「My wish・・・」

                     第32話 「詩織艶姿?」


                                      第31話     目次へ戻る     第33話


 年が明けようとしている12月31日午前9時。大掃除も昨日で終わっていた
 藤崎家では、今年もおばあちゃんの家に行く準備をしていた。
 ただ詩織だけは、別の準備をしながら部屋でほくそ笑んでいた。
「ふふふふ、やったわ」
 公に誘われた初詣を断るという昨年の失態があった詩織は、今年はなんとして
 も残ろうと、早くから母親にお願いしていた。
 その結果、一人では心細かろうと、主人家に泊めてもらうというおまけ付きで
 母親の了承を得ていた。
「公くんと同じ屋根の下だよ〜。しかも2泊」
 ブイサインをして喜ぶ。
 これで一緒にお正月を過ごせるし、初詣にも行ける。今日の午後3時頃には、
 主人家へと行くことになっていた。
 ちなみに、今年は沙希が両親と出掛けることになっていた。


 その窓の外、すぐ目の前の部屋では、ついさっきその事を母親から聞かされた公が、
 忙しく動き回っていた。
「いきなりなんだもんなぁ〜、たくっ」
 自分の部屋は自分でやることになっているのだが、毎年31日まで手をつけない公は、
 慌てて掃除をしていた。
「これはこっち。これはあそこ・・・・・」
 本来いらないような物は捨てるべきなのだが、それが出来ない性分のため、
 押入に押し込んでいるような状態だった。
「おっと、これは見つからないように隠さないと」
 机の上に置いてある、修学旅行で写したツーショットの写真とプリクラを引き出しの
 奥にしまい込む。

 数時間後。
 冷たい風にさらされながら窓拭きをしていた公は、最後の一拭きをして窓を閉める。
「これでよし、と」
パンパン
 窓拭きも終わり、リズム良く手を叩いて掃除を終わらせる。
「これで詩織が部屋に入ってもOKだ」
 一息ついた公は、ココアでも飲もうかと下に降りた。
「母さん、ココアいれて・・・・・、あれ?いないぞ」
 台所に顔を出したが誰もいない。どうやら何処かに出かけたようだ。
「しょうがない、自分でいれるか」
沙希とお揃いのカップを取り出して、スプーンでインスタントの粉を入れる。
 ポットからお湯を注ぐと、甘い香りが漂ってくる。
「あ〜、うまい」
 一口飲んで、ホッと一息つく。
「公、掃除は終わったの?」
 しばらくすると、母親が居間に戻ってきた。
「ん?終わったよ」
「Hな本は隠したの?ベットの下だとバレるわよ」
 何気なく、サラッと言う。
「ぶっ!」
 公は飲みかけのココアを吹き出した。
「な、な、なにを@☆◇□△◎」
 言葉にならずに、口をパクパクさせる。
「汚いわねぇ。母さんが知らないとでも思っていたの?」
「は、ははは」
カタカタカタ
 カップを持つ手が微かに震える。
「まあ、健康な男の子なんだから、持っていない方がおかしいんだけれど」
「そ、そうだよな。ははははは」
 乾いた笑いを漏らす。
『そうか、ベットの下はやばいか。天井裏にでも隠すかな』
 そんなアドバイスを母親からもらうことになるとは、何枚も上手な親であった。
 ココアを飲み干した公は、再び二階へと上がろうと階段に足を掛けた。
 その時、廊下の電話が鳴った。


