「My wish・・・」
第35話 「それぞれの想い」
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今回は、ときメモ2のキャラが出てきます。
まだやっていない人には、少々ネタバレの部分がありますので、
それでも良いという方は読んで下さい。
2月13日の夜。
辺りはシンと静まりかえり、とっくに午前0時を回っている真夜中。
今晩は、恋する乙女の家に、遅くまで明かりが点いているであろう特別な夜だ。
そう2月14日バレンタイン・デーの前日。
みのり、沙希、詩織、それぞれ三者三様の様子を見てみましょう。
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秋穂家では、みのりが部屋で頭を抱えていた。
明日はバレンタイン・デーなのだから、そのことについて悩んでいるのかと
思いきや、全然違うことで悩んでいた。
「虹野先輩、最近はよく付き合ってくれるようになったけれど、男の子の話は
避けてるのよねぇ」
先日沙希に探りを入れたときのあの慌てようは、必ず何かあると思うのだが。
以前は断られていた部活後の道草も、秋頃からは沙希の方から誘ってくれたり
していた。
「う〜ん。虹野先輩を尾行したのは夏休み前でしょう?で、夏休みがあって、
プール、ショッピング、映画にも行った」
指折り数える。
「でも、5時くらいになると帰っちゃうのよね〜」
それは公のお弁当を作るためだが、みのりが知る由もない。
「それに、二学期が始まってからも誘ってはくれたけれど・・・・・」
何となく日記をめくってみる。
ペラ、ペラ。
「あれっ?おかしいな」
しばらく日記を眺めていると、おかしなことに気が付いた。
「虹野先輩が私を誘ってくれるのは、決まって月に2、3回、しかも水曜日じゃないの?」
ペラ、ペラ、ペラペラペラペラ。
しきりにめくって確認する。
「これも、これも、これもだ!」
ここまで徹底して同じだと、怪しいことこの上ない。
「なんで気が付かなかったんだろう。明日は先輩から目が離せないわ」
布団に入ったみのりは、ブツブツと呟きながら眠りにつく。
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虹野家では、沙希がチョコ作りに精を出していた。
「これで最後ね」
サッカー部員全員のチョコを作り終えた沙希は、いよいよ本命のチョコ作りに
取りかかろうとしていた。
「公くんのは、トリュフに挑戦よ」
本命のチョコは当然違う。
他のは手作りといっても簡単に出来るチョコだが、本命には愛情と手間を掛け
るのだ。
沙希ちゃんのトリュフ作り講座
「今日は、素敵な彼のために、トリュフを作ってみましょう」
いつ作ったのか、フリップを取り出す。
「材料と用具は次の通りです」
材 料(20個分)
(中身用) 生クリーム 50cc
クーベルチュールチョコレート 100g(中身用)
うちホワイト50g、スイート50g
ブランデー小さじ1、ホワイトキュラソー小さじ1
トリュフ用チョコボール
(市販品 ホワイト10個、スイート10個)
(仕上げ用)クーベルチュールチョコレート 300g
うちホワイト150g、スイート150g
ココア少し(スイートトリュフ用)
粉砂糖少し(ホワイトトリュフ用)
用 具
トリュフ用
包丁、鍋(小)、泡立て器、パット、ラップフィルム、絞り出し袋
丸形金具(直径5mm)、ボウル(中)、ハサミ、フォーク
テンパリング用
鍋(中)、ボウル(大、中)、温度計、ゴムへら
「まず初めに、下準備として仕上げ用のクーベルチュールチョコレートをテンパ
リングします。これはチョコレートの温度調節のことです。ではなぜテンパリ
ングが必要かというと。あっ、その前に」
鍋とボウルを取り出して、鍋にはお湯を7〜8分入れる。
「これにボウルを浮かべます。いわゆる湯煎ですね。で、この中に刻んだクーベ
ルチュールチョコレートを入れます」
ザラザラザラ
「え〜と、テンパリングとは何かでしたね。チョコレートの成分であるカカオバ
ターは、温度によって結晶の形が異なります。あっ、溶けてきましたね」
ゴムべらでかき混ぜながら、ゆっくりと溶かしていく。
「そこで、常温では粗い結晶を、温度調節をすることで均一にするんです。そう
するとによって、なめらかできめの細かいチョコが出来ます。これを口の中に
入れると、口溶けが良くサラッとした感じがするわけです」
チョコに温度計を差し込む。
「この時、温度に気を付けないといけません。チョコの溶ける温度は34度で
すが、スイートなら45度、ホワイトなら40度を超えてはいけません。
温度を上げすぎると、品質が悪くなるからです」
ゴムべらでゆっくり混ぜる。
マゼマゼ、マゼマゼ
「今はスイートを溶かしていますから、45度までですね。え〜と、そろそろかな」
かき混ぜながら温度計を確認する。
「うん。45度まで上がったので、これを今度はお湯から、水を入れたボウルに
移します」
