「My wish・・・」
第43話 「心友になるためには」
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土曜日。
今日はインターハイ予選、決勝リーグの最終日。
初のインターハイ出場を決めた試合で、最後のシュートを入れた木本は、
更衣室で心地よい達成感に包まれていた。
そこに、橋本とすれ違いに女子が祝福にやって来た。
『ったく、何やってるんだ』
公と詩織が、奈津江にからかわれているのを見て呆れる。
『あの二人、進展あったのか?』
木本は、4ヶ月前のバレンタインのことを思い出していた。
詩織が校門で、公を待ち伏せしていたことを。
『ははは、ホントバレバレだったよな。藤崎のリアクションときたら』
心の中で思い出し笑いをしていると、公が奈津江に呼ばれて廊下へ出ていった。
『ん?どこにいくんだ?』
詩織を見ると、恵と何か話していて気が付いていないようだ。
『まっ、いいか』
ちょっとは気になったが、自分が立ち入る問題でもないだろうと、みんなの
輪の中に入っていった。
日曜日。
翌日は休日だったため、木本はバッシュを買いに、新しく出来たショッピングモールへと
出掛けた。
ここには日本一大きいという観覧車もあって、休日の今日はカップルでいっぱいだった。
昨日までの雨降りから、梅雨の中休みで晴れたこともそれに拍車を掛けていた。
「別にデートする相手がいない訳じゃないんだからな。ただバスケのことになると、
女の子の相手が出来なくなるから今日は一人なだけなんだ」
誰に言うとでもなく、ブツブツと呟きながらスポーツ用品店を目指して歩く。
「しかし、でかい観覧車だな」
奥の方にある、一際でかい物を見る。
「まあ、一人で乗るわけにもいかないし、今度女の子と来よう。誰が良いかな」
バレンタインで80個ものチョコを貰う木本は、当然女子の間で人気がある。
デートだって、少なくても2ヶ月に1回はしている。
ただ、本命の娘とは、デートをしたことがない。
「あ〜あ、思い切って今度誘ってみるかな」
1年の頃から気になる娘はいるのだが、どうも本命に対しては消極的な木本だった。
目的の店に着くと、お目当てのバッシュへと直行する。
「やっぱナイ○は良いよなぁ。このラインが絶妙だよ」
手に取ったバッシュを丁寧に見回す。
きらめきバスケ部では、みんなそれぞれ好きなメーカーのバッシュを履いている。
まあ大体が、ナ○キかア○ックスであるが。
『そういえば公と藤崎って、リー○ックの、しかも同じバージョンのバッシュ履いてるよな。
まさか二人で買いに来たんじゃないだろうな』
そんなことを思いながら、そのバッシュを履いてつま先を圧したり、歩いてみたりして
具合を確かめる。
トントン
「うん。いいかな?」
木本はそれを箱に戻し、レジへと持っていった。
ほくほく顔で店を出ると、一人でぶらぶらしても仕方ないと思い、すぐにバス停へと
向かって歩き出した。
「それにしても、カップルが多いなぁ。くそっ」
すれ違う人の半分以上はカップルであり、段々と腹が立ってきていた。
そんな時、遠くに見覚えのある顔を見つけた。
「んん?あれは、公と藤崎じゃないか?」
1.5ある視力を最大限に使って確かめる。
「やっぱりそうだ」
しかも楽しそうに、仲良く手なんか繋いでいる。
「なんだ、あいつらあそこまでいってたのか。つまんね〜な」
人の不幸は密の味、上手くいっているのを見ると何となく面白くない。
しかし、デート中の二人をからかうのもお邪魔なので、そのまま帰ることにした。
その日の夜、木本はバスケットボール2つとタオル、オニューのバッシュを持って、
いつもの場所へと向かった。
そこは、きらめき高校を挟んで公の家とは反対側に位置する空き地で、
どこかの会社が買い取った土地をそのままにしていた。
そして誰が付けたのか、バスケのゴールが据え付けられていた。
木本はここで、中学の頃から毎日のように自主トレをしている。
中学時代から県内では有名だったが、それは単なる才能だけで得た物ではなく、
こうした努力から生み出されていた。
「早くこのバッシュにも慣れないとな」
バッシュが入っているケースを大事そうに抱えながら、楽しそうに歩を進める。
「ん?」
