「My wish・・・」
第38話 「能城カップ」
第37話 目次へ戻る 第39話
G.Wに突入した5月3日。
日本中が旅行やピクニック、ショッピング等のレジャーを楽しんでいるとき、
きらめき高校男子バスケ部は、能城カップに出場するための移動の最中にあった。
「それにしてもコーチ、よく貸してくれましたね。あの伊集院が」
コーチと部員総勢31名を乗せた飛行機が、能城空港へと向けて空の旅をしていた。
「そうだな。去年の練習試合といい、何かと待遇良いんだ」
首を傾げながらコーチが答える。
「誰か伊集院に貸しでもある奴がいるんじゃないのか?」
「そんなのあるわけないだろ」
公の言葉に、木本が突っ込む。
勿論この主人公のお陰なのだが。
ここは伊集院家の自家用ジェット機の中、しかもレイ個人の所有物だ。
「それにしても、伊集院家っていうのは、つくづくスケールが違うよな」
「ああ。この席も、そこいらの航空機のファーストクラスよりも立派なんだと」
公は後ろの方を向いて、苦々しく言う。
なんと、こことは別のVIP席には、レイが乗っているのだ。
飛行場での見送りの時に、女子バスケ部員の他に伊集院も来ていた。
その時に散々自慢話をされた上に、自分も一緒に行くと聞かされたときは、
一瞬目の前が暗くなったほどだ。
『ゴールデンウィークは、毎年フィジーの別荘に行くのだが、今年は君たちを
冷やかしに行こうと思ってね』
などと言われた。
「伊集院も物好きだな」
「まったく、変な奴だ」
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クシュン
「レイ様。お風邪ですか?」
「いえ、大丈夫よ」
側近しかいないので、本当の声で答える。
『たぶん、あの人が男のレイの悪口を言っているのだわ』
公のことは、何でもお見通しのレイであった。
『ふふふ。まあ、藤崎さんには悪いけれど、これくらいの役得があってもいいわよね』
見ることは出来ない、詩織の悔しそうな顔を思い浮かべて微笑む。
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「それにしても、女子もこれたら良かったのにな」
木本が、さも残念そうに呟く。
「しょうがないさ。女子だって練習があるんだから」
「そうなんだけどよ」
女子も全国常連の強豪チーム、G.Wに休むわけもなく、夏休みと同じ学校の
合宿所を利用している。
「さっ、みんなもうすぐだぞ。降りる準備をするんだ」
「はい」
到着のアナウンスを聞いたコーチが、みんなを促す。
空港に着いた一行は、そこからバスで会場まで移動する。
ちなみに、レイはもちろん、バスの後ろをついてきているロールスロイスに乗っている。
能城市、ここは全国にその名を轟かせる能城工業バスケ部を生んだ街であり、
「バスケの街、能城」として有名である。
移動中のバスの中、そんな能城の街の風景が目に入ってきた。
街の公園には、必ずバスケのゴールがあり、商店街のお菓子屋さんでは、
「バスケの街」というボール型の丸いお菓子まで売っている。挙げ句の果ては、
地酒にも「バスケの街」というのがあるそうだ。
「あっ、先輩。あそこ」
石崎が指差した先にはガソリンスタンドがあり、バスケをしている大きな絵が
飾ってあった。
「ほんと、バスケでいっぱいだな」
「ああ。街全体で盛り上げようって気持ちが伝わってくるよ」
公の言葉は、バスケ部員全員が感じていた。
「ここまでされちゃあ、能城の奴らも大変だな」
「それをプレッシャーと思うか、やる気に変えるかだな」
こんな環境で練習をしている能城工業というチーム。目では何度か見たが、
実際に試合をしたら一体どんなものなのだろうか。そんなことを思う公だった。
会場に着くと、すでに中に入ろうという観客が並んでいた。
