「My wish・・・」

                       第46話 「本心は・・・・・」


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 夏休みも終盤に近付いてきた。見上げれば真っ青な空が広がり、
 花壇には太陽に向かって真っ直ぐに伸びる向日葵が大輪を咲かせていた。
 バスケ部では、今日から恒例の夏合宿が行われる。


 あのインターハイから2週間が経った。
 熾烈な戦いの末、きらめきを準決勝で敗った能城工業が優勝しV3を達成した。
 決勝での能城工業は、相手である千台高校をまったく寄せ付けず、
 87対58の大差で破った。
 それくらい、能城ときらめきの実力は拮抗しているものがあり、ファンの間からは、
 準決勝のきらめき高校戦が事実上の決勝戦だったとの声が出たくらいだ。
 終了間際に交代した公は、すぐさま伊集院医療班に運ばれ、最新医療設備を揃えた
 大型トラックで治療を受けた。
 診断の結果は亜脱臼であった。幸い選手生命に関わるものではなく、リハビリも含めて
 1ヶ月もすれば治るだろうとのことだった。
 レイに阻まれて付き添うことが出来なかった部員達、そして応援団のみんなも
 それを聞いて一安心した。
 残念ながら試合には負けたが、公が治れば雪辱は出来る。
 肩をテーピングで固定された公を囲んで、男子バスケ部は再出発を誓った。



ガシュ、ガシュ
「あ〜あ、孤独だなぁ」
 昨日でテーピングが取れた公は、トレーニング室で一人、筋力トレーニングに
 励んでいた。
 リハビリとして弱った筋肉の復活と、脱臼が癖にならないように、以前よりも
 肩に筋肉を付ける必要があった。
 そのため、みんなとは別メニューに取り組んでいた。
「でも、みんなのためにも早く治さないとな」
 公が抜けた後の試合はやはり能城に傾き、意気消沈した一瞬をここぞとばかり
 に畳み込まれた。
 それだけ、公の存在はなくてはならない大きなものなのだ。
「怪我さえなければ勝てたはずだ。前よりもパワーアップした俺を見せてやるぜ」
 ふと窓の外を見ると、眼下に沙希とみのりが歩いているのが見えた。
 今年もサッカー部と同じ日程で合宿が行われている。
「沙希ちゃんにも心配かけたな」
 あとから聞いた話によると、伊集院家のトラックに運び込まれたとき、レイを押しのけて
 公に付き添おうとしたらしい。
「沙希ちゃんの気持ちは嬉しい。嬉しいけど・・・・・」
 公は、あの時のことを思い返してみる。
 床に手を付いて肩に激痛が走ったとき、公の頭に浮かんだのは詩織の姿だった。
 それは、本当の窮地に立たされたときに一番会いたいと思った人。
 そしてそれが公にとって、詩織だったと言うことに他ならない。
「俺の本心は・・・・・」
 リハビリを続けながら、気持ちの整理を付ける公だった。



 合宿も6日目の夜。
 明日の午前中で終了するということで、今晩は同じ日程だったサッカー部、
 テニス部と一緒にカラオケ大会が催された。
 大食堂の隣にある大広間に総勢150人が集まり、次々に披露される歌を
 ステージ前に思い思いの格好で座って聞いていた。
「何で合宿所にこんな部屋があるんだか」
 去年、一昨年とこの施設を使ったが、改めて伊集院家はおかしいと思う。
「なに言ってるんだ公、みんなのコミュニケーションの場だろ。そんなこと言ってないで、
 もうすぐお前の番だぞ」
「なに?木本、うちは学年別で歌うだけじゃないのか?」
「それもあるけど、個人エントリーでお前が歌うんだよ」
「はぁ?なに勝手にエントリーしてんだよ」
 胸ぐらを掴んで詰め寄る。
「確かお前、歌は得意じゃないか」
「それは関係ない。ともかく、一人で歌うのは嫌だ」
「ははは、いいじゃないか。テニス部の女子を虜にするチャンスだぞ」
「しなくていい!!」
 そうこう言っている内に、出番はすぐそこに来ていた。
「あ〜り〜が〜と〜う〜ご〜ざ〜い〜ま〜し〜た〜」
「は〜い〜。テ〜ニ〜ス〜部〜、おっとうつってしまいました。テニス部から
 古式ゆかりさんでした。なにか癒されるような歌声でしたね〜」
 深々と礼をしてからステージを降りるおさげの女の子を横目に、公は手を離して立ち上がり
 部屋から出ていこうとする。
「それでは、続きましてバスケ部エースの3年主人公くんで〜す」
「なに?」
 司会者の呼ぶ声と立ち上がるタイミングが調度重なり、みんなの視線が公に集中する。
「主人先輩が歌うの〜?」
「楽しみ〜」
 拍手と歓声が部屋全体に広がった今、これでは出るに出られない。
「・・・・・、木本〜」
 下を向き木本を睨む。
「ほれ、行けよ」
「くそっ」
 犬を追っ払うようにシッシと手を振る木本に小さく呟き、ステージへと歩いていく。