空き地に着いた木本は、なんだかいつもと違う雰囲気を感じた。
「なんだあれ?」
いつもはガランとしている空間に、なにか車のような影が見える。
それは、工事現場でよく見かける車輌だった。
「おいおいおい、マジかよ〜」
嫌な予感がしてゴールがある方を見ると、そこには何もなかった。
急いで近付くと、地面にはゴールがあったという痕跡だけが残っていた。
「もう5年もそのままだから、ずっとこのままだと思ってたのに」
壁に貼られている工事日程を見て落胆する。
しかし、こうなってしまったら自分にはどうすることも出来ないと、早々と気を取り直す。
「明日からどうするかな」
この近くに、他にゴールがある場所があっただろうか。
「どっか気の利いた公園にないかな」
そんなことを考えながら、今日の所は帰ることにした。
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月曜日。
次の日の部活では、終始ニコニコ顔の詩織がいた。
外のぐずついた天気とは大違いだ。
部活に関してはいつもは厳しい先輩なのに、詩織に普段よりも優しい雰囲気を
感じた後輩達は、しきりに不思議がっていた。
「よう、藤崎」
シュート練習のパス出しをしていた詩織が、その呼びかけに振り返る。
「なあに?木本くん」
「ちょっといいか?」
キャプテン同士の話し合いを装って、隅の方へと詩織を呼び寄せる。
「うん、いいわよ。奈津江ちゃん、代わって」
「いいよ」
奈津江にボールを渡して、木本の元へと行く。
「なあに?」
「今日はご機嫌だな。よっぽど良いことがあったんだろ」
「えっ?え?え?まだ変な顔してる?さっき奈津江ちゃんにも言われたのよ」
「ああ。世界で一番幸せって顔してたぜ」
「そ、そうかな?」
そう言われると、ますます頬が緩む。
「公と何かあったんだろ?」
向こうでシュート練習をしている公を、アゴで指しながら言う。
「そ、そんなことないわよ」
『やっぱり、木本くんにはバレちゃってたか』
手を振って否定しながらも、バレンタインの出来事を思い出す。
「何があったのか、当ててやろうか?」
「え?」
そんな詩織に、容赦なく続ける。
「ショッピング」
ピクッ
詩織の身体が反応する。
「観覧車」
ピクピクッ
「図星だろ」
「な、なにを言っているのかしら〜」
詩織はそっぽを向いて、はぐらかそうとする。
「まさかキスは・・・・・」
「してないわよ!あっ!!」
しまったという感じで口を塞ぐが、もう遅い。
顔も真っ赤になっている。
「ははは。隠したってムダ。昨日二人がデートしてるところを見たんだから」
「ええっ?・・・・・ひっど〜い。からかったのね〜」
バチーーーン
詩織は木本の腕を思いっきりはたく。
「いてっ!!」
「あっ!ごめんなさい」
木本の声に、部員がこっちを見る。
「ああ〜、なんでもない。続けてろ。・・・・・ったく、これじゃあ公も大変だ」
腕をさすりながら、トドメを刺す。
「えっ?も、もうっ!!」
もう一度腕を振り上げるが、木本はそれを素早くかわした。
空振りした詩織は、口を尖らせて小さくうなる。
「むぅ〜」
「はははは、みんなには内緒にしておくから安心しろ」
「う、うん。お願い」
木本は言い触らすような男ではない思ったが、その言葉に安心する。
「その代わりと言っちゃ、何だけどさ」
「なぁに?」
「ここら辺で、バスケのゴールがある場所ってないかな?」
「ゴール?」
「ああ。」
「そうねぇ〜」
詩織はアゴに人差し指を添えて、考えるポーズを取る。
「あっ!1つ知ってるわ」
「ホントか?教えてくれないか」
「良いわよ」
詩織は、だいたいの道順を教える。
「なるほど、分かった。サンキュー」
そう言って男子の方へと戻っていく。
すると、休んでいた公が話しかけてきた。
「木本、詩織と何かあったのか?」
その顔は、あからさまに不機嫌そうだ。
「は?・・・・・勘違いするなよ。お前のものを取ったりしないから」
「ななな、何を言ってるんだ」
公は顔を赤くしながら、向こうに行ってしまう。
『ははは、二人そろってからかい甲斐のある奴らだ』
この日の夜は雨が降りそうな天気だったため、木本が教えてもらった公園に
行くことはなかった。
そのため、今夜そこで起こることなど知る由もなかった。
火曜日。
ガンッ!
