「My wish・・・」
第39話 「せつない思い、とまどう気持ち」
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季節は春を通り過ぎ、梅雨となろうとしていた。
この憂鬱な時期が終われば夏がやってくる。
能城カップから帰ってくると、すぐに地区予選が行われた。
それに男女とも優勝したきらめきは、明日から始まる県大会に挑む。
明日の県予選へ向けて軽い練習を終えた女子部員は、片づけの1年とマネージャー
の恵を除いて、部室で着替えていた。
外は雨が降っていて、部室の中にいると体にジメジメした感触がまとわりつく。
「あ〜もう、やだやだ」
着替え終わった奈津江が、部室の窓をガラリと開ける。
「きゃ!!やだ奈津江ちゃん。まだ開けないで!!」
「閉めてーーー、鞠川せんぱい」
着替え中の詩織が悲鳴を上げると、他の部員からも抗議の声が上がった。
「ああ、ごめんごめん」
そう言いながら、窓の外に顔を出して外を伺う。
「大丈夫大丈夫、誰も覗いてないわよ」
「そういう問題じゃないでしょ!!早く閉めて」
「ごめ〜ん」
ガラガラ
やっと窓を閉めた奈津江は、椅子に背もたれを前に座って、ギッタンバッタン
と前後に揺する。
「もうっ」
「そうそう、今回の末賀は相当凄いらしいよ、詩織」
「なにが?」
スカートのホックを止めながら答える。
「地区予選じゃあ、全試合で相手の得点を40点以下に抑えて、点は倍取ってダブル
スコアにしてるのよ」
「そうね」
それは詩織も新聞で見た。
「新人戦で負けたのがよっぽど効いたのね。ディフェンスがかなりアップしたみたい」
「ふ〜ん」
胸の前でリボンを結びながら、何とはなしに答える。
「ふ〜んて、気にならないの?」
「う〜ん。それって地区予選でしょ?県大会とはレベルが違うわよ」
「まあ、そうなんだけど」
最後にヘアバンドを付けていると、片づけ終わった恵が入ってきた。
「恵ちゃん、終わったの?」
「うん。ちょっと待っててね。いま着替えるから」
「ええ」
恵が着替え終わるのを待って、三人は部室を出た。
今日も夜の公園には、自主トレをする公と、それを手伝う沙希の姿があった。
「はあ、はあ」
公は我を忘れてシュート練習を続ける。
ザシュ!
当に300本は越えているのに、その手は止まらない。
「公くん、オーバーワークだよ。もうやめましょう」
シュート体勢をとる公の肩を後ろから掴み、強引に腕を下ろす。
ドン、ドン
手からこぼれたボールの音が、静寂の公園に響く。
「はあ、はあ」
公が振り向くと、激しく乱れている息が沙希の顔にも届く。
「ねっ?」
「沙希ちゃん。・・・・・うん」
ここ最近は、放っておくと明日の朝まで続けそうなほど没頭してしまう。
こうやって止めにはいるのは、これで何回目だろうか。
「はあ、はあ」
地面にへたり込んだ公は、息を整え、少しずつ冷静さを取り戻していく。
「大丈夫?公くん」
公の側にしゃがみ込み、タオルで汗を拭いてあげる。
「ありがとう、沙希ちゃん」
「ううん。それよりも、明日から県大会なんだし、ちゃんと調整しないと」
「う、うん。分かってはいるんだけど。練習中に能城の事を思い出すと、止まらなく
なるんだ」
『あっ、またこの目だわ』
この事を話すとき、公の目つきは変わる。
能城カップから帰ってきた後、能城のことを話してくれた時の目を思い出す。
「能城のこと?」
「うん。田辺の顔が頭に浮かんできて、『そんなものか』って、呟くんだ」
全国ナンバーワンの壁を目の当たりにし、見事に跳ね返された悔しさ。
このままでは、いつまでたっても勝てないんじゃないかという焦り。
いろんな思いを話してくれた。
詩織にも話すことのない本音だ。
それは沙希にとって嬉しいことだったが、今やっていること以外にはなんの
手助けも出来ない自分に、もどかしさも感じていた。
「ごめんなさい」
「えっ、なにが?」
突然の言葉にポカンとなる。
「私が出来るのは、簡単な補助とお弁当を作ること、そして応援することだけ。
一緒にバスケットは出来ないし、上手になる方法もわからない。あっ!」
公は、沙希の頭にボンッと手をのせる。
「それで十分だよ」
髪を撫でながら、優しい目で沙希を見つめる。
「ホント?」
「ああ、ホント」
「よかった」
公の肩に頭を寄せる。
「大丈夫、こんなに頑張ってるんだもん。きっと勝てる日が来るよ」
「うん」
