「My wish・・・」
第53話 「告 白」
第52話 目次へ戻る 第54話
ウィンターカップ予選は、きらめき高校のアベック優勝で終わった。
全校生徒が喜びに沸き、優勝報告会は今までにない盛り上がりを見せた。
しかし、いつまでも浮かれてはいられない。期末テストが迫っているからだ。
カチャ
「公、勉強はかどってる?」
「わあ!!」
ガラガラ
ドアが開く音に、慌てて読んでいた雑誌を机の引き出しに隠した。
「なんだ詩織か?ま、まあまあかな」
振り返った公が、ホッと一安心する
「あーーー、なに読んでたの〜?」
「え?なにも読んでないぞ」
明らかに嘘と分かる口調だ。
「どうせイヤらしい本なんでしょ。出しなさい!!」
「違うって、ああっ」
詩織は机の引き出しを強引に開ける。
「あっ」
それはHな本ではなく、バスケットの雑誌だった。
表紙には、能城の三人が写っている。公達も載っているウィンターカップの特集号だ。
「なにも隠すことないじゃない」
「母さんは、うるさいからな」
「そうなの?厳しいね。テストが終われば、すぐだね」
「ああ。今度こそ、悔いがないようにしないと。出来れば勝ちたいけど、夏みたいな
怪我には注意しないとな」
「そうね」
あの時の事は忘れられない。
怪我をしなかったら勝っていた、とは言えないが、悔いが残る負け方だった。
「でも、その前にテストでしょ?」
ボフッ!!
詩織はベットに腰掛ける。
「ちゃんとやってるって」
「もうっ、公も推薦じゃなくて受験するんだから。ちゃんとやらないと」
「わかってるって」
公は結局、進学することにした。
もちろん公と詩織の二人とも、バスケによる推薦話はあったのだが、すべて断っていた。
何故なら、二人同じ大学に通いたいのに、同じ大学からは話が来なかったのだ。
それと、受験する大学の中には、詩織がどうしても通いたい大学があった。
本戦が近付いてきているが、同じキャンパスで学ぶために努力していた。
まあ、詩織は毎日の積み重ねがあるから大丈夫なのだが・・・・・。
「何次募集でもいいから、引っかかってくれればいいよ」
今では成績もそれなりに良い公だが、そんなに甘くはないだろうと見ている。
「でも、やっぱり1次募集で受かるように、一緒に頑張ろ」
「ああ。頑張るよ」
「よし。あっ、そういえば。ウィンターカップもそうだけど、その前にクリスマスだね。
伊集院くんから招待状は来た?」
「ああ。これね」
2段目の引き出しから、金色の封筒を取り出す。
「来てるよ。でも、今年は二人きりのクリスマスに・・・・・・・・・」
「ダメよ!!」
「え?な、なんで」
突然の大声と、まさか断られるのかと思い、心臓をドキドキさせた。
不安な想いが表情に出たのだろう、詩織は慌てて否定する。
「あっ、二人きりが嫌な訳じゃないのよ」
「じゃあ、どうして・・・・・」
理由が分からず困惑する。
「あ、あのね。二人きりになるのは、パーティーの後でも良いじゃない」
「それは、そうだけど」
「今年は高校生活最後のクリスマスだし、伊集院くんの家に行くのも
最後になるかも知れないでしょ。だから、ね」
「う〜ん。詩織がそう言うなら、それでも良いけど」
「そう?良かった」
詩織は思いっきり安堵する。
その顔を見て、公が突っ込む。
「詩織、何か隠してないか?」
「え?え?何も隠してないわよ」
「ホントか〜〜〜?」
あからさまに疑いの眼を向ける。
以前は超が付く程の鈍感男だったのに、最近は人並みになってきていた。
「ないわよ」
詩織はそっぽを向いて否定する。
「嘘を付くな〜」
「え?きゃあ〜」
その大声に反応して振り向くと、公の身体が迫ってきていた。
ドサッ!!
