「My wish・・・」

                       第51話 「通じ合う気持ち」


                                      第50話     目次へ戻る     第52話


 冷たい風が吹くようになった11月、いよいよ高校生活最後の全国大会が始まる。
 インターハイ準決勝で惜しくも敗れたきらめき高校は、今度こそ全国優勝するべく練習に励んでいた。
 予選では毎年上位に進出していたきらめきではあったが、ここ3年間の躍進には
 目を見張るものがある。
 初の全国大会出場に加えて上位進出の成績を残したのは、快挙と言ってもいい。
 そしてそれは、今年のキャプテンである木本明とエースの主人公の功績によるところが大きい。
 全国優勝できるのは、この二人がいる今回しかないと、理事長を始め、PTA、全校生徒が
 期待している。
 きらめきバスケ部史上最高と言われるコンビは、その期待を一身に背負っていた。


「よおっ、調子はどうだ?」
 昼休み、自分の席でくつろいでいた公に、好雄が話しかける。
「ん?順調さ。優勝出来る力はあるはずだ」
「そっか、そっか。優美の奴は絶対に全国優勝するんだーーーーーって、意気込んでたけど、
 女子もいけそうなのか?」
 女子はインターハイ予選で末賀に惜敗したため、夏は全国に行けなかった。
 しかしインターハイでは、その末賀がベスト8まで進出していた。
「そうだな。全国でも十分通用するとは思うけど、男子に能城がいるように、
 女子には桃花がいるからな」
「そうだよな〜」
 腕を組んで、知った風に頷く。
「そういえば。お前らまた雑誌に載ってたな。羨ましい奴」
「ははは、代わってやれないのが残念だよ」
 以前に載ったことがあるバスケの専門誌に、「ウィンターカップの展望」という特集の中で、
 きらめき高校が男女とも紹介されたのだ。
 いまや高校バスケット界では、木本、公、詩織の三人を知らない者はいない。
「くっそ〜」
「あっ、やめろって」
 好雄はヘッドロックをかけ大きく揺らし、やり場のない怒りをぶつけた。



 ウィンターカップ県予選が明後日に迫ってきた。
 地区予選を圧勝で優勝したきらめきは、順調に駒を進めていた。
ピーーーーーーー
 体育館に、マネージャーが吹いた笛の音が響き渡る。
「よしっ、今日の練習はここまでだ。集合!!」
「オッス」
「はい」
 コーチの掛け声に、男女の部員が全て集まる。
「よく今日まで頑張ってきたな。いよいよ明後日から県予選が始まる。男女とも末賀とは
 決勝まで当たることはないが、それまでの相手も油断するなよ。目標は全国優勝なんだからな」
「はいっ」
「よしっ。明日は一日休みだ、しっかり休養するように。解散」
「お疲れさまでした」
 部員達は、片づけの1年を残し、明日の休みをどうするか話しながらゾロゾロと部室へと
 移動していく。
 そんな中、男女の3年生が部室棟途中の中庭に集まった。