チョコが入ったボウルを、大きなボウルに入った水の上に浮かべる。
「そして、温度を下げながら更にかき混ぜます」
マゼマゼ、マゼマゼ
「ここで、ポイントその1」
ピッと人差し指を立てる。
「テンパリングの最中は、チョコの中に水を入れてはいけません。水が入ってし
まうと、チョコの脂肪分が分離して、半固形状になってしまいます。そうする
とトロリとしたチョコにはなりませんので、ようく注意してください」
更にかき混ぜる。
「そして、チョコは27度位から固まり始めますので、その前に再び湯煎にかけ
30度位まで上げます」
再びお湯にボウルを移す。
マゼマゼ
「27度から30度はすぐに温まりますから、気を抜いてはいけません。と言っ
てる間に、そろそろいいかな?」
温度計をのぞくと30度を指していた。
「よしっと。これでテンパリングが完成です。ゴムへらにちょっとすくって、
パットの上に薄く延ばしてみましょう」
ボウルをお湯からあげて、トロリとしたチョコをへらに取る。
スーーーーー
「うん。良い感じでツヤガ出ています。このように、ツヤが出ていれば完璧です」
チョコに蛍光灯の明かりが反射している。
「ちなみに、テンパリングが必要なく、湯煎して溶かすだけで使える洋生チョコ
レートというものもあり、こちらは簡単に手作りチョコが出来ます。初心者の
方にはそちらをお勧めします」
沙希も初めはそっちを使っていたが、今ではテンパリングもお手の物だ。
「ではなぜクーベルチュールを使うかというと、洋生よりもカカオバターの含有
率が高くて、50〜70%もあり美味しいからです。しかしその分手間がかか
るんですね」
「では、これはこっちに置いておきまして、次にガナッシュチョコレートを作り
ます。トリュフの中に入れるチョコですね」
小さめの鍋に生クリームを入れて中火にかける。
「これを焦がさないように注意しながら沸騰させます」
カチッと火を付ける。
「この間に、クーベルチュールチョコレートを細かくけずります」
スイートとホワイトをそれぞれ包丁で刻む。
クツクツ、クツクツ
「もういいようですね」
泡が出てきたので火を消す。
「これに、先程刻んだクーベルチュールチョコを入れて溶かします。まずは
スイートからね」
ボチャン、ポチャン
「泡立て器でかき混ぜながら溶かしま〜す」
マゼマゼ、マゼマゼ
「溶けましたら、ブランデーを小さじ1ほど入れます。ホワイトの時はホワイト
キュラソーね。あれっ?なんかこれだけで酔っちゃいそう」
ブランデーを入れながら、その香りにクラッとくる。
「軽く混ぜたら、溶けたチョコをパットに流し込みます」
トローーーリ
「これにラップフィルムをぴったりかぶせて密閉します」
ピタッ
「そしてそのまま室温で冷やします」
「冷やしている間に、次の用意をしましょう」
トリュフ用の、上に穴が開いたボール状のチョコが並ぶ容器を取り出す。
「まずは茶色のチョコボールからね」
更に、絞り出し袋に丸形口具を取り付けておく。
「チョコが完全に冷めたら、これを絞り出し袋に入れて、チョコボ−ルに流し込
みます」
トロトロトロトロ
穴の中に静かに流し込む。
「ここでポイントその2。このとき、チョコが中で平らになるように、容器を
少し上げて、トントンとテーブルに打ち付けるように落としま〜す。
トントンっと」
容器を少し浮かせて落とす。
「中身が足りないようなら、またたします」
トロトロトロ
「これに、先ほど仕上げ用に作っておいたチョコを少量取って蓋をします」
絞り出し袋にちょっと入れて、先をほんの少しハサミで切る。
「チョキン」
蓋をしようと構えるが、何かを思いつく。
「ポイントその3。蓋をする前に愛情も入れましょう。ふふふ」
1個ずつに投げキッスをしてからチョコで蓋をする。
「チュッ、あは。チュッ。えへへ」
自分で言っておきながら、しきりに照れる。
「はい、全部にチョコと愛情を入れました。蓋が固まるまでしばらく待ちます。
10分くらいかな」
その間に、仕上げ用のチョコが入ったボウルを用意する。
「固まっているようなら、少し湯煎して溶かします」
少しの間お湯に浮かべてかき混ぜる。
「もういいかな?」
ボウルをあげて、蓋が固まったか指でチョンと触れて確かめる。
「いいみたいですね。後はこれをこの中に入れて、周りをチョコで覆います。
これをトランペといいます」
トロトロのチョコが入ったボウルの中に、フォークで1個ずつ丁寧に入れる。
「ポイントその4。トランペのコツは、中で転がしたチョコボールを引き上げる
ときに、余分なチョコを落とすことです。こ〜んな風にね」
フォークを上下させることで、チョコが糸を引いて流れ落ちる。
「3〜4回でいいです。はい。きれいにチョコで覆われましたね。これにカカオ
の粉をまぶしま〜す」
1個、また1個とココアの入ったパットに乗せていく。
「ちょっとおいたら、チョコが固まる前に、別のフォークで転がしながらまぶし
ていきます。ホワイトトリュフの場合は粉砂糖ね」
次々と仕上げていく。
「コロコロコロ〜、これが最後ね。はい、出来上がりで〜す」