ほとんどが能城を見に来た地元の人達だろう。
中には県外から来た熱心なファンもいるみたいだ。
外のテントには、記念Tシャツやタオル、ドリンクボトル等が販売されていて、
その盛況ぶりに圧倒されるばかりだった。
まずは開会式の前に、出場校の選手達が顔見せとして会議室に集まった。
出場校は全部で6チーム。
まずはもちろん能城工業高校。
そして、羽田中央高校、古林高校、千台高校、新形工業、最後にきらめき高校。
去年のウィンターカップで上位に進出した高校が勢揃いした。
「よろしく。木本と主人だったよな」
能城のキャプテン田辺が握手を求めてきた。
「俺達を知ってるのか?」
「もちろん。去年のウィンターカップで見たからな。なかなか面白いバスケをする
奴らだなって、みんなで見てたんだ」
後ろに控える若槻と菊池の方を見る。
この三人は、能城で1年の頃からレギュラーとして活躍してきたトリオだ。
「そうなのか?」
「俺達も有名になったもんだな」
公と木本は顔を見合わせてから、それぞれと握手をした。
「楽しみにしてるぜ」
「おう」
更に、1試合目を戦う羽田中央のメンバーも来た。
「よう、久しぶり」
羽田のガードで、3年生の永瀬が木本に挨拶する。
2月の新人戦では、この永瀬と隣にいる2年生エース柚木(ゆうき)にやられた。
「こんどは負けないぜ」
「ふふふ、返り討ちにしてやる」
他の3校とも握手を交わした後、開会式が行われる体育館へと足を向けた。
開会式が滞りなく終わると、まずは地元中学生の交流試合が行われた。
その間に移動の疲れをとり、午後から1回戦が行われる。
3日間で計5試合をこなすため、1日2試合の日が2日ある。
きらめきは1日目に羽田と千台、2日目に古林と新形、そして最終日に能城と
対戦する。
軽い昼食を取ったきらめきバスケ部は、羽田戦を前にウォーミングアップをする
ためコートへと入った。
「きら高がんばれーーー」
「きゃーーー、主人さ〜ん」
「木本くーーーん」
すると、観客席からきらめきの声援が聞こえてきた。
「おおっ!俺達も捨てたもんじゃないな」
表情を緩ませ、声援に手を振って応える木本。
「ははは。それより、今度こそ羽田に勝とうぜ」
「ん。そうだな」
公の言葉に、一転真面目な表情になった木本が頷く。
羽田には、全国的に見てもトップランクのコンビがいる。
さっき挨拶をした、ガードの永瀬とフォワード柚木のコンビだ。
中でも柚木のフックシュートが強力で、ディフェンスのシュートブロックを
軽くかわして決めてくる。
これで新人戦はやられたのだ。
しかし、実に4回目の対戦となるのだから、負けるわけにはいかない相手だ。
「竹原と石崎も、あれからレベルアップしたし。大丈夫さ」
「ああ。成田に勝てないようじゃ、能城に勝てるわけもないしな」
木本は目を丸くして、公の顔を見る。
「・・・公。お前、そこまで考えてたのか?」
「当たり前だ。目標は全国制覇なんだからな」
「そ、そうか」
「もちろん」
そう言いながら、公はグルッと会場を見渡す。
どこかで見ているレイに馬鹿にされないためにも、絶対勝つと意気込む。
そんな公の横顔を見ながら、木本は驚いていた。
公からそんな言葉が出るとは。
『俺と同じ事を考えていたのか。それでこそ俺の相棒だ。よしっ!!』
頼もしい公を見ながら、気合いを入れ直す木本だった。
「あの人の人気は凄いわね。こんな所にもファンがいるなんて。あらっ?」
観客席を見渡している公に気が付く。
「ふふふ、私を捜しているのね。でも無理よ、いまはこんな格好だし」
自分の服装を見て微笑む。
レイは男装を解いていた。
赤色のワンピースに麦わら帽子を被っている。
「ふふふ。まさか麗奈がここにいるとは思わないでしょうね」
帽子を深くかぶり直しながら、公を見つめていた。
ピッ!