 進学を理由に退部した者を除くと、3年で残っているのは男子6人、女子7人だ。
 思い思いの格好でくつろぎながら、今までのことを思い出す。
「コーチも言ってたけど、ホントに頑張ったよな〜、俺達」
 竹原が切り出す。
「そうねぇ」
 奈津江たち女子も頷く。
 この3年間、苦しい練習を共にしてきた仲間。
 毎日の練習、合宿、そして試合をこなしてきた。
 中にはベンチ入りできても、数えるほどしか試合に出ていない者もいる。
 しかし、全国レベルのきらめきで練習してきたという自負がある。
 きらめきが勝ち進めば、それだけ自分の実力をも測れる。
「頑張ってくれよ、スタメン組」
 ずっとベンチ組だった宮木が、木本に想いを託す。
「ああ。任せてくれ」
 木本が力強く言うと、公達も口々に頼もしい答えを返す。
「この大会で最後だと思うと、感慨深いね。頑張って末賀を倒しましょう。よろしくね、キャプテン」
 結衣が詩織にウィンクする。
「うん。みんなで全国に行こうね」
 詩織が女子と男子を見渡し、最後に公を見つめる。
 公は詩織を見つめ返し、無言でニコリと微笑んだ。
「あ〜、コホン。そこそこ、二人の世界を作らないの」
 奈津江がツッこむ。
「え?」
 言われて周りを見ると、公以外の者すべてがにやにやと笑っていた。
 公に視線を戻すと、別の方向を見ながら鼻の頭を掻いている。
「も、もうっ。知らない!!」
 自業自得なのだが、拗ねた詩織は一人でスタスタと出口へ歩いていった。
「待ってよ、詩織〜」
「キャプテ〜ン、ふふふふふ」
 みんなが笑いながら、奈津江を先頭に詩織を追いかける。
「相変わらずだな、お前らは」
 ゆっくり歩きながら、木本が公に耳打ちする。
「ほっとけ。お前こそ、沙希ちゃんとはどうなんだよ」
「俺か?・・・・・な、何もないぞ」
 木本は目を逸らすと、何も答えずに背を向けて歩き出した。
「なんだ?怪しいぞ。待てよ」
 その呼び掛けに止まることなく行ってしまう木本の後ろを歩きながら、今夜にでも
 からかってやろうと思った。



 県予選会場となった体育館では、初日から熾烈な応援合戦が繰り広げられた。
 トーナメントで1校のみ全国への切符を手に入れられる最終予選は、選手達が
 それまでの練習の成果を発揮して、様々なドラマを生み出していく。

 県予選にもかかわらず、会場は観客で溢れていた。
 2日目の今日は、第一シードのきらめき高校が初戦を迎えたからだ。
 木本と公の人気も相まって、ほとんどはきらめきのファンで埋まっていた。
「頑張れ、きらめきーーー。あっ、そこよ明くん」
 上にある観覧席で応援していた沙希が、木本へ向かって叫ぶ。
『わかってるって』
 歓声で包まれているコート内で沙希の声を聞き分けた木本は、心の中で呟きながら、
公へと鋭いパスを放つ。
「ナイス!!」
 ボールを受け取った公は、ワンドリブルで一人をかわして、ゴールへと一直線に切り込む。
「いっけーーーーーー」
 今度は沙希の隣で詩織が叫ぶ。
ガコン!!
 ダンクで豪快に叩き込む。
「やったーーーーー。これで30点目よ」
 詩織は沙希の手を取り、身体を揺らして喜ぶ。
「流石ね」
「うふふ」
「きゃ〜〜〜、公さ〜〜〜ん」
「むっ!!れ、冷静に、冷静に」
 詩織は胸に手を当てて深呼吸をする。
 周りには、公のファンである女子中高生が沢山いる。
 彼女という地位についた詩織は、いちいち怒っても仕方ないと思いつつも、
 嫌な気持ちはあった。
「詩織ちゃん、たいへんね〜」
「そうねぇ。いつまで経っても慣れなくて」
 他人事の沙希が呑気に言うと、別のところから声援が聞こえてきた。
「木本さーーーん、頑張ってーーーーー」
「えっ?」
 派手なプレーが目立つ公に対して、木本のプレーは地味に見えるが、あのパスワ−クは
バスケ経験者でなくても、見る者を魅了する力がある。
 沙希が声のした方を見ると、そこにはボブカットの可愛い女子高生が、木本に向かって
声援を送っていた。
「木本くんの人気も相当上がってきてるわね。沙希ちゃんも大変ね〜」
「う、うん。そうみたい。ふふ」

