「My wish・・・」
第47話 「最後の涙」
第46話 目次へ戻る 第48話
長いようで短かった夏休みも終わり、昨日からきらめき高校でも2学期が始まった。
まだまだ暑い日が続くであろうが、これからはクーラーのない暑い教室での授業が始まる。
「あ〜、暑いなぁ。毎年思うけど、伊集院家もケチだな。
各教室にクーラーを入れてくれてもいいじゃないか」
今は昼休み。公は、わずかでも涼もうと下敷きをパタパタさせている。
「そうそう」
隣の席の好雄も、頷きながらワイシャツのボタンの上3つを外した。
「それにしても、お前はホントーーーーーーーに、よく焼けてるな」
公は好雄の肌を眺めながら言う。
3年生のほとんどは受験勉強に励み、黒く日焼けしている者は極少数だった。
好雄はもちろん極少数の方で、遊び呆けていた口だ。
3年A組の中でも一際小麦色の肌をしていた。
「ははは、いいだろ」
「いや、別に良くはないけどな」
腕を差し出して自慢する好雄に、ちょっとだけ悔しそうに答える。
「しかし、おまえ進級するんじゃないのか?」
「そのつもりだけど?」
「そのつもりって、大丈夫なのかよ」
「大丈夫だって。どこかあるだろ、1つくらい。はははは」
まるで他人事のように笑いながら言う好雄を見ていると、呆れながらも
楽しそうな生き方だとも思う。
「それはいいとして」
好雄の顔が公に近づく。
「なんだよ、暑いんだから寄るなっての」
「いいから」
払い除けようとする公の手を掴み、耳元でささやく。
「お前、藤崎さんと虹野さんの件はどうなったんだ?」
「ん?ああ、それか」
「決めたのか?」
顔を離しながら問う。
「ああ、決めた」
「いつ言うんだ?」
好雄は茶化すことなく、真面目な顔で言う。
「土曜の夜」
「そうか。お前が決めたことだから文句はないが、辛いな」
「そうだな。でも仕方ない」
必ず一人は悲しむことになる。これは避けられないことだ。
「そうだな。恋愛は楽しいことだけじゃないからな」
良く知る女の子のことだから、尚更つらい。
好雄は、今はいない詩織の席を見ながら、沙希の顔も思い出す。
「でも、一人は必ず幸せにしろよ」
「ああ」
公は、肩を叩く好雄を見ながら厳しい表情を作った。
木本から土曜日は休むと言われていた公は、当日の夜、家に帰ると電話で沙希を呼び出した。
約束の時間より少し早く出た公だったが、公園に着いてみると、既に沙希の姿があった。
バスケットゴールの下に立ち、リングを見上げてなにやら物思いにふけっていた。
「早いね、沙希ちゃん」
「あっ、公くん。う、うん。気になっちゃって・・・・・」
公の呼びかけに振り返って答える。
「そ、そう」
不安そうな沙希の顔を見た公は、自分の気持ちを言いにくくなってしまう。
「座ろう」
「う、うん」
ベンチを指差して、沙希を促す。
しばらくの間沈黙が続いたが、沙希がそれを壊した。
「こ、公くん。覚悟は出来てるから」
今にも泣きそうな沙希の顔を目の当たりにする。
『そんな顔されると、ますます言いにくいよ』
しかし、このまま黙っているわけにもいかない。
詩織のために、そして沙希のためにも。
「沙希ちゃん」
「はい」
公は真っ直ぐ沙希の目を見て話す。
「俺は・・・・・、やっぱり・・・・・、詩織が好きみたいだ」
「そう」
沙希の瞳孔が一瞬広がる。
「もちろん沙希ちゃんも好きだけど、詩織の方がより好きなんだ。準決勝で落下
して怪我を悪化させたとき、気が遠くなる中で頭に浮かんだのは詩織だった。
苦しいとき、悩んでいるとき、側にいて欲しいのは詩織なんだ」
「うん」
「これからも詩織を守っていきたいし、守れる男になりたい」
「うん」
「だから、沙希ちゃんと付き合うことは出来ない」