ボールがトスされ、両センターがジャンプする。
3年になってからの初試合が始まった。
「木本さん」
「よしっ」
石崎がはたいたボールが木本に渡る。
十八番のファーストブレイクだ。
「ナイスパス、木本」
公にパスが通る。
流れるような連携プレーで、まずはきらめきが先制するかと思いきや、
羽田の戻りが速く、公の速攻が止められる。
「さすが、やるな」
それでも、それを抜きにかかる。
素早い動きで横を抜けてドライブインするが、さらにもう1人永瀬が出てくる。
「これならどうだ」
公は突っ込むのを止めて、フェイドアウェイシュートにいく。
バシッ!
「なに?」
かわしたはずの選手が、後ろからブロックにくる。
ピピーーー
「ファール。プッシング、白5番」
公の手を弾いたためにファールを取られる。
これで2スローだ。
「よしっ!!」
前半はこのような展開が多く見られることになるのだが、これが羽田の作戦だ
と知るのは、もう少し後になってからとなる。
前半も残り20秒で22対39。
羽田は伝統の1−3−1ゾーンディフェンス。
きらめきは1−2−2の速攻重視のゾーンを敷いた。
早い展開の点の取り合いに持ち込もうとしたのだ。
しかし、鉄壁の守りを誇る羽田のゾーンとスティール、そしてファール覚悟で
公をマークされ、思うように点が取れないままだった。
公がフリースローを得るものの、そのたびに試合が止まるため、きらめきは
流れが掴めなかった。
主導権を握った羽田は、柚木のシュートを中心に畳みかけてくる。
「9番入った」
「フックくるぞーーー、石崎」
「はい」
石崎に対して半身の体勢で柚木がジャンプする。
そして、伸ばされた左腕の先のボールが、下から弧を描いて頭上へと
振り上げられる。
同時に身体をゴール方向へとひねり、ボールが放られると、石崎の手を軽く
越えてリングへと吸い込まれる。
「くっそーーー、ダメだ」
「ナイシュー」
結局、前半は一度も止めることが出来なかった。
ビビーーー
前半が終了する。
「竹原と石崎、ファール3つだぞ」
「すみません、コーチ」
「すみません」
羽田のエース柚木をマークすることが多い石崎と竹原は、強力なオフェンスに
手こずっていた。
「ファールが多くなると、身体が縮んでしまうから気を付けろ」
「「はい」」
「ん?」
そう言ったコーチが、何かを思いついたようだ。
前半の羽田ペースの流れを断ち切るために、まずはあのオフェンスを何とか
しないといけないが、この二人ではまだかなわないからファールになってしまう。
それならば。
「よし、ディフェンスを変えるぞ。向こうの永瀬〜柚木のラインを断ち切るために、
トライアングル・ツーにする」
「トライアングル・ツー?」
「そうだ。柚木に主人、4番に木本がつく。それで攻撃の芽をつみ取り、
あわよくばファールも誘う」
ファールが重なれば、思い切ったディフェンスも出来なくなると踏んだのだ。
トライアングル・ツーとは、相手側に特に優れた選手が2人いる場合に使われ
るゾーンディフェンスだ。その2人にマンマークを1人つけ、残りの3人でゴール下の
ゾーンを形成する。
今の場合、公と木本で、永瀬と柚木のプレーを抑え込もうというのだ。
「待ってくださいコーチ」
「なんだ竹原」
「公と柚木の身長差、分かってるんですか?20cmはあるんですよ。完全な
ミスマッチじゃないですか」
後ろでは、同じく柚木をマークしていた石崎が何かを考えている。
「竹原、前半で分かったはずだろ、あのフックの威力は」
「そ、そうだけど」
「俺は、主人の身体能力に賭けてみようと思う。どうだ主人」
そのやり取りを黙って聞いていた公を見る。
「はいっ。なんとかやってみます」
「で、でも。じゃあ攻撃はどうするんですか?」
「それは、俺達で何とかするしかないだろ」
まだコーチに食い下がる竹原に、木本が口を挟む。
ガタッ!
