「My wish・・・」
第34話 「ルーキー」
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冷たい風が吹き、たまに降る雪が、葉の残る街路樹に色を加える日もしばしば
ある1月の下旬。バスケット部では連日厳しい練習が続いていた。
そんな毎日が続いていたが、今日は明後日からは始まる県大会のため、
軽めの調整をしていた。
スタメンによるフォーメーションの練習をしていると、いかにもマスコミという感じの、
眼鏡を掛けた女性とカメラマンが入ってきた。
「なんだろう」
カメラに真っ先に反応した優美がジロジロ見る。
「すみませ〜ん」
女性が、コーチに向かって呼びかける。
「おっ、来たな。木本、主人、藤崎、鞠川、ちょっと来い」
「なんだ?」
「はい」
4人がコーチの元に集まる。
「この方達はバスケット雑誌の編集者の方で、今日はお前達の取材に来てくだ
さったんだ」
「取材?俺達を?」
「そうだ」
コーチの言葉を、女性記者が引き継いで答える。
「ウィンターカップでアベック出場して、両方ともベスト8進出。しかも男子は
初出場ででしょ。あなた達は今、バスケ関係者の間で注目されてるのよ」
「そうなんだぁ〜」
「ふうん」
詩織と奈津江が目を合わせる。
「で、明後日から始まる県大会の前に取材に来たの」
「と言うわけで、これから応接室に行って取材を受けるんだ」
「はい」
「酷いですよコーチ、黙ってるなんて」
応接室へと移動する途中、木本は髪を手で整えながら抗議した。
「ははは、普段のお前らを出せばいいと思ったんだ。主人はともかく木本は変な
頭してくるんじゃないかと思ってな」
「ははは」
木本は乾いた笑いを漏らす。図星だった。
「でも女の子は男の子と違っていろいろあるんだから〜」
「そうそう」
詩織と奈津江も文句を言う。
唯一公だけは何も言わなかった。
「ここです」
応接室の中に入ると、早速インタビューが始まった。
「それでは、木本明くん、主人公くん、藤崎詩織さん、鞠川奈津江さん」
ソファに座ったバスケ部員を、名前を呼びながら順に見ていく。
「あれっ?あなたは確か・・・」
試合では見たことのない娘が一人多いことに気が付く。
「県大会で華々しいデビューを飾る予定の、きらめき高校期待の新人、早乙女優美
で〜す」
優美は勝手に自己紹介する。
「優美ちゃん」
「早乙女、お前は呼んでいないぞ」
「ぶ〜、優美も取材受けたいです」
コーチの言葉に口を尖らせる。
「いいですよ、この娘も一緒で。期待の新レギュラーなんですよね?」
「そうなんですが・・・・・」
コーチは腕組みをして、しばし考え込んだ。
「早乙女、お前はきらめきの秘密兵器なんだから、本に載るとマズイ。
だから今日の所は諦めろ」
いかにもという表情で言う。
「優美が秘密兵器?・・・・・、はい!優美、体育館に戻りまーーーす」
こういう言葉に弱い優美は、素直に部屋を出ていく。
バタン!
「ふう」
「ははは。コーチ、やりましたね」
安堵の溜息を吐くコーチに木本が突っ込み、公は隣で笑っていた。
「あいつがいると、何を言い出すかわからんからな」
「ふふふ、そうですね」
詩織と奈津江も笑って同意する。
「じゃあ、始めましょう。まずは今年のチームの手応えから」
「はい」
事態を何となく察した記者が、何事もなかったように取材を始める。
そのころ沙希は、部活の時間にも関わらず、頭の中ではバレンタインのことを
考えていた。
「いったぞーーー」
「おう」
グラウンドではサッカー部がフォーメーションの練習をしていて、もうそろそろ
休憩時間になろうとしていた。
「ふう」
「どうかしたんですか?虹野先輩」
「きゃっ!!」
いきなり後ろから声を掛けられ、胸がドキリとする。
「なんだ、みのりちゃん?びっくりしたぁ〜」
「なに溜息なんか吐いてるんですか?」
「えっ?な、なんでもないよ」
「そうですか?」
ここで迷探偵みのりが、何でもないと言われて引き下がるわけにいかない。
さりげなく?探りを入れてみる。
「バレンタイン」
「えっ?」
ビクンッ
ぼそりと言ったみのりの言葉に、沙希が過剰に反応する。
『む!』
更にもう1つ。
「好きな人」
「えっ?え〜と」
目をキョロキョロさせながら挙動不審になる。
『むむむ』
ピピーーー
「よし10分休憩」
「はい」
コーチの声がして、選手達がベンチに戻ってくる。
「ん?虹野!!タオルはどうした」
「えっ?あっ、すみません。ごめんみのりちゃん。私タオル取ってくるから〜」
そう言いながら、逃げるように駆けだす。
「あっ、虹野先輩」
あの焦り方は普通じゃない。