「きゃあ、きゃあ、どこ触ってるのよ?」
「隠してるだろ」
「隠してないったら〜」
ベットの上でドタバタと騒いでいると、下から声がした。
「公〜、何やってるの?うるさいわよ!!」
その声に我に返った二人は、ピタリと止まり視線が合った。
「ははははは」
「ふふふふふ」
ひとしきり笑うと、お互い黙り込む。
そして詩織が目をつぶると、公はそっと顔を近づけて唇を重ねる。
「ん」
キスをするのに理由などない。
見つめ合えば、なにもなくても磁石のように引きつけ合う。
数秒後、名残惜しそうに離れる
『はあ。公ったら、最近キスが上手になってきたんじゃないかしら』
公に肩を抱かれながら、そんなことを思った。
『ごめんね、公。ホントは隠してることがあるの』
詩織は、先日のレイの話を思い出した。
10日前の昼休み、いつものように公とお弁当を食べた後、レイに呼び出された詩織は、
レイが昼休みに使用している別室へと招かれた。
そこは、レイが学校の中で、唯一本当の自分に戻れる場所だった。
髪留めを取り、女として詩織と向かい合う。
「こんな所があったんだぁ〜」
20帖はある洋室にペルシャ絨毯が敷かれていて、アンティーク調のテーブルが窓際にあり、
高そうな絵画が飾られていた。
「あっ、これミュシャでしょ」
「そうよ。ゴッホやシャガールも良いけど、こういった一般大衆向けのポスター調の絵も好きなのよ」
「そうよね。いいなぁ。私も好きなの」
ミュシャは今から100年ほど前に活躍した画家で、アールヌーボー調の画風を確立した人物だ。
主に大衆向けの宣伝用ポスター等を手がけた。クッキーの箱や劇場のポスターなどがそれだ。
詩織は、ふくよかな女性が描かれている絵に見入った。
「さすが詩織さん、趣味が良いわね」
「ふふふ。そんなこと言っても、何も出ないわよ」
「そう、それは残念」
レイは明らかに気落ちした表情を浮かべた。
「え?え?どうしたの?」
「いえ、何でもありません。グスッ」
と言いながら、横を向いてハンカチを目頭に当てて、泣き真似をしてみる。
「あ、あの、その」
レイが泣く所なんて見たことがないから、至極慌てる。
「実は、お願いがあるんです。聞いてくれますか?」
瞳をウルウルさせて詩織を見つめる。
「え、ええ。何でも言って。私に出来ることなら、何でもするから」
「そうですか」
レイはパッと明るくなり、表情をコロッと変える。
「あっ、もうっ!!」
騙されたことに気が付いた詩織は、プウっと頬を膨らます。
「ふふふ。実は、クリスマスパーティーのことなんだけど」
一転、神妙な顔になる。
「え?ええ」
つられて真面目な顔になる。
「今年も恒例のクリスマスパーティーを開催するんだけど、公さんに、ぜひ来て欲しいの」
「え?それだったら、招待状を出せば出席すると思うけど?」
「でも今年は、あなた方が付き合い始めて最初のクリスマスですし、
いくら鈍感なあの人でも、二人で何処かに行こうと考えてると思いますよ」
「そ、そうかな?」
付き合っていながら、いや、よく分かっているからこそ、あの公に、
そんな甲斐性があるとは思えない詩織は、首を捻って一考する。
「そうですよ。それで、二人きりになるのはパーティーが終わった後にしてもらって、
ぜひ出席して欲しいんです」
懇願するように、胸の前で手を組んで見つめる。
「わかったわ。必ず連れて行くから」
「そうですか。ありがとうございます」
レイは満面の笑みを浮かべる。
『何をする気なのかしら、・・・・・それにしても、整った顔よね・・・・・』
女の自分から見ても、こんな女性がいるのかというほど感心する。
マジマジと、レイの顔を覗き込む。
『ま、まさか』
一瞬、詩織の胸に不安がよぎった。
それを察したレイが付け加える。
「もう1回告白する訳じゃないから、心配しなくても良いわよ」
「え?」
「そう思ったんでしょ?」
「う、うん」
「しないわよ」
「そ、そう」
ホッと一安心する。
「まあ、告白と言えば、告白なんだけど」
詩織には聞こえない、小さな声で呟いた。
「え?なにか言った?」
「いいえ、なにも。じゃあ、よろしくね」
「うん。わかった」
それからは、たわいもない話題で盛り上がって、午後の授業が始まるまでの間
おしゃべりをしていた。
ということがあったのだ。
『一体、何をするのかしら』
レイが何をするのか分からないが、もし、もう一度告白するのだとしたら、
公がどう答えるのか気になった。
「ねえ、公」
「なに?」
「もし、もしもよ、伊集院くんが女だったら、どうする?」
「はあ?」
天地がひっくり返っても考えない予想外の事を聞かれて、思いっきり間抜けな返事をする。
「なんだぁ、それ?」
「もしも彼が女の子で、公の事を好きだって言ったら、どうするのかなぁって」
「んん?逆玉だったらって、ことか?」
何を言いたいのか図りかねた公は、男も女みたいに伊集院家に憧れるのか
聞いているのかと考えた。
「う、うん。そういうこと」
少しの間、沈黙が続く。
詩織はたまらず、近くにあったクッションをギュッと抱いて答えを待った。
「そんなこと考えたことなかったな。でも、例えそうだとしても、俺には詩織がいるからな。
関係ないよ」
「ホントに〜?」
「ホントだって」
「良かった」
ポフッ!!