「木本!でも、公がディフェンスに専念したら・・・・・」
「竹原さん」
木本に詰め寄る竹原の肩を、石崎が掴む。
「石崎!お前はどうなんだ。やっぱり、公の攻撃がなくちゃ・・・」
「俺も最初は、常識的に考えたらあり得ないと思いましたが、公さんならやって
くれると思います。いままでだってそうだったじゃないですか」
「石崎・・・・・・・・。わかった」
いままで何度かあった、きらめきのピンチを救ってきた公の活躍を思い出す。
「決まったな。またお前に負担がかかるけど、頼むぞ公」
「わかった。チームのためなら何だってやるさ」
「よしっ!みんな行くぞ」
「よっしゃーーー!」
木本の掛け声とともに、控え室に気勢が響く。
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「あっ、出てきたわ」
前半は公の活躍を見ることが出来なかった。
もしかして、公がやる気を無くしているんじゃないかと心配していたのだが。
「大丈夫みたいね。後半も頑張って、公さん」
麗奈は祈るように両手を組んだ。
ピッ!
後半20分が開始される。
木本がボールを奪うが、ゴール前では前半手こずったゾーンディフェンスが
待っている。
『中で押してみるか』
ゴール下の石崎にパスする。
ドンドンドン
ボールをキープしながら、シュートかアウトに戻すかを選択する。
キュキュキュキュ
「くっ」
全国屈指のディフェンスのプレッシャーに、前半は抑え込まれた。
それでも、末賀の橋本を超えるセンターになるために、このままでは終わらせない。
ちょっと強引にシュートする。
バンッ
「あっ!」
しかし、ドンピシャのタイミングでブロックされる。
「すみません」
「気にするな!ディフェンスだ」
「はい」
戻りながら謝る石崎に、公が声をかける。
「トライアングル・ツーだ」
変わったきらめきのディフェンスを見て、この試合を見つめる能城の田辺が呟く。
「お前の予想が当たったな」
「ああ」
田辺は、この時点できらめきが羽田に勝つためにはどうすればいいか考えていた。
それには、永瀬と柚木のプレーを封じ込めることが必要だと思った。
そして、見事予想通りの展開になった。
『これで流れが変わるかは、木本と主人にかかってるな』
腕組みをして、二人の動きに注目する。
マンマークについた木本が、永瀬と対峙する。
相手の動きに反応できるように体勢を整え、更には思考さえも読もうと集中する。
「止められてたまるかよ」
「くっ!」
なんとか反応した手の、数センチ先をボールがすり抜けていく。
「はっ!!」
「なに?」
柚木をマークしていた公が、捨て身のジャンプでそのボールをカットする。
ダダンッ!
倒れ込みながらも、木本にパスする。
「木本、速攻行ける」
「よしっ!」
公以外の4人が羽田陣営に突っ込む。
『19点差か、ここは3点が必要だな』
「菊川」
3ポイントシューター菊川にパスを出す。
「ダメだ木本」
後ろから叫ぶ公だったが、もう遅かった。
ボールは菊川に渡ることなく、カットされてしまう。
「ナイスカット」
すぐに永瀬にボールが渡る。
「すまん」
「ドンマイ木本。この攻撃も防ぐぞ」
「おう」
再びマンマークにつく公と木本。
「今度は、そう簡単にパスは入れされねーぞ」
「言ってろ」
それでも、木本のマークを外してパスが通る。
「くっ!!公、頼む」
「おうっ」
ボールを持った柚木が、公を背にしてキープする。
『どっちだ?』
フックシュートをするためには、左右どちらかに身体を半回転してくるはずだ。
ババッ!
素早く左に回転する。
『左か?いや』
柚木の左足に力が入る。
ギュッ!
更に速い回転で、背中に公を残して逆にジャンプする。
「くうっ!」
一瞬遅く、それでも最大の脚力を使って追撃する。
『打たせたら終わりだ、その前に』
シュート体勢に入った左腕へと、思いっきり手を伸ばす。
『奪う!!』
バシッ!