 ちょっと時間はさかのぼり、再び藤崎家。
「詩織、準備は出来たの?」
 部屋で準備をしていた詩織に、母親が尋ねる。
「うん。でも準備っていっても、隣なんだから特に持っていくものはないよ」
 鞄に手を置きながら答える。
「違うわよ」
「えっ?じゃあ」
 首を傾げて目をパチクリさせる。
「私が言っているのは下着とかじゃなくて、心の準備よ」
「心の準備?」
 ますます分からない。
「好きな人と同じ屋根の下。詩織、頑張りなさい」
 ポンポンと肩を叩く。
「な、なにを頑張るのよ」
 何を言いたいのか分かった詩織は、顔を赤くする。
「ふふふ、冗談よ。まさか母親が勧めるわけないでしょ。まだダメよ」
「まだダメって・・・」
 さらに耳まで赤くなる。
「ふふふ、いじめるのはこのくらいにして、ハイこれ」
 母親の差し出した手には、お年玉袋があった。
 両親はもうすぐ出発するためだ。
「ありがとう。お母さん」
「無駄遣いしないようにね」
「は〜い。そうだ!」
 もう1つ大事なことを思い出し、突然立ち上がる。
「なぁに、どうしたの?」
「お母さん。私、公くんと初詣に行くんだけど、振り袖を着ていきたいのよ」
 まだ約束もしていないのに、もう決まっているようだ。
「振り袖?」
「うん。明日着ていきたいの。でもお母さん、もう出掛けるでしょう」
「それなら大丈夫よ。公くんのお母さんも着付けできるから」
「ホント?良かった〜」
 安心してか、再び腰を下ろす。
「じゃあ、振り袖は出しておくから、公くんのお母さんにはあなたが頼みなさいな」
「うん!分かったわ」
 母親は下へと降りる。
 すぐに受話器を取った詩織は、主人家へと電話をかける。
「約束もしないとね」


トゥルルル、トゥルルル
「はいはいっと」
 二階へ行こうとした公は、足を階段から電話へと向ける。
カチャ
「はい、主人ですが」
「もしもし。その声は公くんね?」
 聞き慣れた声が受話器から流れてくる。
「詩織か。何か用?」
「うん。でも公くんにじゃなくて、公くんのお母さんに御用なの」
「母さんに?分かった、今代わるな」
「あっ!ちょっと待って」
 大きな声で引き留める。
「なんだい?」
「明日、初詣に一緒に行かない?」
「初詣?もちろん。俺は最初からそのつもりだったけれど」
「そうなの。良かった」
「じゃあ、代わるから」
「お願い」
「お〜い、母さん」
 公は受話器を置いて、母親に向かって叫ぶ。
「そっか。一緒に行くつもりだったんだ公くんも」
 小さく呟くと、今度は公の母親が出た。
「どこに行くの?」
「きゃ!」
「詩織ちゃん?私に御用だそうだけれど。あっ、ちょっと待ってね」
「え?はい」
『公!お前は二階へ行ってなさい』
 受話器に手を当ててはいるが、大きな声なので筒抜けだ。
「ふふふふ」
「ごめんなさい。お待たせ。で、なあに?」
「あっはい明日公くんと初詣に行くんですがその時私に振り袖を着せて
 頂きたいんです」
 笑った声が聞こえていなかったかと焦り、早口でまくし立てる。
「振り袖を?わかったわ。おやすい御用よ」
「ホントですか?よろしくお願いします」
「ええ。じゃあ待ってるからね、詩織ちゃん」
「はい」
カチャ
「ふ〜。これで良しと」
 受話器を置いて息を吐く。
「もうすぐお昼ね」
 時計を見ると11時半を回っていた。
「早く3時にならないかなぁ〜」
 主人家で何が起こるのか、期待で胸が膨らむ詩織だった。


「いらっしゃい、詩織ちゃん」
 おばあちゃんの家に出かける両親を見送った後、3時ピッタリに、荷物を持った
 詩織が主人家の玄関に立っていた。
「お世話になります、おばさん」
「はい。どうぞ上がって」
「おじゃまします」
「公〜、詩織ちゃんが来たわよ〜」
 二階にいる公に大声で叫ぶ。すると、返事もそこそこに駆け下りてくる。
「や、やあ。こ、こんにちは、詩織」
「こ、こんにちは。よろしくね、公くん」
「あ、ああ」
「なに緊張しているの二人とも。それじゃあ詩織ちゃんが、家にお嫁さんに
 来たみたいよ」
 なんだかよそよそしい二人を見てからかう。
「な?」
「お、おばさん」
 詩織はうつむいてしまう。
「ふふふ。詩織ちゃん、来た早々悪いんだけれど、ちょっと手伝ってくれる?」
「は、はい。わかりました」
「公、詩織ちゃん借りるわよ」
「借りるって。俺のものじゃないってぇの」
 台所へと向かう母親の背中に言う。
「ふふふふ。また後でね、公くん。あっ、これお願いね」
「ああ」
 バックを公に渡して、詩織も後に続く。
『おばさんに良いところ見せないとね。私のお義母さんになる人なんだから』
 そんなことを思いながら、緊張した面もちでグッと気を引き締めた。