詩織は、公の肩に頭を乗せて微笑んだ。
クリスマスの朝。
「いよいよだわ」
屋根付きの豪華なベットから起きあがり、ネグリジェ姿のレイは、窓に手を当てて外を見た。
部屋の中は朝早くから暖房が入っていて暖かいが、空は曇っていて、いかにも寒そうだ。
「ふう。来てくれるかしら」
詩織に頼んだ日から数えて、いったい何回目の溜息だろうか。
終業式の日に公と会ったとき、パーティーの話をしたのだが、素直に来て欲しいなんて
言えるわけもなく。
『君のことだから、お金がなくて藤崎くんと二人で豪華な食事も出来ないだろう。
我が伊集院家のパーティーに来れば、世界でも指折りのシェフが作った料理が
タダで食べられるのだから、良かったら来たまえ。ハハハハハハ』
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などと、またしてもイヤな言い方をしてしまった。
いつものこととはいえ、その日の夜は、今までで最高の自己嫌悪に陥ってしまった。
「大丈夫よね。詩織さんが連れてきてくれるわ」
壁に掛かっている紫色のドレスを見る。
「どんな顔するかしら」
公を目の前にする時のことを考えると、今から胸の鼓動が早くなる。
トントン
「は、はい」
突然のノックに、返事がうわずってしまった。
「レイ様、朝食のご用意が出来ましたが。いかが致しますか?」
廊下から外井の声がする。
いつもは食堂に行って家族みんなで食べるのだが、今日は顔を会わせずらい。
「今日はここで食べますから、持ってきてください」
「はい、畏まりました」
「ふう」
レイは椅子に座り、外井が戻ってくるのを待った。
日が暮れ、夜の街がカップルで賑わい始めた頃、広大な敷地の中に見事にライトアップされた
伊集院家が浮かび上がった。
伊集院家に縁のある様々な世界のトップが集まる中、レイとメイ兄妹の友人達も、
続々と門をくぐっていた。
「公、ちゃんと買ってきた?」
「ああ。でも、何で2つも買わなきゃいけないんだよ?前もって勝手置いた詩織のも入れると、
3つだぞ3つ」
パーティーで行われるプレゼント交換用と、もう一つ買ってくるように詩織に言われ、
なけなしの貯金を下ろして買ってきたのだ。
「いいの!!むこうも何か用意してると思うから」
「むこう?何だよそれ」
「う、ううん。何でもないよ、早く行きましょう。はい」
「ようこそいらっしゃいました。中へどうぞ」
黒服に招待状を渡し、公の手を取って歩いていく。
「お、おい、詩織。・・・・・・・・・・何なんだよ」
公は引かれるままに足を動かした。
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中に入るとすでに始まっていて、オーケストラによる生演奏が厳かに流れていた。
公と詩織は、ウエイターからノンアルコールのシャンパングラスを貰うと、
知ってる顔を探しながら歩き出した。
「ん?」
公は、好雄が女の子をナンパしているのを見つけた。
「懲りないなぁ、あいつも」
「ふふふ、そうね。あっ!!」
パンッ
「ははは、やっぱりダメだったか」
「痛そう〜」
二人は、近付いていって声を掛けた。
「また追い出されるぞ」
「なに?余計なお世話って、なんだ公と藤崎さんか」
公と詩織がグラスを差し出したので、好雄もならう。
「メリークリスマス」
チンッ
三人の声が重なる。
「去年と同じ目に遭うぞ、好雄」
去年はひびきの高校の生徒会長という女の子に声を掛け、キックを喰らった上に
黒服に告げ口されて、つまみ出されてしまったのだ。
「危ない娘には気を付けるよ。伊集院が恐くて情報収集が出来るかっての。
愛の伝道師の名がすたるってもんだ」
「そんなもんかね」
そう言いながら一口飲む。
「そうだ。お前の名前を出しても良いか?」
「ゴホゴホ!!はあ?」
「大丈夫?」
詩織が一歩下がって、背中をさする。
「いまや有名人のお前の名前を出せば、大漁間違いなしだ。ねっ、藤崎さん。
ダブルデートだけでいいから、公をちょっと貸して・・・・・・・・・・もらわなくて結構です」
好雄はドット流れ出た冷や汗を背中に感じながら、後ずさりする。
「あっ、可愛い娘発見!!じゃあな、公」
好雄は公の返事を聞かずに、回れ右をして慌てて走り出した。
「なんだ?あっちには誰もいないぞ。ん?」
なにか殺気じみたものを感じた公は、振り返って詩織を見た。
「なあに?公」
「い、いや、何でもない」
ニコッと微笑む詩織を見て、公は何もなかったように振る舞う。
『好雄の奴、きっと詩織に睨まれたな。ははは、浮気しようものなら殺されるな、
マジで。する気なんてないんだけどさ』
こんな事をしているとき、中庭の噴水では、準備を終えたレイがベンチに座っていた。