「うしろ?」
「ナイスカーーーッ、公」
「9番のフックをつぶしたーーーーー。ミスマッチなんて関係ないよ」
観客からも歓声が上がる。
『す、すげーーー。俺が一度も止められなかったフックを、ホントに止めやがった』
『さすが公さん』
竹原と石崎は、改めて公の能力の高さを実感した。
「いくぞ羽田」
公がドリブルで突っ込む。
「いかせるか」
またもやファール覚悟の手が伸びてくる。
ビシッ!
「くそっ!」
「またカットだーーー。両方ともシュートまでいかないよーーー」
凄まじいディフェンス合戦に、会場のボルテージもヒートアップする。
「何度でも行くぞ」
「はい」
再び柚木にボールが入る。
「今度こそ決める」
密着マークしている公の身体から、ステップバックして素早く離れる。
『くっ、速い!届け』
それでも、目一杯身体を伸ばしてジャンプする。
チッ!
微かに触った公の指先が、ボールの軌道を変える。
ガンッ
「リバンド。取れよーーー」
「おうっ、ボックスアウトだ!!石崎」
「はいっ」
石崎と竹原が身体を張って、羽田のセンターをゴール下に入れないようにしてから
ジャンプする。
「よしっ!」
「おらっ」
しかし、ボールを取った石崎が着地すると同時に、下からすくい上げられる。
「あっ!」
再度永瀬にボールが戻る。
「気を抜くな石崎」
「は、はいっ」
柚木をマークしながら、公が石崎に渇を入れる。
ダンッダンッダンッ
『くそ。主人の奴は他とは違う。有名なだけあるぜ』
永瀬は公の高い能力に、改めて感嘆する。
以前試合をやったときにも感じたが、ここまでやられるとは思わなかった。
『最初は、なんてミスマッチなんだと思ったが、これだったんだな。どうする』
今までとはうって変わって、柚木のシュートが決まらない状態に、初めて焦り
が出る。
『主人以外はそれ程でもないはず。パスじゃなく、俺があいつを抜いていけば・・・、
やってみるか』
自分を待ち受ける木本を見て突っ込む。
「お前に俺は止められない」
『来た!!ん?なんか、勢いがつきすぎじゃないか。それなら』
この時木本は、後ろに公がいることが分かっていた。
永瀬が目の前に来たとき、サッと身をかわす。
「?」
瞬時に目標がいなくなったことで、思わず木本に目線がいってしまう。
「しまった」
そして、突然目の前に迫ってきた公に気付いたときにはすでに遅く、体当たりを
してしまう。
ドンッ!ズダーーーン!
「ファール、白4番チャージング」
「よしっ!ナイスディフェンス、公」
倒れた公の手を取る。
「狙っただろ、木本」
立ち上がり、木本の腕を肘で小突く。
「ここで点をやったら、流れが向こうに行く。もちこたえるぞ」
「おおーーーーー」
ゾーンを組みながら気合いを入れる。
『くっそーーー、はめやがって。お返ししてやるぜ』
頭に血が上った永瀬が、木本を待ちかまえる。
それを待っていたかのように、今度は木本が永瀬を抜きにかかる。
「そんなんで抜けるかよ」
『もう1本取ってやる』
前半は1度も抜くことが出来なかったが、ここで決めるためにも、体中のバネを
総動員する。
「取ってみろーーー」
「!?低いっ」
永瀬の手が届かないように、今までにない低い姿勢で横を抜きに行く。
「くっそおぁぁぁ」
木本の挑発に乗った永瀬が、無理矢理手を伸ばしてくる。
しかし、それに身体がついていかず、体勢が崩れる。
崩れた身体は制御が効かなくなり、木本とぶつかってしまう。
ダダーーーン!
ピピーーー!