『沙希ちゃん』
こんなに自分のことを、いろんな形で応援してくれている沙希の想いに報いたい。
沙希のことが愛おしくなった公は、このまま抱きしめたい衝動に駆られた。
詩織のことが好きなはずなのに、沙希にも同じような感情を持ち始めている
自分がいる。
そして、沙希が自分に抱いている思いは何なのだ?という疑問が湧いてきた。
「ふう〜」
詩織はぬるめのお湯に身をゆだね、大きく息を吐く。
チャプン
「ん〜〜〜」
頭上で両手を組んで軽く伸びをすると、そのままバスタブに頭を乗せて、
湯気でかすむ天井を見上げる。
頭の中では、いろいろな想いが交錯していた。
それは今日の帰り道、恵が口にしたことが発端となっていた。
雨が降る中、赤、青、ピンクの傘を並べて歩いていると、恵がふと口を開いた。
「詩織ちゃん、主人くんと一緒に帰ることなくなったよね」
「え?ええ」
2年生の秋頃までは、たまに一緒に帰る日もあったが、今となってはまったく
なくなっていた。
「詩織〜、浮気してんじゃないの〜?」
奈津江が詩織の頬をプニプニとつつく。
「な、なに言ってるのよ奈津江ちゃん」
「でも、告白もしてないんじゃ、束縛も出来ないしねぇ」
「そうよね。伝説って不便だよね〜」
恵が相槌を打つ。
詩織はそれを聞いて、下を向き黙ってしまう。
「あっ詩織、ウソウソ。気にしないで」
それを見た奈津江が、慌ててフォローする。
「う、うん」
しかし、そんなことを言われて、気にするなと言う方が無理というものだ。
「あ〜あ。何とかして確かめること出来ないかな」
あのクリスマスの日から、公の気持ちが変わっていないか気がかりでならない。
「詩織〜、いつまで入ってるの?」
1時間以上も長湯をしていたため、母親から声が掛かる。
「は〜い。いま出ま〜す」
いつまでも悩んでいても仕方がない。
「よしっ、公くんに電話しよう」
ザバッ
勢いよく立ち上がり浴室を出る。
別に問いただすわけではないが、それに近い言葉が欲しかった。
それを聞いて安心したかった。
「詩織と、沙希ちゃんか・・・・・・・」
その頃、ついさっき帰ってきた公は、遅い夕飯を済ませ風呂に入り、部屋で横に
なっていた。
頭の中は、詩織と沙希のことでいっぱいだった。
「沙希ちゃんは、俺のことが好きなのかな?じゃあ、俺の気持ちはどうなんだ?」
そういうことに疎い公は、頭がパンクしそうになる。
「好雄に相談してみるか」
机の上の子機を取ろうとしたとき、呼び出し音が鳴った。
トゥルルル、トゥルルル
「おっと、誰からだ?」
ピッ!
「もしもし」
「公くん?こんばんは」
「詩織か?どうしたんだ?」
突然の電話に驚くが、詩織の方はといえば、実はお風呂からあがった後1時間
以上も子機を見つめて悩んでいた。
やっとのことでボタンを押し、こうして電話を掛けてきたのだ。
「う、うん。特に用って事もないんだけど。公くんとお話がしたくて」
「そ、そうか」
いままで詩織のことを考えていたから、ちょっと言葉に詰まる。
「そ、そう。そういえば、今日の練習でダブルクラッチやってたでしょう」
詩織も恥ずかしくて、本来聞きたいこととは違うことを切り出す。
「ああ。見てたのか」
スタメンとBチームに別れて紅白戦を行ったとき、やっとものになってきた
ダブルクラッチを披露した公は、みんなに驚かれていた。
「すごいね。いつのまにあんなの出来るようになったの?」
「いやーーー、それは毎日自・・・・・、おっと」
「じ?なに?」
「いや、何でもない。はははは」
変に乾いた笑いを漏らす。
「変なの」
それから、何でもないことを1時間近くも話した。
・
・
・
・
・
『はっ!このままじゃいけないわ』
詩織は本来の目的を思い出す。
スーハー、スーハー
受話器を遠ざけ、公に聞こえないように深呼吸してから本題に入る。
「ね、ねぇ、公くん」
「ん?」
「な、奈津江ちゃんが、末賀の橋本くんのファンだって知ってた?」
『あ〜ん、違うよ〜。ごめん、奈津江ちゃ〜ん』
秘密をバラしてしまったことに、心の中で手を合わせる。
「え、そうなのか?芹沢はどうなるんだ?」
「ふふふ。橋本くんはファンというだけみたい。まあ、アイドルと同じね」
『こんなこと教えたいんじゃなくて〜』
受話器の向こう側で詩織が地団駄を踏んでいるとき、公も違うことを考えていた。
『ファン・・・か』
沙希が自分に対して抱いている気持ち、それはファンごころからくる『好き』なのか?