「リバンドーーーーー」
公と詩織にとって運命の日の翌日。
部活の時間であるいまは、スタメン対補欠の紅白戦が行われている。
「こっちだ石崎」
「はい」
石崎からパスを受けた公が、相手ゾーンの中へとドリブルで割って入り、
補欠相手にも手加減のない攻めを見せる。
「なんだなんだ、これくらい止めてみろ」
見事なステップで一人を抜くと、一端木本にパスをして更に進入する。
「そらっ」
そして相変わらず相手の隙を見逃さない公へとリターンパスを出すと、
それをダンクで決める。
ガンッ!
「ナイシューーー」
「木本!今のパスはもっと速くてもいいぞ」
「お、おう。わかった」
意外な言葉に戸惑う木本だった。
ピピーーーーー!
「時間です。10分休憩でーーーす」
マネージャーの声に、木本はドリンクを取って一休みする。
しかし、公は手を休めずに3ポイントを放っていた。
「木本さん。なんか公先輩、恐いくらいですよ」
石崎が木本に寄ってくる。
「そうだな。なにかあったのか?あいつ」
コーチが止めてもやめない理由は一体何なのか。
そんな木本の目に、公を見つめる詩織の姿が映った。
その表情は昨日とは違い、なにか思い悩んでいるような感じがした。
『藤崎もか・・・・・・、昨日とはまるで正反対な顔してるな。二人の間に何かあったのか?』
一昨日は「他人の不幸は密の味」などと思っておきながら、昨日の今日でこれだと、
そんな気も起こらなかった。
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水曜日の昼休み。
木本は昼食を食べた後、公と仲がいい好雄を探していた。
昨日の二人の変化について、知っているのではないかと思ったからだ。
「いたいた」
A組の近くに来たとき、廊下の向こうから好雄が歩いてきた。
「よお、早乙女」
「ん?なんだ木本」
公と教室で昼食を食べた好雄は、一人でトイレに行く途中だった。
「なあ、昨日から公の様子がおかしいんだが、何か知らないか?」
「公?・・・・・いや、分からないな。なんか変だったか?」
いくら木本とはいえ、昨日までに公に起こったことを喋るわけにはいかない。
「そうか」
「すまんね、役に立てなくて」
「いや、良いんだ。じゃあ、公が藤崎のことを好きなのは知ってるだろう?」
「え?・・・・・・・・えーーーーー、そ、そうなのか?」
真実へと近づく言葉にドキッとした好雄は、不覚にも大げさに驚いてしまう。
『しまった、わざとらしかったか?』
オーバーアクションをしてしまったことを後悔する。
「なんだ、知らなかったのか?」
『ふう〜、気付かれなかったようだな』
心の中で溜息を吐く。
「公の様子が変なのは、藤崎と何か関係があるんじゃないかと思ったんだが・・
・・・、知らないならしょうがない。じゃあな」
「あ、ああ」
木本は後ろを向くと、来た道を戻っていく。
「木本の奴、どこまで知ってるんだ?・・・・・おっと、漏れる漏れる」
好雄はトイレに行く途中だったことを思いだし、廊下を駆けだした。
その日の夜。
「ちょっと遠いなぁ」
学校から帰った後、急いで夕飯を食べた木本は、昨日教えてもらった公園へ
自転車を飛ばしていた。
昨日は、ついNBAのビデオに見入ってしまい、いつの間にか9時を回っていたため
自主トレを休んでしまったのだ。
毎日通る通学路を走り抜け、きらめき高校を通り過ぎてからしばらくすると、
直線の向こうに比較的大きな公園が見えてきた。
「あそこか?」
キキキ
自転車を入り口に止めると、荷物を持ってゆっくりと中に入っていく。
「結構明るいな。なかなか良いじゃん」
今日こそはオニューのバッシュが履けると、ワクワクしながらゴールを探す。
「あった」
奥の方に立っているゴールポストを見つける。
「ちょっとボロいなぁ。ま、いいか」
早速靴を履き替えて、ストレッチを始める。
「ふふふ、いよいよだ」
ストレッチが終わると、履き心地を確認しながら不気味な笑いを漏らし、
シュート体勢をとる。
「この公園での、木本明デビューの1発は?」
自分で実況しながらも、正確無比なフォームでボールを放つ。
シュッ・・・ザシュ!