「「ふう」」

 同時に溜息を吐く。
 お互い有名人の彼を持った、贅沢な悩みであった。


 試合は当然のように、きらめき高校の圧勝だった。
「85対45で、きらめき高校の勝ち」
 審判が宣言して、試合が終了する。
「ありがとうございました」
 選手達は礼をしてベンチに戻ると、応援席に挨拶をしてから控え室へと向かった。
「楽勝だったな」
「ああ。こんなところで、もたついてられないぜ。なあ、石崎」
「・・・・・」
 竹原が石崎の肩を叩くが反応がない。
「どうした石崎」
「え?い、いえ、何でもないです」
 ハッとして顔を上げる。
「そうか?ならいいけど。このまま優勝だ。なあ、キャプテン」
「当然」
 そんなことを話しながら歩いていると、前から末賀の選手が歩いてきた。
「そうは簡単に行かせないぜ」
「そうですとも」
 橋本と松本を先頭に立ちはだかる。
「ヒデか。そっちはこれからか?」
「ああ。今回は必ず決勝まで行くからな」
 インターハイの予選できらめきと対戦する前に敗れてしまった末賀は、今までにないくらい
 厳しい練習を積んできていた。
 橋本を中心に身長の高い選手を揃え、伝統の高さを生かしたバスケを例年以上に完成させてきた。
「また転けるなよ」
 木本が笑いながら言う。
「あの頃は、まだまだコンビネーションが未完成だったけど、もう死角はないぜ」 
 橋本は自信満々に答える。
「そうか。じゃあ着替えたら、ゆっくり偵察させてもらうよ」
「どうぞご自由に。じゃあな」
 お互い真剣な視線を交えると、それぞれ一人ずつとハイタッチをして、すれ違って行った。



 木本達は着替えると、言葉通り観客席で末賀の初戦を観戦した。
 橋本が言うだけあって、末賀のバスケはかなり高い次元に到達していた。
「すげーーーな」
「ああ」
 菊川の感想に、公が同意する。
 想像以上に、コート上の末賀は良い動きをしていた。
 一目で、夏と比べると段違いに強敵になっているのが分かった。
「たぶん、まだまだ全力には程遠いだろうけどな」
「そうだな。まっ、俺達だってそうだけど」
「相手に取って不足はないな、公」
「うん。対末賀用に用意していた戦術が、無駄にならずに済みそうだ」
「そうだな」
 末賀の伝統である高さのバスケに対抗するべく、今までにないディフェンスを用意し
 練習を積んできた。
「やっぱり、末賀はこうでなくちゃな」
バチン!!
 竹原が、右拳で左手の平を叩く。
「やる気が出てきたって、感じだな」
 公を始め全員が頷き、コート上の末賀選手へと目を移す。
 昨年のウィンターカップ予選以降、きらめきと末賀は対戦していない。
 皆、なにか物足りない思いを抱いていたのだ。
「よしっ、スタメンは自分がマークする奴を確認しておけよ。ベンチ入りしている者も、
 よく見ておけ」
「はい」
 その試合は、末賀の圧勝で終わった。



 3日後。
 詩織はいつものように、公の部屋にお邪魔していた。
 しかし、今日はいつもとちょっと違う。普段ならピッタリくっついているのだが、
 今日はそうもいかない。
 前に座り、緊張した面もちをしている。
「いよいよだね」
「そうだな」
 日程は順調に消化され、明日は男女共に決勝が行われる。
 きらめき高校は、もちろん男女とも決勝まで進んだ。そして相手は、どちらとも末賀高校となった。
「男子はどう?勝てそう?」
「そうだな。末賀は一時衰えたけど、橋本を中心に力を付けてきたよ」
「そうね」
 詩織の表情が暗くなる。
「大丈夫だって。末賀対策はしてきたんだし、絶対勝つよ」
「うん」
 詩織の顔に笑顔が戻ると、公は微笑みながらテーブル越しに頭を撫でる。
「ふふふ、くすぐったいよ」
「女子は勝てそうか?」
 公の問いに詩織の顔から笑顔が消えて、真剣な表情になる。
「そうね。流石に手強いけど、十分に勝てると思うわ。夏の決勝で負けたとき、
 公がアドバイスしてくれたよね。あの後みんなと話したんだけど、それまで以上に
 解り合えた気がするの。それをきっかけにチームワークが格段に上がったわ。ありがとう」
「実行したのは詩織さ」
「でも、やっぱり恐いわ。一人でいると、悪い考えばかりが頭に浮かんでくるの。
 また夏のように負けるんじゃないかって、恐いの」
 軽く頭を振り、自分の身体を包むようにギュッと肩を掴む。
「あっ」
 目をつぶり微かに震えていると、不意に温かいものに包まれる。
「公」
 後ろから抱いている公の手から、詩織の肌に優しさが伝わってくる。
「詩織なら、大丈夫さ」
「うん、ありがとう。頑張るね」
 こうして公に抱かれていると、不安が消えていく。
 公が詩織の腕を解いて抱き直すと、満ち足りた表情で身体をゆだねた。