それとも、恋愛対象としての『好き』なのか。
そんなことを考えていると、自然に言葉が出てきた。
「なあ、詩織。人を好きになるって、・・・・・どういう事かな?」
「・・・・・・え?」
思いがけない言葉に、目をパチクリさせる。
「い、いや、ごめん。忘れてくれ、いまの・・・」
自分の言った言葉に焦った公は、その話を終わらせようとするが、詩織はそれに
答えようと、目をつぶり公の事を想う。
「そうねぇ」
「・・・・・・」
公は黙って詩織の言葉を待つ。
「いつまでも側にいて、同じ時を歩みたいと思うとか、その人のためなら出来うる限りの
ことをしてあげたいと思う心とか、人それぞれ色々あると思うな」
「そうか」
『沙希ちゃんも、そうなのか?』
公は、去年の今頃を思い出した。
県予選決勝で末賀に破れたあの日を。
「公くん。でもどうして、そんなことを?」
「え?い、いや、何でもないよ。何となくさ」
「ふ〜ん。ねぇ、公くん。公くんはいま・・・・・好きな人・・・・・いる?」
「なっ!?」
話の流れから、遂にその言葉が出る。
「と、突然だな」
「いるかいないかだけでも・・・・・教えて・・・・・」
今度はさっきよりも長い沈黙が入る。
・
・
・
・
・
・
『どうしたんだ詩織。う〜ん、いるかいないか位は・・・・・いいかな?』
ちょっと考えてから口を開く。
「うん。いる」
ハッキリと答える。
「そ、そうなんだ」
それが自分の事であるのか、それを聞くことは出来ない。
自分であることを願うのみだ。
「お、おっと、もうすぐ11時だな」
「えっ?あっ、ホントだ」
公は、それは誰なのか聞かれる前に、強引に切ろうとする。
「遅いから、もう切るぞ。県予選頑張ろうな」
「うん、頑張りましょう。おやすみなさい、公くん」
「おやすみ、詩織」
ピッ!
「はあ〜、公くんの好きな人が、どうか今でも私でありますように」
子機を目の前で握りしめ、目をつぶり祈るように呟く。
そして、ちょっとだけ得た安心を胸に眠りにつく。
「どうしたんだ詩織。あんなことを聞いてくるなんて」
一方公は、幼馴染みとの今までにない会話に戸惑っていた。
「う〜ん。いるなんて言わないで、誤魔化した方が良かったか?」
今更ながら、ちょっと後悔する公だった。
県予選も終盤となった。
きらめき高校は男女とも順調に勝ち進み、今日は女子の決勝と男子の準決勝が行われる。
新人戦で悔しい思いをした末賀高校女子は、県大会においてもその強さを見せつけた。
流石にダブルスコアはなくなったが、失点は50点以下に抑え続けた。
その強敵との決勝戦を目の前にして、きらめきの控え室では、詩織を囲んで
ベンチ入りのメンバーが円陣を作った。
「さあみんな、県大会も今日で最後よ」
周りをぐるりと見回す。
奈津江、沙絵、結衣、優美、そして控え。
みんな緊張はあるものの、清々しい顔をしている。
「相手は末賀高校。今までで一番ディフェンスを鍛えてきたらしいけど、うちの
オフェンスで蹴散らすわよ」
「はい」
全員が力強く頷く。
「沙絵、リバウンド頼むわよ」
「OK」
「結衣、沙絵を信じて3ポイント打って」
「うん」
「奈津江、インサイドお願いね」
「任せて」
「優美、どんどんパス回すからね」
「はいっ」
「控えの7人も、出番があるからね」
「はい」
詩織は右腕を上にあげ、みんながそれに手を添える。
「勝つわよ、みんなーーー」
「おうっ」
気合い一閃、高らかに宣言してコートへと向かう。
ピッ!