「よしっ!」
ちょっと自己陶酔しながら、ボールを回収するために身を倒す。
そして、視線を上にあげようとしたとき、自分の影に誰かの影が重なった。
「誰だ?」
ビックリした木本は、思わず身構える。
「木本?」
「公?」
二人同時に相手の名前を発した。
そして、数秒間沈黙する。
・
・
・
・
「な、なにしてるんだ?木本」
最初に口を開いたのは公だった。
「な、何って・・・・・」
木本は、いままで誰にもバレることがなかった自主トレの現場を見られて
口ごもってしまった。なんて言い訳しようかと、頭が混乱してしまう。
『ん?』
そんな時、公が自分と同じような服装をしているのに気が付いた。
「公、お前のその格好。もしかして、自主トレか何かか?」
この時、公の頭の中では。
『なんで木本がここにいるんだ?
しかもバスケをしていてこの格好は、もしかして自主トレか?
俺と同じ事してるのか?
いやそれよりも、俺が自主トレしていることに気が付いたみたいだな。
誤魔化すか?いやでも、この様子だと木本はこれからもここを使う気なんじゃないのか?
ということは、俺のやるところがなくなってしまうな。
だったら、いっそのこと正直に言った方が都合が良いんじゃないか?
沙希ちゃんも今日から来ないし。木本が練習相手なら好都合じゃないか!!』
ここまで約5秒。
「あ、ああ。実はそうなんだ」
これからのことを考えた公は正直に答えた。
「そ、そうなのか。俺もなんだ」
それを聞いた木本も、あっさりと自主トレを認めた。
同じようなことを考えたからだ。
「ところでさ、俺が今までやっていた場所が使えなくなってここに来たんだけど、
今日からは一緒にやっても良いか?」
「そんなの、もちろん大歓迎さ」
「そうか、良かった」
ホッと胸を撫で下ろした木本は、公と改めて握手をした。
「よろしくな」
「こちらこそ」
公は、木本がシュート練習をしているのを見ながらストレッチを始める。
「なあ木本、俺は1年の頃からやってるんだけど、お前はいつからだ?」
「俺か?俺は中学1年の頃からだな」
「ホントかよ。それは凄いな。なるほど、安心したよ」
思わず身体を止めて、木本を見る。
「なにがだ?」
「お前のプレーは、こういう努力から生まれてるんだなってことだよ」
腕を組んで納得する。
自分も結構努力してここまで来た。
木本も才能だけでやっているのではないということを知って、今まで以上に
親近感が感じられた。
「ん〜、そうだな。別に俺は天才じゃないからな。よっと」
ボールが2個しかないため、シュートをしては頻繁にボールを取りに行く。
「それにしても、やっぱりお前も自主トレやってたんだな。いつだったか聞いたときは
隠しやがって」
「それはお互い様だろ」
「ん?ははは、そう言えばそうだな。ん?お前、ボールは?」
木本は、公がボールを持ってきていなかったことに、今頃気が付いた。
「えっ?ああ、すまんすまん。2個だと不便だっただろ」
そう言って、ゴールの後ろにある木の中へと入っていく。
そしてすぐに、ボールが入った籠をゴロゴロと押して出てきた。
「な、なんだそれ?なんでこんなの持ってるんだよ」
木本は籠を叩いて、不思議そうな顔をする。
ボールは買えば何とかなるが、普通籠は持っていないだろうと。
「ん?このボールだいぶ古いな」
「ああ。用務員のおじさんに、いらなくなったボールと籠を貰ってきたんだ。
で、俺が買ったボールは、この2つだけなんだ」