 決戦の時が来た。
 先程3位決定戦が終わったコートでは、女子決勝が先に行われるため、
 きらめきと末賀の女子部員達が練習をしていた。
「まずは私たちが勝って、男子の勝利の景気づけをしなくちゃね」
「そうね」
 奈津江と詩織が話していると、末賀ベンチに橋本の姿が見えた。
 女子部の娘達を、励ましているのだろうか。
「奈津江ちゃん、橋本くんのために手を抜いちゃダメだよ」
「な、なに言ってるのよ。私とあの人とは、結ばれない運命なのよ」
 顔の前で手を組んで、橋本のことを見つめる。
「えーーー?ふふ。そんなこと言っちゃ、芹沢くんが妬いちゃうよ」
「な!!あいつは、そんなんじゃないったら」
 プイッと横を向くと、応援席にいる芹沢勝馬と目があった。
「奈津江ーーーーー、頑張れよーーーーー」
「は、恥ずかしいから、大声出さないでよ、勝馬!!」
「ふふ」
 誰もが認める恋人同士の二人なのに、いつまで経っても素直になれない奈津江と勝馬。
 これでは、公と詩織よりも始末が悪い。
「あはは。大事な試合の前に、何やってるんだか」
 結衣や他の部員達から笑いが漏れる。
 なんともリラックスしている二人の会話と雰囲気は、みんなの身体から緊張を解いていく。
 試合開始まで、あと10分と迫っていた。



 1時間あまりが経過した。
 会場の周りにある廊下に、きらめきの男子チームが集まっている。
「女子はどうなってるんだ?」
 公が心配そうな顔で、歓声が聞こえる方を見る。
 今まさにコートでは女子の決勝が行われていて、後半も終盤に突入しているはずだ。
 公達も前半の途中までは応援していたのだが、この次に男子決勝がすぐにある
 ので、ウォーミングアップをするために出てきていた。
 屈伸をしながら公がソワソワしていると、偵察に行ってもらった1年が帰ってきた。
「先輩」
「どうだ?」
 早く教えてくれと、急かした目をして後輩を見る。
「はい。後半残り4分で、51対55で負けてます」
「そ、そうか。ツーゴール差だな」
 前半の様子から接戦は予想していたとはいえ、かなり苦しそうだ。
「木本」
 立ち上がりながら、木本の顔を見る。
「ああ。アップはもう良いだろう」
 公はその言葉を最後まで聞かない内に、全速力で駆けだした。



タタタタタタ
 コートへと続く廊下を走っていると、中の歓声が段々と大きくなる。
 薄暗い照明の廊下の先に入り口があり、明るい光が差し込んでいた。
 その光の中に入ると、公の目と耳に、中の様子が飛び込んできた。