「行っちゃった。やっぱり怪しいわ。バレンタインは徹底マークね」
1時間後の女子バスケ部部室。
練習が終わり着替えていると、詩織と奈津江はみんなに質問責めにあった。
「ねぇねぇ、どんなこと聞かれたの?」
上半身下着のまま、吉原沙絵が詩織に迫る。
「沙絵ったら。上、着なよ」
「ふふふ、いいからいいから。言ってみれ」
肘で詩織のことをつつく。
「なんてことないよ。学校生活についてとか、チームの雰囲気とか、今年の抱負とか。
ありきたりのことを聞かれただけだよ」
「ほんと〜?奈津江」
納得いかない表情で奈津江の方を見る。
「まあ、そんなとこ」
「なんだ〜、つまんないの」
「つまんないって・・・・・」
「もっと、おもしろいこと聞かれなかったの〜?例えばぁ、もうすぐバレンタインだし、
チョコあげる人はいますか〜、とか」
「えっ?」
詩織の目が明後日の方を見る。
「ん?ん?聞かれたなぁ〜」
きゃあ、きゃあ。
部室全体が盛り上がる。
「聞かれてないよ〜」
更なる追求にも白を切る。
『言わないよね〜、やっぱり』
その会話を聞いていた優美は、詩織が公のことを好きだと確信しているが、
当然黙っていた。ここでみんなに知られたら、二人は半ば公認の仲になってしまうからだ。
「奈津江、どうなのぉ?」
「ふふふ、それは秘密で〜す」
沙絵は奈津江に振るが、口を割らない。
詩織が固く口止めしてあるからだ。
「なにもったいぶってんのよ。教えなさいよ〜」
「だ〜め!奈津江ちゃん、恵ちゃん、行くわよ」
着替え終わった詩織が、奈津江ともう1人事実を知っている恵の手を引っ張って
部室を出ようとする。
「あっ、ちょっと待ってよ〜」
恵がズルズルと引きずられていく。
「あっ、逃げるな〜」
そんな声には聞く耳持たずに出ていってしまう。
バタン!
「行っちゃった。でも〜」
『実はだいたい検討はついてたりして』
沙絵の他にも、女子のバスケ部員の間ではなんとなく分かっていた。
試合の時の公を応援する詩織を見れば一目同然だ。
それが幼なじみからくるものなのか、一人の男性として好きという感情からくる
ものなのか、それは分からないのだが。
次の日、教室で好雄が公に愚痴っていた。
「お前はいいよなぁ〜、確実にくれる娘がいるから」
机に頬杖してブツブツと呟く。
「そうか?去年は3個だったぜ。詩織は義理でくれるとして、あとはなぁ」
「かーーー、なに言ってやがる。今年はそんなもんじゃないってお前は」
額に手を当ててふんぞり返り、思いっきりあきれられる。
「なんで?」
「なんでって。馬鹿だなぁ、お前。あれだけ注目を浴びてるんだから、たくさん
貰えるに決まってるだろ。雑誌の取材まで来て、きらめきの有名人なんだからな、
お前は」
「そんなもんかね」
去年の3個が今までで最高個数のため、いまいち実感が湧かない。
「そうだよ。ま、さすがに伊集院みたいな数にはならないだろうけどよ」
「あんなに貰ったってお返しできないよ」
「ははは、それは言えてる」
それに女の子には悪いが、トラックがいっぱいになる数を貰ったって処分に困る。
そんな二人の会話は、最前列の詩織の席まで聞こえてきていた。
『う〜ん。やっぱりそうよねぇ。今年は倍増どころじゃないわね。それにしても、
去年は3個だったんだ』
去年の今頃を思い出す。
自分があげた後に2つ貰っていたなんて、予想外だった。
『1個は虹野さんでしょ。あとは・・・・・そっか、あの娘ね』
クリスマスに見た麗奈の顔が頭をよぎる。
いったい今年は何個になるのだろうか。
その中でも自分のは特別であるはずだと確信している詩織は、沙希よりは余裕
があった。
『でも、貰った娘全員にお返ししたら、公くん破産しちゃうんじゃないの?』
などと、違う心配をしていた。
いよいよ県大会が始まった。自分たちの実力はどんなものなのか、選手達も
見極める大事な大会だ。
この大会から登場するウィンターカップベスト8のきらめき高校は、当然注目の的だ。
「きら高だ」
練習のため入場してきたきらめきの選手達を見て歓声が起こる。
会場には、新チームとなったきらめきを見るために沢山の観客が集まった。
「なんかでかい奴がいるぞ」
ザワザワザワ
みんながコートに出てきた石崎を見て驚く。
「緊張してるか、石崎」
注目を集めた石崎を木本が気遣う。
「は、はい。ちょっと」
「お前はいいよ。俺なんか負け試合がデビュー戦なんだから」
公は去年の今頃を思い出す。
「ははは。でも負けが決まってたから出られたようなもんだぞ。あとは俺のお陰だな」
「はいはい。まあ、そうなんだけどな」
「それ、僕も見てました」
中学生だった石崎は、進路として決めていたきらめき高校の試合を見るため、
