両センターが跳ぶ。
「ナイスリバン」
さらにリバウンドは、きらめきのほうが1枚上手だった。
「橋本に比べれば、この位」
顔を上げて、すぐにパスコースを探す。
「こっちです」
公が走りながらセンターに声を掛ける。
「よしっ!」
素早いパス回しで、アッという間に公の手にボールが渡る。
「こんどこそ止める」
「止められるものなら止めてみろ」
前に立ちはだかるディフェンスに、シュートするように見せかけるフェイント
をかけると、それにつられてディフェンスの身体がフェイント方向に流れる。
『かかった』
『しまった』
それぞれの思いが交錯する。
そして、その横を抜いてレイアップシュート。
ザシュ!
「ナイシュー」
ここまでの公の出来は100%に近い。
「気を抜くなよーーー」
それでも気を引き締めるために、キャプテンから声が掛かる。
「おうっ!」
ビビーーー
前半終了のブザーが鳴った。
結局47対40で前半を折り返した。
「まだまだ分からないわね、詩織」
「ええ」
しかし、公の調子はいいようなので安心する。
「でもすごいね男子、舟橋のオフェンスに負けてないよ」
恵も身体を揺らしながら興奮している。
「まあ、末賀に勝ったんだから、これくらいはやってもらわないとね」
「厳しいなあ、奈津江ちゃんは」
「当然よ〜」
『私、橋本くんのファンなんだから・・・。勝馬には内緒だけど』
「スゴイなあ」
そこから少し離れたところでは、沙希が公の活躍に感心していた。末賀に勝ったの
だからそう簡単には負けないと思っていたが、勢いに乗った試合運びに驚く。
これが全国大会初出場のチームだろうかと。
選手が意気揚々とベンチに戻ってくる。
「よしよし、いい感じだな」
「ああ、点の取り合いなら負けないぜ」
タオルで汗を拭き、水分補給をしながら前半を振り返る。
「絶好調だな、公」
「ああ。でも、まだまだこれからだ」
公は、前半47点中22点を稼いだ。
「まったく、ホントにダンクやっちゃうんだもんなぁ」
肩を上げて半分呆れる。
「なんだよ。お前が催促したんだろ」
「一発決めてやれ、とは言ったけど、ダンクとは言ってないぞ」
「同じだよ」
木本の脇腹を肘で小突く。
「おっと」
「はははははは」
間一髪でよけると、みんなから笑いが起こる。
そんなリラックスしている様子を見て、コーチも安心する。
「みんな、良くやった。スタミナは大丈夫か?」
「はいっ!」
「後半に何か仕掛けてくると思うが、その時は木本、お前に任せる」
木本の肩に手を置き他の選手の顔を見ると、みんなが頷く。
「はいっ」
「よしっ!全国初勝利だ」
「おうっ!」
再びコートの中に選手が集まる。初勝利を目指して後半が始まった。
「2人交代したのか」
ボールを持った木本が相手選手を見渡すと、前半にはいなかった選手が2人
入っていた。その選手の顔を木本は知っている。
全国大会の常連である舟橋高校は、インターハイにも出場していた。
それゆえ、インターハイの試合はビデオで見ることが出来た。橋本がわざわざ
持ってきてくれたのだ。
「あれは確か、3ポイントシューターとフォワードだよな」
どうやら点差を詰めるために投入されたようだ。これで3ポイントを打つ選手が
2人になった。ディフェンス力で劣る選手を入れてでも、逆転して突き放そうというのだろう。
「その分、攻撃もしやすくなるんだぜ」
不敵な笑みを浮かべてゴールへと近づく。
「先輩」
まずはパスまわして様子を見る。
何秒間か回しているうちに、予想どおり前半にはなかった穴が見えてくる。
代わった2人の動きは、スタメンよりも劣っているのが分かった。
「そこだ」
巧い具合に穴をついて走り込んだ3年にパスを出す。
「よしっ」
「あっ、くっ!」
ディフェンスがチェックに来て手を出すが、1歩遅い。その前にシュート体勢
に入っていた手からボールが放たれる。
ザシュ!
「ナイシュー」
木本は戻りながら、3ポイントに対処すべき指示を出す。
「3−2ゾーンに変えるぞ」
木本の声に合わせて、公達が自分の位置に付く。
後半19分。タイムアップが近づいてきた。
点差を詰めようとした舟橋だが、逆にきらめきが突き放した。
3ポイントといっても、100%で決まるものではない。入ったとしても、
それ以上のスピードで得点をすれば、なかなか詰まるものではない。
そして公の活躍もあり、点差が5点以下になることはなかった。
むしろ最後の方は、相手の疲れを突いて点差を広げていった。
「ラスト5秒」
応援席からカウントダウンの声が上がる。
「最後はお前が決めろ」
木本がセンターの裏へ走り込んだ公へ、全国初勝利の最後のアシストパスを繋ぐ。
「おう」
「3・2・」
裏をつかれたデフェンスは反応できず、公のプレーを見守ることしか出来なかった。
「1」
ガコン!
ラストシュートをダンクで締めくくる。
ビビーーー
ほぼ同時に終了のブザーが鳴った。
「勝ったーーー」
ベンチの控え、そして応援団が立ち上がって喜ぶ。
終わってみれば95対83、12点差で競り勝った。
戻ってきた公は、応援団に挨拶をした後、詩織の方を見た。すると、拍手をし
ながら公を見つめていた。
公がガッツポーズをすると、満面の笑みを浮かべる。
「おめでとう、公くん」
結局公は、全得点95点中、半分の47点を叩き出した。
公は沙希の姿も探したが、すでになかった。
沙希は、詩織がいるところで目立つのを避けた。
「おめでとう、公くん」
廊下を歩きながら呟き、そのまま出口へと向かった。
今度の自主トレで、どんなお祝いをしようかと考えながら。
この後の女子の試合では、詩織たちが新人戦で負けた清和に雪辱を果たした。
これで3回戦進出だ。さらに女子は、今まで破れなかった3回戦の壁をも突破
することに成功する。
残念ながら、準々決勝でまたしても桃花学園と当たり負けてしまうが、今回は
ベスト8まで行ったことに満足していた。
ちなみに、三木と話をした詩織は、来年のインターハイでも会うことを約束して別れた。
そして男子は、なんと2、3回戦を勝ち進んだ。準々決勝は羽田中央にまたしても
敗退したが、初めての全国大会でベスト8の快挙だ。
この快進撃は、全国の強豪達の胸に刻まれた。もちろん能城工の選手達にも。
「きらめき高校、そして主人公と木本明」
バスケット関係者でこの名前を知らないものはいなくなった。
つづく
あとがき
第31話をお送りしました。
いきなりベスト8へ進出したきらめき高校。
公の活躍をもっと書きたい気もしたのですが、
試合のシーンを書くときりがなくなるので、
初勝利の試合だけにしました。
さて、いよいよ3年生が引退して、公と木本の世代になります。
1年の文化祭でちょっとだけ出演したあのキャラも再登場します。
センターも代わるし。
さらに、試合中「先輩」とか「3年の〜」などの
表現をしなくてすみます。(^_^)
次回はお正月です。詩織の逆襲なるか。
お楽しみに。