 6時になると、早々に夕食の支度が出来た。
 おせちは明日から食べるものなので、今日は仕出し屋でお膳を頼んであった。
 客間に膳を運び、公の両親、そして公と詩織が向かい合って座る。
 それを見た公の父親が、母親と同じ感想を漏らす。
「こうしていると、詩織ちゃんが公のお嫁さんにきたみたいだな」
「父さんまでそういうこと言うか」
 詩織は、またもや赤くなってうつむく。
「なんだ、母さんにも言われたのか」
「でも、本当にそうなってくれると嬉しいんだけど。さっき手伝ってもらったんだけど、
 テキパキして手際も良いし。ね?お嫁さんに来て、詩織ちゃん」
「えっと〜、その〜」
「たくっ、詩織が困ってるだろう」
「ははは、そうだな」
 そう言って、お猪口を手に取る。
「あっ、私が注ぎます」
 立ち上がり、お膳の前に行く。
「そうかい?じゃあ、お願いするか」
「はい。どうぞ」
「おっとっと。ありがとう」
 ちょっと口を付ける。
「やっぱり若い娘に注いでもらうと違うな」
「あ〜ら、歳をとってて悪うござんした」
 母親がプイと横を向く。
「い、いや、かあさん。そういう意味じゃあないぞ」
「あ〜ら、じゃあどういう意味?」
「いや〜、勘弁してくれよ」
 二人の夫婦漫才に、客間が4人の笑いで満たされる。
『公くんとこんな風になれるかな』
 詩織は笑いながら、隣に座っている公の顔をチラッと見た。
 初日は何事もなく終わろうとしていた。


 年が変わり元旦。風は冷たいが、青空が見えるいい天気となった。
 おめでとうの挨拶をした後は、正月しか出ない懐かしい芸人達が映っている
 番組を見ながら、団欒を楽しんでいた。
「そろそろ着替えた方がいいんじゃない」
 ふと時計を見た母親が、詩織にそう言って立ち上がる。
「はい」
「なに?なんで母さんも一緒に行くんだよ」
「それは後のお楽しみよ
 詩織がウインクをして居間から出ていく。
「ほら、お前も着替えておいで。覗くんじゃないわよ」
「そんなことするか!!なんだいったい?」
 公は部屋に戻って着替えると、再び下に降りてくる。
 女の子の身支度というものは、とかく時間がかかるものだが、今日は特に長く
 感じられた。
「まだかよ」
 ちょっとイライラし始めた頃、居間の扉が開いた。
「たくっ、おそい・・・・・・」
 文句の一つも言おうかと口を開いたが、詩織の姿を見た公は、開けた口をそのまま
 に呆然と目を見開く。
 そこには、後ろ髪をアップにして、大輪の牡丹柄が描かれた赤を基調とした
 振り袖を着た詩織が立っていた。ちょっと化粧もしているようだ。
「し、詩織」
「どう?」
 公の言葉を、ちょっと緊張して待つ。
「うん。月並みだけど、とっても似合ってるよ。綺麗だ」
「ホントに?良かった
 緊張が解け、口元に笑みが浮かぶ。
「さあ、出かけましょう」
「うん」
「公。着崩れしないように、人混みから詩織ちゃんをしっかり守ってあげるのよ」
「わかった。じゃあ行って来ます」
「いってらっしゃい。ふふふふ」
 玄関を出た二人には、母親が漏らした最後の笑いは聞こえなかった。