「あ〜、胸のドキドキが止まらないわ。詩織さんにお願いした時間まで、あと少し」
建物の上にある大時計を見ながら、両手で胸を押さえる。
去年は料理に手紙を入れたりしたが、今年は詩織に連れてきて貰うよう頼んである。
刻一刻と迫る時間に、逃げ出したい気持ちを抑えるのに必死だった。
クラスメートや友人と楽しんでいる内に、時間は8時半を回ろうとしていた。
美味しい料理と楽しいお喋り、時間が過ぎていくのは早い。
「そろそろかしら。ねぇ、公。ちょっとこっちに来て」
「何?」
「そのプレゼントも、ちゃんと持ってきてね」
「あ、ああ」
外へと出た詩織は、公の手を取ってどんどん進んでいく。
「おいおい。二人きりになるのは、かえってからじゃあ」
勘違いしている公は、だらしない照れ笑いを浮かべながら付いていく。
「なに言ってるの。違うわよ」
「違う?」
「私は、ここに案内しただけ」
「ここって・・・・・。中庭じゃないか」
キョロキョロして、見覚えがある彫刻や、先にある噴水を確認する。
一つだけ見たことがないプレハブのような物があるが、あとは去年のままだ。
「じゃあ、私は中で待ってるから」
「え?俺は?」
「公には待っている人がいるから」
「誰?」
「それは見ての、お・楽・し・み。ほら、行った行った」
ドンッ
「おわっ」
楽しそうに背中を押されて、トントンと前に出る。
「じゃあね」
詩織は手を振りながら、あっちあっちと指差す。
「何なんだよ、一体」
公は、訳も分からず進んでいった。
『私は約束通り退散しますか』
詩織はレイのたっての願いで、二人きりで話をさせるために、パーティー会場へと戻っていった。
「ここって、麗奈さんに告白された場所だよな」
噴水のベンチに座って、一年前を想い出した。
あれには正直まいった。
初めて告白されて驚いたのはもちろんだが、あれが原因で詩織との仲が崩壊する
ところだったのだから。
「まあ、今の状態があるのも、彼女のお陰なんだが」
「彼女とは、誰の事かな?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「誰だ!!って、お前か」
プレハブにしては豪華なドアが開いて、中からレイが出てきた。
「お前とは、ご挨拶だな」
「お前は、お前で十分だよ。なんなら、レイって呼んでやろうか?」
「え?・・・・・・・出来れば、そっちの方が良いけど」
最後の方は口の中でモゴモゴと言ったので、公には聞こえなかった。
下を向いてしまったので、ほんのり赤くなったのにも気が付かなかった。
「なに?何て言った?」
「いや、何でもない。ところで、さっきの続きだが」
気を取り直して話を戻す
「続き?なんだっけ?」
「彼女のお陰ってところだ」
「そうそう。お前の知り合いの麗奈さんのことだよ」
「・・・・・そうか。告白のことだな」
「知ってるのか?」
レイと麗奈は友人関係だから知っている可能性はあるのだが、女の子がそういうこと、
ましてや振られたことを話すものなのかと驚いた。
「まあね」
「そうか。じゃあ、結果もか」
「ああ」
「そうか」
公と麗奈の問題であるからレイには関係ないのだが、何となくバツが悪かった。
トクン、トクン、トクン
レイの鼓動が早くなる。
『私、変な顔してないかしら』
言葉では男のレイとして辛うじて平静を保っているが、心中は女として、
これから告白することで頭が一杯だった。
『大丈夫かしら。正体を知って、口を聞いてくれなくなったら、どうしよう』
悪い結果が次々と頭をよぎるが、公が自分のことを男だと思っているままで
卒業するのは嫌だっだ。
『い、いくわよ』
公が予選決勝に勝って優勝したら、告白しようと決めたのが11月の上旬。
それを、とうとう実行に移す時が来た。
「ね、ねえ?」
「ねえ?」
レイが発した女の子のような言い方に、思わず聞き返してしまった。
しかし、レイの耳には入らなかった。
「公さんは、今でも麗奈のことを友達だと思っているの?・・・かね?」
語尾は直したものの、『公さん』と名前で呼んだことが違和感を与えた。
「なんか変だぞ、伊集院」
「いいから答えてください。くれたまえ」
ドンドンドンドン
鼓動が更に早くなり、心臓が口から飛び出しそうになる。
「そりゃあ、良い友達だと思ってるさ。お前、口調が女みたいだぞ」
「そ、そう。じゃ、じゃあ、僕のことは?」
「お前のこと?う〜ん、そうだなぁ〜」
公は、首を傾げて考え込む。
ドドドドドドドド
胸が早鐘のように高鳴る。
「お前をねぇ〜」
レイのことをどう思っているか?それは、あまり考えたことがなかった。
今も、男に対する嫌味な言動は変わらないし、何かと突っかかってくる。
でも、それは素直になれない気持ちの裏返しなのではないか?
