「My wish・・・」
第36話 「ちっちゃい二人の約束」
第35話 目次へ戻る 第37話
3月5日の日曜日、きらめき高校では明日から期末テストが始まる。
クラシックが流れる部屋の中でテスト勉強をしていた詩織は、ふと卓上カレンダーに
目をやった。
「もうすぐね」
来週の3月18日は、自分と公の17歳の誕生日だ。
「去年はプレゼントを交換しただけだったのよね」
いま流れている、公から貰ったCDに耳を傾ける。
「よおし、今年は一緒にお祝いしようっと」
思い立ったが吉日、すぐに行動に移す。
「お母さん、お母さん」
ドタドタと階段を降りてくる。
「なあに、詩織。静かにしなさい」
「はぁい。あっ、それよりも!!今年は公くんと一緒に、お誕生日のお祝いして
もいいでしょ?」
「誕生日?そう言えば、もうすぐね」
「ね、ね、良いでしょ」
両手を合わせて頼み込む。
「そうね〜、良いわよ」
「ホント?やった〜」
ドン、ドン、ドン
バンザイをしながら、ピョンピョン跳ね回る。
「あっ!いま掃除したばかりなんだから静かに・・・・・」
ドタドタドタ
「あっ!んっ、もう。公くんのこととなると、人が変わるんだから」
文句を言い終わる前に、母親を残して2階へと上がってしまった。
「ふふふ、プレゼントは何にしようかなぁ〜」
勉強なんてそっちのけで、足をブラブラさせながら楽しそうに思いを巡らす。
「ケーキは手作りに挑戦しようかしら。お母さん作れるかな?」
ガタッ
立ち上がった詩織は、再び階段を降りていく。
ドタドタドタ
「今度はなぁに?静かにしなさいって、何回言えば・・・」
「ねぇねぇ、お母さんはケーキ作れる?」
母親の言うことなど耳に入らない。
「ケーキ?ん〜、ケーキはちょっと出来ないわねぇ」
「そう。じゃあいいわ。手作りケーキは来年にしようっと」
ドタドタドタ
「あっ!!ふう〜」
詩織が去った後の、ほこりが舞う宙を眺めながら、溜息を吐くしかなかった。
3月13日月曜日。
「行ってきます」
沙希が家から出てくる。
先週でテストも終わり、清々しい顔で出てくるかと思いきや、いつもよりも
元気がない。
それは、先月みのりに言われたことが原因になっている。
あれは2月15日、バレンタインの翌日のことだ。
「虹野先輩」
「な、なあに?みのりちゃん」
練習が終わり、着替えて部室を出ようとしたとき、みのりが沙希を呼び止めた。
その時のみのりの目は、何かいつもと違う迫力があった。
「昨日のバレンタイン。サッカー部のみんな以外の誰かに、チョコ渡しましたか?」
「えっ?ううん。だ、誰にもあげてないわよ」
「虹野先輩、嘘つかないでください」
「え?な、なんで・・・・・」
汗が一筋流れる。
「わたし見ました。昨日3丁目の体育館で、虹野先輩とバスケ部のあの先輩が
バスケットをしているの」
「え?」
また一筋流れる。
「そこでチョコを渡しているところも。虹野先輩、あの人のことが・・・」
「あ、あれは」
両手を振って、みのりの言葉をさえぎる。
「べ、別にそういう意味じゃなくて、ただの義理っていうか、なんていうか」
この期に及んで抵抗を試みる。
「だからその、あれは、ただのお友達として」
必死に言い訳する沙希に向かって、みのりが急に大声を上げる。
「やめてください!!」
「きゃっ」
「やめてください」
今度は小さく。
「あんなにいい笑顔をした虹野先輩、初めて見ました」
「みのりちゃん」
「だから、私に・・・、嘘はつかないでください」
「ごめんなさい」
沙希はシュンとなって謝る。
「あの人のこと、好きなんですね」
「え、ええ」
今度は真剣に答える。
「告白はしたんですか?」
「ううん。まだなの」
「伝説ですか?」
「う、うん」
「そうですか」
二人の間に沈黙が流れる。
・
・
・
・
・
「あ、あの、みのりちゃん?」
沈黙に耐えきれなくなった沙希が口を開く。
「虹野先輩!」
「きゃ」
「私は虹野先輩が大好きです。だから、虹野先輩には幸せになって欲しいんです」
みのりは思いの丈をぶつける。
「・・・・・うん」
「でも本当は。本当は嫌なんです。虹野先輩が誰かとお付き合いすることで、
私との時間がなくなることが」
「みのりちゃん・・・・・。なに言ってるのよ、みのりちゃんのことが嫌いにな
るわけじゃないし、これからだって一緒の時間は過ごせるわ」
「それでも・・・・・」
本来は、みのりが沙希の恋愛事に口出しする筋合いはないのだが、それでも
大好きな沙希のことだから出したくもなる。