見事なスイートトリュフが10個出来上がる。
同じ手順でホワイトトリュフも10個作る。
「うまく出来ましたか?あとはキレイにラッピングして出来上がりです。みなさんの
想いが届きますように。沙希のトリュフ作り講座でした〜」
「はっ、何やってたんだろ。私・・・・・」
目をパチクリさせる。
「あ!そっか、トリュフを作ってたんだっけ」
目の前のパットに視線を落とすと、トリュフが20個転がっている。
「出来たーーー!!むぐっ」
思わず叫んでしまい、開けた口を慌ててふさぐ。
「シーーー。大声出しちゃ起きちゃうよね」
周りをキョロキョロと見渡す。
「ふう。大丈夫みたい。それにしても、我ながらいい出来映えだわ」
トリュフが並ぶパットを見ながら笑みを浮かべる。
「あとはこれを小瓶に入れて、ラッピングして出来上がりよ」
トリュフをバスケットボールに見立て、小瓶はボールの籠になる。
「あとはゴールなんだけど。う〜ん、う〜ん。あっ、そうだ。いいこと思いつい
ちゃった」
考えた末に、あることを思いついた。
「ふふふ、これでよし。明日が楽しみだなぁ」
後かたづけをした沙希は、部屋へと戻りベットに潜り込む。
「あふっ」
布団の中で伸びをして瞳を閉じると、身体の疲れがすぐに眠りへといざなう。
時計はすでに2時を回っていた。
藤崎家では、詩織が試合で疲れた身体にむち打って、睡魔と戦いながらチョコ
相手に悪戦苦闘していた。
「あ〜ん。どうしてうまくいかないの〜?」
ガシガシ、ガシガシ
ボウルの中で半固状態になったチョコを、無理矢理かき混ぜながら叫ぶ。
そう、去年は手作りといっても、簡単な洋生チョコを使った詩織は、今年はそ
れよりも美味しいものを作ろうと、クーベルチュールに挑戦していた。
「ふう。このテンパリングっていうのが上手くいかないのよね」
ボウルをいったん置いて、溜息混じりにもう一度本に目を通す。
「え〜と・・・・・。温度はいいし〜、あっ!!水を入れてはいけないだって。
もうっ、気が付かなかったわ。やり直しね」
水分は一滴も入れてはいけない。そこまでは注意していなかった。
本の書き方が悪いのか、よく読まなかった詩織が悪いのか。
とにかく新しいボウルを取り出して、再び湯煎の準備をする。
「ちょっと甘く見ていたわね」
失敗したボウルの数を見て呟く。
「いいもん。こんどこそ上手くいくんだから」
めげずに、公のために奮闘する。
そして数十分後。
「出来た〜。今度は完璧ね」
ツヤも出ていて美味しそうだ。
「ちょっと一舐め」
人差し指でチョコをすくい、口に持っていく。
ペロッ
「ん〜、あま〜い」
これまでの疲れが吹っ飛ぶようだ。無意識にまたボウルに指がのびる
「はっ!!いけない、いけない」
我を取り戻して続きに取りかかる。時計を見るとすでに1時を回っている。
「急がないと」
テンパリングが出来たおかげで、やっと次の手順に取りかかることが出来る。
あとはこれを、ボウルの中に入っている焼いたアーモンドに、少しずつ流し込
んで、からませる。
「好きよ、公くん」
チョコをひとさじ加えるたびに、公への想いも混ぜ込むように。
そして、アーモンドがだんだん大きくなるように、詩織の想いも膨らんでいく。
「公くん、喜んでくれるよね」
それを10回ほど繰り返すと、一回り大きくなったアーモンドチョコレートが
出来上がる。それにココアをまぶして完成だ。
「立派なアマンド・ショコラの出来上がりね」
あとはラッピングだけだ。
「ホントはハート型のチョコを作りたいんだけど、これで我慢してね、公くん」
ハート模様の箱に1個ずつ入れていく。
包みを持って部屋に戻った詩織はベットに入る。
「いつ渡そうかな〜。やっぱり帰り道かな〜」
今からドキドキしながら瞳を閉じると、アッという間に眠りについてしまった。
三者三様の夜が更けていく。
バレンタイン当日の朝。
公は朝御飯を食べて、いつも通りの時間に家を出る。
「公、ちょっと待ちなさい」
「なに?母さん。急いでるんだけど」
靴を履きながら振り返る。
「これ持っていきなさいな」
そう言って、大きめのリュックを手渡す。
「何これ、恥ずかしいなぁ。別に荷物はいつもと同じだよ」
「何って、今日はバレンタインでしょ」
「だから?」
「だからって・・・。はあ、いいから持っていきなさい。チョコを入れるためよ」
なにも分かっちゃいない鈍感な息子に呆れながらも、無理矢理持たせる。
「こんなのがいるくらい貰うわけないだろ」
「いいからっ!!」
「たくっ、わかったよ」
ブツブツ言いながら、リュックを持って家を出ていく。
「ホント鈍感な馬鹿息子ね。さぁて、いったい何個もらってくるのかしら?」
去年は3個だったようだが、今年は食べきれないほどもらってくるに違いない
と踏んでいる。
「チョコレートは好きだけれど、ダイエットしなくちゃいけないかもね〜」
軽くスキップをしながら、居間へと戻る。
すでに、もらって食べようと考えている母だった。
公は、あと5分で鳴ろうとしている頃に校門をくぐった。
「主人さん」
「えっ?」
誰かに呼び止められる。