最近では、そう思える時もある。
「う〜ん。別に嫌いじゃないし、もっと素直になれよ。ってところかな」
「そ、そう。素直になれ。か」
この時すでに、レイの口調と発音は、完全に女のそれになっていた。
「お前、さっきから言葉が女みたいになってるぞ。なにかの演出か?」
自分を驚かす細工でもしてあるのかと、辺りを見渡す。
「そ、それは・・・・・」
言葉に詰まったレイは、大きな深呼吸をする。
スーーーーー、ハーーーーー
『い、いくわよ』
「不気味な奴だな」
「すまないが。こっちに来てくれたまえ」
再び男の話し方で、公の手を掴んでプレハブの方へと引っ張っていく。
「お、おい。なんだよ」
レイの行動に戸惑いながらも、公の頭に一つの思いが横切った。
『こいつの手、女みたいだな』
男の手とは思えない細さと柔らかさに、そう感じる公だった。
カーテンが閉められているプレハブの中は、椅子が2つとテーブル、
そして視線を遮る磨りガラス製のついたてがあった。
ドレスだろうか、裏側に何かが掛かっているのが透けて見えた。
「何だよ。詩織が待ってるんだけど」
ブツブツと文句を言う。
「黙って。これから話すことは、嘘ではなく本当のことだから、良く聞いていてくれたまえ。
それと、あらかじめ言っておくが、他言無用だ」
公の目をジッと見つめて、真剣な顔になる。
「わ、わかったよ」
それに圧されて、おとなしくなる。
「まずは、伊集院家のことを話さないといけない。伊集院家は代々、男だろうが女だろうが、
本家の一番目の子供が家督を継ぐというしきたりがある」
「ふ〜ん」
ガタン
一体何を喋り始めるんだと呆れながら、持っていた箱を置いて椅子に座る。
「で、僕の父親が第一子の長男として本家を継いだわけだ」
「ほう」
「今から20年前に母親と結婚したわけだが、その2年後に第一子として僕が産まれた。
必然的に僕が、伊集院家を継ぐことになるわけだ。ここまでは分かったかね?」
「バカじゃないんだから、わかるよ。で、それがどうしたんだ?」
不機嫌になりつつも、先を促す。
「コホン。ここからが大事だから、聞き逃さないでくれたまえよ。その両親の間には、
第一子として女の子が産まれたんだ」
「うんうん」
明らかにおかしい点があるのに、公は気が付いていないようだ。
ただ、普通に頷いている。
今度は、レイの方が呆れた顔で突っ込む。
「・・・・・・・・・。何かおかしいと思わないのかね?」
「おかしい?ん?・・・・・・お前の両親の第一子が、お前なんだろ?何がおかしいんだ?」
「その次だ、その次」
「その次?え〜と、産まれたというその第一子は、女の子っていうところか?・・・・・・・・
んん?女の子ぉぉぉ?」
素っ頓狂な声を出す。
「やっと気が付いたようね」
「ちょ、ちょっと待てよ!!」
右腕を差し出して、こみかめに指を添えてもう一度考え直す。
「え、え〜と。伊集院家は第一子が継ぐ。今はお前の父親。いずれはお前が継ぐ。
お前は男。産まれたのは女。お前は男。なのに、お前は第一子で継ぐことに
なっている?どうしてだ?」
訳が分からなくなった公は、頭がパンクしそうになる。
「もう一つあります」
「今度は何だ?」
「もし第一子に女の子が産まれた場合。その子は高校卒業まで、外で伊集院を名乗るときは
男として人前に出ないといけません」
「男として・・・・・・」
「そうです」
公はここで、またレイの言葉が女のものになっているのに気が付いた。
そして、レイの頭からつま先までを、じっくりと何回も見た。
特に、胸とお尻の部分を重点的に。
「きゃあ!!」
完全に女の叫び声を発し、恥ずかしくて胸を隠す仕草をする。
しかし、公にとってそれは、わざとらしいものに聞こえた。
「ということは、何だ!?お前は女だって言うのか?そんな馬鹿な!!」
「馬鹿なことかと思うでしょうが、その通りなんです」
髪留めをスルリと取り、首を回して長い髪を後ろへとなびかせる。
そうすると、さっきまで男と思って見ていた顔が、突然女の顔に見えてきた。