受験勉強の合間を縫って会場に来ていた。
そこで木本と公のプレーを見て、この人達と一緒にプレーしたいと強く感じた。
「あの時いたのか?」
「はい!!あの羽田中央の試合は感動しました。残り時間は少なかったけれど、
公さんが出たときのプレーは凄かったです。絶対合格してバスケ部に入るん
だって、思いましたから」
「そ、そうか?」
握り拳を作り、公の20cm頭上で力説する。
「照れるな。ま、お前なら大丈夫だ」
「はい」
「おっ、見ろ。隣では女子が試合してるな。早乙女は頑張ってるかな」
木本が隣を指差す。
隣のコートでは女子の試合が行われていて、優美がスタメンで出場していた。
早乙女優美の中には緊張という文字がないかのように、縦横無尽に動き回っている。
「優美ちゃん」
「はい」
詩織から絶妙なパスが通る。
「シューーート!」
1回戦位の相手なら、優美の素早いモーションにシュートチェックなど間に合わない。
フェイントなどしないでシュートを打つ。
ザシュ
「ナイシューーー!」
「やったーーー」
優美は走りながら、1本決めるたびに大喜びする。
「ほら、早く戻るよ優美ちゃん」
「は〜い」
優美のプレースタイルは公に似ている。コート中をピョンピョン弾むように
動き回り、相手を攪乱する。一見無駄なエネルギーを使っているようだが・・・・・、
実はちょっと違う。野生の本能なのか、ちゃんとペース配分はされているようで、
バテることはない。
「ほんと不思議な娘だわ」
詩織には理解不能なプレーをする優美だった。
男子もすぐに試合が始まった。いつものように調子よく公が得点を重ねていく中、
リバウンドでは石崎の活躍が目立った。
ガンッ
「リバンド」
石崎が、弾かれたボールに向かってディフェンスリバウンドに跳ぶ。
「こ、こいつ」
敵2人との奪い合いになったが、2mの長身選手とは思えない動きでボール
を奪取する。
ドドン!
大歓声で消されているが、近くにいると凄い音とともに着地する。
「ナイスリバン」
「木本さん」
「おう。公」
石崎からのパスを、すぐに前を走っている公へと送る。
「よしっ!」
そしてそれを、公が確実に得点する。
ザシュ
「ナイシュー」
ドンドン、ドンドン
流れるような連携プレーに、応援席も盛り上がる。
そして、石崎は攻撃でも活躍した。
「7番を抑えろーーー」
どの高校も、全国的に有名になった公には2人以上のマークを付けるが、石崎
にはまだまだ甘い。
もちろん抜けないこともないのだが、ここは新チームの経験の方が先だ。
「公のマークがきつい分、こっちが薄くなるんだぜっと、菊川」
3ポイントシューターの菊川へパスを出す。
「よしっ」
すかさずシュート。
ガンッ
「すまん。石崎頼む」
「はい」
またもや石崎の出番だ。
ここでも力の差を見せつけて奪い取る。
「ナイスリバン。そのまま決めろよ、石崎」
「はい」
着地したと同時にジャンプする。
「高い!」
石崎の長身から繰り出される高い打点からのシュートに、ディフェンスの手など
届かない。橋本のようなインサイドのジャンプシュートを放つ。
ザシュ!
「いいぞ、石崎」
「はい」
自陣に戻りながら、公が石崎の肩を叩いていく。
初戦を勝利した男子は、順調に決勝まで勝ち上がった。
1年生ルーキー石崎と優美が華々しくデビューした県大会は、男女とも優勝する
ことが出来た。ただ、男女とも決勝の相手は末賀ではなかった。
その決勝戦を見て唸っている男がいた。末賀の橋本だ。3年生が抜けてかなり
戦力がダウンした末賀は、なんと決勝に行く前に負けてしまった。
「なんだあれは。ただ背が高い奴かと思っていたら」
石崎のことは、以前から控えにいるのを見かけて知っていたが、まさかこれ程
の選手になるとは予想していなかった。
「うちは男女とも夏までに鍛え直しだ。それでも、インターハイは厳しくなりそうだが」
松本や他の部員も頑張ってはいるが、公や石崎ほどではないし、竹原と菊川の
プレーを見るとちょっと劣っている感じがした。
予選までにはレベルアップをして、再起するべく気合いを入れる橋本だった。
その2週間後に行われた関東大会では、3度目の正直が実らず羽田中央に負けた
男子が準優勝し、その雪辱とばかりに、女子は清和学園に大差で勝利し優勝した。
つづく
あとがき
第34話でした。
いつもよりも短めでしたね。
あまり書くことなくって(^_^;)
華々しいデビューを飾った石崎と優美。
これからも二人には頑張ってもらわないと。
インターハイ予選の末賀は、
よりパワーアップして戻ってきますから。
次はやっとバレンタインです。
それぞれのチョコの行方は?
お楽しみに。