声の方を見ると、何年生だろうか女の子が立っていた。
名も知らぬ娘は、ピンク色の長い髪を首の前で束ねていた。
「なに?」
「今日のあなたの運勢は・・・・・・、今まで経験したことがないことが起こります。
呆然とすることも多々あるでしょう。それは嬉しいことですが、最後に小さな災いが
待っています」
「はあ?」
突然そんなことを言われて立ちつくす。
「じゃあ、また後で」
勝手に言うことだけ言って、少女は走り去った。
「誰だ今のは?それに災いって・・・・・」
「おっす、公。どうした、ボーっとして」
「ん?好雄か、おす」
呆然としているところに、肩を叩かれる。
「いよいよだな」
「バレンタインのことか?俺は詩織からさえ貰えればいいんだよ」
「とか何とか言っちゃって、なんだよそれは」
鞄と一緒に持っているリュックを指差す。
「ああこれか?母さんが持ってけって、うるさいんだよ」
「ほーーー、分かってるねぇ」
「こんなに貰う訳ないっての」
果たしてその答えは、下駄箱の中から始まる。
「ん?これは」
下駄箱の蓋を開けると、内履きの上に箱が置いてあった。しかも3個。
「おっ!早速あったな」
「ああ、そうだな」
下駄箱に入っているなんて初めてことなので、公は呆気にとられた。
とりあえずリュックにしまって教室へと向かう。
チリンチリン、チリンチリン
「おっと、鳴ったな」
「行こうぜ」
予鈴が鳴ったため、教室までの廊下では公を止める者はいなかった。
そして、休み時間になってもその平穏は破られることはなかった。
このまま一日が終わるかと思いきや、それも午前中までのことだった。
学食で昼食を済ませた公が教室に戻ると、2年A組の教室の前に女生徒が
群がっていた。
「な、なんだこれ」
「あっ!主人先輩が戻ってきた」
1年の誰かが叫ぶ。
すると、一斉に何人もの女の子が公の方を見る。
「うおっ!」
思わず、一歩後ずさりする。
「ごめんない、ごめんなさい。おう、公。戻ってきたか」
好雄が女の子をかき分けて廊下に出てくる。
「よ、好雄。これは一体なんだ?」
「馬鹿、みんなお前を待ってたんだよ」
「俺を?」
「早く席に戻れよ。俺が仕切ってやるから」
公が戻るまでパニックにならないよう抑えていた好雄は、公を自分の席へと
座らせる。
「はいはい、きらめき高校バスケ部のエース、主人公にチョコを渡す人は、順番
だからちゃんと並んで〜。あっ優美、ちゃんと後ろに並べ!!」
「ぶ〜!!なによお兄ちゃ〜ん」
遅れて来た優美は、列から外れて公の前に来ようとする。
「いいよ、好雄」
「やった〜!!」
「ったく」
「ちょっと待ってね」
公が、並んでいる女の子に向かって頭を下げる。
「はい、公先輩。どうぞ」
「ありがとう、優美ちゃん」
「はいはい、渡したら帰る帰る」
「あっ、お兄ちゃ〜ん」
好雄が優美の背中を押して、廊下へと追い出す。
「ごめん優美ちゃん」
公にそう言われたら従うしかない。
「む〜、分かりました。じゃあね、先輩」
優美は渋りながらも、自分の教室へと戻っていった。
「お待たせ〜。じゃあ、一人ずつね」
好雄がそう言うと、堰を切ったように次々と公の手にチョコが渡されていく。
「先輩、受け取ってください」
「あっ、う、うん。ありがと」
「公くん、はい」
「ど、どうも」
その中には、1年生の娘もいれば3年生の先輩もいた。
「ふふん」
詩織は余裕で自分の席からそれを見ていたが、廊下では沙希が心配そうにのぞ
いていた。
「まさかこんなにいるなんて」
ちょっと偵察しに来たのだが、予想以上の女の子の数に圧倒されてしまった。
「藤崎さんは、平気なのかな?」
詩織の方を見て表情を伺うが、何ともないようだ。
「何かあったのかなぁ?あの二人」
そう思いつつも、このままここにいても仕方ないので、来た道を引き返す。
そんな沙希を、遠くから観察している女の子がいた。
そう、迷探偵秋穂みのりだ。
みのりは時間が許す限り、休み時間毎に沙希の行動を観察していた。
そして遂に、昼休みのいま公がいるA組へと来ていた。
しかし、ターゲットは中をのぞいただけで帰ろうとしている。
「あれっ?何しに来たんだろ」
手ぶらで教室を出たから変に思っていたのだが、訳が分からず小首を傾げる。
そして再び、沙希の後を隠れながら尾行する。
予鈴も鳴り終わり、昼休みも終わろうとしていた頃、最後の娘が公の前に立った。
「これどうぞ。あとあと、握手して下さい」
「ありがと」
右手を出しながら礼を言う。
「きゃあ、きゃあ」
握った手をぶんぶん振って離すと、ペコリとお辞儀をして教室を出ていく。
「やっと終わったな」
好雄がイスに座り込む。
「ああ」
公は結局27個ものチョコを貰った。
机の上はチョコに占領されている。
「まさかこんなに貰うとは」
公はただ驚くばかりだ。
「そうか?俺の情報網だと、もう少しあると思ったんだが」
手帳を出して、パラパラとめくる。
「ホントかよ。ふう」
「なぁに溜息ついてんだよ」
「そりゃあこんなに貰って嬉しいけどさ、ホワイト・デーを考えるとなぁ」
「この贅沢者が」
コンッ!