 さすがに元旦だけあって、境内はたくさんの人で溢れていた。
「混んでるねぇ」
「そうだな」
 二人は、賽銭箱までの長い列に加わり並んで歩く。
「ふう」
 詩織は振り袖のすそが気になって、うまく歩くことが出来ない。自然とお淑やかな
 感じになる。
 チラッと横を見ると、公が心配そうにこっちを見ていた。
「大丈夫か、詩織」
「まだ慣れないけれど、大丈夫よ」
 公は、周りを気にしながら寄り添って歩いている。
『公くん、優しいな〜
 と頼もしく思っていたら、公がうんうんと頷きながら、一人納得しているよう
 な素振りを見せる。
「どうかしたの?」
「いや、何でもないよ。ほら、前を向いていないと危ないから」
「あんっ」
 そう言われた途端につまずいてしまう。
「おっと」
 公が腕を回して受け止めてくれる。
「ありがとう」
「従者の役目だからね、お姫様」
「なぁに?それ」
 何のことかと不思議そうな顔をする。
「今日の詩織はどこかのお姫様みたいだろ?で、俺がその従者って設定なんだけど」
「お姫様と従者?ふふふふ。恥ずかしいなぁ」
「ははは」
 抱き起こされて再び歩きながら、詩織も思いを巡らす。
『ふふふ、お姫様か・・・・・
「ねえねえ。じゃあじゃあ、そのお姫様は、親が決めた許嫁がいるのに、お付きの従者と
 禁断の恋に落ちるっているのは、どうかしら」
「ははは。なるほど」
 そんな含みのある言葉を言ってみても、案の定気が付かない公は、ただ笑うだ
 けだった。
「やっぱりね」
 聞こえないように小さく漏らす。まあ、気付かれても都合が悪いのだが。
「ん?なに?」
「ううん、何でもないよ。そうそう。」
 詩織は何事もなかったように話題を変えた。


 並んで何分たっただろうか、二人はやっと賽銭箱の近くに来た。
「公くんはいくらお賽銭入れるの?」
「俺は5円にしようかと思ったんだけど・・・・・」
「5円?たったの?」
「ご縁があるようにってこと」
「あっ、なるほど。物知りね、公くん」
「小さいときに、じいちゃんに言われたことがあるんだ。でも、やっぱり多い方
 が御利益がある気がするから、100円にするよ。大して多くないけどね」
「じゃあ私もそうしよっと」
 巾着から財布を取り出し、中から100円を出す。

チャリン、チャリン
ガランガラン、ガランガラン
 二人同時に賽銭を投げ入れて鐘を鳴らし、2礼してから願い事をする。
パンパン


『どうか卒業式の日に、公くんと結ばれますように』
『バスケットで日本一になれますように』


 手を下ろして1礼すると、今度はおみくじ売り場に足を向ける。
「ねえねえ、公くんは何をお願いしたの?」
「俺?バスケットで日本一になれますようにってね」
「ふ〜ん」
『私とのことは何も頼まなかったのかなぁ』
 ちょっと不満に思った詩織だが、これにはちゃんとした意味がある。
 以前の公なら、「詩織に相応しい男になれるように」と祈ったかもしれない。
 しかし今はそうではない。確かな目標を持って、それを達成しても達成出来なくても、
 その過程が大事だと思っている。その結果、詩織に振り向いてもらえれば最高だ。
「そういう詩織は?」
「えーーー。もちろん、な・い・しょ」
 ちょろっと舌を出して、可愛く微笑む。
「あっ、ずるぞ詩織」
「ふふふふ」
 公は小走りで逃げる詩織を追いかける。


カランカラン
 売り場に着くと、公から番号のくじを引いて、バイトのお姉さんからおみくじを受け取る。
 二人はそれぞれのくじに目を通す。



公。

「中吉か」

  【今日は明日への通路である。
     更に考え更に究め更に進む向学心求道の念は、
                   一歩々々大成に続く】
  【願望:努力主義を貫きなさい。成功疑ひなし】
  【交際:人の疑ひはすぐ解け、信用を増す】

『う〜ん。努力を怠らなければ叶うってことか。交際の疑いってなんだ?』



詩織。

「あ〜ん。末小吉だわ」
  【どんな山谷でも恐れず一歩を進めなければ通り抜けられぬ。
           勇猛努力、堅実な一日を励むことに依つてのみ、
                  どんな環境も打開することが出来る】
  【交際:相手を頼りすぎて背かれる】
  【願望:徐々に障害はなくなり必ず叶ふ】