『先輩』
 厳しいディフェンス合戦の中、優美が詩織に向かって手を挙げる。
 しかし、ポイントゲッターに成長した優美のマークはきつく、この試合は思うように
 点を取れないでいた。
『優美はダメだわ、マークが離れない』
 優美に付いている選手は末賀NO.1のディフェンスプレーヤーで、マンツーマンに
 変わってからというもの、詩織〜優美のラインを、ほぼ完璧に抑え込んでいた。
 それならばと、周りを見渡してラインを探す。
「そこっ」
 末賀の堅い守りをかいくぐって、詩織が結衣へとパスを出す。
 自主トレの成果か、木本のような鋭さだ。
ビュン
パシッ
「よしっ」
 結衣がボールに両手を添えてシュート体勢に入ると、審判が3本指を立てて
 手を挙げるのと重なるように、応援席から声が上がる。
「スリーーーーー」
 3ポイントライン外側から勢いよく放たれたボールは、綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれる。
ザシュ!
「ナイス、結衣」
 これで56対58の2点差。
ビビーーーーー
 堪らず末賀ベンチがタイムアウトを取る。
 勢いが、追い上げる側のきらめきにあると見たのだ。
 それを断ち切ろうとする。
「はあ、はあ。あと3点、このまま逆転するわよ」
 詩織がタオルで汗を拭いながら檄を飛ばす。
「OK」
「うん」
「先輩、優美にください。今度は決めますから」
「うん。通りそうなら出すから、きっちりマークを外す動きをするのよ」
「はい。分かりました」
 きらめきの士気は上々だ。



ビビーーーーー

 残り時間は、あと1分17秒。
 末賀は時間いっぱい使って、きらめきのオフェンス時間を減らそうとする。
「ディレイドオフェンスか、常套手段よね。でも、そうはいかないわ」
 詩織がパスを回している末賀の隙を見つけて、手を伸ばし飛び込む。
「しまった」
バシッ
 宙にあったボールが軌道を遮られて地面に落ちると、詩織がそれを素早くキャッチする。
「ターンオーバー」
 末賀もすぐに反応して、自陣へと戻る。
 詩織はドリブルをしながら、視界の中に優美の姿を探す。
 優美は自分をマークする末賀選手を、渾身のダッシュで振りきっていた。
「よし!いけーーー」
ビュン
「きた」
 チラリと後ろを見た優美は、周りを見ながらパスを受け取る。
「あっ」
 目の前には、すでにフォローが来ていた。
「ダメだよ〜」
「戻して」
 動けなくなっているところに、詩織から声が掛かる。
「はい」

『後ろよ!』

 優美がバックパスをしたとき、詩織の目が何かを言っている気がした。
 すぐに前を見た優美は、その何かを感じ取り、前にいたディフェンスを外側から
 グルリとかわして、後ろに回り込む。
キュキュ!!
「あっ!ブラインド?」
「それよ、はい!!」
ドン
 詩織からパスが通る。
「今度こそ」
「ダメ」
 接触しそうなほど接近していたディフェンスの二人は、優美の動きに付いていけない。
 更にもう一人がブロックに跳ぶが、時すでに遅く、シュートされたボールが指先の上を通過する。
「遅いよ、っと」
ザシュ
「ナイシューーー」
 これで58対58の同点だ。
「やったーーーーー」
 優美はディフェンスに戻りながら、ベンチにいるいずみに向かって手を振る。
「ナイス、優美。時間がないから、みんなもスティール狙って」
 戻りながら指示を出す。
「わかった」
 残り44秒で同点。末賀は当然またパスを回す。
 30秒いっぱい使って2点差にして、10秒ちょっとの時間を守れば勝ちだからだ。
「そうはいかない」
 今度は沙絵が、キープしていた選手からボールを奪う。
「速攻」
 沙絵は詩織にパスをすると、ゴール下へ走り込む。
『あと34秒か』
 詩織に付いた末賀選手はボールを奪わんと必死だが、逆に冷静に最後のオフェンスを組み立てる。
 目の前には二人が好機を窺っていて、不用意には突っ込めない。
 ここは、やはりパスだ。
「沙絵」
 ゴール下に入った沙絵にボールを出すと、今度はそちらに末賀選手の気が集中する。
「ダメ」
 シュートできず仕方なく詩織に戻すと、今度はパスを回して隙を作ろうとする。

『流石。最後の最後に、良いディフェンスをするわ』

 どうしようかと迷っていたその時、詩織の前にちょっとした空間が出来た。
 この試合、詩織はガードに徹して、自ら得点を取りに行くことは、いつもよりも少なかった。
 それが影響したのか、末賀選手の気持ちが詩織よりも他の選手に多く行っていたため、
 詩織のマークが薄くなった。
 詩織の目に、ゴールまでの道筋が見えた。