いよいよ県予選最後の40分の火蓋が切られた。
トスされたボールはセンターの沙絵が弾き、詩織へと渡る。
すぐさま優美へパスしようと前を見ると、アッという間に戻った末賀選手が、
2−3ゾーンで守りを固めようとしていた。
「さすが、早いわね」
セットオフェンスに切り替える。
「確実に決めていくよ」
ゆっくりとボールを運び、パスを回して相手の力量をはかる。
『う〜ん、手強そうね』
まだ始まったばかりだけあって、末賀の動きは機敏だ。
優美の位置を見ながら、ボールをキープする。
ここはスピードで対抗するしかない。
あらかじめ練習してきた、対末賀戦のフォーメーションで挑む。
「結衣」
まずは速いパス回しで、優美のマークを緩める。
結衣から沙絵、そして詩織に戻して、優美へとパスをする。
「奈津江、スクリーン」
優美に迫るディフェンスを、奈津江が遮る。
優美はボールを受け取ると、その場でジャンプシュートをする。
「いっけーーー」
チッ!
ブロックに来た選手の指先が当たる。
ガンッ!
「あーーー!!先輩、お願いしますぅ」
「リバウンド」
ゴール下の沙絵は、厳しい当たりで内側に入ることが出来ず、不利な体勢で
ジャンプする。
「くっ、ダメ!」
案の定、末賀に奪われてしまう。
そして、試合は激しいディフェンス合戦となっていく。
前半も残りわずか。27対32とロースコアの展開が続いている。
きらめきも末賀に負けない守りで失点を抑えるが、5点リードされていた。
「沙絵」
詩織はセンター沙絵のポストプレーで点を狙う。
しかし、固い守りで中への進入を許さない。
「戻して」
インサイドがダメならアウトだ。
結衣が末賀のチェックよりも、ほんの一瞬速く3ポイントを放つ。
ザシュ!
「ナイシュー、結衣」
ビビーーー!
それと同時に前半が終了する。
控え室に入り、後半の作戦を練る。
「どうだ藤崎。インサイドは無理か?」
「はあ、はあ。そうですね、かなり厳しいです」
さすが鍛えてきただけあって、中は強固な守りを見せられた。
スタミナも大したもので、全然疲れた様子を見せない。
それに対して詩織達の体力は、これまでの試合よりも消耗していた。
「そうか。後半はアウトからのシュートを主体に組み立てるぞ」
「でも、結衣だけだと苦しいかもしれないです」
前半終了間際の3ポイントに対する、末賀のチェックの早さを思い出す。
「よしっ、3ポイントを2枚にするぞ。早乙女、日立と交代だ」
「は、はい」
立ち上がった女の子『日立いずみ』は、優美と同じ2年の3ポイントシューターだ。
「ええーーー!?優美とですかーーー!ごほっ」
それを聞いた優美が、咳き込みながらも不平を漏らす。
「疲れているのに、そんな大声を出すな早乙女。お前には、後半の大事なところで
やってもらうことがあるから、ちょっと休んでろ。お前にしか出来ないことだ」
「優美だけ・・・・・。うんっ、わかりましたぁ。いずみ、頼んだよ」
「任せて、優美」
あとは、時間まで体力の回復につとめた。
その頃公たちは、女子の後にすぐ試合があるので、広い場所でアップをしていた。
「主人先輩。女子、苦戦しているみたいですよ」
偵察に行ってもらった1年が戻ってくる。
「点数は?」
「前半が終わって、30対32です」
「そうか。サンキュウ」
「いえ、それじゃあ」
1年は自分の役割に戻る。
「女子、負けてるって?」
隣でストレッチをしていた木本が口を開く。
「そうみたいだな」
公の表情が暗くなる。
「お前がそんな顔してどうする。藤崎なら大丈夫だって」
「ああ」
いくら心配しようが、こればかりは本人達の頑張りにかかっている。
『詩織、焦るなよ』
公は、そう願うのみだった。
「時間ね。みんな、行くよ!!」
「はい」
詩織の掛け声とともに控え室を出て、会場へと続く廊下を進む。
いずみは、久しぶりの出番に、緊張しながら先輩についていく。
微かに震えてもいるようだ。
それを見た優美が、耳元に顔を近づけてささやく。
「いずみ。菊川先輩に教えてもらった、速いモーションからの3ポイント狙いなよ」
「えっ?えっ?」
「なぁに狼狽えてんのよ。知ってるんだから、いずみが菊、むぐっ!」