手帳で公の頭を小突く。
「痛。角はやめろっての」
「ははは、それよりもだ」
好雄が手を出す。
「なんだ、その手は」
「あの騒動を仕切ってやったのは誰だ?1個くらいくれたっていいだろ」
「なに言ってんだ。そんなこと出来る分けないだろが」
いくら知らない娘のチョコだとしても、自分のために買った、もしくは作って
くれた物をあげるわけにはいかない。
「ちぇっ、やっぱダメか」
「当然だ」
母親に感謝しつつ、持ってきたリュックに一個ずつ入れていく。
そんな時、今日は話したくない奴に話しかけられた。
「やあ、庶民」
「なんだ伊集院」
もらったチョコの数を自慢されるかと思って、不機嫌そうに答える。
「ハハハ。そんなに嫌そうな顔をしないでくれたまえ」
「嫌なんだよ」
即答する。
「ははは、まあそう言わないでくれたまえ。けっこうな数のチョコを貰ったようだねぇ。
おめでとう」
机の上のチョコを、チラッと見る。
「だからどうした。言いたいことはそれだけか?」
「ははは、まあまあ。君に手紙を頼まれてねぇ」
「手紙?」
「ああ。覚えているかね」
表面は冷静にしているが、実は心臓をドキドキさせながら便せんを差し出す。
「・・・・・、もちろん。覚えているさ」
それは麗奈からのものだった。
受け取った便せんの、裏の宛名を見ながらクリスマスのことを思い出す。
「じゃあ、そういうことで」
レイは自分の席へと戻る。
「なになに、誰からなんだ?」
「お前には関係ないよ」
サッと、リュックの中にしまい込む。
「あっ、そういうこと言うかな」
チリンチリン、チリンチリン
好雄が詰め寄ったとき、チャイムとともに現国の先生が入ってきた。
どこの高校にもいそうな、時間に厳しい先生だ。
「ほら、来たぞ」
急いで残りのチョコをしまう。
「おっと、後で詳しく聞かせろよな」
公は前を向きながら「わかったわかった」と無言で手を振った。
毛頭しゃべる気はないのだが。
チリンチリン、チリンチリン
放課後を告げるベルが鳴る。
「はあ、まだ詩織からもらってないんだよなぁ〜」
去年は大会の帰り道にもらえたが、今日は詩織と話さえしていない。
そして、自分から話しかけることは出来ないでいた。
そんな想いで、重くなった足を引きずりながら部室に行くと、ドアの前に20人以上の
女の子がたむろしていた。
「なんだ?まさかね」
ふと好雄の言葉を思い出す。
「あっ、主人先輩。木本先輩はまだですか?」
「木本?さあ」
「そうですか」
なんだ木本のファンかと思いきや、その後ろから半分くらいの女の子が
公の前に進み出た。
そして、3年生らしき女の子が先頭に立つ。
「な、なんですか?」
「私たちは、主人くんにもらって欲しいんだけど」
「おれ?」
「うん」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます」
またしても公の前に列が出来る。
「はい」
「どうぞ」
「食べてね」
腕の中に、どんどんチョコが積まれていく。
あと二人で終わるというとき、そこには見に覚えのある顔があった。
「あっ、君は今朝の」
「また会いましたね。はい、私からです」
「ありがとう。ん?なんで2個あるの?」
1つは手作りらしいもの、もう1つは有名なお菓子屋の包みがしてある。
「これが私ので、こっちがお姉ちゃんのです」
手作りのを方を指差す。
「お姉ちゃん?じゃあ、そのお姉さんにも、ありがとうって言っておいて」
「はい。わかりました。それじゃ」
「あっ、待って!朝言ってた災いって、何?」
「あれは、お姉ちゃんが占ったのだから、わかんないです」
「そう」
「じゃ」
手を振り走り去った。
「何なんだいったい」
残りは1人だ。
「私で最後ね。はい」
「ありがとうございます」
最後の3年生から受け取ると、その先輩が顔を近づけてきた。
「な、何ですか?」
「公くん。今日たくさんチョコもらったでしょう?」
「えっ?」
突然の言葉に驚く。
思わず腕に抱えているチョコを落としそうになる。
「は、はい」
「それね。お返ししなくてもいいよ」
「えっ?」
「じゃあ」
謎の言葉を残して走り去る。
「どういうことだ?」
実はこの3年の女生徒、「主人公ファンクラブ」の会長をやっている。
その中で、公からのお返しは期待してはいけない。という暗黙の了解が流された。
しかもそれは、ファンクラブの会員ではない娘の耳にも入っていた。
「う〜む」
今もらった16個を、リュックに入れて部室に入る。
さっきの言葉が頭の中を回りながら着替えていると、外が騒がしくなった。
「はい、木本くん」
「ありがとう」
木本と女の子の声が聞こえた。
十分後、終わったのかドアが開く。
「公、もう来てたのか」
「ああ」
「ほれほれ、またそこでチョコもらったよ」
自慢げに言う。
「俺ももらったよ」
「なに?そっか。やっぱそうだよな〜」
予想はしていたが、ガクッときた。
「お前、いま何個もらってる?」
「ん?え〜と、46個だ」
リュックの中を見て答える。
「46個?なんだそれは、もらいすぎだぞお前。俺は32個だってのに」
「そんなこと言ってもなぁ。それより、お前はお返しどうする?」
「お返し?しないぞ」
公が悩んでいたことをサラリと答える。
「なに?」
「ただ1人の女が、俺の愛を受け取るなんて罪だろ」
伊集院のようなセリフをのたまう。
「はっ!!言ってろ」
「ははは」
そんな会話をしていると、石崎が入ってきた。
カチャ!