「みのりちゃんは、公くんのこと嫌いなの?」
「い、いえ、そんなことはないですけど・・・・・」
主人公といえば、いまやきらめき高校といわず全国でも有名人である。
運動神経抜群、性格も良し、成績だって悪くはない。悪いところなど、付き合いのない
みのりには思いつかない。
だから、沙希には似合わないなんてとても言えない。
とはいっても、このまま見過ごすわけにもいかない。
「それでも、やっぱり嫌なんです」
弱々しく呟く。
「そんなこと言っても・・・・・」
みのりの我が儘だとは分かっているのだが、可愛い後輩の思いも無下には出来ない。
「ただ」
「ただ?」
「今度の期末テストで、あの先輩が50番以内に入ることが出来たら、
もう何も言いません」
「そんな」
みのりの中で、沙希が付き合うことに対しての、何らかの踏ん切りをつけるための
条件を出す。もし50番以内に入ったら、諦めようと決めた。
「もし入らなかったら?」
「その時は、私は反対ってことです」
50番以内といえば、8割以上を取らないといけない。
2学期期末テストの公の成績は81番。8割にはちょっと届いていない。
もう少しではあるが、50番の壁は結構厚い。
しかし、沙希は公を信じることにした。
「・・・・・わかったわ」
その返事を聞いたみのりは、パッと表情を変える。
「じゃあ、この話はここまでにしましょう」
「え?」
テストまでの間、出来るだけ沙希と気まずくなるのを避けるために、
何事もなかったように振る舞う。そして、沙希の背中を押して部室を出た。
「み、みのりちゃん?」
沙希は訳が分からず、なされるがままだった。
ということが先月あった。
そして今日は、先週行われた期末テストの結果が張り出される日だ。
自分の成績はいまや頭にない。公が50番以内に入っているのを祈るばかりだ。
ガヤガヤガヤ
登校すると、職員室近くの廊下にたくさんの生徒が集まっていた。
恐る恐る掲示板に近づく沙希の後ろから、みのりが声をかける。
「虹野先輩、おはようございます」
「きゃ、みのりちゃん・・・・・、おはよう」
沙希は複雑な表情を見せる。
「もう見ましたか?」
「ううん、まだなの」
「じゃあ、一緒に見ましょう」
「え、ええ」
二人同時に、上から順に「主人公」の名前を探す。
「え〜と」
『あっ、藤崎さんだ。12番かぁ、凄いなぁ。・・・・・・え〜と、あっ、未緒ちゃん。31番かぁ』
沙希は、知った名前を見つけるたびに一喜一憂する。
それに対して、みのりはどんどん下に視線を移す。
「ありましたよ」
「ホント?」
沙希は急いで視線を下ろす。
「あった!!48番」
沙希はホッと胸を撫で下ろす。
「やりますね。あの先輩」
「うん。じゃあ、みのりちゃん」
胸に広がる喜びを抑えつつ、みのりの顔を見る。
「わかりました。約束通り、もう何も言いません。ただ」
「ただ?」
みのりは、この3週間で思ったことを口にする。
「伝説を気にしてると、後悔するかもしれませんよ」
「えっ?」
「じゃあ、部活で」
「え、ええ」
みのりは、もし自分が誰かを好きになったらどうするのか考えてみた。
そして自分だったら、伝説なんか気にしないで告白するという結論に達した。
それは自分の考えであるから、必ずしも人に押しつけるものではないのだが、
迷探偵らしからぬ直感が働いたのか、最後にそう言い残して教室へと去った。
「・・・・・やったね公くん」
みのりの言葉は気になったが、いまはこの結果を喜んだ。
「おはよう、沙希ちゃん」
「きゃっ、公くん」
一人静かに喜んでいるところに、公が声をかけた。
「テストの結果だね。俺は何番かな?」
「おはよう。公くんは48番よ」
「ホント?え〜と・・・・・あっ、ホントだ」
「凄いね、公くん」
「いや〜、ヤマが当たったから」
「ううん。部活をやりながらだもの」
首を振りながら感心する。
「それを言ったら、詩織は12番だもんなぁ。頭の出来が違うよ」
「そんなことないよ」
チリンチリン、チリンチリン
「あっ、予鈴だ。行こうか」
「そ、そうね」
他の生徒達も、各々の教室へと戻っていく。
『これで、いつも通りね』
沙希も公と並んで、自分の教室へと急いだ。
3月18日土曜日。
詩織への誕生日プレゼントを買ってきた公は、夕飯を食べ終わった今も、
どうやって渡そうか思案していた。
「もう7時過ぎたよ。どうするかなぁ〜」
受話器を持って部屋の中をうろうろしていた。
トゥルルル、トゥルルル
「おわっ!」
手に持つ受話器のコール音に驚く。
ピッ!