ハッキリとそう告げると、沙希は下を向いて事実を受け止めた。
そして再び顔を上げると、口元を緩ませ、微笑みながら言う。
「なんとなく、わかってたよ」
「え?」
沙希の意外な言葉に驚く。
「合宿のカラオケ大会で公くんが歌ったとき。あれ、詩織ちゃんに向かって歌ってたでしょ」
「・・・・・、うん。わかった?」
「ふふふ、わかるわよ。ずっと貴方を見てきた私の目は、節穴じゃないわ」
「そ、そうか」
「それとね。あの後、夜中に露天風呂に行ったら詩織ちゃんがいて、公くんの事を
色々話したわ」
「詩織と・・・・・、ん?いま詩織のことを『詩織ちゃん』って言った?」
「うん。詩織ちゃんて、噂以上にいい人ね。ちゃんと話したのは初めてだったけれど、
すぐに打ち解けちゃった」
「そうか」
「そのとき詩織ちゃんも、私に負けないくらい公くんのことが好きなんだってわかったわ。
そして、公くんも詩織ちゃんが好き。そうなると、私がいくら貴方のことが好きだとしても、
どうにもならないこと」
淡々と話す沙希の表情は、いつもと変わらないように見えた。
「詩織ちゃんになら、納得して負けを認められるよ」
「ごめん、沙希ちゃん・・・・・」
公は頭を下げる。
「謝らないでいいよ。公くんは、詩織ちゃんを幸せにしてあげて」
「ああ。必ず」
「絶対だよ」
そう言って沙希は笑顔を作る。
それは、精一杯の笑顔だった。
「ねぇ、公くん。私たち、恋人同士にはなれなかったけれど。明日からも、友達だよね。
もう口を聞いてくれないなんてこと、ないわよね」
「ああ。そんなことはない」
「良かった」
その時の沙希は、顔は笑っているが心の中では泣いていた。
我慢しよう。
笑って別れよう。
そう思っていたのに、耐えることが出来ない。
いま、それが表に現れた。
「あれ?可笑しいね。私いま笑ってるよね。笑ってるのに涙が出てきちゃったよ」
沙希の瞳から、止めどなく涙が溢れてくる。
「沙希ちゃん」
我慢していたものが、一気に込み上げてくる。
「公くーーーーーーーーーーん」
ガバッ!!
沙希は公にしがみつき、胸に顔を押しつけるように抱き付いた。
「二人は好き合っていて、私が割って入ることは出来ない。わかっているの。
わかってるけど・・・・・でも、でもね」
公の腕を掴む手に力が入り、ギュッと握る。
「沙希ちゃん」
「なんで詩織ちゃんなの?私だって負けないくらい貴方のことが好きなのに。
公くんの幼馴染みとして生まれたかった。そうすれば・・・・・」
肩を上下させて、しゃくりを上げる沙希を、公は慰めることが出来なかった。
振った娘に優しくすることは出来ない。慰めることによって、逆に惨めになるかも知れない。
ただ黙って、沙希の慟哭がおさまるのを待つしかなかった。
・
・
・
何分泣いていただろうか、やっと落ち着きを戻してきた。
「ごめんね、泣いたりして」
「いや」
目が赤い沙希を見ても、公はそれしか言えなかった。
何か言うと、スッパリと諦められないだろうと思った。
「やっぱり優しいね、公くんは」
それは沙希にもわかっていた。
「そんなことないよ」
「ううん、あるよ。ねぇ、公くん。最後に一つだけ、お願いを聞いてくれないかな」
「なに?」
「キスして」
公を見つめ、瞳を潤ませる。
「え?いや、それは・・・・・」
「お願い。初めて本気で好きになった人の想い出に、ね?」
そんな風に言われると、公の心はぐらついた。
しかし、ここでキスをするのは簡単であるが、詩織に対する裏切りのようにも思えた。
「ダメだよ、沙希ちゃん。それは出来ない」
「ねえ、お願い」
沙希は公の首に腕を回して顔を近づけると、目を閉じた。
「ダメだ」