「ファール、白4番、プッシング」
「しゃーーー!」
「なに?審判!!な、なんで・・・」
「やめてください、永瀬さん」
審判に詰め寄ろうとする永瀬を、柚木が止めにはいる。
「やったな、木本」
竹原が木本の手を取る。
「やつら、相当苛立ってるぞ」
「ああ、永瀬が焦って攻めてくれば、こっちのもんだ」
永瀬が木本を睨んでいる。
「よし、ここからだ。点取るぞ」
「おう!」
それからの展開は、完全にきらめきが主導権を握った。
ディフェンスでは、永瀬を木本が封じ込めることに成功した。
永瀬が焦ると、羽田の他の選手にもそれが波及し、特に柚木に影響が出始めた。
先程から連続で公に抑えられていたこともあり、冷静さを失った攻撃は、竹原
と石崎にも止められるものとなった。
「入れよ!」
「おりゃーーー」
バシッ!!
石崎のブロックショットが決まる。
「ナイスブロック」
そしてオフェンスでは、更にファールを重ねた永瀬のチェックが甘くなったこともあり、
木本のパスも通るようになった。
菊川が3ポイントを決める。
「ナイシューーー」
公以外の3人を使った攻撃も決まるようになり、どんどんと点差を縮めていく。
「このままいかせるかーーー」
今度は、永瀬のマークを外した木本が、そのままシュートに持ち込む。
「くそっ」
気持ちとは裏腹に、ファールが4つとなっていたため、無理なディフェンスが
出来ず足が止まってしまう。
背中に木本を感じながら、自分の不甲斐なさに肩を落とす。
それを見ていた公が、何かを感じ取った。
「ナイシューーー」
木本のシュートが決まり、永瀬がボールを持ったとき、そこに公が突っ込んだ。
「そこだーーー」
「なに?」
すぐに気持ちが切り替わってはいなかった永瀬に手を出し、ボールをかっさらう。
そして、そのままゴールへと走る。
「もらったーーー」
今までのうっぷんを晴らすように、ダンクにいく。
「このやろう」
「いけない」
初めての屈辱に怒りが頂点に達した永瀬は、ファールのことなど忘れて、
後ろから公に襲いかかる。
ガコンッ!!
ワンテンポ遅れてジャンプした身体は、シュート中の公にぶつかってしまう。
ピピーーー!
「バスケットカウント、白4番、プッシングーーー」
「しまった」
「ただ今のファールにより、羽田高校4番は5ファールで退場となります」
女性アナウンスの声が体育館に流れる。
「よっしゃーーー」
これで、この試合はきらめきがもらったようなものだ。
「くっそーーーー」
永瀬の叫び声が、コートに響く。
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「やったわ!!さすが公さん」
公のディフェンスとダンクに興奮したレイが、手にハンカチを握り応援する。
「あの人がいなくなれば、公さんの独壇場ね」
イスに座り込んだ永瀬を見る。
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それからはレイの言葉通り、これまでの接戦が嘘のように、きらめきの
ワンサイドゲームになった。
永瀬がいなくなった羽田は、攻撃、防御ともにちぐはぐなプレーが続出し、
柚木のシュートは単発でしか入らなくなっていた。
それに対して、今までなりを潜めていた公のシュートがことごとく決まりだした。
ビビーーーーー!