さらにそれは、見たことがある顔だった。
「・・・・・・」
「まだ信じられませんか?それでは、ちょっと待っていてください」
黙って見ている公に、レイはそう言ってついたての裏へと入っていった。
「・・・・・・、夢か?」
着替える姿が曇りガラスに映っている間、公は身動き一つ出来なかった。
数分後、ドレス姿のレイが出てきた。
「お待たせしました」
そこには、鮮やかな紫色のドレスを着た少女が立っていた。
少し開いた胸元には確かに膨らみがあり、腰はキュッと締まっていて、
とても男には見えなかった。
「ほ、ほんとに女なのか、お前。それに・・・・・・」
性別もそうだが、目の前にいる少女を、公は見たことがあるのだ。
ガタンッ
思わず立ち上がり、目玉が飛び出るのではないかと言うくらいに見開いて、レイを凝視する。
「れ・・・・・いな、さんか?」
今の今まで、到底思いも寄らなかった答えが口から出る。
「そうです」
「伊集院と麗奈さんが同一人物・・・・・・・、マジか?」
「マジです」
「嘘だろ?」
「本当です」
「マジ?」
「マジです」
端から見ると、笑える会話を繰り返す。
「そ、そうか」
ガタンッ
今度は、腰が落ちるように椅子に座り込んだ。
そして、頭を抱える。
「初めて会ったときから変な奴だと思っていたけど、こんなからくりだったのか。
あっ、ごめん、変な奴って言うのは酷いな」
慌てて訂正する。
「いえ、いいんです。そのとおりなんですから」
「ごめん。でも、俺に告白してくれた麗奈さんがお前、いや君だったなんて。
じゃあ、俺は男に告白された・・・・・んじゃなくて、伊集院レイは女なんだよな」
レイと話しながら麗奈とも話している事に、公は頭がこんがらがってきた。
「ふふふ」
「!!」
口元に手を当てて微笑む仕草は、まさに女そのものだった。
「すみません、笑ったりして。」
「いや、いいんだ。さっきの話で事情は分かったし。想像にしかすぎないけれど、
大変だったんだなぁって思うよ」
「まあ、辛かったのはそうなんですが」
公をジッと見つめる。
「なに?」
「貴方の事が気になり始めてから、去年のクリスマスに告白するまでの期間が、
とても苦しかったです。でも、あの日の詩織さんが好きだという貴方の目を見たときに、
あなた方二人を応援しようと決めましたから」
「そっか。こんなことしか言えないけれど、俺なんかを好きになってくれて、ありがとう」
照れくさそうに言う。
「いえ、毎日の努力の積み重ねで、貴方はとても魅力的な男性になりました。
私の目に狂いはなかったようです。ただ、その目には詩織さんが映っていたということです。
詩織さんを幸せにしてあげてください」
「ああ」
微笑みながら固く決心するその顔は、レイにとって眩しいものだった。
それから30分ほど、公とレイはいろんな話をした。
「だから、あんな嫌味な言い方しかできなかったんだな」
「はい。本当に申し訳なく思っています。でも、あの頃は素直になれなくて。
それに、素直になると言うことは、正体がバレることに繋がりますから」
散々言われた嫌味にも、そういった裏があったことを聞けば納得できる。
「そうか。そうかもしれないな。それはいいとして、バスケ部にもいろいろしてくれて、ありがとう」
「いえ、貴方の努力の手助けをしただけです。嫌味に聞こえるかも知れませんが、
お金に関することでしか、手助けできませんから。」
レイは、ちょっと顔をしかめる。
「とんでもない。すごく助かったよ。でも、俺には何も返す物がないからなぁ」
「それは、ウィンターカップの優勝でいいですよ」
「ははは。そっか、そうだな。全力を尽くすよ」
「はい」
ニコリとすると気品が溢れるレイの微笑みは、詩織にはない美しさだった。
『綺麗だよなぁ〜。おっと、浮気は身を滅ぼすぞ。ははは。んん?』
詩織の顔が浮かんだところで、ここに連れてきたということは、このことを
知っていたからだということに、やっと気が付いた。