腕を取って沙希の身体を引き離し、きつくもう一度言う。
「公くん」
沙希は目を開き、公を見つめた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり出来ないよ」
「詩織ちゃんが、いるから?」
「それもある。でも、それよりも、これから沙希ちゃんのことを大切にしてくれる男のためにも、
しない方が良い」
「私の気持ちは、無視してでも?」
「そ、それは・・・・・」
公は押し黙ってしまう。
そんな公を見て、沙希は諦めたように再び微笑んだ。
「ふふ。ごめんなさい。困らせてばっかりだね、私って。私が詩織ちゃんの立場だったら、
やっぱり悲しいもの」
「・・・・・・・」
「わかった。私のファーストキスは、とっておくわ」
「うん」
こんな話をした後で、いつまでも二人でいるわけにもいかない。
キスの代わりに握手をして、二人は立ち上がった。
「それじゃあ、俺は帰るよ。送っていけないけど、大丈夫?」
「平気よ。自転車で来たから」
「そう。じゃあ、また明日」
「うん。わかったわ」
公は一度手を振って歩き出すと、それからは振り返ることなく公園を後にした。
「ただいま〜」
公は、少なからず好きになった少女を悲しませたことに、落ち込みながら家に帰ってきた。
そして自分の部屋へと入り、ベットへとふせってしまう。
ドサッ!
「ふう、やっぱり泣かせてしまったな。恋愛ってのは、悲しい部分もたくさんあるんだな」
目をつぶると、まぶたの裏に沙希の泣き顔が映し出される。
「俺って奴は、もっと早くに答えを出していれば、もっと早く詩織に気持ちを伝えていれば、
こんなことにならなかったかもしれないのに」
今まで生きてきた中で、こんなに落ち込んだことがないというくらいに沈んでいくのを感じた。
トルゥゥゥゥ、トルゥゥゥゥ、トルゥゥゥゥ
部屋の子機が鳴る。
「うるさいなぁ、早く出てくれよ」
トルゥ・・・
4回目の途中でベルが止まる。どうやら下で母親が取ったらしい。
やっと静かになったと思ったら、数秒後、内線の呼び出し音が鳴った。
「なんだよ」
公は、気怠い身体を起こして子機を手に取った。
ピッ
「もしもし、なんだよ母さん」
「公、虹野さんのお母さんから電話よ。出なさい」
「沙希ちゃんのお母さん?わかった、回して」
なんだか嫌な予感がした公は、一気に目が冴えてくる。
「もしもし、公くん?」
「はい、そうです」
「公くんは帰ってきたのね。沙希が今どこにいるか知らないかしら」
「え?さっき公園で別れましたけど」
「そうなの?おかしいわね。まだ帰ってきてないんだけど、どこにいるかわからないかしら」
「どこって・・・・・」
どうやら沙希は、家を出るときに公に会いに行くと言って出てきたのだが、
まだ帰っていないらしい。
「俺、心当たりがあるんで、探しに行きます」
「そう?お願いするわね。待ってるから、連絡ちょうだい」
「はい、わかりました。それじゃあ」
ピッ
公は子機を置くと、階段を駆け下りてすぐに家を出た。
「はあ、はあ」
公は公園に向かって走っていた。
沙希がいるとすれば、そこしかないと思った。
「着いた」
膝に手を付き、荒くなった呼吸を整える。
そして入り口を見ると、沙希の自転車が置いてあるのが見えた。
「やっぱりここにいたんだ」
そう呟いて公園の中に入ろうとしたとき、公の足が止まった。
「俺は何をしているんだ?俺がいま彼女の元に行って、何を言えば良いって言うんだ」
自分はついさっき沙希のことを振った人間だ。
そんな男が行ったところで、どうにかなるもんじゃない。
そう考えた公は、近くにある公衆電話へと歩いていった。
そして、木本の家の番号を押した。
数十分後、暗闇の中に1点の灯りが見えて、どんどん近づいてきた。