立ち止まって、慌てて優美の口を両手で塞ぎ、周りをキョロキョロと見渡す。
「何やってるんだ?早乙女、日立、早く来い」
「はい。いま行きます」
みんなは、二人を残して先に行ってしまう。
どうやら聞かれなかったようだ。
「ふう〜」
心の底から安堵の溜息を吐く。
「優美、あなた知ってたの?」
「むむむむむ」 (当然よ)
「優美に知られるなんて。誰にも言っちゃダメだからね。わかった?」
「むむっむむ。むぐぐぐぐぐ。むぐっぐ〜」 (わかったよ。言わないから、離して〜)
赤くなっていく優美の顔を見て、急いで手を離す。
「ぷは〜。ひどいよ、いずみ!」
二人は再び歩き出す。
「どっちがよ!!みんながいる所で。聞かれたらどうするのよ」
「ごめん、ごめん。でも、緊張は解けたでしょ?」
「えっ?」
いきなり試合とは別のことに思考を使ったためか、身体から固さが抜けていた。
震えも止まっている。
「・・・・・優美。ありがと、頑張るからね」
会場の出入り口が見えた。
中へ入ると、後半を待ち望む歓声が耳に入ってくる。
「行ってこ〜い」
腕を交差させて、いずみを送り出す。
「うん!」
「いずみっ、はい」
詩織からいずみへとボールが渡ると、クイックモーションで3ポイントを放つ。
「はやい!!」
それには末賀もついていけなかった。
ザシュ!
「ナイシューーー」
「やったーーー、いずみーーー」
優美が立ち上がって、腕をブンブン振り回す。
「どんどんいけ〜」
後半が始まってから、きらめきの攻撃はアウトからの3ポイントが主体となった。
前半はインサイドにこだわってプレーしたものだから、その変化に、末賀はすぐには
対応できなかった。
きらめきのアウトからの攻撃は、そんなに恐いものではないと考えていたようだ。
実際、今までの相手なら、ゾーンでもバッチリ抑えてきたのだ。
いまのシュートで48対41となった。
それでも、後半も中盤に差し掛かると、末賀も3ポイントに反応するようになってきた。
「それっ!」
いずみが、後半に入って何本目かの3ポイントを打つ。
バシッ!
「あっ」
しかし、見事にブロックされてしまう。
8分が経った頃から、結衣といずみ、二人ともシュートが止められるようなってきた。
「もう限界だわ」
ビビーーー!
逆に末賀にシュートを決められたところで、きらめきがタイムアウトを取る。
「よく頑張ったな、日立。上出来だ」
「はあ、はあ。はい」
肩で息をしながら返事をする。
「早乙女、いずみと交代だ」
「はい!!」
ガタガタッ
呼ばれた優美は、待ってましたと言わんばかりに、パイプ椅子から飛び上がる。
「お疲れ、いずみ」
「うん」
いずみにタオルを渡して、コーチの元へと行く。
「早乙女、疲れはとれたな」
「はい、もちろんです」
やる気満々の顔で答える。
「よし。末賀は3ポイントを防ぐためにスタミナを消耗したはずだ。そこを更に
早乙女でかき回すぞ。いいな!」
「はい」
ビーーー
タイムアウト終了のブザーが鳴る。
「よ〜し!やるぞーーー」
トン、トン
優美はその場で何回かジャンプする。
「藤崎先輩!行きましょう」
「うん。よし!」
後輩に負けじと、気合いを入れ直す。
今まで休んでいたので元気いっぱいの優美は、縦横無尽に末賀陣内を走り回る。
その動きに惑わされ、末賀デフェンスが一時混乱する。
「そこ」
詩織からパスが来ると、そのまま走り込んでジャンプシュートを決める。
「ナイシューーー」
「よしっ、これでいけるか。末賀は2−3ゾーンだけだ」
ベンチでは、コーチが思惑通りと握り拳を作っていた。
「なに?」
しかし、次の攻撃の時、コーチの読みは外れたことが明らかになった。
確かに、先程までの3ポイントには手こずった末賀だったが、スタミナがなくなった
わけではなかった。
その証拠に、試合が再開して優美に1本入れられた途端に、末賀のデフェンスが
変わった。
まだ相手コートにも入っていないのに、詩織に二人のマークが付く。
「まさか!?ダブルチームなの」
今の今まで2−3オンリーだったディフェンスが変化したことで、きらめきに動揺が走る。
キュキュキュキュ!