「あっ、公くんだわ」
 詩織は意外そうな表情になる。
 公は音楽科目が得意で、中学の頃授業で聞いているから歌が上手なのは知って
 いるが、進んで一人で歌うタイプではない。
「あっ、木本くんか」
 木本を睨み、顔をしかめる公を見て納得する。
「でも、カラオケは聞いたことないのよね。何を歌うんだろう、楽しみ



「主人、曲は何にするんだ?」
「ん?どうするかな〜」
 公の場合、特に好きな男性アーティストはいない。音楽番組や街で流れる曲を
 聞いて、気に入った物はたまに借りてきて何回か聞く程度だ。
『まさかイブニング娘。を歌うわけにもいかないしな』
 ウケを狙うのも良いが、やはり止めることにする。
「じゃあ、これだ」
 そうと決まれば決断は早い。開いた本の曲名とナンバーを司会の男に見せる。
「よし。ほら、マイクだ」
「ああ。ったく木本め、覚えてろよ」
 マイクを受け取り、みんなの拍手に送られてステージの真ん中に立ち木本を見ると、
憎たらしい笑いを浮かべていた。


 すぐにイントロが流れ始め、目の前の画面を見ながら軽くリズムを刻む。
「あっ、これは」
 サッカー部員が集まる所に座っていた沙希が、すぐに反応した。
「RYOICHIの曲だわ」
 まさかこうくるとは思わなかったので、驚きの表情で公を見る。
 公が選んだ曲は、数年前にミリオンを記録したスローテンポのラブソングだが、
 この歌は高音が続くのでとても難しい。
「大丈夫かなぁ」
 そんな沙希の心配をよそに、イントロが終わり歌い始める。



「・・・・・・・すごい」
 その声にはとても力があり、高音も難なく出ていた。
 沙希の心配など無用であった。
 みんなの反応は、あの公が歌うとあって最初は声を上げている者もいたが、
 すぐに静かになった。
 部屋全体に公の声が響き渡り、伸びのある声はサビの部分も完璧に歌い上げる。


「心から〜、君を〜愛してる〜」


『詩織、聞いてくれてるかな?』
 詩織の姿を確認しようとしたとき、他のみんながシーンと静まりかえっているのが
 目に入った。
『俺、なんかおかしいかな?』
 本当はみんな聴き入っているのだが、そんなことはわからない公は内心焦っていた。
 それでも途中で止めるわけにもいかないので、周りは目に入れないで詩織だけに
 歌っているつもりで熱唱する。
『詩織、俺はやっぱり詩織のことが・・・・・』
 そんなことを想い胸に手を当てながら歌っていると、嫌々だったものも段々気分が
 盛り上がってくる。
 最後の方は、詩織と自分以外のみんなの存在は無いに等しかった。
『公くん、上手〜』
 詩織は、ジッと公を見つめて聴いていた。
 思った以上の歌声に感嘆する。
『あれ?公くん、誰かを見つめているような・・・・・』
 ちょっと周りを見渡した後、もう一度公の目を見る。
『もしかして、わたし?私に向かって歌ってくれているの?』
 詩織はギュッと手を握り、涙が出そうになるのを堪えながら聴き入った。