「勝ったぁーーー」
終わってみれば80対58の圧勝だった。
去年のウィンターカップと新人戦で敗れた羽田から、初勝利をもぎ取った。
「やったな、木本」
「おう」
公と木本がハイタッチをして喜ぶ。
これで、対戦成績を1勝3敗にした。
「木本さん、主人さん」
そこに、柚木が近付いてきた。永瀬はパイプイスに座り込んでいる。
「次は、次は負けませんよ」
「返り討ちにしてやるさ」
木本が、試合前の言葉をそっくり返してやる。
「じゃあ、また」
悔しそうな表情を浮かべた柚木が、永瀬の下へと戻っていった。
「次は、今日の作戦は通じないな」
「ああ。もっとレベルアップしないと」
二人は気持ちを新たにする。
やっと1試合を消化したきらめきは、この後の千台戦を落としてしまう。
羽田戦の疲れもあったが、それよりも千台の3ポイントの乱打に苦しめられ、
完敗してしまう。
そして2日目も、古林戦は接戦を何とかものにしたが、新形戦では190cm
台が3人いる高さにやられてしまう。
これで通算成績2勝2敗となり、3日目の能城戦を迎えることとなった。
「遂に、この日が来た」
大会最終日、いよいよ全国を何度も制覇している、王者能城との対戦する時が来た。
敵側のコートでは、能城の選手がウォームアップをしている。
「やあやあ、主人くん」
「な、なんだ伊集院。また嫌味を言いに来たのか?」
言いしれぬ緊張感に包まれているとき、レイが下に降りてきた。
『そんなこと言わないで』
心の内ではそう思いながらも、男装のレイではそんなことは言えない。
「ははは、嫌味だなんてとんでも無い。ここまで2勝2敗、これだけの強豪チームが
揃う中、健闘しているじゃないか」
「そ、そうか?」
「ああ。それにしても、1日目2日目と第一試合は勝っているが、第2試合は
負けているじゃないか。持久力がないんじゃないのかね。君たちは」
「くくっ」
「でも、今日はこの1試合だけだねぇ」
要するに、もし負けても、疲れていたからという言い訳は出来ないと言っているのだ。
「それが嫌味だって言うんだよ!!」
それを聞いた公は、握り拳を作る。
「それじゃあ、せいぜい頑張ってくれたまえ。はははははははは」
『ごめんなさい。こんな風にしか言えなくいて。頑張ってください。公さん』
高笑いをしながら立ち去るが、本心では心から頑張ってと願っていた。
「ったくよ」
そんなレイの胸の内など分からない公は、ただ悪態をつくしかなかった。
しかし、そんなレイの祈りも、能城の実力の前には効果がなかった。
エースキラー菊池の前に、公は本来の力の半分も出せなかった。
菊池は、永瀬のように心理面にプレッシャーをかけてもまったく動じず、公は
実力で負けてしまったのだ。
それにより木本が焦ってしまい、羽田戦とは立場が逆転してしまう形になった。
そして、それとは対照的に、能城のガード田辺のパスが面白いように通った。
ビーーー!
試合終了のブザーが鳴る。
得点は51対87。36点差の完敗だ。
「だ、ダメだ。何もかもむこうが上だ」
「はあ、はあ。くそっ」
木本の言葉に、力つきた公は何も言い返すことが出来なかった。
そんな二人に、田辺が話しかけてきた。
「きらめきの力はこんなものか?インターハイで待ってるから、もっとレベルアップしてこい」
「ああ。絶対お前らに勝ってやる」
「ふふ、期待してぜ」
気力を振り絞って答える公だったが、不敵な笑みを浮かべて田辺が戻っていく。
ドン、ドン!
「くそっ、くそっ!」
自分の力不足に、床を叩きつける。
能城工業という新たな目標が出来た公は、この悔しさを胸に、更なるレベルアップを
目指すことになる。
「公さん」
そんな悔しがる公を見て、レイは自分を呪った。
自分から恋人になることを諦めたことに。
いますぐ麗奈としてでも良いから、公の元に行きたい。
そして慰めてやりたい。
いや、公なら慰めなんて嫌がるかもしれない。
それならば、せめて側にいたい。
しかしレイには、この苦しい想いを、胸に手をやりギュッと我慢するしかなかった。
つづく
あとがき
2000年になって、最初の「My wish・・・」
いかがでしたか?
今回は、詩織ちゃん、沙希ちゃんのダブルヒロインには
休んでもらいました。
レイちゃんファンのには満足してもらえたかな。
なんか、今までにない緊迫したバスケシーンでしたが、
この展開に見覚えがある方もいると思います。
某バスケマンガのパクりです。
バスケシーンを自分で全部考えるなんて、不可能です。
笑って見逃してください。
次は、いきなりインターハイ予選に突入します。
で、もし橋本くんファンがいたらすみません。
今回の予選は女子の方にスポットを当てたいので、
男子の末賀戦は実現しないかもしれません。
「一度に2試合なんて書いてられないよ」
というのが本音なんですよ。ハハハハハハ。
それでは、今年もよろしくお願いします。