「もしもし、主人ですが」
「もしもし、公くん?」
「詩織か?」
「う、うん。あのね、公くん・・・・・、いま暇かなぁ」
胸をドキドキさせながら尋ねる。
「あ、ああ。特に何もないよ」
「じゃ、じゃあ、私の部屋で、お誕生日会・・・・・・しない?」
「詩織の部屋で?」
「う、うん。どうかな」
「もちろん良いよ」
いまにも走り出しそうな気持ちを抑えながら即答する。
「ホント?じゃあ、待ってるから」
「わかった。いま行くよ」
ピッ!
受話器を置いた公は、机の上からプレゼントをかっさらい、一目散に部屋を
出て階段を駆け下りる。
ドンドンドン
「母さん!詩織の家に行って来るから」
階段を降りると、そこにちょうどいた母親に告げる。
「そう。何しにって・・・・・」
バタン!!
「あら、いないわ。詩織ちゃんのことになると、ああなるのよね〜」
あの二人の関係が進展するのはいつになることか、そんなことを考えることがある。
「虹野さんとはどうなってるのかしらねぇ」
夕飯の後かたづけをするために、台所へと戻っていった。
ピンポーン
「はーーーい」
パタパタとスリッパを鳴らして、詩織が出てくる。
「いらっしゃい、公くん。どうぞ」
「うん。お邪魔しま〜す。あっ、おばさん、こんばんは」
顔を出した詩織の母親にも挨拶する。
「こんばんは、公くん。詩織のお相手、よろしくね」
「は、はい」
「お母さんは余計なこと言わなくていいの!!」
「はいはい。ふふふふ」
詩織に怒られながらも、笑いながら居間へと引っ込む。
「もうっ!!気にしないでね、公くん。いま、お茶とケーキを持って行くから、
お部屋で待っててね」
「わかった」
公が先に二階へと上がる。
カチャ
「う〜ん。やっぱり女の子の部屋って違うなぁ」
詩織の部屋は全国大会を決めたあの日以来だ。
相変わらず良い香りがする。詩織愛用のコロンの香りだろうか。
「俺の写真とか飾ってあったら、嬉しいんだけどなぁ〜」
机の上、本棚、ベットの棚と、部屋中を見回す。
「やっぱないか」
ガックリしながらも、ふと机の引き出しに目がいく。
「ここは〜って、ダメだダメだ。詩織に怒られる」
詩織の怒った顔を思い浮かべた公は、出した手を引っ込める。
実はここに写真がしまってあるのだが、鍵が掛かっているため、どちらにしろ
開きはしなかった。
「んっ?」
おとなしく座ろうとした公だが、ある文字が目に入った。
本立ての中の一冊に、「日記」という文字を見つけた。
「詩織の日記だ・・・・・・」
当然見たいという欲求がわき上がる。
「むむむ」
日記に手を掛けながら、公の動きが止まる。
このまま取り出して、詩織が来るまでチラッとでも見るか、やっぱり止めるか。
迷いに迷っていると、いきなりドアの開く音がした。
カチャ
『やばっ!』
手を引っ込めた公は、今まで生きてきた中で一番速いのではないかという
スピードをみせる。
「お待たせ〜」
お盆を持った詩織が入って来る。
「や、やあ、詩織。早かったね」
「いま、何かしてなかった?」
「えっ?いや、な〜んにもしてないけど」
「ホント〜」