「公!!虹野はまだいるのか?」
自転車から飛び降りた木本は、公の肩を掴んで激しく揺らした。
「あ、ああ」
それを聞いて安心した木本は、手を止めると公の目を見た。
「そうか。電話でも聞いたけど、お前は藤崎を選んだんだな?」
「ああ」
「お前も悩んだ末の結論なんだろう。虹野のことは任せておけ」
「頼む」
公は深々と頭を下げる。
「わかった」
木本は手のひらを公に向ける。
バチン
「じゃあな」
木本は公園の中へ、公は家へと足を向けた。
その頃、沙希はまだ公園にいた。
ここを離れることが出来なかった。
公との想い出が詰まったこの場所から。
「いろんなことが、あったよね」
目をつぶると想い出せれる。そこには自分と一緒に、いつも公がいた。
例え恋人同士でなくとも、楽しかった日々。
確かに公のことは諦めたが、この想い出を消し去ることは出来ない。
心に刻み込もうと、この2年半の公との時間を想い出す。
初めて公に会った、1年の体育祭。
「怪我を隠して走った彼。根性があるなあって思った」
垣根1枚を隔てて温泉に入った1年の合宿。
「恥ずかしかったなぁ、変なこと言っちゃって。公くんに抱きついたりもしたし。
それに、あのカレーは公くんの為に作ったんだよ」
公と一緒に行った初詣。
「ふふふ、下着姿を見られたのよね。責任取ってもらえなかったな」
地区予選決勝で負けたあの日、雨の公園で公に抱きついた。
「公くんの悔しさや悲しみを、一緒に感じたかった」
17歳の誕生日。
「私の部屋に招待したのよね。あの時、キスしておけばよかった」
1年と2年、2回あったバレンタイン。
「あのチョコは、私の最高傑作なんだから」
春の中央公園。
「一緒にお弁当食べて、昔の思い出話をしたっけ。小さい頃公くんと会っていたこともわかった」
そして、自主トレ。
物陰で見つめていた時間も入れると2年間もの長い時間になる。
「公くんのプレー、格好良かった。わたし、公くんの力になれたよね」
いろんな事が想い出される。
もう過去の物となってしまった想い出達。
「あの頃に、戻りたい」
ボソリと呟く。
「そして、そのまま時間が止まればいいのに・・・・・・」
ベンチの背もたれに寄りかかり、夜空を見上げる。
そこには、微かに星がきらめいていた。
「戻りたいけど、ダメだよね。私、諦められるよね」
もう一度呟くと、そのまま上を向いたまま脱力感を感じ、茫然自失となってしまう。
瞳は涙で潤んでいた。
その時、何かの気配を感じた。
沙希は上を向いていたので気が付かなかった。
「虹野」
「!!」
声の方を見ると、そこには木本が立っていた。
「木本くん?なんでここに」
「虹野・・・」
「さよなら」
木本がここに来た理由を話そうとしたとき、沙希は突然立ち上がって駆けだした。
泣き顔を見られたくなかったし、いまは誰とも話をしたくなかった。
「ちょっと待て」
「あん」
しかし、素早く反応した木本が、沙希の腕を取って引き寄せた。
「待てって、俺の話を聞いてくれ」
「・・・・・、なに?」
木本から顔を背けて呟く。
「虹野、公とのことは俺も知っている」
「え?」
ハッとなって思わず木本を見るが、すぐに背けてしまう。
「そう・・・・・なんだ」
「ああ」
「それで、話って何?」
尚更ここを離れたいと思った沙希は、先を促す。
「そう急かすなよ。そこに座って落ち着け」
「えっ?」
「ほら」
「う、うん」
木本は無理矢理引っ張って、沙希をベンチへと座らせた。
時間は8時半を回っていた。
公園はシンと静まりかえっていて、街灯の下に二人の影が浮かんでいた。
「虹野が公のことを好きだったことは、さっきも言ったとおり俺も知っているんだ」