『詩織、前だ』
 応援していた公にも見えた。
 心の中で詩織に叫ぶ。

『そこ』
 走り出した詩織に驚き末賀が身体を動かすが、一瞬遅れた。
 間に割って入るその動作は、会場にいる全ての者が、何かスローモーションを
 見ているような感覚に陥った。

ダン・・・・・ダン・・・・・ダン

「いけーーーーー」
バッ!
 軽快にジャンプすると、最高到達点でボールを放つ。

『『入れ!』』

 詩織と公の想いがシンクロする。
 その想いに乗るように、ゴールへと向かったボールがネットを揺らす。
ザシュ
「逆転だーーーーー」
 観客のボルテージも最骨頂。
「まだ時間はある」
 末賀のガードは諦めずに、ボールを持つときらめき陣内へ走ったフォワードに遠投する
「みんな、これが最後よ。ファールに気を付けて」
 残り9秒、まだチャンスはある。
 ここで点を許しても同点だが、気を抜いたらミスをしかねない。
 ファールをして、ワンスローを与えるわけにはいかない。
『負けない!!』
 詩織、奈津江、沙絵、結衣、優美が、心を一つにして最後の守りをする。
「5・4・3」
 観客のカウントダウンの中、末賀が苦し紛れのシュートを放つが、奇跡は起こらなかった。
「2」
ガンッ
 弾かれたボールを、沙絵がリバウンドに跳んで奪う。
「1・0」
バンッ
 終了のピストル音が響く。

「か、勝ったーーーーーー」
「やったーーーーーーーー」
「詩織ーーーーーーーーー」
「せんぱーーーーーーーい」
「みんな」

 優美が詩織に抱き付くと、その周りを奈津江らが囲んで飛び跳ねる。

「やった、やったね」
「うん」
「優勝だよ」
「うん」
「詩織のお陰だよ」
「ううん。みんなの努力の成果よ」

 ベンチでも喜びの表情が咲き、恵といずみが抱き合っていた。
「やりましたね」
「うん、良かった」
 恵の目に涙が浮かぶ。


 夏の雪辱を果たし優勝を飾った女子だが、ここは通過点でしかない。
 詩織も嬉し涙を流していたが、その瞳は、すでに全国の強豪達に向けられていた。
 そして、どこかにいるであろう公の姿を探す。
「公」
 公を見つけると、大きく手を振る。
「詩織」
 聞こえるはずはないのだが、目を見れば二人には分かる。

『今度は公の番よ。また一緒に全国に行くんだからね』
『任せろ。絶対に勝つ』

 それは、二人にしか分からない会話だった。


    つづく

   あとがき

 長らくお待たせしました。
 何かと忙しくて、なかなか筆が進まなかったんです(T_T)

 また、予定していた話数より増えてしまいました。
 始めは、この話で男子決勝を終わらせようと思ったのですが、
 夏の予選で女子がああいう風な負け方をしたし、
 ただ勝ったと書くだけでなく、キチンと書いて盛り上げないといけないなあと
 思い直し、こうなりました。
 男子は、もっと盛り上がるように頑張らねば。

 7月27日には、ジュニアの3連戦で中国戦が地元であるのですが、
 3年連続3冠を達成した能城工業のトリオ(田伏、菊池、若槻)がスタメンで帰ってきます。
 それを観戦して、今後の参考にしたいですね。

 最後の、詩織の前に道が出来たようだというシーンは、
 実業団のシャンソン化粧品vsジャパンエナジー戦で、
 実際にあったのを参考にしました。
 ちなみに、作者はシャンソンの三木聖美選手のファンです(^_^)

 今回は母親’sの出番がありませんでしたが、
 公と詩織の良い雰囲気を壊したくなかったためです。
 こういうのも、たまには良いでしょう。


 52話も時間が掛かりそうですが、
 首を長〜くして待っていて下さい。
 では、これからもよろしくお願いします。(^^)/~~~

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