なぜか正座している公を見ると、いかにも怪しい気がした。
テーブルにお盆を置きながら、部屋の中をちょっと確認する。
「あっ!!」
詩織は、本立てにある日記が少しずれているのに気が付いた。
さっき手を引っ込めたときに動いてしまったのだ。
「見〜た〜わ〜ね〜?」
日記を元に戻し、公の目を見る。
「な、なにを言ってるのかな、詩織さんてば」
「とぼけると為にならないわよ〜」
明らかに怒っている。
「い、いや、俺は日記なんか見てないぞ」
「なんで日記だって分かったのよ〜」
「あっ、しまった」
慌てて口を手で抑えるが、すでに遅い。
「公く〜ん」
「い、いや。確かに日記は見つけたけど、中は見てないぞ」
「ホントに〜」
「断じて本当だ!!」
実際見ていないのだから、自信を持って否定する。
『う〜ん。どうやらホントかな?』
公の真剣な目を見ると、嘘ではないようだ。
嘘が下手な公は、すぐ顔に出る質なのだが、いまはそんな感じはしない。
嘘を付いたときの、目を逸らす癖も出ていない。
「わかった。信じてあげる」
「ふう」
公は心底安堵の息を吐く。
怒りをおさめた詩織は、テーブルの上のケーキと紅茶を挟み、公の正面に座った。
「さっ、始めましょう」
「うん」
17本のロウソクに火を灯して、電気を消す。
その灯火に二人の顔が照らされて、闇の中に浮かび上がる。
『ふふ、いい感じ』
ほんのちょっとだけ、幻想的な雰囲気がした。
「じゃあいくよ。いっせえの〜せ」
フーーーーー
二人同時に吹き消す。
「お誕生日おめでとう、公くん」
「誕生日おめでとう、詩織」
パチパチパチパチ
「なんか恥ずかしいな」
「ふふふ、そうね」
お互い相手のことを祝っているが、自分のことでもあるため、なんだか照れくさい。
「これ、プレゼントよ」
「あっ、俺もこれ」
二人とも同じような大きさの箱を差し出す。
「じゃあ、一緒に開けましょう」
「ああ」
ガザガザ、ガザガザ
「あっ!これ」
「もしかして」
二人同士に気が付く。
包装紙をきれいに剥がした下にあったもの。それは同じものだった。
「バッシュだ」
詩織は箱の中から取り出して、自分が買ってきた公のと見比べる。
二人はポジションが違うからタイプこそ違えど、確かにリーボ○クのバッシュだった。
「ははは」
「ふふふ。お揃いだね」
お互い話したわけでもないのに、同じものをプレゼントした偶然が嬉しかった。
「じゃあ、ケーキ食べましょうよ」
「そうだな」
苺がたっぷりのバースディケーキを切り分ける。
「甘い物を食べるときの詩織って、ホント幸せそうだよな」
ニコニコしながらパクつく詩織の顔を見て、そんな感想を漏らす。
「そうかしら?女の子はみんなそうよ」
「そんなもんかね」
「はい公くん。あ〜んして」
「し、詩織?」
自分のケーキをフォークに取り、公に差し出す。
『やっぱり同じだ』
そんな詩織を見たら、バレンタインの時の沙希のことを思い出した。
「公くんたらっ、あ〜ん」
なにやら思い出している公を見てせかす。
「はいはい。あ〜ん」
恥ずかしいが、さっきの一件もあるし、拗ねられると面倒なので仕方なく?