『なんか不吉なことが書いてあるわ。いいもん、こんなの信じないんだから』



「どうだった、公くん」
「まあまあかな。詩織は?」
「あまりよくなかったわ」
 詩織はくじを結ぼうと、木のある方へ行こうとする。
「そう。じゃあ、行こうか」
「えっ?木に結ばないの?」
 ポケットにくじをしまう公を見て、足を止める。
「ん?ああ、持って帰るよ」
「結ばなくって良いの?おみくじって」
「う〜ん。いろんな説があるみたいだけれど、俺の場合は持ち帰るんだ。」
「どうして?」
 公は、これまたじいちゃんに聞いた話を詩織に聞かせる
「神道って言うのは稲作儀礼からきているらしいんだけど、稲作と言えば米だろ?
 で、おにぎりにしたのが『おむすび』、これが『結び』に繋がるんだって」
 公が指を絡ませて、「結ぶ」を表現する。
 詩織は頷きながら公の話に耳を傾けている。 
「昔の人は、その『結ぶ』という行為に神秘的な力を信じていたみたいなんだ。
 それで、木々の生命力にあやかって、願い事がしっかり結ばれるように祈りを
 込めて木に結ぶようになったんだって」
「ふ〜ん。でもそれだと、いま木に結ぶことになるんじゃないの?」
 当然のような質問を返す。
「うん。良いことが書いてあった場合はそれでもいいんだけれど、後の場合も
 あるんだ」
「あと?」
「うん。良いことが書いてあったら心の支えに、気にかかることが書いてあったら、
 それを教訓しに自分を戒めるために持って帰るんだ。そして、次におみくじを引く
 ときに、願いが叶ったり、悪いことが起きなかったことに対してお礼を込めて、
 前のおみくじを神社に納めるんだ」
「なるほど。納めるのが木に結ぶってことね」
 手を叩いて、『そうでしょ?』という顔をする。
「そうそう」
「じゃあ、悪いことが書いてあったとして、それをすぐに結ぶっていうのは、
 どうなるの?」
「う〜ん、そうだなぁ。悪いことが起こらないように結んでいくんだろうけど」
 それは公も疑問に思っていた。
「必ず持って帰らないと悪いことが起こるって訳でもないし、その場で結んでも
 いいんじゃないかな。これが全国共通って訳でもないし、まあ深く考えること
 もないだろ」
「そうね」
『戒めか。私も持って帰ろうっと』
 詩織はおみくじを巾着にしまった。


「ちょっと遅くなったかな」
 辺りが暗くなり始め、風が一層冷たくなってきた頃、二人は主人家へと帰ってきた。
「ただいま〜、あれっ?」
「開かないの?」
「うん」
ガチャガチャ
 公が玄関を開けようとノブを回したが、どうやら鍵が掛かっているようだ。
ピンポンピンポン
「おかしいな」
 呼び鈴も鳴らしたが、中からの返事はない。
 仕方ないので、合い鍵をポケットから出して中に入る。
「おばさ〜ん。ただいま帰りました〜」
 詩織も叫んでみるが、返事はない。
 公は居間に行くと、テーブルの上に置き手紙を見つけた。
「まさか」
 案の定、両親が出掛ける旨を書いた手紙だった。



「公へ
  父さんと母さんは、親戚の家へご挨拶に行って来ます。
  詩織ちゃんと二人きりになりますが、母さんを悲しませるような
  ことはしないこと。いいわね!!
                                 母より」



「な、なんて親だ」
 またしても自分に何も言わずに、今度は二人きりにするなんて。
 手紙を持つ手が震える。
「手紙?なんて書いてあったの?」
 公の手を見て、詩織が尋ねる。
「えっ?え〜と。父さんと母さん、親戚の家に行ってくるって。今日は帰らないみたい」
「そうなの・・・・・・」
『ええ〜?じゃあじゃあ、今晩は公くんと二人きりってこと?』
 表面では平静を装いつつ、事態の急展開に困惑する。
「詩織」
「は、はい」
 声がうわずってしまった。
「晩ご飯は家で食べて、詩織は帰ったほうがいいよ」
「えっ?」
 公は詩織の気持ちを知らないのだから、当然の提案をする。詩織の家は隣なん
 だから、それがいいに決まっていると考えた。
 ちょっとの沈黙の後、詩織が口を開く。
「一緒にいちゃ、ダメ?」
「えっ?だってそれは」
「家に一人で寝るなんて寂しいもの」
「でも・・・・・」
 公の気持ちを知っている詩織は、酷かなと思いつつも、やっぱり一人だと寂し
 いという気持ちを抑えられなかった。
「う〜ん、わかったよ。じゃあ詩織は父さん達の部屋に寝てくれよ」
「うん」
 詩織は心の中で謝りつつも、やっぱり嬉しかった。

