「My wish・・・」
第8話 「沙希ちゃんの気持ち」
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合宿初日の練習が終わり後片づけを済ませると、ジャージ姿の沙希が歩いて
いるのが見えた。すごい量のビニール袋を持っている。
「虹野さん。」
「あっ、公くん。」
ちょっと辛そうだった顔が一瞬ほころんで、小走りに近づいてくる。
「重そうだね。晩御飯の材料?」
「よいしょっと。うん、そう。」
荷物を降ろして答える。
「それにしてもすごい量だね。サッカー部ってそんなに食べるの?」
いくら大食いだとしても、この量は尋常じゃない。
「ふふふ。いくらなんでもこんなには食べないよ。さっき、合宿中はうちとバスケ部が一緒に
食事をすることになったの。」
「えっ?それじゃあ、虹野さんがバスケ部の分も作ってくれるんだ。」
「そうなの。そっちのマネージャーさんと一緒にね。」
「そうなんだ、でも大変だね。」
バスケ部とサッカー部と言ったら、かなりの人数になる。
「そんなことないよ。頑張ってるみんなのために私が出来るこことなんて、
このくらいだから。」
「そっか、じゃあ毎日食事が楽しみになるな。」
好雄から虹弁の噂を聞いて、1度は食べてみたいと思っていたのだ。
「そ、そう?そう言ってくれると作りがいがあるよ。」
自主トレにお弁当を作っていこうと何度か思ったが出来ないでいた沙希は、
違う形でも公に食べてもらえるのが嬉しかった。しかも楽しみだと言ってくれた。
「公くんのために腕によりをかけて作るね。」
と頬を染めて、さりげなく『公のために』と付け加えるが、
「ありがとう。それより荷物持とうか?」
公は全然気が付かない。
『もうっ。』
「ううん、大丈夫だよ。もう行くね。たくさん作らないといけないから。」
「ああ。がんばってね。」
沙希は合宿所の厨房に向かいながら、
「鈍感なんだから。」
と独り言を言っていた。
沙希が公の事を気になり始めて2ヶ月近くが経った。最初は好きなのかどうか
わからなかったが、今は好きだとはっきり言える。
公の一生懸命なところに惹かれていたのだが、この気持ちを決定づける出来事が
つい最近あった。
それは夏休みに入って少しの頃、その日は昼頃から曇り空になり、
いまにも雨が降りだしそうだった。
「106」で備品の買い出しをして、その帰りにいつもの公園に行こうとした沙希は、
空模様を気にしながら歩いていた。
すると公園の近くで、スコールのような雨が降ってきた。
「あ〜ん。降ってきちゃったよ〜。傘持ってきておいて良かった。」
折り畳みの傘を差した沙希は、一瞬帰ろうかとも思ったが、もし公が雨に濡れて
いたらと考え行ってみることにした。
公園の入口付近まで来たとき、案の定、雨の中を傘も差さずに走ってくる公が見えた。
公と相合い傘が出来ると思い呼びかけようとしたその時、その横の茂みから子猫が
出てきた。
「お〜い。あっ!!」
キキキッ、ドン!
道路を横切ろうとした子猫が、急に曲がってきた車にぶつかり数メートル飛んだ。
車は止まりもせずに行ってしまう。
突然の出来事に、立ち止まり言葉を失った沙希は、少しも動かなくなった子猫を
ただ見つめていた。
雨はさらに激しく降ってきて、不幸にも命を失った子猫の身体を濡らす。
ザーーーーーーーー!!
その場面を同時に見ていた公は、子猫の元に行きその場にしゃがんだ。
そして冷たくなっていく子猫を優しく撫でた。
「公くん。」
それを沙希は、声をかけられずに見つめていた。
しばらくすると、子猫をそっと抱き上げて公園に戻っていくではないか。
気になって公の後をついていくと、公園の奥にある木の下に穴を掘り、子猫を埋葬
していた。
それを見たとき急に涙が出た。自分だったらここまで出来るだろうか。
たぶん今みたいに、何も出来ずに可哀想と思うだけで、そのままにしていったと思う。
しかし公は違った。服が血で汚れるのなんか構わずに子猫を抱き上げた。
なんて優しい人なんだろう。沙希は胸がいっぱいになり涙が止まらなかった。
その時は、公になんて言ったらいいか分からず、その場を後にした。
公の優しさを目の当たりにしたこのときから、沙希の心の中で公の占める割合が
大きくなった。
そんな沙希だったが、合宿所に近づくと心が別の方に向く。
なぜなら、合宿所の厨房は伊集院家が建てただけあって、最高級の調理器具が
揃っているからだ。材料さえあれば世界中のあらゆる料理を作ることが出来る。
しかも他の子から、沙希にすべてを任せてくれるとの了解も得ている。
「あ〜ん。燃えるわ〜。」
沙希はエプロンを着て厨房に入ると、
「みなさん。不肖、私虹野沙希が仕切らせていただきます。頑張りましょう。」
両手でガッツポーズを作って気合いを入れる。
「今日は、コロッケカレーとサラダを作ります。」
本当は小麦粉を炒めるところからやりたいが、大人数なのでルーを使うことにする。
しかしコロッケは妥協しない。
「それじゃあ、まずはジャガイモを蒸かしましょう」
午後5時半、沙希から呼び出された1年生が、先に食堂に集まってお膳を運んでいる。
公もバスケ部のテーブルをまわっていた。
ちょっと急いで運んでいたとき、誰かにぶつかりそうになる。
「おっと。」
素早く横によけるが、相手はちょっとよろけた。
「大丈夫か。」
「おっとっとっと。ええ、大丈夫です。」
運んでいたみそ汁をこぼしそうになったが、見たところこぼれていない。
Tシャツの名札を見ると『佐々木』と書いてあった。
それ以上言葉を交わすことなく、すぐに仕事に戻る二人。この時の佐々木は穏やかな
感じの男であったが、後にこの男の性格を知って驚くことになる。
食事中はもう、
「うまい。」「もう最高。」「結婚して。」
などなど、沙希への賛辞の声でいっぱいだった。
公もこんなにうまいとは思っていなかったから、沙希のことを見直していた。
そして、あれだけあったものが見事に食べ尽くされていた。
沙希を見ると、おいしそうに食べているみんなを見て、とても嬉しそうにしていた。
『みんなのためにか。』
沙希がみんなに好かれるのはこういう所からなのだろう。
公がいままで会ってきた女の子の中にはいないタイプであった。
つづく
あ と が き
こんばんは。
第8話いかがだったでしょうか。
ちょっと短めですが。第9話が長めですのでご勘弁を。(^_^;)
沙希が公のことを好きになった、決定的な理由を考えてみましたが。どうでした?
自分では結構気に入っています。
最近の公園では、あのように埋めるのは犬・猫・子供が掘ったりするので
禁止されているそうですが、大目にみてください。(^_^)
あと、料理の知識がないので、その部分は詳しく書いていません。申し訳ない。(>_<)
文中に登場していた「佐々木」君は某有名SSの主人公です。ご存じでしょうか。
ニフティでお世話になっている、作者のLIGHTNINGさんに出演を依頼?されて
登場させました。とても喜んでいました。(^_^)
それでは、次回もお楽しみに。