見栄えの良いボール2つを、両手で1つずつ鷲掴みにして取り上げる。
「そ、そうなのか。お前、ちゃっかりしてるな」
「それとな・・・・・」
公はもう一度消えると、今度はドラム缶を運んできた。
「何だそれは?」
「これはだな。こうやって・・・・・」
公はそれらをゾーンディフェンスの位置に置き、ゴール下は積み上げる。
そして、見本として1回やってみせる。
ドンドンドン
「これを抜いて・・・・・」
ドリブルで走り出しバックロールで1つを避け、積み上がった缶の前でジャンプする。
「シュート!」
ザシュ
「こうやって使うんだ。・・・・・ん?どうした木本」
それを見た木本は、唖然としてしまった。
「お前、よくそこまでやるな。普通やらねーぞ」
「そ、そうか?」
「そうだよ!はははは、呆れた奴だ」
「そうかな〜」
公は頭をかきながら、ちょっと恥ずかしがる。
「でも、なかなか良いなこれ。これに俺がパス出ししてやるよ」
「え?」
木本はボールを持って構える。
「公、そこからゴールに向かって走ってみろ」
「よし」
木本が指差した所から走り込む。
「こんなのはどうだ!」
そう言って、リング近くの空間へとボールを放つ。
それは、いつものパスではなかった。
「!!」
それには驚いた公だったが、身体が反応してボールへと飛びつく。
そして空中でボールを掴むと、リングはすぐ目の前にあった。
「そのまま入れろーーー」
木本の声が耳に入る。
ガンッ!!
「おっしゃーーー、ナイスシュート公。やっぱり出来たな」
木本が走り寄ると、公は目を丸くして立っていた。
「なんだ、どうかしたのか?」
「い、いまのアリウープだよな」
「ああ、初めてですぐに合わせるなんて流石だよ」
公の背中をバンバン叩いて喜ぶ。
「木本」
「ん?」
「どんどんやろうぜ。試合でも決めたいからな」
「よしっ!やるか」
「おうっ!!」
こうして自主トレは、二人のコンビプレーを磨く時間となっていく。
今日の自主トレも終わりに近付いてきた頃。
最後のシューティングをしていると、木本がふと思い出したように話し出した。
「そうだ、公」
「なんだ?」
木本は、昨日から疑問に思っていたことを質問する。
「お前、昨日からなんだか気合いが入ってるけど、藤崎と何かあったんだろ?」
「えっ?そ、そんなことは・・・・・」
焦った公は、手を止めると、あからさまに顔に出してしまう。
「一昨日あんなにいい顔をしていた藤崎が、昨日からは全然違ってたじゃないか。
今日は少し元気になってたようだけど。お前に関係あるとしか思えなくてよ」
「・・・・・」
木本はシュートを続けるが、公は手を止めたまま沈黙してしまう。
「なあ、公。俺はお前のことが心配なんだよ。すべて話さなくてもいいから」
「う、う〜ん」
「そうなんだな?」
ザシュ
今度は木本も手を止めて、真剣な顔で公を見る。
木本は心から心配していた。
ドン、ドン、ドン
公園の暗闇に、たったいま入ったボールの弾む音が響き渡る。
「わかったよ。・・・・・確かに詩織とは、ちょっとあったんだ」
意を決した公が、やっと口を開いた。
「そうか・・・・・、ケンカか?」
「いや、ちょっと違うんだ。ともかく、絶交したとか、そんなんじゃないから。
口をきかないようになった訳じゃないしな」
実際公は、今も詩織そして沙希と全く話さないわけではない。
以前と比べると、ぎこちない感じはするのだが。
「そうか」