『詩織は知っていたのか。あいつ〜、後で問いただしてやる』
「どうかしましたか?」
「いや。じゃあ、詩織が待っているから、俺はそろそろ行くよ」
「はい。あっ、ちょっと待ってください」」
ドアを開けて出ていこうとする公を呼び止める。
「なに?」
「こんな私ですが、これまで通り友達でいてくれますか?」
公は、目をパチパチさせて考え込む。
ほんの数秒間だったのだが、レイにとってそれは何十分にも感じられた。
答えが恐くて、泣きそうな感覚までした。
「当然だよ。学校では男の格好をしているだろうから、男友達として話すだろうけど」
「ありがとうございます」
それを聞いたレイは、ホッと一安心した。
「おっと、忘れるところだった」
机の上の箱を取り、そのまま帰ろうとした公が、はたと立ち止まる。
『あっ、そうか。それでこれを』
箱を見て、なぜ一つ余計に買わされたのか気が付いた。
「これ、クリスマスプレゼントなんだ。受け取ってよ」
レイの所まで戻ってきて、黄色のリボンが付いた箱を差し出す。
「え?こ、これを、わ、私にですか?」
公の顔と箱を、交互に見る。
「うん」
「ありがとうございます」
目を潤ませながら、さっきとは違った少女らしい笑顔で顔をほころばせる。
「ウィンターカップは見に来てくれるの?」
「はい」
「じゃあ、会場で」
「はい」
バタン
レイは、公が手を挙げて出ていったドアを見つめて、大きく息を吐いた。
「はあ〜、よかった」
目からは、さっきは我慢できたものが流れてくる。
公が変な目で見ることもなく、自分を認めてくれたことが嬉しかった。
これで、心おきなく卒業できる。
「これからは、学校で話すのも楽しくなるわね」
涙を拭いながら、冬休みが始まったばかりだというのに、早く新学期が始まらないかと
心待ちにするレイだった。
会場に戻るとパーティーはすでに終わっていて、帰る人々も出始めていた。
公は会場の出口に佇んでいる詩織を見つけた。
何かを考えているのだろうか、上の空で、近付いてくる公に気が付いていないようだった。
『なんだ?何か考え事か?』
公は、そっと横から近付いていき顔を覗き込んだ。
「きゃっ!!」
突然視界が遮られ、公の顔で一杯になったので驚く。
「もうっ、公!!」
こぶしで胸をドンドンと叩く。
「痛いって」
「フンだ」
そっぽを向いてしまう。
「ごめん、詩織。それより、知ってただろう〜」
「何を?」
いぶかしげに向き直る。
「伊集院が女だったってことだよ」
「え?やっぱりバラしちゃったの?」
二人きりで何をするのかと心配だったのだが、さっきから考えていたとおり、
別の意味での告白だったようだ。
「そっかぁ〜。言っちゃったんだ」
納得顔で頷きながら、出口に向かって歩き出したので、公も後に続いた。
寒空の下を、手を繋いで歩く。
吐く息は白く、冷たい風に肌はピンと引き締まる。
「いつから知ってたんだ?」
公は、当然の質問をしてくる。
「えっと。公から改めて告白されて、逃げていたときがあったでしょ」
詩織は、微かに瞬く星を見上げながら、屋上での出来事を思い出す。
「その時にね、説得されたのよ。公の彼女は貴方じゃなきゃダメだって。
でも、男の子のままで言われたから納得しなかったの。そしたら実は女の子で、
しかも去年のパーティーで公に告白していた、あの女の子だったなんて。すごく驚いたわ」
いまでも、あの時の衝撃は残っている。
「ああ。あれで驚かなかったら、大したもんだ」
「そうよね。この2年半ものあいだ、ずっと男の子だと思っていたんだもの。
でも、おかしかったなぁ」
クスクスと思い出し笑いをする。
「なにがだ?」
「公やみんなが、正体を知らずに男の子の彼に話しているのを見てるのが可笑しかったの。
女子は同性の彼に言い寄ってるし、男子は、あんなに美人なのに憎まれ口を言って」
「ははは、そうだな。ホントに美人だからな。まさか伊集院に告白されていたなんて」
タタタ
詩織は歩を早め、急に立ち止まる。