「どうも」
 歌い終わると、思いがけず熱唱してしまった自分に照れながら軽くお辞儀をする。
シーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
『なんだ、この静けさは?やっぱり変だったのか?』
 あまりの静寂に居心地が悪くなり、その場を離れようとしたとき、盛大な拍手が巻き起こった。
パチパチパチパチパチパチパチ
「うおっ!なんだ?」
「格好いい〜」
「もう1曲歌って〜」
「ええっ?勘弁してくれよ〜」
 ワンテンポ遅れて起こった歓声と拍手に驚いた公は、心底残念そうにしている
 女の子達に謝りながらステージを降りる。
 元の位置に戻ると、木本が立ち上がって公を出迎えた。
「やるな、公」
「恥ずかしかったぞ。お前も歌え」
「もちろん」
「はあ?」
 意外な答えに唖然とする。
「次はバスケ部キャプテンの、木本明くんで〜す」
「じゃあな」
 木本は意気揚々とステージへと歩いていく。
「しまった。目立ちたがり屋のあいつが黙ってるわけないか」
 公に対抗してかGLOYの新曲を歌う木本を見ながら、コップを傾けてヤケ酒ならぬ
 ヤケジュースをする。
「公くん、さっきは格好良かったよ」
「え?」
 それは隣に座っていた3年のテニス部員だった。
「そりゃどうも」
「ふふ
 名前も知らぬテニス部員は、可愛らしく微笑み再びステージに視線を戻す。
 木本の言葉通り、またしてもファンを増やしてしまう公だった。



 カラオケ大会が終わり消灯までの自由時間も過ぎた後、みんなが寝静まったのを見た沙希は、
 いつものように屋上にある露天風呂へ入るために部屋を出た。
「最後の夜は、これに入らないとね〜」
 足取り軽く女風呂のドアを開けて脱衣所に入ると、籠に浴衣がたたんであるのが目に入った。
「あら?誰か先客がいるみたい。まっ、いいか」
 特に気にする素振りは見せないで、浴衣を脱ぎ裸になると沙希も中に入っていった。

ガラララ


 何回来ても感心してしまう広さの露天風呂だ。
「やっぱり広いなぁ。失礼しま〜す」
 一応挨拶をしながら湯船の方へと近付いていくと、広い岩風呂の中に入っていた
 先客である人影が、沙希の方を向いて声を掛けてきた。
「あら?その声は虹野さんじゃない?」
「えっ?ふ、藤崎さん?」
 意外な人物との鉢合わせに驚いた沙希は、このまま入るのを躊躇してしまう。
「え、え〜と。それじゃあ」
「ちょっと待って」
 クルリと振り返り出ていこうとしたその時、詩織がそれを呼び止めた。
「え?」
 足を止めて、再び詩織の方を見る。
「虹野さんとは、ゆっくりお話をしたかったの。ねぇ、一緒に入りましょう」
「・・・・・、う、うん」
 そんな詩織の申し出にキョトンとなった沙希だったが、そこまで言われてはと思い直し、
 軽くお湯をかぶった後湯船へ身体を入れた。