「あ〜と、まあいいじゃないか。詩織と俺の問題なんだから」
「まあそれを言っちゃあ、そうなんだが。わかった、大丈夫なんだな?」
「ああ。サンキュー、心配してくれて」
「なぁに。ところで、これでお前が藤崎を好きなことは決定的だな」
木本が口元をニヤニヤさせる。
「なに?お、俺は、一言も好きだなんて言ってないぞ。幼馴染みとしてだな〜」
と言いつつ、真っ赤になってしまうと何の説得力もない。
「わかったわかった」
「くそっ!そういうお前は好きな娘いないのかよ」
二人は再びシュートを放つ。
「俺か?いるよ」
公に言わせておいて、自分が隠しているのはフェアじゃないと思った木本は、
あっさりと認めた。
「何?そうなのか」
「ああ」
「そ、それは・・・・・?」
「虹野だよ」
「なに?」
公の身体が硬直する。
ガンッ
中途半端に投げられたボールが、ドラム缶にぶつかって大きな音を立てる。
「どうしたんだ、公。おかしいか?俺が虹野のことを好きなのが」
「い、いや、そうじゃなくてさ。意外だなぁ〜って思って」
「そうか?お前には確か言ったことがあるぜ」
「なに?ホントか?」
公は何とか思い出そうと記憶を辿るが、どうしても思い出せない。
「1年の文化祭の時だよ」
「そうだったか?」
「ああ。好きとは言ってないが、藤崎よりも良いってな」
「そんなんじゃ、わかんねぇ〜よ!!」
「ははは、そうだな」
ふざけ合う雰囲気の中で、公は混乱していた。
『木本が、沙希ちゃんのことを好きだって?』
これでは、沙希が自分のことを好きで、その答えを待たせてあることは絶対に内緒だ。
この後どうなるのかは、公自身でさえもわからないのだから・・・・・。
ともかく、いまは黙っておくことにした。
『真実を知ったとき、木本は許してくれるだろうか?』
そんなことを思いながら。
「今日はこの辺で終わるか」
「そうだな」
木本の声とともに、二人は後片づけを始める。
木本はボールを拾いながら、沙希のことを思い出していた。
沙希も、詩織と同じ頃から元気がないように感じていた。
いつも、見ているだけでこっちも元気になる笑顔をしていた沙希が、
ションボリしているのだ。
何があったのか聞きたい。
そして話してもらいたいのだが、何とも本命に弱い木本は、それが出来ないでいた。
『まさかな』
公の顔を見ながら思う。
沙希に元気がないのは、公にも関係があるのではないかということ。
公が沙希のことを『沙希ちゃん』と呼ぶことも引っかかっていた。
しかし、それを口にはしなかった。
『そんなこと、あるわけないか』
自分の考えすぎだと、胸の奥にしまい込む。
主人公と木本明。
バスケで出会い親友となった二人は、心から許し合える『心友』となる、
その途上にあった。
つづく
あとがき
第43話でした。
今回は主に、木本の視点から書いてみました。
話の流れは40〜42話に沿って作ればいいのですが、
木本の性格付けが難しかったです。
最初はもっとクールに、某バスケ漫画の藤○や、ひい○ぎの
ようにしたかったのですが、僕には書けませんでした。(T_T)
クールなキャラもいると面白いんだろうけど・・・・・・。
今後の課題ですかね。
さて、最後に木本が告白したことは、
皆さんがお察しの通り、今後の伏線となっています。
タイトルにあるように、心友になるためには
解決しなければならない問題です。
公がどっちを選ぼうともです。
次回は、後輩二人が動きますので、
お楽しみに。