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「詩織、着替えないの?」
 夕食中も詩織は振り袖を着たまんまだった。
「うん。寝るときまで、公くんに見ていて欲しいから」
「そ、そう」
 公の心の中では、今まさに天使と悪魔が戦っていた。
 このまま押し倒してしまえという悪魔と、詩織は幼なじみとしての自分を信頼
 しているんだという天使が、せめぎ合っていた。
 3時間後、とうとう我慢も限界に近づいてきた。
「くくくく、しょうがない」
 なんとかしてこの状態を抜け出したかった公は、台所に行ってワインを持って
 きた。ちょっと飲めば寝てしまうだろうと考えたのだ。
 逆目に出るかもしれないが、今の状態が続くよりはマシだと思った。
 どうかなったら責任はとると覚悟も決めた。
「公くん、私もちょっと飲んでいいかなぁ」
「ん?いいけど」
 もう1つグラスを持ってくる。
 この時、詩織も迷っていた。
 公がなんだか苦しんでいることを察した詩織は、いっそのこと自分の気持ちを
 告白してしまおうかとも考えた。そうすれば、晴れて両思いになるのだから、
 公は苦しまなくてすむ。
 しかし、やっぱりそれは出来そうにもなかった。
 そんな時に、公がワインを持って来た。

「かんぱ〜い」
 お互いに注ぎあって一口飲む。
「美味しい」
「うん。そんなにきつくないな」
 公は、喉が熱くなってしまうのが嫌で、ワインはあまり飲まないのだが、
 これは甘めのやつなので大丈夫だった。 
 そんな軽めのワインだったが、高校生の二人が酒に強いわけもなく、
 しばらくすると酔いが回ってきていた。

 つけていたテレビには、隠し芸大会が映し出されていて、公の好きな
 「イブニング娘。」が出演していた。
 公はグラスを置いて、それに釘付けになる。
「公くんはイブニング娘。の誰のファンなの〜」
 顔を赤くしている詩織は、明らかに酔っていた。
「ん?一番小さい娘だよ」
 テレビから目を離さずに答える。
「なんていうの〜?」
「谷口真理だよ。まりっぺ〜」
 公も少し酔っているようで、ブラウン管に向かって声援を送っている。
「ふ〜ん」
 谷口真理、身長は145cmないショートカットの女の子だ。背が低いからか、
 ちょっとふっくらしているように見える。
 外見的には、詩織とは似ても似つかない感じだ。
「私よりも好き?ヒッ」
「な、なに言ってるんだよ詩織。芸能人が好きっていうのは、普通の好きとは
 違って、ん?ヒッって言ったか、今」
 詩織の方を見ると、横にあったワインのボトルはいつの間にか空になりかけていた。
「うわ、何杯飲んだんだよ詩織」
「そんなのいいかりゃ〜、答えてよ〜」
パラリ
 立ち上がって公の隣に来ると、その拍子に振り袖の前がはだける。
 酔いが回っている詩織は、すでに我を忘れていた。
「前々、見えちゃうって」
 目をそらしながら制する。
『ううっ!色っぽいぜ』
 詩織の頬と健康的な肌は、ワインのせいでほんのり赤くなっていた。
 髪をアップにしているので、ほっそりしたうなじが見えて色っぽい。
「なあに?私の目が見れないの〜?」
パラッ
 更に迫ってくると、今度は肩まで襟が落ちる。
「おいおい、相当酔ってるな」
 と言いつつも、目線は詩織の胸元へといってしまう。
『柔らかそうだな。って、ダメだダメだ』
 頭を振って、いやらしい感情を振り払おうとする。
「ねえ〜、私より好きなの〜?」
「ウッ!!い、いやそれは。まずい、頭を振ったら気持ち悪くなってきた」
 答えに詰まる公に、腕に胸を押しつけて詰め寄る。
 目には涙まで浮かべるいる。
「ひっく。ねぇ〜、答えてよう〜」
「く〜、あのね、詩織さん」
プヨプヨ
 腕から胸の感触が伝わってくる。
『うわ〜、刺激が強すぎる〜。それでも我慢我慢。信頼を裏切っちゃダメだ』
「何で答えてくれないの〜?」
 遂に詩織の顔が目の前にくる。可愛い唇からは吐息も感じられた。
『うお〜、限界だ〜』
 抱きついて押し倒そうとしたその時、いきなり詩織が寄り掛かってきて支えき
 れなくなった。
ドサッ
「うわっ、と」
 二人もろとも後ろに倒れると、TVのリモコンに手をついてしまう。
 するとテレビの音量が段々大きくなり、居間に響き渡る。