「くっ!」
二人にマークされたことで、なかなか相手陣内に入ることも出来ない。
ダブルチームは、末賀が全国用に練習していたものだった。
県大会ならゾーンだけで勝てると思っていたが、きらめきの粘りに出さざる終えなくなった。
「詩織、こっち」
結衣が手を挙げる。
苦し紛れのパスを出すが、それでは末賀の思うつぼだ。
いくら詩織でも、パスコースを限定されてはパスカットを狙われる。
バシッ!
「ナイスカッーーー」
「しまった。みんな戻ってーーー」
しかし時すでに遅く、速攻を決められる。
それからの6分間、きらめきの攻撃はノーゴールと、完全に封じ込まれた。
攻撃での焦りは、守りにも出てきた。
ダブルチームを外そうとするあまり、身体的な疲れに加えて、精神的な疲労が
蓄積してくるのだ。
そのためファールも増え始め、今まで抑えてきた末賀の攻撃も抑えられなくなってきた。
残り時間あと4分で50対56。
「ダメだわ!このままじゃ」
詩織が弱気な気持ちになりかけていたとき、スタンドから声が聞こえてきた。
「なにやってるんだ、詩織!!」
「こ、公くん」
声のする方に目を向けると、そこにはアップを終えた公が立っていた。
「なに、弱気になってるんだ。そんなもんじゃないだろお前の力は。諦めるな」
「うん!負けない」
キャプテンの自分がここで気圧されてはダメだと、気持ちを奮い立たせる。
マークしてくる二人を、ドリブルで抜きにかかる。
「行かせない」
『これならどう?』
「なに?」
キュキュ!
素早い突っ込みで、一人目の目の前で、ドリブルをする手を変えてフロントチェンジ。
「逃がさない」
もう一人が負けずに詩織についていく。
「先輩!こっち」
優美が自分のマークを振り切って、詩織からのパスを待つ。
「優美」
もう一人をサイドステップでかわして、優美へとパスを出す。
今度は見事に通る。
「ナイスパス」
それを、マークが追いつく前に、ランニングしながらのクローズアップシュート。
ジャンプした後の空中でシュートを放つ。
ザシュ!
「やったーーー」
「巻き返すわよ!」
「おおーーー」
ここから、僅かな時間での点の取り合いとなる。
「そうだ。頑張れ、詩織」
公の目は、詩織ただ一人にそそがれていた。
バァーーン
終了のピストルが鳴らされる。
その時、ガクリと肩を落とす者、床に膝をつく者、それは黄色のユニフォ−ムの
きらめき高校だった。
得点は59対61。
のこり3分の攻防で追いつきを図ったが、あと少しで届くことが出来なかった。
「負けちゃったよ〜」
優美が大声で泣き出すのを、涙を浮かべながらいずみが抱きしめる。
結衣や沙絵、奈津江も悔し泣きをしている。
ベンチでも部員全員が泣いている。
「なに泣いているの、みんな。これで最後じゃないんだから、冬の選抜まで、
また頑張りましょう」
詩織の目に涙はない。
キャプテンとしての責任からだろうか。
みんなを勇気づけるために声を上げる。
「は、はい」
それに、声をうわずらせながらも答える部員達。
詩織は泣きたい気持ちをこらえて、喜ぶ末賀の姿を見る。
そして、気持ちを新たに再出発を誓う。
つづく
あとがき
みなさんこんにちは。
またしても試合展開に悩み続けた10日間でした。
詩織達、負けちゃいましたね。
これを乗り越えて大きくなることでしょう。
それにしても、詩織が電話であんなことを口走るなんて、
書いてる本人がドキドキもんでした。(^_^;)
いよいよ次回からは、今までの甘い話が嘘のような展開が
待っています。
みなさん、気長に待っていてください。
それでは。
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