「My wish・・・」
第4話 「自主トレ開始」
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「ただいま〜。」
帰宅するとすぐに階段を駆け上がって、自分の部屋に行く。
そして素早くジャージに着替えて下に降りる。
「かあさん、ご飯は〜。」
階段を降りながら聞く。
「出来てますよ。」
「さてと、今日は何かな〜。」
空の弁当箱を母親に渡して、椅子に座りながらおかずを見る。
「こ、これは。鯛の尾頭付き?」
「そうよ。昨日は急だったからお赤飯しか用意できなかったけど、今日は
ちゃんとお祝いしないと。」
楽しそうに話す母。
「たくっ。いいっていうのに。」
呆れた顔で言いながら食べ始める。
「そうだ。なんで詩織に赤飯のこと言ったんだよ。大変だったんだぞ。」
「あら。何が大変だったの?」
「うっ、そ、それは・・・。」
何が、と言われると言葉に詰まってしまう。
「そんなことはどうでもいいの。」
焦って、ちょっと語気荒く言うと、母親は服の袖を目に持っていき、
「なによ。あんたの為を思ってやったことなのに。」
すると公は、またかと思いながら平然と言う。
「嘘泣きしてもだめだぞ。」
かまわずに箸を動かす。
「あら。わかった?」
「何年あんたの息子やってると思ってんだよ。」
「それもそうね。でもあんたの為って言うのはホントよ。」
「えっ?」
公は箸を止めて母の顔を見る。
「あんたがバスケット部に入ったのも、自主トレをやるのも、詩織ちゃんの
ためなんでしょ。分かってんのよ。」
「うっ!!な、何を根拠に。」
公は箸を落としそうになる。
「それこそ、あんたの母親を何年やってると思ってるのよ。」
母はここぞと言い返す。
「そうきたか。」
「そうよ。かあさんの目は節穴じゃないんだから。」
「かあさん。詩織には内緒だからな!!」
ちょっと強きに言うと、
「あ〜ら。どうしようかなぁ。」
「う〜む。頼むよ〜。このとおり!!」
今度は弱々しく、両手を顔の前で合わせて頼み込む。
「わかってるわよ。内緒にしといてあげる。」
「物わかりのいい親で良かったよ。」
やれやれと一安心していると。
「そのかわり。やるからには日本一よ!」
ビシッと、天井を見ながら上を指さして言い放つ。
「なんだそりゃ。出来るかっつーの。」
このときの公は、ただ詩織に釣り合う男になる。これだけしか頭になかった。
食べ終わった公は、すぐにボールを持って家を出た。
「さ〜て、早く行って自主トレ開始だ。」
軽快に自転車を飛ばす。
公園に着くと、シーンと静まり返った公園内の隅っこに街灯に照らされたゴールが
見える。
住宅街のはじにあるこの公園は、今頃の時間には誰一人として近くを通る気配はない。
自主トレには絶好の場所だ。
「さてと。始めるか。」
準備体操をしてから、かるく基本であるハンドリングから始める。
8の字、クロス、膝下でのドリブルなど、リズムにのってボールをさばく。
・
次はシュート練習だ。正面、45゜、90゜と50本入るまで続ける。
「はあ、はあ。これが最後だ。」
シュッ、バサッ。
「よしっ!!休憩するか。」
草むらの上に座って、買ってきておいたジュースを飲んで一息つく。
「あとは、ディフェンスがいることを想定してシュートをする練習が出来ればいいんだ
けどな。何かないかな。」
周りを見渡してみる。
「おっ、あれなんてどうかな。」
と言って見つけたのは、公園に設置してあるゴミ箱だった。
高さをつけるために何個か集めようと、木の近くにあるゴミ箱に歩いて行くと、
ガサッ、と音がした。
「んっ?誰かいるのか。」
足を止めて音のした辺りを見つめた。数秒間沈黙が流れる。
「気のせいか。」
すぐに思い直し、ゴミ箱を持ってゴールの所に戻る。そして4つ集めてきて、
3つを重ねてみる。
「これがジャンプした奴で。」
もう1つを手前に置く。
「2つを抜いてもいいし。向こうは止まってシュートを打ってもいいな。」
公がシュート練習を始めた頃、誰かが忍び足で公園を出ようとしていた。
ご察しの通り虹野沙希である。
ドキドキドキドキ!!
沙希は心臓の高鳴りを感じながら、気付かれないよう静かに出てきた。
そして、少し歩いて自転車に着く。
「見つからなかったよね。ビックリした〜。」
やっぱり公のことが気になって、公の少し後に公園に来たのだが、話しかけることが
出来ずに、木の陰からそっと見つめていたのだ。
そこに公が近づいてきたのだからたまらない。思わず身体が硬直してしまった。
まあ、それが幸いして見つからなかったのだが。
もし見つかっていたら、公に変に思われるのがオチだ。こんな時間に俺の所に来て、
もしかして俺のことが好きなのか、なんて思われるかも知れない。
実際気になっているのは事実なのだが、今は応援したいという思いが大きく、
これが好きという感情からきているのかは沙希自身もまだ分からない。
こういう風に思った男の子は、今までにもいたのだから。
沙希は自転車に乗りながらそんなことを考えていた。
その頃詩織は、紅茶を飲みながら保健室の出来事を思い出していた。
「公くん、どう思ったかなぁ。」
カーテンを開けて、電気が付いている公の部屋の窓を見る。
あんなことを聞いてしまって、変に思われなかっただろうか。
「鈍感だから大丈夫かな。」
しかし、答えは期待したものではなかった。公の気持ちを少しでも知りたくて聞いた
のだが、違うと言っていた。目をそらしたのが少し気になるが・・・。
「公くんは私のことどう思ってるのかなぁ。」
自分は公のことが好きだが、公はどう思っているのか。小さい頃は好きだと言って
くれたが、今もそうなのか気になっている。
宝石箱を開けて、おもちゃの指輪を見ながら昔のことを思い出す。
卒業式に告白するにも公が何とも思っていないとしたら・・・・・。
気持ちは知りたいが、公の口から「好き」という言葉がでてしまったら、
それはそれで困る。
よく考えると、両思いだったとしても告白もなく友達のまま卒業式を迎える
というのはとても辛いことなのではないか。という根本的な問題に辿り着く。
「ううん。それでもいいの。決めたんだから。」
公に見ていてもらえるように努力しよう。決心を再確認する詩織だった。
自主トレが終わって公が帰ってきた。
詩織に見つからないように静かに家に入る。そして2階に上がり、電気を付けたままの
自分の部屋に入る。部屋にずっといると思わせるために、ワザと付けていったのだ。
「1日目終了っと。」
ドサッ。
ボールを置いてベットに倒れ込む。
「あ〜疲れた。初日からこんなんで大丈夫かね、俺。」
しかし、一日でも早く詩織に近づくためである。
「こんな弱気でどうする。がんばるぞー!!」
と言った途端に眠たくなってきた。
「そう言えば、もうすぐテストだなぁ・・・。」
眠りにつく公であった。
トントン。
母親が部屋のドアをノックする。
「公、お風呂に入りなさい。公?」
カチャ。
「あら、この子ったら。しょうがないわねぇ。」
公にタオルケットを掛けながら呟く。
「この子、詩織ちゃんの気持ちに気付いてないんでしょうね。まったく
誰に似たんだか。」
下からくしゃみの音が聞こえる。
「まあ、せっかくやる気になったんだから、黙っていましょう。ふふ。」
そして、電気を消して部屋を出る。
「がんばりなさい。公。」
バタン。
つづく