『何かな?お話って・・・・・』
 しばらくの間無言だった二人だが、沙希が堪らず口を開く。
「こ、公くん、歌上手だったね」
「え?そ、そうね。私もあそこまでとは思わなかったわ」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
 再び沈黙が流れる。
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
『自分から話そうって言っておいて、これじゃあダメよね』
 詩織は意を決して、沙希に問いかける。
「ね、ねえ、虹野さん」
「は、はい」
パシャン!
 沙希が肩をビクッとさせると、湯船に波が立つ。
「虹野さんは・・・・・、どうして公くんのことが、好きになったの?」
「え?」
 沙希は目をパチクリさせて詩織を見る。
「お願い、教えて欲しいの」
 その真剣な瞳を見ていると、冗談ではぐらかすのは反則だと思った。
「わかったわ。ちょっと長くなるかもしれないけれど、いい?」
「うん」
 沙希は目をつぶり、ゆっくり思い出を紐解きながら、最初の出会いから話し始める。
「まず、最初の出会いは1年生の体育祭ね。あの時怪我をしたでしょ、彼」
「うん。リレー前だったよね」
「そう。私は保健係だったから、テントに来た公くんを診てあげたの。
 そこで治療しながらね、彼は『このことはみんなに黙っていてくれ』って、
 みんなに迷惑を掛けたくないからって。そう言ったの」
「そうなんだ」
 あの時の事は、詩織も良く覚えている。
 公の足の速さを当然知っていた詩織は、アンカーとしてバトンを受け取った公の走りを見て、
 すぐに異常を感じていた。
 4番手までのリードを守って辛くも優勝はしたのだが、何があったのか聞いても
 『何でもないからと』言って、どこかに消えてしまったのだ。
「その時は、根性がある彼がサッカー部に入部してくれないかなぁ、程度だったの。
 本当に彼のことが気になり始めたのは、もうちょっと後なの」
「うん」
「あれは、6月の終わり頃だったかな?備品の買い出しに近くのスポーツショップに
 行ったらね。公くんがいて、バスケットボールを買ってたのよ」
「自主トレに使うボールね」
「そう。ふふふ」
 沙希は、公との別れ際のことを思いだして微笑む。
「どうしたの?」
「その時自主トレのことを聞いたんだけど、みんなには恥ずかしいから
 内緒にしてくれって、言われたのよ」
「へ〜」
 公らしいと思いながら、詩織も何かを思いだした。
「そう言えばその頃、公くんのお母さんに、忘れていったお弁当を届けてくれって
 言われて公くんに渡したことがあったわ。『公に大変な変化があったから、
 そのお祝いなのよ』って言われたんだけど。もしかしたら、自主トレを始めたことなのかも」
「うん。きっとそうね」
「ふふふ。でね、そのお弁当のご飯がね、お赤飯だったのよ」
「え?ふふふふ、公くんのお母さんならやりそうね」
「でしょう?ふふふ」
 なんだか二人とも、不思議な気持ちになっていた。
 こんな風に公のことを話すことになるなんて、思いも寄らなかったことだ。
「それからね、公くんとなんとか仲良くなりたくて、自主トレを何回か覗きに行ったの。
 でも、きっかけが掴めなくて、ただ見ているだけだった」
「そうなんだ」
 詩織の相槌を聞くと、沙希は星空を見上げて、あの日の出来事を思い出す。
「うん。でもね、夏休みに入って少し立った頃ね。いつものように公園に行こうとしたんだけど、
 私と公くんの目の前で猫が車に轢かれたことがあったの」
「猫が?可哀相ね」
「うん。しかも雨が降っていてね。でね、それを見た公くんは、その後どうしたと思う?」
 幼馴染みの詩織になら分かるかなと、問い掛けてみる。
「そうねぇ。猫を抱き上げて、お墓を作ってあげたんでしょ?」
 首を傾げながら考え出した答えは、ズバリ正解だった。
「当たりよ、流石ね。公くんは、自分もずぶ濡れになっているのにも関わらず、
 服が汚れるのなんて気にしないで、血が出ている猫を抱き上げたの。
 そして公園の木の所に埋めてあげたのよ」
「公くんらしいね」
「うん。それを見たときよ、この人が好きになったと確信したのは」
「そう」
 詩織は、公のことを話す沙希の瞳はとても優しいと感じていた。
 本当に公のことが好きなんだなと思った。
「それからは、公くんが幼馴染みである貴方のことをどう思っているのか知りたくて
 仕方なかった。でも、もし好きだと言われたらどうしようって思うと聞くことも出来ず、
 伝説も気になってたし、告白することも出来なかったわ」
「伝説・・・・・」
 詩織の胸に、チクリとその言葉が突き刺さる。
「藤崎さんは、やっぱり小さい頃から好きだったの?」
「え?ええ、そうね。私は幼稚園の頃からね」
 ちょっと上を見て、遠くを見る感じで昔を思い出す。
「やっぱり長い歴史があるのね〜」
 その点に関しては沙希ではかなわない。
「ううん。そうでもないのよ」
「え?どうして?」
「確かに幼稚園の頃から公くんのことが好きで、いつも後ろを付いて回っていたわ。
 どんなときも私の味方になってくれたし、優しく頼もしかったわ。幼心に私の王子様って、
 思ってたのかもね」
「ふふふ。藤崎さんでも、そんな風に思ってたんだ」
 詩織の意外な言葉に、思わず笑ってしまった。
「あっ、ひどいな〜。私も普通の女の子なのよ〜」
 詩織はプイッと横を向いて、頬を膨らます。
「あっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ」
「ふふふ、いいのよ」
 その言葉を聞いて、沙希は内心溜息を吐く。
『ビックリした〜。まさか藤崎さんがあんな風にするなんて』
 頬を膨らませるその仕草は、沙希が詩織に感じていた優等生のイメージをぬぐい去るのに
 十分なものだった。
「でもね。小学校3年生頃になると、私と公くんが一緒にいると、からかう男の子が出始めたの」
「うんうん。あるよね、そういうの」
 沙希にも思い当たる節がある。
「そうなると、小さいながらも、お互い男と女を意識しだしたのね。
 男の子同士、女の子同士とだけで遊ぶようになってきて、学校で話す事なんて
 本当に少ししかなかった」
「ふうん。幼馴染みも大変なのね〜」
 まさか二人の間にそんなことがあったなんて、沙希は真剣な顔で聴き入った。
「ふふふ、そうね。で、その状態が中学まで続いたのよ。中学校は私立にでも行かない限り、
 小学校の友達がそのまま上がるでしょ。だから、それまでの関係を変えることが出来なかったの」
「うんうん」
「中学の頃の公くんは、潜在能力はあるはずなのに勉強嫌いだったから、きらめき高校に
 入学する事なんてとても無理だったのよ。
 そしたら、私がきらめきを受験するって聞いた次の日には『俺もきらめきを受ける』なんて言いだして、
 あの時は嬉しかったな」
「そうなんだぁ〜」
 それを聞いた沙希は、すぐにピンときた。公は、詩織が受験するから自分もいこうと決めたんだろうと。
「でもね、高校に入った当初はあんまり変わらなかった。まさかあんな風に想っていてくれたなんて」
 遊園地と、公園での告白のことを思い出す。
「あ〜あ、いいなぁ〜」
「え?」
 そこまで聞いた沙希は、やっぱり詩織のことが羨ましかった。
「だって公くんは、藤崎さんのために頑張ってきたんでしょ?この高校に入るのだって、
 自主トレのことを隠したのだって、貴方に努力してるところを知られたくなかったからよ」
「・・・・・、そうかしら」
「そうよ。小さい頃の公くんを良く知ってるし」
 お互い胸の内を明かしたことで、今までのわだかまりが消えていく。
 こうして話していると、とても恋敵の雰囲気ではない。
「でも、なんでそんなに貴方のことを想っていた彼が、もう一度考え直すようなことを言ったのかしら?」
 沙希は公が教えてくれなかったことを、詩織に聞いてみる。
「そ、それは・・・・・」
 詩織は下を向き、悲しそうな顔をする。
「あっ、ごめんなさい。嫌なこと聞いちゃったね」
「ううん、いいのよ。私が悪いんだし」
 詩織は正直に告白した。
 公が自分のことを好きだと言って、他の女の子の告白を断っていたところを覗き見していたこと。
 そして、公の気持ちを知っていたのに、自分の気持ちは隠していたことを叱られたことを。
「そ、そう、そんなことがあったんだ。伝説が原因でもあるのね」
「うん」
 それを聞いた沙希は、自分にも同じ事が起こる可能性があったのを知り、ちょっと焦った。
「でも、公くんも気持ちをずっと打ち明けなかったんだから、お互い様じゃない?」
「えっ?・・・・・・・そう言われると、そうね」
 詩織は今の今まで、そんなこと考えもしなかった。
「でも、最初に知った私が悪いのは確かだし。惚れた弱みね、怒る気もしないわ」
「そっか」
ザバッ!
「ふふふ、なんだか可笑しいね。なんか、昔からの友達みたいだわ」
 ちょっとのぼせた詩織が、湯船の縁の一段上になったところに腰掛けて言う。
「そうね」
 詩織を見上げて、沙希も呟く。
 二人の間の雰囲気は、昨日までのものとは明らかに違うものとなった。