「あっ、先輩。ちょうど良かった」
なにやら段ボール箱を持っている。
「なんだその箱は?」
「これですか?チョコです」
ドサッ!
机の上に下ろす。
「おまえのか?」
「いえ、とんでもないですよ」
首を大きく振る。
「これは、公先輩と木本先輩のです」
「お、俺の?」
「俺のか!」
「はい。さっき廊下でコーチに呼び止められたんですよ。持っていけって」
中には郵送されてきたチョコが入っていた。
主に近隣の中高生だったが、県外の高校からのも何個かあった。
まるでアイドルやプロ野球選手みたいだ。
「おっ、隣のひびきの高校からも来てるぞ。これ、何個入ってるんだ?」
木本が箱の中をのぞく。
「102個です」
「で、その中で俺のは何個なんだ?」
「木本先輩のは・・・・・、確か43個です」
「43?じゃあ、公のは・・・」
「59個ですね」
石崎が即答する。
「だあ、負けた〜」
「ごじゅう・・・きゅう?」
公はまたしても呆然としてしまう。
「これで105対80かよ。か、完敗だ・・・・・」
木本がバタリと机に突っ伏せる。
「それにしても、二人ともすごいですね〜」
「ん?ははは、まあな」
気を取り直した木本が、起きあがって胸を張る。
「お前も、来年はこの位もらえるように頑張れ」
「はいっ!!」
「・・・・・」
公は呆れて何も言えなかった。
「はあ、はあ。公くんまだ帰ってないわよね」
大会後なので軽めの練習が終わった後、着替えた詩織は急いで校門へと向かった。
もちろん公と一緒に帰るためだ。チョコを渡すという目的もある。
「公くんまだかなぁ〜」
校門に着いてから何分待っただろうか、いつまで経っても出てこない。
しびれを切らしていると、誰かに声を掛けられた。
「藤崎、公を待ってるのか?」
「えっ?」
振り返ると、そこには木本が立っていた。
「えっ?そ、そんなんじゃないよ・・・」
「ふ〜ん、まあいいけど。・・・・・・・・公ならとっくに帰ったぜ」
もしやと思い、さりげなく付け加える。
「えっ?そうなの?あっ!!じゃ、じゃあ、またね木本くん」
詩織はそそくさと走り去る。
「やっぱりな。それにしても、藤崎も公のことを・・・」
公が好きなのは分かっていたが、まさか両思いだったとは思わなかった。
「面白そうだから、公には黙ってよう。決めた!!」
チョコの数で負けた腹いせとばかりに、そう固く誓う木本だった。
「あ〜ん。ばれたかなぁ」
木本の前であんな反応をしてしまうなんて一生の不覚だ。
ズカズカと大股で歩く。
「もうっ、これも公くんのせいなんだから。プンプン!!それに、たくさんもら
ちゃってさ」
昼休みのことを思い出す。あの時の余裕なんてどこへやら。
「もうっ、公くんになんかあげないんだから」
なんて声に出してはみるものの、やっぱり。
『後で家に届けよう』
そう思う詩織だった。
その時公は走っていた。
ホントは詩織からのチョコを待ちたかったが、時間がなかった。
なぜなら、レイからもらった麗奈の手紙に書いてあったメッセージ。
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『主人公 様へ
今日の夕方6時半に、
あの体育館の裏で待っています。
麗奈より』
![]()
とあったからだ。
いつもよりも早い時間なので、走らないと間に合わない。
公は全速力で走った。
「はあ、はあ、重いぞ」
1個では軽いチョコも、105個にもなるとさすがに重い。
背中のリュックがウエイトになって、いいトレーニングとなっている。
「はあ、はあ、はあ。着いた」
公は、早速体育館の裏へと向かう。
そこには制服姿の麗奈が立っていた。
「公さん」
待ちこがれた麗奈が、一歩、また一歩と近づいてくる。
「れ、麗奈さん。その制服は・・・」
麗奈はきらめき高校の制服を着ていた。
「これですか?特別に取り寄せたんです。どうしても公さんと同じ高校の制服を
着て、これを渡したかったんです」
公の目の前に来ると、持っていた箱を差し出す。
「それはチョコ・・・・・だよね」
「はい」
「い、いや、でも」
いくら鈍感な公でも、これは受け取れない。
麗奈は、自分が振った女の子なのだから。
「公さん、受け取ってください。別に付き合ってくださいっていうわけではありません。
友達として受け取って欲しいんです」
公の目を真剣な顔で見つめる。
「友達として・・・・・」
「はい」
しばらく考えた公は、納得して受け取った。
「ありがとう」
「はい。あれっ?」
バッ!!
