「My wish・・・」

                  第9話 「沙希ちゃん暴走」

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 合宿6日目。今日も暑い日が続いている。連日の夏日で、サッカー部が練習している
 グラウンドを見ると、部員がゆらゆら揺れている。

 今日も紅白戦で負けた公は、休憩時間にサッカー部の見学にきていた。
 そこには、忙しく走り回っている沙希の姿があった。
 コーチのサポート、けが人の世話、タオルの用意などなど、マネージャーなのだから
 当然なのだが、この人数の世話を3年生の女子1人と二人でやっているのだから
 すごい。
「虹野さん、大変そうだなぁ。」
 ピーーーーー!
 主力部員がベンチに戻ってくる。トレーニング室に向かって歩いていく所を見ると、
 ウエイトトレーニングの時間なのだろう。
 すると今度は、隅で練習していたその他の部員がグラウンドに入っていく。
 どうやらフォーメーションの練習のようだ。

 その中で、ひときわ声のでかい奴がいた。
「そこ!!なにやってんだ上がれって言ってんだろ。」
「ボッーとボールを待ってんじゃねえよ。動け!!」
 などと乱暴な言葉で指示を出している。
「すげーな。んっ?あれはこの前の奴か?」
 あの怒鳴っている奴は見たことがある。食堂でぶつかりそうになった奴だ。
「たしか佐々木っていったな。」
 あの時は穏和な感じがしたが、今のを見ると全然違う。
「二重人格か?あっ倒された。」
 FWと競り合った佐々木はピッチの外に出された。
「佐々木君、大丈夫?」
 沙希が佐々木の元に走っていく。

「んっ?虹野さんバケツを持ってるぞ。」
 なぜバケツなんだと疑問を持って見ていると、すぐに解決した。
「大丈夫。なんてことない。貸して。」
 そう言って沙希からバケツを取り上げた佐々木は、バケツの水を飲みだした。
「ゲッ!バケツから飲んでやがる。変な奴。」
 公は驚いたが、沙希は平気な顔をしている。
 さらに頭から水をかぶって、ピッチの中に戻っていく。
「佐々木君、ファイト!!」
 そう言ってベンチに戻ろうとした時、後ろにいる公の姿を見つけた。

「公くん、どうしたの。」
 公に向かって手を振る。
「休憩?」
「そう。でも、もう戻らなくちゃ。」
「そっか残念。練習がんばってね。」
「ああ。」
 そう言って、公は体育館に向かった。
「公くん、なんか様子が変だったなぁ。」
 沙希は公の表情がさえないのを見逃さなかった。


 その日の夜中、公のことが気になって寝付けなかった沙希は、
 いままでずっと入るのをためらっていた露天風呂に入ってみることにした。
 お風呂セットを持って、屋上にある露天風呂の脱衣所前に立つ。
「まさか中で繋がってるなんて事ないよね。」
 と、要らぬ心配をしつつのれんをくぐった。
 誰もいないと思いつつもドアを開けて外を見てみると、
 そこには100坪以上はある岩風呂がひろがり、男湯とは高い塀で
 仕切られていた。
「わ〜、すご〜〜〜い!!」
 感嘆の声を上げた沙希は、早速服を脱いで外に出る。
 身体は寝る前に入ったお風呂できれいにしてあるので、軽くお湯をかぶって
 湯舟に入る。
「ふう。気持ちいい〜。」
 露天風呂は屋内の温泉とは違った良さがある。外という開放感からだろうか。
 そして、石を枕に空を見上げると、ここら辺では珍しく星が瞬いていた。
「きれいだなぁ。」
 しばらくの間、星空を眺めていたが、
「公くん、一体どうしたんだろう。」
 と昼間の公の顔を思い出す。
「なんか、元気がなかったのよね。」

 数十分後、男風呂の方からドアの開く音が聞こえた。
「おっ、いいねぇ。伊集院もたまには良いことするじゃないか。」
 誰かの声も聞こえてきた。しばらくすると、その男も湯舟に入ったようだ。
「ふう。明日で最後かぁ。なんかうまくいかないんだよなぁ。あいつの言葉も気になるし。」
 男の声が良く聞こえる。
『あれっ?この声はもしかして。』