口を開く。
パクッ
「ふふふ。おいしい?」
「ああ」
「じゃあ、じゃあ、私にも。はい、あ〜ん」
今度は詩織が口を開く。
『うわっ、そうくるか』
どうやら詩織の方が、沙希よりも一枚上手のようだ。
「はやく〜」
「わかった、わかった」
公も切り分けて、詩織の小さな口へと持っていく。
「ほら」
「あ〜ん」
パクッ
「美味しい。ふふふ、間接キスだね」
「し、しおり〜」
顔を赤くしながらもそれに満足した詩織は、あとは大人しく自分のを食べてくれた。
なんでもない会話の中で、ふと詩織が思い出した。
「そういえば公くん、ホワイトデーのお返し大変だったでしょう」
「いや、そうでもないよ」
カチャ
紅茶のカップを下ろしながら答える。
「そうなの?あんなに貰ったのに?」
「お返ししたのは数人だけだから」
「へ〜、そうなんだ」
いぶかしげな顔で公を見る。
バレンタインの翌日に謝った公は、もちろん詩織にお返しを渡した。
あとは、沙希と麗奈と優美の三人。けっきょく去年と同じようなものだった。
「そ、それは良いとして」
これ以上突っ込まれるのを避けるために話題を変える。
「し、詩織、あれは何?」
タンスの上にある箱を指差す。
「えっ?ああ、あれは小物入れよ」
指差した方を見ると、スッと立ってそれを取ってくる。
そして、蓋を開けて中から指輪を取り出す。
「ねぇ、公くん。これ・・・覚えてる?」
詩織の指には、小さな指輪が摘まれていた。
明らかにおもちゃとわかる、小さな指輪が。
「えっ?え〜と、ごめん。なんだっけ」
「もうっ!忘れちゃったの?」
「ごめん、詩織」
申し訳なさそうに頭を下げる。
「んっもう!これはね、幼稚園の頃、公くんが私にプレゼントしてくれた物よ」
「俺が?う〜ん」
しばらく腕を組んで考え込む。
「う〜ん。あっ!!夏祭りの縁日でだ」
「そうよ。思い出した?」
にっこり微笑む。
「うんうん、そんなこともあったな。それにしても物持ち良いな、詩織」
「ふふふ、これは私の宝物だから」
「そ、そうか?」
「うん」
詩織は、指輪に明かりを反射させながら見つめる。
「じゃあ、その時、私に何て言ったか覚えてる?」
「う〜ん。そこまでは覚えてないなぁ。俺、何て言った?」
『もうっ!一番大事なところなのに』
拗ねた詩織は、そう小さく呟く。
「えっ?いまなんて言ったの?」
公は、耳に手をやり聞き返す。
「おしえてあげないって、言ったの!」
「なんだよ〜。そう言われると気になるなぁ」
「教えな〜い」
「詩織〜」
「ダ〜メ」
小さな舌をペロッと出す。
![]()
あれは、両親に連れられて縁日に行ったときのこと。
親とはぐれた公と詩織は、二人で夜店を見て回っていた。
「しおり、これほしいなぁ」
ちっちゃい詩織は、ちっちゃい詩織の指にはピッタリの、おもちゃの
指輪を手に取って、裸電球にかざしてみた。
「きれーい。でも、おかねそんなにないからなぁ」
元の場所に指輪を戻す詩織を見て、ちっちゃい公は、母親からもらっ
てきたお小遣いを、ポケットの中をガサゴソと探って取り出す。
チャリン
それは、綿あめやリンゴ飴を買ったり、金魚すくいをやるための
なけなしのお小遣いだった。
それでも、どれかを我慢すればその指輪が買える。
ちっちゃい公は、指輪とお金を交互に見て、一大決心をする。
「ぼくがかってあげるよ、しおりちゃん」
「ほんと?」
「うん。おじちゃん、これちょうだい」
詩織が戻した指輪を取り、屋台のおやじにお金を渡す。
「はい。毎度あり」
「はい、しおりちゃん」
公は詩織の手を取って、左手の薬指にはめる。
「ありがとう、こうちゃん」
指輪が光る左手を眺めながら、公に礼を言う。
「おっきくなったら、ぼくのおよめさんになってね」
「こうちゃん・・・・・。それって・・・、プロポーズ?」
キョトンとした目で、公の顔を見る。
「うん。でも、まえにおかあさんにきいたら、ほんとのプロポーズは18
さいにならないとできないっていってたから、それまでまっててね」
「うん、わかった。しおり、まってるからね。やくそくだよ」
「うん。やくそく」
ちっちゃい二人は小指を絡ませた。
『わたし、今でも待ってるんだからね』
困っている公を見ながら、昔のことを思い出していた。
つづく
あとがき
とうとう出ましたね、指輪の思い出が。
これは最後にまた出てきます。
バッシュについて。
バスケ経験者の読者様は気が付いていたと思いますが、
バッシュを買うときは、サイズの他に、
やはり自分で履いてみて幅などがピッタリの物を買わないと
危ないそうです。
しかし、今回はあえて無視しました。
ショッピングのデートで、一緒に買いに行くならともかく、
プレゼントし合う場合はそうもいきませんので、
ご容赦下さい。
いよいよ次回からは3年生編となり、
今までとは違う雰囲気が繰り広げられます。
書いている内に、作者自身も考えてなかった
展開になったらどうしようかと、ドキドキしています。
自分で納得がいく文章にするために、
今までよりも時間が掛かるかも知れません。
週一の更新は難しいかもしれないので、気長にお待ち下さい。
それでは、これからもよろしくお願いします。
完結まであと3分の1だーーー。