「藤崎さん」
 不意に真面目な顔になる。
「なぁに?詩織で良いわよ、沙希ちゃん」
「じゃあ、詩織ちゃん・・・・・」
 沙希はジーーーッと、詩織の胸の辺りを見ながら言った。
「おっぱい大きいね」
「えーーーーー、やだーーーーー、もうっ!!」
 突然の言葉に、タオルで胸を隠し顔を赤くしてしまう。
 そして、手でお湯をすくって沙希の顔めがけてかけまくる。
「それっ!!」
バシャ
「きゃあ、きゃあ」
 沙希も反撃する。
バシャバシャ
「きゃあ。もうっ、何を言い出すのよっ」
「私ってプロポーション良くないから、羨ましいなって」
 沙希は自分の胸に手をやり、詩織のと見比べてみる。
「そうかしら?」
「うん。腰もくびれていて、おしりも安産型の程良い形だし」
 詩織のおしりにタッチしながら言う。
「きゃあ。コラ!!いい加減にしなさ〜い」
バシャーーーン!!
 詩織は軽くダイブして、沙希の身体を触り始める。
「きゃあ、きゃあ、エッチーーーーー」
「沙希ちゃんはポッチャリしていて、公くん好みかもよ〜」
「そうかなぁ〜。いやん、胸を触らないで〜」
「沙希ちゃんから言いだしたんでしょ〜」
 親友のような関係になった二人のじゃれ合いは、しばらくの間続いた。
 裸の付き合いと、お互いの公の気持を話すうちに、二人の間にあった壁は
 見事に崩れ去っていた。