「公くん?」
 男湯に向かって聞いてみる。
「えっ、虹野さんか?」
「うん。」

「公くんも寝付けなかったの?」
『裸の公くんが隣にいるよ〜。なんか恥ずかしい。』
見られているわけでもないのにタオルで胸を隠す。
「うん。そうなんだ。」
『隣には裸の虹野さんが・・・・・・。わ〜、いかんいかん。』
 頭を左右にブルブル振る。
『何か話さなきゃ。』
 この状態で黙っているわけにもいかない。

「そうそう、虹野さんが作ってくれるご飯いつも美味しいよ。」
「ホント?うれしい。」 
『やったーーーーーー!』沙希の心の中では、SD沙希ちゃんが踊っていた。
「虹野さんは料理が上手だとは聞いていたけど、これ程とは。」
 この時、
『公くんのことを考えていて本人が来るなんて、これは赤い糸で繋がっているんだわ。』
 などと舞い上がった沙希は妄想モードに入っていた。
 頭の中では夕食を前に、公との新婚生活が展開されていた。

「詩織にも見習ってほしいなぁ。」 
 沙希ちゃん妄想中。
「子供の頃なんて、ままごとで泥団子を作るんだよ。」
 ここで夕食から寝室へと場面が変わり、
「虹野さんの料理なら、毎日食べたいくらいだよ。」
 と言った言葉が、
「虹野さんなら毎日食べたいくらいだよ。」
 に聞こえた。

「えっ。毎日?もうっ!エッチ!!」
「えっ?エッチって・・・?」
「あっ。えっ?えっ?なっ、なんでもないよ。」
 何を言ってるの私ったらと、しどろもどろになってしまう。
「私、もうあがるね。」
 急に恥ずかしくなった沙希は、湯舟から出て、そう言ってドアに向かう。
 しかし、せっかく公にあったんだからと、出る直前に足を止めて公を誘う。
「こ、公くん。もう少しお話したいから、そこの前で待ってるね。」
「えっ?うん。わかった。」
 公は、なんだろうと思いつつそう答えた。

 数分後二人は、露天風呂とは反対側の街が見渡せる場所にいた。
 真夜中の屋上は暑かったが、たまに吹く風が風呂あがりの身体に心地よかった。
 その風にのって、シャンプーだろうか沙希自身からだろうか、良い香りが漂ってくる。
 公と沙希は二人並んでフェンスにもたれ、灯りが少なくなった
 夜の街を眺めている。
 すると、沙希が公の顔をのぞき込んで言った。
「公くん、昼間来たときなんだか元気なかったけど、何かあったの?」
 心底心配そうな顔をしている。
「わたしじゃ役に立たないかもしれないけど、一人で悩んでるのはつらいと思うよ。」
 公は沙希がこんなことを言うなんてと、ちょっと意外な顔をしたが、やがて、
「そんなに大したことじゃないんだ。」
「良かったら話して。力になれるかはわからないけれど。」
公は、今の自分が置かれている状態を話し始める。