「だった・・・・・」
木本は意識して過去形を使った。
沙希がそこだけ反芻する。
「私が振られたのも、知ってるんだ」
「ああ」
「・・・・・そう」
まだ諦めきれない沙希の表情が曇る。
もう公は来てくれない。だから木本に連絡したんだろうと想像が付いた。
「なあ虹野。お前が公のことを好きなんじゃないかってことは、公の口から聞く前に
勘づいていたんだ」
「えっ?そうなの?」
「公はホントに良い奴だよ。男の俺から見てもな。かなり鈍感なところを直せば、更にな」
「ふふふふ、そうね」
沙希に、ちょっとだけ笑顔が戻る。
「なんで気が付いたか、わかるか?」
「えっ?う〜ん」
今は頭が回らない沙希は、わからなかった。
「それはな、俺が虹野を見ていたからだ」
その言葉を聞いても、その時の沙希には理解できなかった。
「虹野が公のことを見ていたように、俺もお前のことを見ていたんだ」
沙希がサッカー部のマネージャとして、たちまち運動部のアイドルなどと
言われるようになったとき、木本は沙希のことを何とも思ってなかった。
毎日の後かたづけ、ユニフォームの洗濯、練習中の部員の世話などはマネージャーとして
当たり前の仕事であり、ちょこまかと走り回る姿を見ても、こう思うだけだった。
「なんであんなに一生懸命なんだ?」
沙希はいつの間にか、木本の話に聴き入ってた。
「変な女だって、思った?」
「ああ、思ったね。なんだあの女、ってね」
「ひどいな〜、ふふふ」
そんなことを面と向かって言われたのは初めてなので、新鮮だった。
「いつだったか、部員全員の弁当を作っているのを見たことがあるんだ」
それは1年生の時のGW、午前中に練習があった木本は、忘れ物があって
校舎の中を歩いていた。
すると、どこからか良い香りが漂ってきた。
辿って行くと家庭科室へと着き、ドアの窓から覗いてみると、中には沙希が一人いて
手際よく料理をしていた。
「あの時は驚いたぜ。40はあっただろ、弁当箱が」
「そうね」
「クラスの中では見ることが出来ない姿は、格好いいと思った」
「格好いい?」
意外な言葉に、ちょっと驚く。
「ああ。普段は、ドジでおっちょこちょいな所しか見てなかったからな」
「あ〜、そんなことないよ〜」
「あるよ」
「ふんっ」
プイッと横を向く。
「でも、なんでこんな弱小サッカー部のために一生懸命なんだろうって、見た瞬間は思ったんだ」
「むっ」
今でこそ、県大会でも上位に来る実力を付けたきらめきサッカー部だったが、
あの頃はそれこそ弱小だった。
それは確かなのだが、弱小という言葉を聞いた沙希は、キッ!と木本を睨んだ。
「ははは、怒るなって。でも、すぐにそれは違うとも思った」
「どうして?」
コロコロと表情を変えて、今度は首を傾げる沙希の仕草は、何とも可愛かった。
「料理をしている虹野の表情を見てな。なんて楽しそうなんだって、義務感なんて微塵もなくて、
純粋にみんなのためにやってるんだなって感じたんだ」
「うん」
「それからは、お前を見る目が変わった」
「どんな風に?」
「見返りを望まないで、一生懸命な人を応援して、出来うる限りの助力をする。
料理が上手くて、洗濯に掃除だってこなす。こんな女がこの世にいたのかって」
「ふふふ。お世辞を言っても、なにも出ないよ」
そう言いながらも、沙希はちょっと感激していた。
自分のことを、ちゃんと見ていてくれた人がいたということに。
その時、突然木本が沙希の両手を取って、強く握った。
「え?」
「お世辞じゃない」
木本は、ドキドキしている心臓を落ち着かせるために深呼吸をする。
「スー、ハー」
公が詩織を選んだときの事を思い浮かべて、覚悟を決めていた。
沙希に対する今までの想いを言葉にする。