街灯の灯が、スポットライトのようにあたっている。
「ドキッとしたでしょ」
公に背中を向けたまま言う。
からかうような言葉だったが、心変わりをしたんじゃないかと、内心はドキドキしていた。
瞳には、込み上げてくるものがあった。
公は足を止め、首を傾げた。
『あっ!!それで』
公は先日のことを思い出した。
もしレイが女だったら、好きになったかという詩織の問いを。
「ねぇ?」
即答してくれないので、しびれを切らして公の方を向く。
「どうかなぁ〜。考え直そうかなぁ〜」
「え?そ、そんな」
公は冗談で言ったつもりなのに、詩織には通じなかった。
それを聞いた途端に、詩織の目元に涙が溢れてきた。
「わわわ。ちょっと待て詩織。ごめん。冗談だって、冗談」
両手を合わせて謝る。
「ほ、ホント?」
「ホントホント。ごめん、まさか泣くなんて」
「良かった」
公は、くしゃくしゃのハンカチをポケットから取りだして涙を拭った。
そして、こんなにも自分のことを想っていてくれる詩織を見て、とても愛おしくなった。
「詩織」
ギュッ!!
「あっ」
腰に手を回し、身体を引き寄せて抱きかかえる。
「公」
コートの上から伝わってくる温もりを感じながら、詩織は幸せをかみしめた。
「公、ずっといっしょにいようね」
「ああ、もちろんだ」
更に力を込めると、詩織の腰が反って視線が上を向いた。
すると、街灯の上にある物を見つけた。
「あっ!!あれは」
詩織は、周りをキョロキョロと見渡す。
「どうした、詩織」
公が力を緩めると、もう一度大きく見渡し、今度はそわそわしだした。
「え〜と、その〜。公、目をつぶって。お願い」
「え?こうか?」
言われるままに目を閉じた公に、つま先立ちになって少しずつ顔を近づけていく。
軽く触れる唇。
「し、しおり?」
「ふふふ、びっくりした?」
驚いている公に、かかとを下ろして天使のような微笑みを返す。
まさか外でキスをされるなんて思ってもみなかった公は、唇に手をやり呆然とする。
「ほら、あれ見て」
上を見上げて指差す。
「クリスマスのミスルトー(やどり木)の飾りよ。ヨーロッパの習わしで、
クリスマスにミスルトーの下では、好きな人にキスをしても良いの」
「へーーーそうなのか?ビックリしたよ。じゃあ」
もう1回とばかりに、唇をすぼめる。
「だーーーめ。ふふふ、続きは帰ってからね」
「え?それって」
クリスマスということもあって、主人家と藤崎家は詩織の家で合同パーティーを開いている。
いま、主人家には誰もいない。
「うん」
そう言って、腕を絡ませる。
「ありがとう。優しくするから」
「うん」
詩織は、さっき考え事をしているときに決心した。
あの雷雨の日から100日あまり、今度は本当にそうなる覚悟を決めた
もちろん不安はあるが、公になら身をゆだねることが出来る。
カーテンから漏れる月明かりに、緊張した面もちの二人の顔が浮かび上がる。
今日という日は、忘れられない日になるであろう。
「詩織、ずっと大切にするから」
「うん」
見つめ合う二人の距離が、だんだん縮まる。
お互いの存在を確認する。
「あ」
公は詩織を抱きしめると、そのまま倒れ込む。
そして、ベットの上で重なり合った。
つづく
あとがき
終わった〜。やっと完成しました。
式やら旅行やらパーティーやらを経て、ようやく完成しました。
さて、レイがとうとう正体を告白しました。
あんな展開になりましたが、みなさん意外でしたか?
男だと思っていたのに女だったと知った公ですが、案外、冷静でしたよね(^_^)
う〜む、もっと取り乱した方が良かったかな〜。
最後はとうとう公と詩織が・・・・・
直接的な表現は書かない主義なので書きませんが、
あれで十分だと考えています。
次は、皆さんが待ちに待った?修学旅行編を書こうと思います。
せっかくネタを仕入れてきたんだから、忘れないうちに書かないと。
行き先は、お楽しみに。
それでは、これからもよろしくお願いします。
遅いからって、見捨てないでくださいね。
では。