「なんかさ、ガードがしっくりこないんだ。あっ、ポジションのこと。」
 合宿中ずっとガードで試合をしたが、結局一度も勝っていない。
「それと、同じ1年にすごいガードがいるんだ。たしか虹野さんと同じクラスだよ。」
「もしかして木本君?」
 木本は中学の時に県の選抜にも選ばれた男で、詩織と並ぶ期待の新人だ。
「そう木本。あいつ流石にうまくってさ。全然かなわないんだよ。」
 木本は相手の裏をつくパスが非常にうまい選手で、これは一朝一夕で
 身に付くものではない
「そうなの?でも、それは努力と根性で追い越さないと。」
「最初は俺もそう思っていたんだけどね。この合宿でガードの力量の差を思い知ったよ。
 あいつのパスは凄いんだ。あのセンスは俺には一生かかっても身に付かないよ。」
「ガードって、パスを出す人でしょ?」
「うん。」
「じゃあ、シュートをたくさん打つところは?ダンクシュートをドカンって感じに。」
 沙希は腕を振り回してダンクの真似をする。
「フォワードかい?俺が?」
 ガードをやっていて感じたこともある。フォワードにパスを出そうと、
 相手のディフェンスを見まわしているとき、
『なんでそこに誰もいないんだ。俺ならそこに走り込むのに。』とか、
『そこはダブルクラッチだろ。』とか。(公には出来ません。)
 フォワードの選手の動きに不満を持っていた。
 自分ならこうするのにという想像が湧いてくるのだ。
 自分の身長ではガードしかないと思っていたからなんの疑問も持たなかったが、
 沙希の他にも同じ事を言われた。
「木本にも同じ事を言われたよ。」
『おまえはフォワードの方が合っている。ダンクもできるんじゃないか?』って、
「その時は何を言っているんだコイツって思ったけど・・・・・。」
「へー。それって、木本君は公くんの才能を見つけたんじゃない?」
 沙希がまた意外なことを言う。
「俺の才能?なんだろ?」
「それは・・・・・、分からないけれど。」
 首を傾げて困った顔をする。
「それにダンクかぁ。」
 少し考えた公は、木本の言うとおり出来るのか試したくなった。
「ちょっと体育館に行って来る。」
「えっ、公くん?」
 公は急に歩き出した。

 二人は真夜中の体育館にきた。
 公は月明かりの中、ボールをつきながらリンクを見上げる。
 木本の言うとおり出来るのか?
「よしっ!!いくぞ!!」
 ググッ。
 全身のバネを使うため力をためる。
 ダンッ!
『おっ、届くか?』
 ブンッ。
 思いっきりジャンプした公はボールを掴んだ右手を振り回す。
 ガンッ!!
 円を描いた腕の先にあるボールが、フープに叩き込まれる。
 バタン。
 着地に失敗した公は、ゴールの下に倒れた。

「やった〜〜〜!!」
 沙希は歓喜の声を上げる。
「で、出来た。」
 176cmしかない身長でダンクが出来るなんて、起きあがって信じられないと驚いてる
 公に、沙希が抱きついてくる。
「おめでとう公くん。」
「ありがとう虹野さん。」
 舞い上がっていた二人は数分間抱き合っていた。

「あっ!」
「わっ!」
 自分達の状態に気が付いた二人は、頬を赤くして同時に離れた。
「ごめんなさい。」
「ううん。」
 
 お互い恥ずかしくてちょっと沈黙したが、やがて公が口を開いた。
「ありがとう虹野さん。話を聞いてくれて。俺フォワードに挑戦してみるよ。」
「ううん。役に立ったのかわからないけれど。良かったわ。」
 満面の笑みを浮かべる。
「そうだ公くん。私のこと名字じゃなくて名前で呼んで欲しいな。」
 またまた意外なことを言う。
「そう?わかったよ虹野さん、じゃなくて沙希・・・・・ちゃん。」
 名前で呼ぶ女の子は詩織だけだったので、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「うん!!」
 沙希ちゃんはとても嬉しそうです。
『これでちょっと進展したかな?』

 その夜沙希は、布団の中で露天風呂でのことを思い出して、クネクネと
 もだえていた。
「あ〜ん。あんなこと言うなんて〜。」
 何度も寝返りを打つ。
「いやんいやん。絶対変な女って思ったよね。」
 実は、公はなんとも思っていないのだが、それを知らない沙希は夜中の
 3時まで眠れなかった。

             つづく


     みなさん、いつもありがとうございます。
     第9話、いかがだったでしょうか。

     う〜ん、沙希ちゃんが壊れてしまいました。(^_^;)
     このまま突き進むのか沙希ちゃん?
     次回は詩織ちゃんが帰ってきます。

     それでは、これからもよろしくお願いします。 


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