「私は、あなたのことが、こんなに好きなのに〜

 詩織は倒れ込んだまま小さな声で呟いたが、公の耳には届かなかった。
「えっ?なに?詩織、聞こえないよ」
 詩織は公の胸の中に顔を埋めている。
「今なんて」
「クー、クー」
「寝てるよ」
 そこには、気持ちよさそうに寝息を立てる詩織がいた。
「まったく、このお姫様は」
 TVを消し、ちょっとの間詩織の感触を楽しんだ後、公は身体を抱き上げて
 寝室へと運んだ。

 ベットに下ろすと、だいぶ着崩れしている振り袖が目にはいる。
「これ着たまんまだとまずいだろうなぁ。でも脱がすわけにもいかないし」
 などと困っていると、突然詩織が目を覚ました。
「ここはどこ?」
「わわっ」
 驚いている公など無視して、上半身を起こしキョロキョロと周りを見渡す。
「あっ、ベットか。んっ?着替えないと」
 自分の格好に気が付き、今度は立ち上がって振り袖を脱ぎ始める。
 公は黙ってそれを見ていた。
 しばらくすると、下着姿になった詩織が公に告げる。
「パジャマ取って」
 目をパチパチさせながら唖然としていた公が、ハッと我に返る。
 そして、詩織が指さす所にあったパジャマを無言で手渡す。
「ありがと」
 いそいそとパジャマを着た詩織は、そのままベットに倒れ込む。
ボフッ!
「おやすみ」
「ああ、おやすみ・・・・・・・・・・・。って、何だったんだいったい」
 あまりの出来事に、またも呆然としてしまった。
「う〜む。いい思いしたのかな?俺。でも、明日覚えてたら恐いぞ」
 詩織の身体を、きちんと布団の中に入れ直しながら呟く。
「ま、なににしても、おやすみ詩織」
チュッ
 軽くおでこにキスをして寝室を後にした。


「頭が痛い」
 次の日の朝、目を覚ました詩織の第一声がそれだった。
 当然の如く二日酔いで、昨夜のことを覚えてはいなかった。
「助かった〜」
 それを見た公は、気づかれないように安堵していた。
 母親にはあの後どうなったのか詮索されたが、変なことはしていないとだけ
 言って誤魔化す公だった。


          つづく

   あとがき

第32話でした。

いつもよりも早い更新になりました。
11月15日、自分の誕生日に、
お気に入りの作品をアップしたかったんですよ。
今回の話は、書いていて楽しかったです。
絡み上戸?の詩織は上手く書けたのではないでしょうか。
でも、もっと意外な展開がないものか、なんて思いもしました。
文才ないね、俺って。

おみくじの説明は、玉生八幡大神社のHPに、
質問のメールを出して返答を頂きました。
文中にもあるとおり、これが絶対って訳でもないそうなので、
参考程度にしていただければ幸いです。

ちなにおみくじの順は、
大吉、中吉、小吉、吉、半吉、末吉、 末小吉、
凶、小凶、半凶、末凶、大凶で書いています。

次回は、久しぶりに学校生活を描いてみます。
あっ、沙希の誕生日もありましたね。(^_^;) 

では、これからもよろしく。

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