「何?どうしたの?」
麗奈は突然後ろを向いた。
初めて女の姿で男の子にチョコを手渡ししたことで、緊張の糸が切れたのだろうか。
涙が出てきた。
「な、なんでもないです」
「そ、そう」
涙を拭いながら、一つ思い出した。
公の方に向き直る。
「公さん。今日はたくさんチョコをもらったんじゃないですか?」
「えっ?うん。自分でも驚いてるよ」
「そのお返しは、どうするんですか?」
「う〜ん。郵送できたのはいいとしても、きらめき高校の娘から貰ったのには
お返ししないといけないかなって、思ってるんだ」
同じ高校に通っているのだ。顔を合わせることもあるだろう。
「そうですか。でも、それはしない方がいいですよ」
「えっ?」
「別にお返ししたから付き合っても良いという返事ではありませんが、いままで
付き合いがなくて友達でもなんでもなく、これからもそういう気がないのなら、
何も返さなくて良いと思います」
「そうなの?あっ、そういえば」
部室の前で言われたことを麗奈に話す。
「その方は、そんなことを言っていたのですか」
麗奈には心当たりがあった。公のファンクラブの存在は知っていたし、レイの
ファンの女の子からも、何となく聞いていた。
「それは、その方の言うとおりだと思います。その方達は、ファンとして、あな
たにチョコを渡したんですよ」
「う〜ん。そうなの?それはそれで助かるけれど」
51個全部お返しするとなると、いくらかかるのか計算するのも嫌だったから、
返さなくていいのは願ったり叶ったりだ。
「じゃあ、そうしようかな」
「ええ、それでいいと思います」
「あっ、でも麗奈さんにはお返しするから」
「えっ?」
公の言葉に目を丸くする。
「当然だろ。俺と麗奈さんは友達なんだから」
「・・・・・はいっ!そうですね」
心の底から嬉しさがこみ上げてくる。
「楽しみにしています」
「うん」
「じゃあ、私はこれで失礼します」
「じゃあ、また」
「ええ。またお会いする日まで」
麗奈は深々と礼をして立ち去った。
「さてと、早く自主トレ始めないと」
その頃沙希は、身体を弾ませながら体育館へと続く道を歩いていた。
みのりが後を付けているのも知らずに。
「虹野先輩、あんなに浮かれちゃって。ホントに浮いちゃうわよ、まったく。
それにしても、一体どこに行くんだろう」
今から1時間前。
沙希と部室で別れたみのりは、なんと沙希の家までついてきていた。
今日こそは原因を突き止めるためだ。
刑事ドラマみたいに、張り込みをする羽目になるかと思いきや、沙希はすぐに
出てきた。今日はチョコが差し入れ代わりなので、虹弁は作っていないからだ。
そうこうしている内に、体育館へと着いてしまった。
「公くん、もう来てるかなぁ〜」
中へ入っていく沙希を、電柱の陰から確認したみのりは、中を覗ける窓を探し
に、自転車置き場を横切って敷地内へと侵入する。
「公く〜ん」
なにも知らない沙希は、今日も自主トレのお相手をする。
「沙希ちゃん。今日もよろしく」
「うん」
「これは一体なんなの?」
公と沙希。目の前で二人がバスケットをしている。
「もしかして自主トレなの?でもなんで、虹野先輩が一緒なの?どうして」
次々と疑問が湧き起こる。
「もしかして、あの先輩に何か弱みを握られて、無理矢理付き合わされてる。
って訳じゃなさそうね」
沙希の顔を見れば、そんなんじゃないって事は一目瞭然だ。
「虹野先輩、楽しそう。やっぱりあの先輩のことが好きなのかな」
いっそのこと二人の前に出ていきたいところだが、もうちょっと様子を見るため、
ここはグッと我慢する。
何分経っただろうか、公がタオルで汗を拭いている。
「あっ、休憩かな?」
二人は腰を下ろして、何か話している。
「う〜ん。聞こえないなぁ〜」
耳を澄ますが、さすがに窓越しでは聞こえなかった。
「公くん。今日はチョコいっぱいもらってたね」
「うん。あんなに貰うなんて思わなかったよ」
ドリンクを飲みながら答える。
「でね。私のなんて、その中に埋もれちゃうかもしれないんだけど・・・」
「えっ?」
バックの中から包みを取り出す。
「俺に?」
「う、うん」
赤くなった顔を見られないよう、下を向いて渡す。
「ありがとう。嬉しいよ」
「ホント?」
パッと、顔を上げて公を見る。
「でも、いつもお世話になっている沙希ちゃんから貰えるなんて、こっちが何か
しないといけないのに」
もちろん深い意味はない。友達として沙希からのチョコを喜んでいる。
それを察した沙希だが、それほどダメージは受けていない。
それは予想していたことだから。
「ううん。そんなの良いのよ。公くん、新人戦で準優勝してくれたでしょ?あなたの
勝利があれば、何にもいらないわ。私もそれに貢献しているんですもの。
そう思っても・・・・・良いよね?」
「うん、もちろんだよ」
そう言って、沙希の頭を撫でる。
「ふふふ。でも、一つだけお願い聞いてくれるかな?」
「なに?」
「まずは、それを開けてみて」
いま渡した包みを指差す。
「うん?」
何かな?と思いつつ、リボンをほどいて中身を取り出す。
それは、小瓶に入ったトリュフだった。
瓶には網目状の線が書かれていた。
「これ、もしかしてバスケットボール?」
「ピンポーン。ふふふ、良くできました」