 二人がそんなことをしているのも知らず、寝付けなかった公は体育館の2階の
 観客席で一人、考え事をしていた。
 そこから見下ろすことが出来る月明かりだけのバスケットコートは、昼間とは
 全然違う感じがした。
「やっぱり俺は・・・・・」
 コートを見つめながら、小さい声で呟く。
 その時、後ろに気配を感じた。
「誰だ?」
 後ろを振り返ると、そこには木本が立っていた。
「木本か・・・・・」
「眠れないのか?」
 公の隣に座り、手を組んで宙を見つめる。
「ん?ちょっとな」
「怪我のことか?」
「それもあるけど・・・・・」
 公は黙ってしまう。
 まさか沙希をどうやって振ろうか考えているなんて言えない。
 しかし、木本には察しが付いていた。
「なあ、公。虹野はお前のことが好きなんじゃないのか?」
「えっ?」
 驚いた公が、目を見開いて木本を見る。
「やっぱりそうか。あの試合でお前が運び込まれた時の、虹野の乱れ方を見たらピンときたよ」
「そ、そうか」
 衝撃の言葉を聞いた公は、前を見て下を向いてしまう。
「ああ。お前のことを『公くん』て名前で呼ぶことも気になっていたしな。
 お前は『沙希ちゃん』て呼ぶし」
 公の右腕を肘でつつきながら、笑って言う。
「あ、あのな木本、内緒にしていたのは悪かった。で、でもな」
「いいって、分かってるよ。お前が藤崎のことを好きなのは知っていたし。
 それにお前のことだから、虹野の気持ちに気が付いたのも最近じゃないのか?」
「うっ!」
 公は言葉を失ってしまう。
「やっぱりそうか。大変だな、お前を好きになった女は。いつ頃から仲が良かったんだ?お前ら」
「え〜と、1年の秋ぐらいから自主トレに付き合ってくれるようになって、それからかな。なんだよ?」
 それを聞いた木本は、心底呆れていた。
「そんなに前からかよ。ほんっと、お前って鈍感だよな」
「うるさいな〜」
 ポンポンと肩に置かれた木本の手を払い除ける。
「で、すぐに断らないところを見ると、藤崎とも何かあったんだな?」
「ああ。自主トレで一緒の所を見られてさ」
「おおっ、そりゃ凄いな。見たかったよそれ」
 決して嫌味ではない感じで、明るく茶化す。
「ひで〜な〜。すげ〜焦ったんだぜ、あの時は」
「ははは。それで、どっちにするのか決めたのか?」
 今度は真剣な顔で問う。
「うん」
「いつ伝えるんだ?」
「いまは何て言おうか迷ってるから、二学期が始まったらすぐにでも」
「そうか」
「怒らないのか?俺のことを」
「そうだなぁ。そりゃあ、虹野がお前のことを好きだったのは気にくわないけど、
 それはお前のせいじゃないしな。俺だって、告白できなくてうじうじしてたんだから」
 それに自分が女だったら、公のことを好きになっても当然だと思った。
 もちろん悔しいから、そんなことは口に出さないが。
「ま、お前が藤崎を選んだのなら、俺が虹野をいただくさ」
「で、でもそれじゃあ、お前の・・・・・」
「その前に、虹野の気持ちさ」
 公の前に手を差し出し、その言葉を遮る。
「いまは、お前がどっちを選んだのかはあえて聞かないでおくよ。
 ただ、二人に伝えた後は結果報告しろよな」
 改めて公の肩に手をやり、笑顔を作る。
「わかった。必ず」
 そんな親友を胸が詰まる思いで見ていたら、なんだか込み上げてくるものがあった。


   つづく



   あとがき

 第46話でした。
 今回で公が選ぶと思っていた読者様には申し訳ありませんが、
 公と木本、詩織と沙希の関係を書くために、1話使ってしまいました。

 しかし、賛否両論がありそうな話になってしまいました。
 詩織と沙希の関係を、ずっとよそよそしいものにしておくのが
 嫌だったので、あのような形にしてみましが、
 恋敵の女同士が、あんな風になるわけがないと仰る方もいるでしょう。
 でも、そこは見逃してください。

 さて、次回こそは選択の時です。
 みなさん分かっているとは思いますが、
 もう一波瀾ありますので、お楽しみに。

 では。

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