「虹野、俺はお前が好きだ!!」
「え?え?」
沙希の頭の中は真っ白になった。
昨日までただのクラスメートだった男の子からの、突然の告白。
しかし自分は、さっき振られたばかりだ。
「そ、そんなこと言われたって」
「わかっている。公に振られて、傷心状態のお前に言うのは卑怯だということも。
でも、ずっと言えずにいたこの気持ちは、本物なんだ」
「だ、だって。わたし・・・・・、ダメだよ」
沙希はブンブンと首を振る。
「別に、今すぐ付き合ってくれって言ってる訳じゃない。ただ、俺の気持ちを
知っておいてくれれば、それでいい」
「・・・・・・」
「俺のことを見ていて欲しい。
そして、公のことを吹っ切ったときに、俺の存在をもう一度考えてくれ」
「木本くん」
真剣な木本の目を見ていたら、吸い込まれそうになった。
「それとな、公との想い出は、無理に忘れる必要なんてない」
「え?」
「好きだった人の事を忘れる必要はない。虹野が成長していく中の大切な過程
だったはずだ。公を好きだった気持ちごと、お前を包み込んでやれる自信が、俺にはある」
木本の真っ直ぐな気持ちを受けた沙希の目に、再び涙が込み上げてきた。
こんなにも、自分のことを想っていてくれたなんて。
「ただ、公を好きだった気持ちよりも、ほんのちょっとだけでも俺を好きになってくれれば、
それで良いんだ」
「うん、わかったよ」
沙希の顔に、一筋の涙が流れる。
「公のことを想い出して苦しくなったら、いつでも俺の胸を貸してやるぜ。
泣き足りないのなら、我慢しないで泣いてしまった方が良い」
「ふふふ、気障だね木本くんは」
「ははは」
木本の優しさに触れた沙希は、そのまま木本の胸に顔を埋めた。
さっきあんなに泣いたのに、また込み上げてきた。
「ごめんなさい。ちょっと、借りるね」
「ああ」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーー」
木本は沙希の肩を抱き寄せ、優しく包み込んだ。
しばらくすると、やっと落ち着いてきた。
木本の大きな胸に抱かれていると、公とはまた違う安らぎを感じる事が出来た。
「ねぇ。公くんが私を振ったことで、あなたとの仲が悪くなったりしないよね」
「ああ、そんな柔じゃないよ、俺達の友情は」
「良かった」
それを聞いた沙希は、心底安心した。
あんなに仲の良い二人が、自分のために喧嘩するなんて耐えられないことだ。
「待ってるから。俺を選んでくれたときは、ずっと守っていくから・・・」
「うん。でも、他の人を好きになるかも」
「な!?ここまで言わせて、そうくるか」
「ふふふふふふ」
これからも、何度か悲しくなることがあるかもしれない。
しかし、自分には支えてくれる人がいた。
この先、木本のことを好きになるのかはわからないが、いまはそれだけでも良かった。
沙希の顔に、本当の笑顔が戻った。
つづく
あとがき
みなさん、長らくお待たせしました。
初めて3週間も開いてしまいましたね。
ちょっと仕事が忙しくて。
渾身の作の第47話はいかがだったでしょうか。
またしても木本が大活躍でしたね。木本ファンが急増するかも。
でも、公の優しさもわかってください。
振った女性を慰めるなんて、残酷なことです。
そこの所を理解して、48話を待っていてください。
それにしても、沙希を何回泣かせたことか。
悲しいことで泣かせるのは、今回で最後です。たぶん(^_^;)
木本の出現で、これからは、笑顔いっぱいの沙希ちゃんになるはずです。
しかし、「公を好きだった気持ちごと、お前を包み込んでやれる自信が俺にはある」
という木本のセリフは、まんま某有名漫画ですね。
では、次回もお楽しみに。