「ははは。で、お願いって?」
まだ分からない。
「あのね。瓶がボール籠でしょ?」
「うん」
「でね、トリュフがボールでしょ?」
「うん」
「あと、何か残ってない?」
「えっ?う〜ん」
腕を組んで考え込む。
「分かんないなぁ〜。降参。教えて」
「ブブ〜。答えはゴールです」
「あっ、そうか!!で?」
答えは分かったが、沙希のお願いが分からない。
「お願いっていうのはね〜。え〜とねぇ、えへ」
「???」
沙希は小瓶の蓋を取り、中からトリュフを1個、コロンと手のひらに出す。
すると、それをつまんで公の前へと持ってくる。
「公くん。あ〜ん、して」
「えっ?なんで?」
「公くんの口が、ゴールだからよ」
「なるほどって、ええっ?」
言っていることは分かったが、それはちょっと恥ずかしい。
「で、でも」
「ダメ?」
大きな瞳をうるうるさせて、公の顔をのぞき込む。
「うっ!!」 『か、可愛い』
誰もいない体育館に静寂が漂う。
「い、いいです」
数秒後、公は見事にKOされた。
「ふふふ。じゃあ、あ〜ん」
「あ、あ〜ん」 『は、恥ずかしい』
照れくさそうにしている公の口へと、そっとトリュフを入れる。
「どう?」
「うまい」
口をモグモグさせながら答える。
「ホント?」
「うん。さすが沙希ちゃん」
「嬉しい。良かった」
沙希は幸せだった。
『いまは良いの。これだけで・・・・・』
それを一部始終見ていたみのりは、もう半分呆れていた。
「な、な、な、何をしてるのよ、あの二人は。それにしても・・・・・」
ただの友達ではない。そうとしか見えない沙希の表情だった。
「これは、虹野先輩を問いつめるしかないわ」
明日の放課後に実行することにしたみのりは、今日の所はその場を去った。
沙希を送った公は、家路についていた。
もうすぐ家に着く。
「あ〜、参ったなぁ」
沙希の「あ〜ん」攻撃にあった公は、あれから5個も沙希に食べさせられた。
「まるで詩織みたいだったよ」
「私がどうしたの?」
藤崎家の前を通ろうとしたとき、声を掛けられた。
「し、詩織。どうしたの?」
「『詩織、どうしたの?』じゃないわよ」
なんだか怒っているようだ。
「いままでどこに行っていたのよ?先に帰っちゃうし〜」
「い、いや、それは」
「お陰で渡し損ねたじゃないの!!」
「えっ?」
詩織が後ろに回していた手を前に持ってくると、その手にはチョコであろう箱
があった。
「ハイこれ、チョコレートよ」
「し、詩織。お、俺に?」
「うん。あっ!!」
公が肩に担いでいるリュックが目にはいる。
遅くまで外で待っていた詩織は、それを見たらなんだか意地悪をしたくなった。
「義理チョコだからね」
「えっ?」
学校にいるときは気にならなかったチョコの山も、いまは憎たらしい代物と
なっていた。
「じゃあ」
「う、うん」
公は、家の中に入る詩織の後ろ姿を、ただ呆然と見ていた。
「ただいま〜」
暗い声を出しながら家へと入る。
「おかえり、公」
母親が居間から出てくる。
「どうだった?」
「どうだったって・・・・・」
「それよ、それ」
リュックを指差す。
「そんだけ膨れてるところを見ると、たくさん貰ったようね」
「ああ」
ドン!!
リュックを下ろす。
「なに?なんか暗いわねぇ。で?何個もらったの?」
「ひゃく、はっこ、かな」
「108個!?すっご〜い。さっすが私の息子ね」
そう言いながらリュックを持ち上げてみる。
「うっ、お、重い。あっ、公」
公はリュックを置いて、二階へと上がる。
「まっいいか。いつものことでしょ」
さっき家に来た詩織との間に、なにかあったのだろうと想像はついた。
「放って置いても大丈夫ね。さてと、早速いただきましょう。おと〜さ〜ん、
公がねぇ〜」
リュックを引きずって居間へと戻っていった。
ドサッ!
イスに腰を下ろした公は、カバンから詩織、沙希、麗奈からのチョコを取り出して
机に並べた。
「ふうっ。怒ってたなぁ、詩織の奴」
詩織からのチョコを見ながら落ち込む。
「義理チョコ・・・・・か」
まあ、それはそれでもしょうがない。
「遅れてきたから、怒ってたんだよなぁ〜」
しかし、あの怒りはどうにかしないといけない。
カタッ
「ふうっ、ちょっとやりすぎたかな?」
詩織もイスに座り、頬杖をついて反省していた。
遅くに帰ってきた公も悪いが、チョコを渡すのを帰り道にしたのは、自分の
勝手な都合でもある。
「可哀相なことしちゃったかな」
しかし、こちらから謝るのもばつが悪い。
「明日、詩織に謝ろう」
「明日謝ってくれたら、笑って許してあげよう」
壁を通して向き合っている二人の思いが重なる。
つづく
あとがき
第35話でした。
なんかめちゃめちゃ長くなってしまいました。
半分に分けようかとも思いましたが、
話の流れ上、区切れるのは冒頭のチョコ作りの所くらいだったし、
めんどくさいのでそのままにしました。(^_^;)
さて、問題のバレンタイン・デーの展開はいかがだったでしょうか?
みなさんの予想?は当たりましたか?
見事に100個オーバーの108個のチョコをもらいました。
きらめき高校の生徒からは49個でしたが、
これは除夜の鐘を突く時の、煩悩の数ですね(^_^)
次回は、公と詩織の誕生日です。
誕生日といえば、あれですね。
ではまた。(^_^)/~~~